龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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皇太子の訪問

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暗がりの宿の廊下にいながらも、
目の前に映し出された真っ赤な髪が目に入った時、

「で……殿下?!」

僕は静かな廊下に響く様な大声で、
思わずそう叫んでしまった。

”しまった!“

思わず来訪者の素性を明かしたと思った僕は
廊下に顔を出して左右を見回した。

辺りはシンとして誰一人として廊下には見当たらなかった。

その時にもう一つの可能性を悟った。

「も……もしかして、1人で来られたんですか?!」

僕が驚いた様に尋ねると彼は小さく頷いて、
又フードを頭深く被った。

後ろからは、
これまでのやり取りを見守って居たセシルが僕の裾を引きながら、

“ねえ、ここで立ち話も何だから入ってもらったら?!”

そう言ってコソコソと耳打ちした。

でも僕にとっては

“一体一人で何をしに来たの?!”

という様な訝しげな思いしか無かった。

少なくとも態度は改めたけど、
昼はセシルに向かって剣を向けた人間だ。

いや……実際に剣を向けたのは彼ではないが、
人の王族というのもは立っているだけでも偉いらしい。

周りには必ず護衛がいて、
危険を察知するとあの様に誰にでも剣を向けて彼等を護ると後でセシルに聞いた。

僕はフードを深く被り顔を隠した殿下をもう一度見ると、

「話があって来たんですよね?

もしかしてセシルの怪我の事ですか?

それだったらきちんと治してもらったので大丈夫ですけど、
それ以外にも何か有るのですか?」

僕がそう尋ねると彼は周りをそっと見回して、

「話があるので入ってもよろしいですか?」

そう尋ねた。

僕がセシルを見ると、
彼女は目で

“お願い!”

そう訴えているのが分かったので、
渋々と殿下を中へ通し、
もう一度廊下を見渡し誰もいない事を確認するとドアを閉めた。

ドアが閉まる音を聞くと殿下は深く被って居たフードを取った。

殿下の顔を見ると、
セシルは膝を折りドレスをつまむと、
彼に向かって丁寧にお辞儀をした。

殿下は慌ててセシルに向かって手を伸ばすと、

「その様に畏まらないで下さい。

私は此処へはただのリュシアンとして参りました」

そう言うと、深く頭を下げた。

その状況に少し疑問を持った僕はセシルの前にしゃしゃり出ると、

「それは一体どう言う意味でしょうか?」

そう言ってセシルを僕の後ろに隠した。

彼は僕をまっすぐに見ると、

「そう身構えないで頂きたい。

先にも言いました様に、
私は此処へは私用で参りました。

その証拠に武器は持ち合わせておりませんし、
今は護衛も引き連れてはおりません」

そういうと、マントを開いて敵意がない事を示した。

僕が頷くと、

「先ずは名前を教えて頂けませんか?

私は先に名乗りました通り、
リュシアン・ブルボネールと申します。

ルーと気軽にお呼び下さい」

そう言って又お辞儀をした。

僕とセシルは目を見合わせると、

「僕は翠・シュレードです。

彼女は…」

そう言うとセシルの方を見た。

セシルは又膝を折りスカートを摘んでお辞儀をすると、

「私はセシルと申します」

そう言って挨拶をした。

殿下は優しそうな目でセシルを見下ろすと、

「素晴らしい作法ですね。

セシル様は貴族なのですか?」

とそう尋ねるので、
僕はセシルを見た。

人の中には階級と言うものがある事もセシルに学んだ訳だが、
彼女は僕に自分は

“商家の娘”

と言った。

“商家は貴族なのか?!”

そう思っていると、
彼女は真っ赤になり、

「いいえ、殿下に名乗りあげる様な身分では御座いません」

そう言って又頭を下げた。

“何故そこで頬を赤らめる?!”

僕が呆気に取られながら二人のやり取りを見ていると、

「どうかその様に畏まらないで下さい。

私の事は殿下では無く、
ルーとお呼び下さい」

殿下がそう言ったかと思うと、

「あ~良かった!

私、本当は堅苦しいの苦手なのよね!」

そう言ってセシルが微笑んだ。

僕はセシルのその代わり様が何かと重なり瞬きをした。

“あれ?

前にもこんな事あった様な?“

セシルのその変わり身は僕にデジャヴを見せた。

でもいくら考えても、
何の事なのかピンとこない。

僕は首をブルブルと振ると、

”いや、気のせいだろう……

でもなぜ僕は、
これまで他の人と接してこなかったのに
こんな場面を思い出しているのだろう?”

そんな事をぼんやりと考えていると、

「それでルーはお供も付けずに何をしに此処へ?」

セシルのそう言う質問でハッと我に返った。

“そうだ! なぜ殿下は護衛もつけずにこんな所に?

それに何故僕達が此処に泊まっている事を知って居たんだ?!”

そう思っていると、

「突然申し訳ありません。

本当はもう少し早くお尋ねしたかったのですが、
一軒、一軒尋ね回って居たらこんな時間になりました」

そう言って又お辞儀をした。

「ちょっとルー!

私達に畏まらない様に言って貴方は未だ他人行儀よね?

貴方が言い出したんだから、
先ずは貴方が普通に話して!」

そう言うセシルに殿下は微笑むと、

「そうですね。

セシル様の……

あ、いえ、セシルの言う通りだね」

そう言ってはにかんだ。

セシルは満足そうな顔をすると、

「じゃあルーって私達を探す為に、ずっと宿を一軒、一軒訪ねて回ってたの?!

良く皇太子だってバレなかったわね」

と尋ねると、ルーがコクリと頷いた。

そんなルーにセシルが

「でも何故そこまでして私達を?」

そう言って不思議そうな顔をすると、
ルーは真剣な顔をして、

「実は私は探してる人が居るのです」

そう言って僕達を見渡した。

僕はルーのその視線に、

「もしかして、ルーは僕達が君の探してる人と何か関係があると思ってるの?」

そう尋ねると、

「いえ、そう言うわけではないのですが……」

そう歯切れの悪い答え方をしたので、
ジッとルーの顔を見つめた。

するとルーは真っ直ぐ僕達を見つめ、

「私事になるのですが、
実は私はこの国の第3皇子で、
王位継承権は第三位です。

元を正すと、
兄皇子達は出来が良く健康に問題もありません。

私は基本国に縛り付けられているわけではないのです」

そう言って一息置いた。

「それで?」

ルーが何を言いたいのか分からず尋ねると、

「私は国に縛り付けられているわけではないので、
彼等を探す旅に出たいのです。

もし貴方達が冒険者であるのなら、
私を仲間にして下さい!」

そう言ってルーは僕達を見渡した。

それに釣られ僕もセシルの方を向いた。

「ルーは冒険者になりたいの?」

セシルが尋ねると、ルーはコクリと頷いた。

「冒険者になる事に皇帝はどう思っているの?」

そう尋ねるセシルにルーは俯いて首を振った。

「父は私が冒険
者になりたい事は知りません……」

そう言って俯いた。

「う~ん困ったわね~」

セシルはそう言って腕を組むと、
ルーはビクッとした様にして上目遣いで僕達を見上げた。

セシルはそんなルーの肩にポンと手を置くと、

「世の中には素晴らしい冒険者達が山ほど居るのに、
どうして私達を選んだの?」

そう言ってルーの顔を覗き込んだ。

ルーは小さく

“あっ”

と呟くと、
僕達の方を見て、

「何故でしょう?」

と逆に僕達に尋ねた。

「いや、それは僕達が尋ねている事であって……」

困惑した様に尋ね返すと、
ルーは両手で顔を覆って、

「分かりません。

でも僕の中で貴方達だと思ったのです」

そう言って又俯いた。

僕が困惑してセシルの方を見ると、
彼女は目を輝かせた様にして、

「そうね、悪い話ではないわね。

貴方ヒーラーなんでしょ?

じゃあ、翠が攻撃魔法を使ったら、
私達に必要なのはタンクだけよね!

まあ、それはオイオイ見つけるとして、
冒険者としての駆け出しには良いわよね?!」

そう言って僕を見た。

僕は慌てて、

「いやでもセシル、
僕は良いなんて一言も……」

そう言いかけるとセシルは僕に有無も言わせず
腰をギュっと抓った。

僕が

「イッ!」

と声を上げると、
ルーは困惑した顔をして僕達を見た。

セシルは僕の背中をパンと叩くと、

「オホホ~

翠は何でもないのよ。
仲間ができて嬉しいだけなの」

そう言って僕の方を見て目配せした。

ルーはパッと目を輝かせると、

「では私は一足先に帝都に戻り父上を説得してみます。

セシルと翠はこの後どうするのでしょうか?

お二人が向かわれる先で落ち合いましょう」

そう言って手を差し出した。

僕はルーの手を取ると、

「いや、僕達も帝都に向かう途中だから帝都でまた会おう」

そう言うと、ルーは嬉しそうに

「分かりました!」

そう言って今度はセシルに手を差し出した。

「又帝都で!」

ルーがそう言うと、

「ええ、又帝都で!

でもルーの探し他人というのは?

名前は何というの?

もしその人が冒険者だったら何処かで聞いたことがあるかも!

こう見えて、私、此処へ来る間に沢山のギルドに立ち寄ったのよ!」

そうセシルが尋ねると、

「いえ、申し訳ないのですが、
探し人の名は分からないのです……」

そう言って又俯いた。

「う~ん、それじゃ全然助けにならないわね?

名前も分からないのにどうしてその人達を探してるの?」

セシルが不思議そうに尋ねると、
ルーはジッとセシルの方を見つめて、

「それが私にも分からないのですが、
ずっと心が急いているのです」

そう言うと、

「え? それってどう言う意味?」

セシルが更に不思議そうな顔をしてルーを見つめた。

ルーは不安そうな顔をすると、

「ずっと誰かを見つけなくてはと言う思いが消えないのです。

それが誰なのか分からなくて……

でも…!

貴方達と一緒に居れば会える様な気がして!」

そう言ってセシルを見つめた。

セシルは困惑した様な顔をすると、

「いや……そう言う事を言われても困ったわね……

もし私たちと一緒にいても分からなかったら?

貴方の時間の無駄にならない?」

そう言ってルーの顔を覗き込んだ。

ルーは拳をギュッと握りしめると、

「いえ、私はこれまで多くの冒険者に会って来ましたが、
これだ!と思えたのはあなた方が初めてなのです!」

そう言って真剣な顔をした。

セシルは僕の方を見ると、ゆっくりと瞬きをして、
ルーの方を向いた。

「分かったわ。

貴方がそこまで言うなら、
帝都で会いましょう!」

そう言ってルーに向かって手を差し出した。

ルーは満面の笑みを浮かべると、

「有難うございます!

必ず父上を説得して待って居ます!」

そう言うと、クルッとドアの方を向いた。

そしてドアノブに手を掛けたところで振り向くと、

「そう言えば今思い出した名があるのですが、
貴女方はアーウィンと言う名を聞いた事が有りますか?」

そう言って立ち止まった。






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