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新しい出会い
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ドアを開けると、そこにはルーを迎えに来たのか、
直立不動の様に立ち憚った騎士が僕達をジロッと見下ろしていた。
少し恐縮した僕達から目を離すと、ルーの事をキッと捉えて、
「殿下、勝手な事をしてもらわれては困ります」
低い声でそう言って、彼の顔は明らかに怒っている様だった。
僕達が少しオロッとしたような感じを醸し出すと、
ルーはそれを感じ取ったのか、
直ぐに僕達に背を向けスッと部屋を出ると、
「ごめん、彼らはちっとも悪くないからね。
これは僕の我儘な判断でやった事だから。
もうこんな事は二度としないよ」
そう言って騎士の前で立ち止まった。
僕とセシルは慌てて膝を降り別れの挨拶をすると、
ルーは一度背を受けた僕達の方をクルッと振り返り、
抱きついて来た。
その行動に金縛りに遭ったようにギョッとしていると、
僕たちの顔に近づき、
“帝都で待っています”
そう小さく言って騎士達と自分の居るべき場所へと戻って行った。
ルーが去った後は何だか誰か足りない様な感じがして少し寂しく思った。
昨日今日会ったばかりの人と一晩を寝るだけと言う形で過ごしただけなのに、
その感覚は僕の今迄の人生を共に過ごした人がいなくなった様な感じで少し僕の胸をざわつかせた。
セシルはどう思っているのだろうとチラッと彼女の方に目線を移すと、
少し呆けたようにした後、凄く寂しそうな顔をした。
今日は先があるので気を取り直して
「さあ、僕達も出発の準備をしよう!」
そうセシルに話しかけると、
彼女は鼻をスンとしたようにして、
「そうね!」
そうニコリと微笑んで荷物をまとめ始めた。
その後は淡々と旅の支度をするセシルに向い、
「ねえ、セシルは昨夜夢を見た?」
不意にそう尋ねた。
セシルはリュックを
“ヨイショ”
と抱え上げストレージを開きそこにリュックを投げ入れた。
パンパンと手払いをすると、
「う~ん、夢ねえ~
覚えてる様な、覚えていない様な……」
そう言って床に座りブーツを履き始めた。
ブーツの紐を掛け替えた所で手を止め、
「実を言うとさ、私も昨夜の夢の事をちょっと考えてたのよね。
って言うにはね、今朝起きた時に今までと違って、
昨夜の夢って何だか思い出せそうな気がして……
ずっと考えると喉まで出掛かるんだけど、
後少しのところで詰まっちゃうんだよね……」
そう言いながらブーツの紐をシュルシュルと通し始めた。
「ふ~ん、そっか……」
僕がそう言いながら靴を履くと、
「で? 夢がどうかしたの?
翠は変な夢でも見た?
なんかゴチャゴチャと分かった!って騒いではいるみたいだったけど……」
そう言って靴紐をギュッと縛った。
そしてふ~んとしたようにして、
「そう言えばルーも合言葉が~って眠たそうにムニャムニャしてたわよね。
王子様でも夢を見るのね~
寝起きも何だか可愛かったし、
でもあの寝起き、誰かを連想させるのよね~
誰だったのか良く思い出せないんだけど……
でも親しみのある人だったわよね。
私、こんな大きな帝国の皇子と知り合いになるなんて
夢にも思ってなかったわ」
そう言ってもう片方のブーツの靴紐を結んだ。
「さあ、準備できたわよ!
翠は?」
セシルがそう言うのと同時に準備が終わった僕も
靴の先をトントンと床で調整してスッと立ち上がった。
「僕も準備はできたよ」
そう言うと、
「それじゃ通りまで出て流しの馬車を捕まえるわよ!
私も帝都へは行った事ないけど、
地図も買ったし、まあ何とかなるでしょう!」
とまあ気楽にスーもそうだったけど、
彼女のそんな性格も何だか前から知っている様で、
これまで誰にも会った事のなかった僕を何度も唸らせた。
宿を出て少し歩くと直ぐに馬車は見つかった。
セシルは手を上げて、
「おじさーん!」
そう言って馬車を止めると、
「私達、帝都の方へ行くんだけど、
おじさんはどっちへ行くの?」
そう尋ねると、
「方角は一緒だが隣町にまでしか行かないぞ。
それで良かったら乗りな。
1人25チョリだ」
セシルはそう言う御者に50チョリを渡すと、
「ほら翠!
ボケーっとしてないで早く乗って!」
そう言って僕に手を差し出した。
まだお金を払うと言うことに慣れていない僕は
セシルのやりとりを見ながら呆けていた。
慌ててセシルの手を取ると、
セシルに続いて幌馬車に乗り込んだ。
セシルは御者の後ろに座ると、
「おじさん、帝都は此処から遠いの?」
そう話始めた。
御者は手綱を引きながら、
「そうだな~ 俺も帝都までは言ったことはないが、
まあ、馬車を乗り継いで一週間ぐらいじゃないかな~
だが聞いた話によると途中には山賊が出る山や、
魔獣が出る森があるらしいぞ。
お前達には用心棒を雇う予算はあるのかい?」
そう聞いて来た。
「う~んやっぱりそうなのね。
私もそんな風な話は聞いてたけど、
用心棒ねえ~」
そう言って地図を広げ始めた。
僕も地図をのぞいてみたけどこの町にやって来た時に一度開いただけの地図は、
何処からどう見ても謎の模様にしか見えなかった。
う~んと唸りながら地図を見ていたセシルの横で、
僕は目をチカチカとさせる事しかできなかった。
セシルは小さくクスッと笑うと、
「ほら、これ見て。
此処が今、私達がいる町ね」
そう言って地図の左上端にある小さな点を指さした。
そこにはサルーンと書いてあった。
「そして、ここが私達が目指す帝都」
そう言って地図の真ん中らへんにある大きな囲いのある所を指さした。
僕が手を広げて今いる場所から帝都への距離を測ると、
親指から小指までの長さに少し距離を足したような距離で、
「これ、そこまでないじゃん。
今日中に着くんじゃないの?」
そう言うと、急に僕達の話を聞いていた御者が笑い出した。
「兄ちゃん、地図はこの帝国がギュッと凝縮されて書かれたもんだから
本当は途轍もなくどでかいんだ!
大体その地図の10万倍はあると思っていた方がいいぞ!」
そう言われたけど、10万倍がどれくらいの大きさになるのか見当もつかない。
横からセシルが、
「そんなに考え込まなくても大丈夫!
直ぐに地図なんて慣れるわよ!
今はただ一週間くらいかかるって単純に思っていて間違いはないわよ。
それよりもこれ見て。
ここに大きな森、帝都に入る少し前に山があるわね」
そう言って小さな木がたくさん描かれた森林っぽい密集地帯と
小さな山のような絵が沢山描かれた山岳地帯の様な所を指さして見せた。
「これが森と山のある場所なの?」
僕がそう尋ねると、セシルは頷いた。
「ねえ、おじさん? この森と山を流してる馬車ってあるのかしら?」
セシルが御者にそう尋ねると、
「流してねえことはないが、
どちらかと言えば御者を雇うような形になるかなあ~
賃金が高い上に、腕っぷしの良い用心棒がいねえと誰も走らねえぞ?」
そう言われ、
「大体幾らくらい掛かるのかしら?」
と更に尋ねると、
「う~ん、雇われたことがねえから分からないが、
そうだな~森を超えるのに10万セロン、
山を越えるのに5万セロンほどじゃねえかなあ~?
それに用心棒がいくら請求するかだなあ~」
そう言われ、セシルがため息を吐いたのが分かった。
僕にはピンとこないけど、
きっと物凄い値段なんだろう。
「ねえ、僕のお金で払えないかな?
幾ら預金があるのかまだ把握してないんだけど、
セシルだったらわかるでしょ?
どうかな? 足りないかな?」
そうセシルに尋ねると、セシルが慌てて
「バ……バカ!
公共の場で持ち金の話をするものじゃないわよ」
そう言って両手で僕の口を塞いだ。
「ごめん、僕未だ世の常識が分かって無くて……
分かった、お金の事はセシルに囁くようにするよ!」
そう言うと、
「なんだい?
兄ちゃんは良いとこのボンボンなのかい?
もしかしてお忍びの貴族とか?!」
そう言って御者が笑い出した。
僕はセシルをチラッと見ながら、
「え~ 違いますよ!」
と言って苦笑いをした。
その後は他愛もない話をしながら暫く走ると、荒野に出た。
「この辺りは弱い魔獣が出るんだ。
だが心配しなくても大丈夫さ。
ほら、ああやって……」
そう言って指さされた方を見ると、
大勢の人達が魔獣狩りをしていた。
「あれは冒険者たちですか?」
僕が尋ねると、
「そうさね。
この辺りは駆け出しの冒険者がレベルを上げるのに持って来いの場となってるんだ。
だから時折狩る魔獣が足りなくて冒険者同士で魔獣の奪い合いの諍いもおこるんだ。
ほら、あんな感じでな」
そう言って御者が指さした先では狩った魔獣を足元に、
どちらが先に見つけたのかで
冒険者たちが殴り合いのけんかをしていた。
「あれって仲良く二分できないんですか?」
僕が尋ねると、
「ダメよ、先に攻撃を当てた人にしか経験値とドロップは得られないの。
普通経験値ってパーティーを組んでると人数分割で入るからまだレベルが低く、
1人で魔獣狩を狩れるものはパーティーを組もうとしないの。
そしたらレベルアップも早いし、
ドロップも独り占め出来るからね。
だから自然とこう言った場所は新人冒険者が多くなるし、
小競り合いも多くなるのよね」
そう言ってセシルが横から教えてくれた。
僕はケンカする二人を振り返りながら、
「へーそう言うもんなんだ……」
そう言って荒野を後にした。
「後15分もすれば次の町が見えてくるよ。
その後はその先へ行く馬車を探すことだな。
まあ、前の町よりは大きい町だし、
俺よりも先に行ってくれる馬車は直ぐに見つかるさ」
そう言ってくれた御者の言うとおり、
次の町では乗り継ぎの馬車も直ぐに見つかり、
僕達は二つ先の町まで行ってくれる馬車を見つけそれに乗り込んだ。
先の町へ行くのも同じような感じで、
町と町には荒野が広がり、
駆け出し冒険者たちがレベルの低い魔獣をケンカしながら狩っていた。
「見たところ、どの町の傍にも弱い魔獣しかいないようだけど、
平地で強い魔獣とか出るの?」
そう尋ねると、
「普通強い魔獣は弱い物よりも能力があるから
人の住んでる所には寄ってこないわね。
やっぱり狩られる恐れがあるからかしら?
少なくとも私は見たことが無いわね」
セシルがそう言うと、
相乗りをしていた冒険者風の人が、
「そうだね、普段平野に居る強い魔獣は隠れていることが多いね。
例えば木々の多い森の中とか、人のあまり行かない砂漠とか……
取り敢えず人の少ない所に強い魔獣は生息しているね。
それに弱い魔獣よりも個数が少ないし……
まあ、ダンジョンなんかは例外なんだけどね」
そう言って僕達に話しかけてきた。
僕とセシルがポカンとして彼を見ていると、
「あ~ 話の間に割り込んでごめん、ごめん。
僕の名はローティ。
冒険者で一応は戦士なんだ」
そのセリフにセシルが目をキラッと光らせて、
「まあ、戦士?!
貴方、戦士なの?!
もしかして一人旅~?!」
そう猫撫で声で言って彼の手を取った。
そんなセシルにローティは顔を真っ赤にすると、
慌ててセシルの握る手を振り切り、
「いや! 戦士と言ってもきっと僕は戦士に向いてないんだ。
色々と冒険をしてみたけど、一向にレベルが上がらないし、
そのせいか、パーティーも組めないし……
幾ら良い鎧や剣を使っても使いこなせないんだ。
実際に今持ってる物も宝の持ち腐れだけどね」
そう言って申し訳なさそうな顔をした。
確かに彼の装備を見ると、
立派な鎧に盾、剣を装備している。
世間知らずな僕にでさえもそれは分かった。
“う~ん……”
僕は何かを感じて彼の鑑定をしてみようと思った。
そして彼の鑑定を見て見ると、確かに彼か言う様に彼は戦士だった。
でも彼のレベルは5だった。
“レベル5……
戦士はレベルが上がりにくい職なんだろうか.……?!”
そう思いながら、何故彼のレベルが上がらないのか少し詳しく鑑定を見ると、
ヘルスのステータスに真っ黒な頭骸骨のマークがあった。
セシルに直ぐに、
”ねえ、ねえ、もし鑑定でヘルスに真っ黒な頭蓋骨みたいなマークがついてたらどういう意味?”
そう尋ねると、
”え? もしかして彼の鑑定を見たの?!”
そうセシルが尋ね返した。
”うん、レベルが上がらないって苦労してるようだから、
何か助けにならないかと……”
そう言うと、
”それはね、恐らく呪いかもね。
あ、呪いってね、ドロドロとした負の物体が絡みついてその人の命を下へ下へと持っていくものね。
ほっておくと最悪の場合は……死……”
と囁くセシルについ、
「えーっ!」
と大声を出してしまった。
横でニコニコと僕達のささやきを聞いていたローティもびっくりして、
「どうしたの?! 大丈夫?!」
そう言って僕を心配した。
「あ、いや……大丈夫……ごめん……」
そう言って謝る僕に、ローティはまたニコニコとして僕達を見た。
”彼、ちょっとお人よしみたいね。
呪いに掛かるって一体何をしたのかしら?
でも呪いに掛かっている自覚も無さそうよね?
それに呪いに掛かってこんなに陽気なのって……“
そう言ってセシルが又ボソボソと僕に囁いて来た。
”呪いって治らないの?”
そう尋ねる僕へ、
”いや、治らないことはないんだろうけど、
まあ、呪いの種類や度合いにもよるんだろうけど、
かなり高い解呪の魔法の持ち主でないと呪いは解けないわよ?
そんな魔法仕える人なんてレアだし、居ても大体そう言った人は帝王お抱えになってるから、
平民が見つけるのは無理なんじゃないかしら?
貴族でさえも見つけられるかは怪しいし、
見つかってもお礼金って普通払えないんじゃないかしら?”
そう教えてくれた。
でもよく考えてみたら、
”あれ? でも解呪魔法って……”
そう思い自分のステータスをもう一度見て見た。
するとそこには、使える魔法の欄にちゃんと
”解呪=度合いの制限なし”
と表示されていた。
直立不動の様に立ち憚った騎士が僕達をジロッと見下ろしていた。
少し恐縮した僕達から目を離すと、ルーの事をキッと捉えて、
「殿下、勝手な事をしてもらわれては困ります」
低い声でそう言って、彼の顔は明らかに怒っている様だった。
僕達が少しオロッとしたような感じを醸し出すと、
ルーはそれを感じ取ったのか、
直ぐに僕達に背を向けスッと部屋を出ると、
「ごめん、彼らはちっとも悪くないからね。
これは僕の我儘な判断でやった事だから。
もうこんな事は二度としないよ」
そう言って騎士の前で立ち止まった。
僕とセシルは慌てて膝を降り別れの挨拶をすると、
ルーは一度背を受けた僕達の方をクルッと振り返り、
抱きついて来た。
その行動に金縛りに遭ったようにギョッとしていると、
僕たちの顔に近づき、
“帝都で待っています”
そう小さく言って騎士達と自分の居るべき場所へと戻って行った。
ルーが去った後は何だか誰か足りない様な感じがして少し寂しく思った。
昨日今日会ったばかりの人と一晩を寝るだけと言う形で過ごしただけなのに、
その感覚は僕の今迄の人生を共に過ごした人がいなくなった様な感じで少し僕の胸をざわつかせた。
セシルはどう思っているのだろうとチラッと彼女の方に目線を移すと、
少し呆けたようにした後、凄く寂しそうな顔をした。
今日は先があるので気を取り直して
「さあ、僕達も出発の準備をしよう!」
そうセシルに話しかけると、
彼女は鼻をスンとしたようにして、
「そうね!」
そうニコリと微笑んで荷物をまとめ始めた。
その後は淡々と旅の支度をするセシルに向い、
「ねえ、セシルは昨夜夢を見た?」
不意にそう尋ねた。
セシルはリュックを
“ヨイショ”
と抱え上げストレージを開きそこにリュックを投げ入れた。
パンパンと手払いをすると、
「う~ん、夢ねえ~
覚えてる様な、覚えていない様な……」
そう言って床に座りブーツを履き始めた。
ブーツの紐を掛け替えた所で手を止め、
「実を言うとさ、私も昨夜の夢の事をちょっと考えてたのよね。
って言うにはね、今朝起きた時に今までと違って、
昨夜の夢って何だか思い出せそうな気がして……
ずっと考えると喉まで出掛かるんだけど、
後少しのところで詰まっちゃうんだよね……」
そう言いながらブーツの紐をシュルシュルと通し始めた。
「ふ~ん、そっか……」
僕がそう言いながら靴を履くと、
「で? 夢がどうかしたの?
翠は変な夢でも見た?
なんかゴチャゴチャと分かった!って騒いではいるみたいだったけど……」
そう言って靴紐をギュッと縛った。
そしてふ~んとしたようにして、
「そう言えばルーも合言葉が~って眠たそうにムニャムニャしてたわよね。
王子様でも夢を見るのね~
寝起きも何だか可愛かったし、
でもあの寝起き、誰かを連想させるのよね~
誰だったのか良く思い出せないんだけど……
でも親しみのある人だったわよね。
私、こんな大きな帝国の皇子と知り合いになるなんて
夢にも思ってなかったわ」
そう言ってもう片方のブーツの靴紐を結んだ。
「さあ、準備できたわよ!
翠は?」
セシルがそう言うのと同時に準備が終わった僕も
靴の先をトントンと床で調整してスッと立ち上がった。
「僕も準備はできたよ」
そう言うと、
「それじゃ通りまで出て流しの馬車を捕まえるわよ!
私も帝都へは行った事ないけど、
地図も買ったし、まあ何とかなるでしょう!」
とまあ気楽にスーもそうだったけど、
彼女のそんな性格も何だか前から知っている様で、
これまで誰にも会った事のなかった僕を何度も唸らせた。
宿を出て少し歩くと直ぐに馬車は見つかった。
セシルは手を上げて、
「おじさーん!」
そう言って馬車を止めると、
「私達、帝都の方へ行くんだけど、
おじさんはどっちへ行くの?」
そう尋ねると、
「方角は一緒だが隣町にまでしか行かないぞ。
それで良かったら乗りな。
1人25チョリだ」
セシルはそう言う御者に50チョリを渡すと、
「ほら翠!
ボケーっとしてないで早く乗って!」
そう言って僕に手を差し出した。
まだお金を払うと言うことに慣れていない僕は
セシルのやりとりを見ながら呆けていた。
慌ててセシルの手を取ると、
セシルに続いて幌馬車に乗り込んだ。
セシルは御者の後ろに座ると、
「おじさん、帝都は此処から遠いの?」
そう話始めた。
御者は手綱を引きながら、
「そうだな~ 俺も帝都までは言ったことはないが、
まあ、馬車を乗り継いで一週間ぐらいじゃないかな~
だが聞いた話によると途中には山賊が出る山や、
魔獣が出る森があるらしいぞ。
お前達には用心棒を雇う予算はあるのかい?」
そう聞いて来た。
「う~んやっぱりそうなのね。
私もそんな風な話は聞いてたけど、
用心棒ねえ~」
そう言って地図を広げ始めた。
僕も地図をのぞいてみたけどこの町にやって来た時に一度開いただけの地図は、
何処からどう見ても謎の模様にしか見えなかった。
う~んと唸りながら地図を見ていたセシルの横で、
僕は目をチカチカとさせる事しかできなかった。
セシルは小さくクスッと笑うと、
「ほら、これ見て。
此処が今、私達がいる町ね」
そう言って地図の左上端にある小さな点を指さした。
そこにはサルーンと書いてあった。
「そして、ここが私達が目指す帝都」
そう言って地図の真ん中らへんにある大きな囲いのある所を指さした。
僕が手を広げて今いる場所から帝都への距離を測ると、
親指から小指までの長さに少し距離を足したような距離で、
「これ、そこまでないじゃん。
今日中に着くんじゃないの?」
そう言うと、急に僕達の話を聞いていた御者が笑い出した。
「兄ちゃん、地図はこの帝国がギュッと凝縮されて書かれたもんだから
本当は途轍もなくどでかいんだ!
大体その地図の10万倍はあると思っていた方がいいぞ!」
そう言われたけど、10万倍がどれくらいの大きさになるのか見当もつかない。
横からセシルが、
「そんなに考え込まなくても大丈夫!
直ぐに地図なんて慣れるわよ!
今はただ一週間くらいかかるって単純に思っていて間違いはないわよ。
それよりもこれ見て。
ここに大きな森、帝都に入る少し前に山があるわね」
そう言って小さな木がたくさん描かれた森林っぽい密集地帯と
小さな山のような絵が沢山描かれた山岳地帯の様な所を指さして見せた。
「これが森と山のある場所なの?」
僕がそう尋ねると、セシルは頷いた。
「ねえ、おじさん? この森と山を流してる馬車ってあるのかしら?」
セシルが御者にそう尋ねると、
「流してねえことはないが、
どちらかと言えば御者を雇うような形になるかなあ~
賃金が高い上に、腕っぷしの良い用心棒がいねえと誰も走らねえぞ?」
そう言われ、
「大体幾らくらい掛かるのかしら?」
と更に尋ねると、
「う~ん、雇われたことがねえから分からないが、
そうだな~森を超えるのに10万セロン、
山を越えるのに5万セロンほどじゃねえかなあ~?
それに用心棒がいくら請求するかだなあ~」
そう言われ、セシルがため息を吐いたのが分かった。
僕にはピンとこないけど、
きっと物凄い値段なんだろう。
「ねえ、僕のお金で払えないかな?
幾ら預金があるのかまだ把握してないんだけど、
セシルだったらわかるでしょ?
どうかな? 足りないかな?」
そうセシルに尋ねると、セシルが慌てて
「バ……バカ!
公共の場で持ち金の話をするものじゃないわよ」
そう言って両手で僕の口を塞いだ。
「ごめん、僕未だ世の常識が分かって無くて……
分かった、お金の事はセシルに囁くようにするよ!」
そう言うと、
「なんだい?
兄ちゃんは良いとこのボンボンなのかい?
もしかしてお忍びの貴族とか?!」
そう言って御者が笑い出した。
僕はセシルをチラッと見ながら、
「え~ 違いますよ!」
と言って苦笑いをした。
その後は他愛もない話をしながら暫く走ると、荒野に出た。
「この辺りは弱い魔獣が出るんだ。
だが心配しなくても大丈夫さ。
ほら、ああやって……」
そう言って指さされた方を見ると、
大勢の人達が魔獣狩りをしていた。
「あれは冒険者たちですか?」
僕が尋ねると、
「そうさね。
この辺りは駆け出しの冒険者がレベルを上げるのに持って来いの場となってるんだ。
だから時折狩る魔獣が足りなくて冒険者同士で魔獣の奪い合いの諍いもおこるんだ。
ほら、あんな感じでな」
そう言って御者が指さした先では狩った魔獣を足元に、
どちらが先に見つけたのかで
冒険者たちが殴り合いのけんかをしていた。
「あれって仲良く二分できないんですか?」
僕が尋ねると、
「ダメよ、先に攻撃を当てた人にしか経験値とドロップは得られないの。
普通経験値ってパーティーを組んでると人数分割で入るからまだレベルが低く、
1人で魔獣狩を狩れるものはパーティーを組もうとしないの。
そしたらレベルアップも早いし、
ドロップも独り占め出来るからね。
だから自然とこう言った場所は新人冒険者が多くなるし、
小競り合いも多くなるのよね」
そう言ってセシルが横から教えてくれた。
僕はケンカする二人を振り返りながら、
「へーそう言うもんなんだ……」
そう言って荒野を後にした。
「後15分もすれば次の町が見えてくるよ。
その後はその先へ行く馬車を探すことだな。
まあ、前の町よりは大きい町だし、
俺よりも先に行ってくれる馬車は直ぐに見つかるさ」
そう言ってくれた御者の言うとおり、
次の町では乗り継ぎの馬車も直ぐに見つかり、
僕達は二つ先の町まで行ってくれる馬車を見つけそれに乗り込んだ。
先の町へ行くのも同じような感じで、
町と町には荒野が広がり、
駆け出し冒険者たちがレベルの低い魔獣をケンカしながら狩っていた。
「見たところ、どの町の傍にも弱い魔獣しかいないようだけど、
平地で強い魔獣とか出るの?」
そう尋ねると、
「普通強い魔獣は弱い物よりも能力があるから
人の住んでる所には寄ってこないわね。
やっぱり狩られる恐れがあるからかしら?
少なくとも私は見たことが無いわね」
セシルがそう言うと、
相乗りをしていた冒険者風の人が、
「そうだね、普段平野に居る強い魔獣は隠れていることが多いね。
例えば木々の多い森の中とか、人のあまり行かない砂漠とか……
取り敢えず人の少ない所に強い魔獣は生息しているね。
それに弱い魔獣よりも個数が少ないし……
まあ、ダンジョンなんかは例外なんだけどね」
そう言って僕達に話しかけてきた。
僕とセシルがポカンとして彼を見ていると、
「あ~ 話の間に割り込んでごめん、ごめん。
僕の名はローティ。
冒険者で一応は戦士なんだ」
そのセリフにセシルが目をキラッと光らせて、
「まあ、戦士?!
貴方、戦士なの?!
もしかして一人旅~?!」
そう猫撫で声で言って彼の手を取った。
そんなセシルにローティは顔を真っ赤にすると、
慌ててセシルの握る手を振り切り、
「いや! 戦士と言ってもきっと僕は戦士に向いてないんだ。
色々と冒険をしてみたけど、一向にレベルが上がらないし、
そのせいか、パーティーも組めないし……
幾ら良い鎧や剣を使っても使いこなせないんだ。
実際に今持ってる物も宝の持ち腐れだけどね」
そう言って申し訳なさそうな顔をした。
確かに彼の装備を見ると、
立派な鎧に盾、剣を装備している。
世間知らずな僕にでさえもそれは分かった。
“う~ん……”
僕は何かを感じて彼の鑑定をしてみようと思った。
そして彼の鑑定を見て見ると、確かに彼か言う様に彼は戦士だった。
でも彼のレベルは5だった。
“レベル5……
戦士はレベルが上がりにくい職なんだろうか.……?!”
そう思いながら、何故彼のレベルが上がらないのか少し詳しく鑑定を見ると、
ヘルスのステータスに真っ黒な頭骸骨のマークがあった。
セシルに直ぐに、
”ねえ、ねえ、もし鑑定でヘルスに真っ黒な頭蓋骨みたいなマークがついてたらどういう意味?”
そう尋ねると、
”え? もしかして彼の鑑定を見たの?!”
そうセシルが尋ね返した。
”うん、レベルが上がらないって苦労してるようだから、
何か助けにならないかと……”
そう言うと、
”それはね、恐らく呪いかもね。
あ、呪いってね、ドロドロとした負の物体が絡みついてその人の命を下へ下へと持っていくものね。
ほっておくと最悪の場合は……死……”
と囁くセシルについ、
「えーっ!」
と大声を出してしまった。
横でニコニコと僕達のささやきを聞いていたローティもびっくりして、
「どうしたの?! 大丈夫?!」
そう言って僕を心配した。
「あ、いや……大丈夫……ごめん……」
そう言って謝る僕に、ローティはまたニコニコとして僕達を見た。
”彼、ちょっとお人よしみたいね。
呪いに掛かるって一体何をしたのかしら?
でも呪いに掛かっている自覚も無さそうよね?
それに呪いに掛かってこんなに陽気なのって……“
そう言ってセシルが又ボソボソと僕に囁いて来た。
”呪いって治らないの?”
そう尋ねる僕へ、
”いや、治らないことはないんだろうけど、
まあ、呪いの種類や度合いにもよるんだろうけど、
かなり高い解呪の魔法の持ち主でないと呪いは解けないわよ?
そんな魔法仕える人なんてレアだし、居ても大体そう言った人は帝王お抱えになってるから、
平民が見つけるのは無理なんじゃないかしら?
貴族でさえも見つけられるかは怪しいし、
見つかってもお礼金って普通払えないんじゃないかしら?”
そう教えてくれた。
でもよく考えてみたら、
”あれ? でも解呪魔法って……”
そう思い自分のステータスをもう一度見て見た。
するとそこには、使える魔法の欄にちゃんと
”解呪=度合いの制限なし”
と表示されていた。
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……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
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