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寝言
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急にローティのセリフから呪詛について覚えがある様な内容が飛び出して来た。
「今のセリフからは呪詛に掛けられた覚えがある様だけど、
実際そうなの?」
セシルがすかさず尋ねた。
ローティは唖然とした様にして僕達を見たけど、
「そんな……まさか……あれは……祝福な……はず……だった……」
青白い顔をしてそう繰り返すばかりだった。
そんなローティの態度を見てすぐに僕は悟った。
「恐らくそれだろうな」
僕がそう言っても、
「でも彼は……
絶対呪いを俺たちにかける様な人じゃ……」
そう言って術者を庇う様な言い方をし始めた。
「ねえ、同じ言い訳を繰り返しても先には進めないわ。
貴方がもしかしたらと思っている事を話してみて。
第三者の私達だったらもっと冷静に判断できると思うわ」
セシルがそう提案すると、
ローティは僕達を見て小さく頷いた。
「俺の昔話から始まるんだが……」
そう言ってローティは思いついた事をボソボソと話し始めた。
「俺は領地を持たない男爵家の三男として生まれたんだが、
領地を持たない貴族は大体が王都やその近郊に住んでいるんだ。
でも俺の家族は名ばかりの貴族でそんな貧乏貴族は大体が旧王都に住んでいる」
ローティがそう言うと、
「旧王都? なにそれ?
貴方の国では王都が別の場所に移動したの?」
そうセシルが尋ねた。
ローティはコクリと頷くと、
「実は前王がいた時の城は王子が亡くなった時の襲撃で崩壊したんだ」
そう言って眉を顰めた。
「それってどう言う事?
城が崩壊したって……どうやったら城が崩れ落ちるの?!」
セシルが恐怖に満ちた様な顔で尋ねた。
「俺も親から聞いた話だから実際には経験した事無いけど、
あの日の夜に大きな地震があったらしい……」
そうローティが言うと、
「地震? 地震て何?」
僕もセシルも同じ事を尋ねた。
するとローティは
「そうだよな、分からなよな?
俺たちは地震というもんを経験した事がないし、
聞いたこともない。
だが俺の両親の話からすると、
嵐で木々が揺れ蠢く様に地が揺れるんだそうだ。
建物は崩れるし、
木は薙ぎ倒されるし、
人も立っていられないそうだ」
と、とても信じられない様な事を言った。
「地が揺れるってそんな事があるの?!」
僕とセシルが又同じ様に驚いて尋ねると、
「ああ、あの夜はそうやって地が揺れ動いたかと思うと、
空が真っ赤に燃え始めたそうなんだ」
と又、信じられない様な事を言い始めた。
「へ? 空が真っ赤に燃える?!
何それ!」
セシルは騒ぎ出したけど、
僕は言葉も出ないくらいに恐怖を覚えた。
「俺の両親は城の外……
遠くはないけど、近すぎもしないところに住んでいたらしい。
でもそこからでもはっきりと見えたそうだ。
龍の軍勢が城を襲っている所を……
いや、龍が襲っていたと言うよりは、
火系魔法使いの軍勢が龍の背に乗って火の攻撃を城に向けて放っていた所を!」
ローティがそこまで言い終えた瞬間僕の頭がズキズキと痛み始めた。
“何だこの頭痛は?!”
ローティの話が頭の中に突き刺さる様な感覚だった。
頭を抱えながら、急に静かになったセシルをチラッと見ると、
セシルも何かに耐えている様だった。
でも僕達は続けて話を聞いた。
「両親の話では恐らく王子は城の中に居て逃げ遅れ、
その時の攻撃で命を落としたんだろうって……
今だに誰が何の目的で我が国の城を襲ったのかは分からないままなんだ……
その時の龍達も魔法使い達もどこに消えてしまったのか誰にも分からないらしい……
その事件は迷宮入りしてしまったのだが、
既に復旧困難なまでに崩れ落ちてしまった城のあった王都は旧王都として残り、
王弟が新王に就いた時に新王都は国の北の方に移ったんだ。
それが旧王都が出来た理由なんが……
おれはそんな事件があった後に我が国に魔法使い達が蔓延り出した事に疑問を持っている。
皆は今度又襲撃があった時のための備えだと言うが、
俺にはどうもそうは思えない……
何だか分からないが、俺の勘がそう言っている……って、おい! 2人とも大丈夫か?
顔色が悪いが、話を続けても大丈夫か?」
ローティが言葉を失った僕達を心配して尋ねたけど、
僕は先を聞かなくてはいけない気持ちに駆られ、
ズキズキと痛む頭を我慢し頷いた。
セシルも言葉にならないままコクリと頷くだけだった。
ローティはそんな僕達を確認すると話を続けた。
「それで旧王都が残ったって話だが、
王都から旧王都になっ街はすっかり変わってしまったんだが、
一つだけ残ったものがあるんだ。
それが旧神殿だ」
そう言われ、
「神……殿……?」
僕達はそう確認した。
ローティも頷くと、
「実際としては、王都が移動した時に、
旧王都にあった神殿も新王都に移ったわけだが、
その時に行方不明になった最高大神官の師であったラルフが
皆が新神殿に移った中、旧神殿になぜか1人残ったんだ。
本当は旧神殿も閉鎖されるはずだったんだが、
1人……あれは誰だったんだろう……
ラルフ神官の預かりとして1人誰かが王都から送られて来たんだ。
ラルフ神官は祝福師だと言っていたけど、
その人はいつも具合の悪そうな青白い顔をしていた。
凄く印象的な人であの国には珍しい黒髪に黒い瞳の人だった……
ラルフ神官は凄く良い人で俺達悪ガキ達の兄みたいな存在だったから
俺達は良く神殿に足を運んでいたんだ。
だから自然とその祝福師とも仲良くなったと言うか
彼は良くラルフ神官の隣で静かに俺達の事を眺めていた。
時折マリオンと言う、いけすかない奴が偵察みたいな感じで王都から来ていたけど、
アイツが来るたびに祝福師は寝込んでいた……
きっとアイツは祝福師を虐めていたんだって俺達は言っていたけど、
実際はどうだったのかな……
そう言う時は母親から持たされた菓子を持って、
野から花を積んで持って行ったんよ。
おれは割とあの祝福師は好きだったよ。
まあ、もう気付いたと思うが、
俺に祝福を与えたのはその祝福師なんだ。
ラルフの推薦なんだけどな。
国を追い出される子供達に望めば祝福を施していたんだ。
だからまさか彼が……と……」
そこまでローティが話し終えた時、
僕は頭痛に耐えられず倒れてしまった。
まさか僕が倒れるとは思っていなかったローティは
叫ぶ様に僕に名を呼んでいたけど、
僕の意識はどんどん遠くなっていった。
そして頭の何処かでローティがセシルの名を呼ぶ声も聞こえた。
その時はぼんやりと、
“あれ? セシルも倒れた?”
そんな事を考えていた。
でも目が覚めると、
僕はお馴染みの城の中に立っていた。
”あ……これは……“
そう思っていると、
「ローティの話に感化されちゃったのかしらね?」
そう言ってマグノリアが僕の隣に立っていた。
「あ、やっぱり君も倒れちゃったんだ」
僕がそう尋ねると、
「そうね、やっぱり私たちの魂はこの時のことを覚えているみたいね。
ローティの話は少しそれを引き出しちゃったみたいね」
そう言ってマグノリアは城を見渡した。
「でもこのお城の出来事って……」
マグノリアがそう言ったところで、
「うん、この城での出来事だけは第三者になっちゃうんだよね」
そう言ったところで、
「動くな!」
と言う声と共に叔父が僕達に向け弓を構えている所に出会した。
マグノリアが、
「危ない!」
そう叫んで隣にいる僕に目を向けた。
そして僕の顔をペタペタと触ると、
「本当だ…… 私達は此処では第三者なんだ……
ジェイドは此処にいるのに向こうにももう1人ジェイドが……」
そう言って向こうにいるジェイドに目を向けた。
そして向こうへ行こうとして見えない壁にぶつかった。
「此処に壁が……ぶつかったけど痛く無いのね……
でも向こうへ行けない! 向こうにいるジェイドが!」
マグノリアが僕の胸ぐらを掴んで向こうを指差した。
「無理だって言ったでしょ?
これから此処で起きる事に僕達は関与できないんだ」
そう言うと、
「ク~! ムカつく! 今からアーレンハイム公の所まで行って殴ってやりたいわ!」
マグノリアがそう言うと、
僕はクスクスと笑った。
「こんな時に笑って非常識だけど、
僕もそれやろうとしたことあるんだ。
でも此処から僕たちは動けないよ。
向こうの動きや声は僕達に届くけど、
僕達の声も届かないし……」
そう言うと、
「あなた、この夢、何度も見てるのね」
そう言ってマグノリアが僕の肩を抱き寄せた。
そこに崩れた壁の方で小さな影がチラチラと動いた。
もう何度もこの光景も目にしている。
マグノリアの肩を掴んで揺らすと、
「あ、ほら見て!
君たちの登場だよ」
僕がそう言いながら崩れた城の壁を指さすと、
そこからひょっこりとマグノリアとアーウィンが顔を表した。
「本当だ!」
マグノリアはそう言って、
「アーウィン! アーウィン!」
そう叫んだ。
でもそのシーンは僕がいつも見る様にあの日を繰り返して淡々と進んで行った。
隣ではマグノリアが自分の頭をポカポカと叩きながら、
「私、なんであの時もっと戦う事ができなかったのかしら!」
そう言って悔しがっていた。
そして急にプフッと笑い出して、
「アハッ! 見て見て! アーウィンったら
アーレンハイム公に向けられた弓見て真っ青になってる!
全く! 今こうしてみると可笑しいわね!」
そう笑いながら言うマグノリアの声は震え涙が頬を伝っていた。
震える声で
「私達、あんな顔してたのね……」
そうポツリと言うマグノリアに、
「仕方ないよ……
僕達は未だ子供で経験も少なくて準備の期間も少なかったから……
それにこれは急に起こったし、僕達には何の手立ても無かった……」
小さい声でそう言うと、
「あ! デューデューだ! デューデュー……
貴方にも会いたい……」
そう言って又ポツリと涙を流した。
そして気を取り戻した様にして、
「やっぱりデューデューは早いね! あっという間の出来事だったね」
マグノリアはそう言ってデューデューが飛んでいった方を見上げた。
そして鼻を啜りながら、
「私、この先どうなったのか知らないのよね」
そう言って事の起こりをしっかりと見据えた。
「アーレンハイム公、真っ赤な顔をしてジェイドに怒ってるわね。
あれは私たちを逃したから?」
マグノリアが尋ねた。
「うん、それに僕がデューデューを横取りしたからって。
あれは自分の龍だーって凄く怒ってた」
僕がそう言うと、
「バカね、デューデューは誰の物でもないのに!」
そう言うマグノリアの目には怒りが籠っていた。
その瞬間、マグノリアが
「あっ!!!」
と叫んだ。
僕はこの光景を決して忘れる事ができない。
瞬きもせずに釘付けになり彼を見た。
“ダリル……”
この一瞬一瞬がスローモーションの様に僕の目の前を流れていく。
どんなに手を差し伸べたくても彼には手が届かない。
どんなに声をかけようとしても僕の声は彼に届かない。
血を吐きながら地に倒れていくダリルをただ見ることしか出来ないのだ。
愛する人が目の前でその命を終えようとしているのに、
抱きしめることもできないのだ。
僕は歯を食いしばり拳を握りしめた。
「貴方達はこうして終わったのね……」
マグノリアがポツリと言って唇を震わせながら真っ直ぐ僕らを見据えていた。
「ねえ、ローティが言っていたラルフ神官ってアーウィンの師匠よね?」
マグノリアが急に尋ねた。
「うん、彼は僕の父の神官だった。
彼がアーウィンを連れて来たんだ。
アーウィンは彼をとても信頼していた。
もちろん僕の父も」
僕がそう言うと、
「ラルフの所にいる祝福師ってもしかして大賢者かしら……」
マグノリアの言葉にハッとした。
「もしかしたらそうかもしれない……
ローティがマリオンがやって来るって言ってたよね?
なぜラルフの所にいるのか分からないけど、
きっと何か理由があるはずだよ。
それに僕が感じたあの呪詛はあの大賢者の物だった!
でも何故……」
そう言うと、
「私も分からないけど、
きっと理由があるはずよ!
彼等はきっと何かの思惑があってそうしてる筈だわ」
そうマグノリアも感じた様だ。
「きっとローティと出会えた事は私達の目標に向けてプラスになるはずよ。
今は早く前世の記憶を取り戻さないと!
でもきっかけが分からない!
こんな夢を見ているはずだから、
絶対思い出せるはずよ!
それに大賢者が転生の術を貴方に授けたって事はきっと深い意味があるはずよ!
うん、きっと私たちは思い出せる!
それにダリルにもきっと会えるはずよ!」
マグノリアがそう言った所で向こうにいる僕達の体が金色に光った。
それを見たマグノリアが無表情のまま、
「転生の術をかけたようね」
そう呟いた。
僕が光に包まれた僕とダリルを見た後もう一度マグノリアを見直すと、
彼女はもうそこには居なかった。
“マグノリア……目が覚めた様だね……”
そう思っていると、
僕もだんだんと意識が遠のいていった。
「翠! 翠!」
耳元ではローティが心配そう僕の名を呼んでいた。
目を開けローティの方を見ると、
ローティの向こうでセシルも起き出していた。
「う……ん……
頭が重い……」
そう言って頭を抱えるセシルに、
「セシルも大丈夫?!
2人とも同時に倒れ込むからビックリしたよ!
少しうなされていたけど悪い夢でも見た?!
僕の話が強烈すぎたのかな?! スマン」
そう言ってローティが済まなそうにした。
「いや、聞いたのは僕達だしローティが謝る事は……」
そう言うと、
「だが、翠もセシルも国は違うんだよな?
2人が出会ったのは最近だよな?」
そうローティが尋ねて来た。
僕とセシルは顔を見合わせ、
「うん、そうだけど、急にどうしたの?」
そうたずねると、
「いや、何度も繰り返して言ってたから聞き間違いではないと思うけど……」
そう言い淀んだ。
「一体何の事?」
セシルが不思議そうな顔で尋ねると、
「いや、2人とも寝言で同じ人物の名を呼んでいたから……」
ローティのその言葉に僕とセシルは又顔を見合わせた。
「誰の名を呼んでいたんだ?」
僕が尋ねると、
「2人ともアーウィンとか、ダリルとか……」
そう言われ、
“アーウィン? ダリル? 聞いた事のない名だな?”
そう思っていると、セシルも
「う~ん、聞いたこともない様な名前ね~
本当に私達がそう言ってたの?」
そう尋ね返した。
ローティは少し顔を曇らせると、
「うん、間違い無いよ。
ハッキリと彼等の名を何度も口に出していたよ?
それにこれは聞き間違いかもしれないけど……」
そう言いながら段々と声が小さくなった。
「え? 今何と言ったの?」
セシルが大声で尋ねると、
「いや、君達、サンクホルムは知らないって言ったよね?」
ローティもつられて大声でそう尋ねた。
僕達が、
「うん、それは前にもちゃんと知らないって言ったよね?」
そう言うと、
「だって君たち、寝言でアーレンハイム公って!
それってサンクホルムの現王が王になる前に呼ばれていた名だよ!
それに確かアーウィンって行方不明になった最高大神官の名だし、
ダリルだって僕の記憶から行くと、
確か亡くなった王子の専属護衛騎士の名だった筈だよ?
本当に君達最近会ったばかりなの?
本当にサンクホルム知らなかったの?!
君達一体何者?!」
そう言って僕達を疑いの眼差しで見た。
「今のセリフからは呪詛に掛けられた覚えがある様だけど、
実際そうなの?」
セシルがすかさず尋ねた。
ローティは唖然とした様にして僕達を見たけど、
「そんな……まさか……あれは……祝福な……はず……だった……」
青白い顔をしてそう繰り返すばかりだった。
そんなローティの態度を見てすぐに僕は悟った。
「恐らくそれだろうな」
僕がそう言っても、
「でも彼は……
絶対呪いを俺たちにかける様な人じゃ……」
そう言って術者を庇う様な言い方をし始めた。
「ねえ、同じ言い訳を繰り返しても先には進めないわ。
貴方がもしかしたらと思っている事を話してみて。
第三者の私達だったらもっと冷静に判断できると思うわ」
セシルがそう提案すると、
ローティは僕達を見て小さく頷いた。
「俺の昔話から始まるんだが……」
そう言ってローティは思いついた事をボソボソと話し始めた。
「俺は領地を持たない男爵家の三男として生まれたんだが、
領地を持たない貴族は大体が王都やその近郊に住んでいるんだ。
でも俺の家族は名ばかりの貴族でそんな貧乏貴族は大体が旧王都に住んでいる」
ローティがそう言うと、
「旧王都? なにそれ?
貴方の国では王都が別の場所に移動したの?」
そうセシルが尋ねた。
ローティはコクリと頷くと、
「実は前王がいた時の城は王子が亡くなった時の襲撃で崩壊したんだ」
そう言って眉を顰めた。
「それってどう言う事?
城が崩壊したって……どうやったら城が崩れ落ちるの?!」
セシルが恐怖に満ちた様な顔で尋ねた。
「俺も親から聞いた話だから実際には経験した事無いけど、
あの日の夜に大きな地震があったらしい……」
そうローティが言うと、
「地震? 地震て何?」
僕もセシルも同じ事を尋ねた。
するとローティは
「そうだよな、分からなよな?
俺たちは地震というもんを経験した事がないし、
聞いたこともない。
だが俺の両親の話からすると、
嵐で木々が揺れ蠢く様に地が揺れるんだそうだ。
建物は崩れるし、
木は薙ぎ倒されるし、
人も立っていられないそうだ」
と、とても信じられない様な事を言った。
「地が揺れるってそんな事があるの?!」
僕とセシルが又同じ様に驚いて尋ねると、
「ああ、あの夜はそうやって地が揺れ動いたかと思うと、
空が真っ赤に燃え始めたそうなんだ」
と又、信じられない様な事を言い始めた。
「へ? 空が真っ赤に燃える?!
何それ!」
セシルは騒ぎ出したけど、
僕は言葉も出ないくらいに恐怖を覚えた。
「俺の両親は城の外……
遠くはないけど、近すぎもしないところに住んでいたらしい。
でもそこからでもはっきりと見えたそうだ。
龍の軍勢が城を襲っている所を……
いや、龍が襲っていたと言うよりは、
火系魔法使いの軍勢が龍の背に乗って火の攻撃を城に向けて放っていた所を!」
ローティがそこまで言い終えた瞬間僕の頭がズキズキと痛み始めた。
“何だこの頭痛は?!”
ローティの話が頭の中に突き刺さる様な感覚だった。
頭を抱えながら、急に静かになったセシルをチラッと見ると、
セシルも何かに耐えている様だった。
でも僕達は続けて話を聞いた。
「両親の話では恐らく王子は城の中に居て逃げ遅れ、
その時の攻撃で命を落としたんだろうって……
今だに誰が何の目的で我が国の城を襲ったのかは分からないままなんだ……
その時の龍達も魔法使い達もどこに消えてしまったのか誰にも分からないらしい……
その事件は迷宮入りしてしまったのだが、
既に復旧困難なまでに崩れ落ちてしまった城のあった王都は旧王都として残り、
王弟が新王に就いた時に新王都は国の北の方に移ったんだ。
それが旧王都が出来た理由なんが……
おれはそんな事件があった後に我が国に魔法使い達が蔓延り出した事に疑問を持っている。
皆は今度又襲撃があった時のための備えだと言うが、
俺にはどうもそうは思えない……
何だか分からないが、俺の勘がそう言っている……って、おい! 2人とも大丈夫か?
顔色が悪いが、話を続けても大丈夫か?」
ローティが言葉を失った僕達を心配して尋ねたけど、
僕は先を聞かなくてはいけない気持ちに駆られ、
ズキズキと痛む頭を我慢し頷いた。
セシルも言葉にならないままコクリと頷くだけだった。
ローティはそんな僕達を確認すると話を続けた。
「それで旧王都が残ったって話だが、
王都から旧王都になっ街はすっかり変わってしまったんだが、
一つだけ残ったものがあるんだ。
それが旧神殿だ」
そう言われ、
「神……殿……?」
僕達はそう確認した。
ローティも頷くと、
「実際としては、王都が移動した時に、
旧王都にあった神殿も新王都に移ったわけだが、
その時に行方不明になった最高大神官の師であったラルフが
皆が新神殿に移った中、旧神殿になぜか1人残ったんだ。
本当は旧神殿も閉鎖されるはずだったんだが、
1人……あれは誰だったんだろう……
ラルフ神官の預かりとして1人誰かが王都から送られて来たんだ。
ラルフ神官は祝福師だと言っていたけど、
その人はいつも具合の悪そうな青白い顔をしていた。
凄く印象的な人であの国には珍しい黒髪に黒い瞳の人だった……
ラルフ神官は凄く良い人で俺達悪ガキ達の兄みたいな存在だったから
俺達は良く神殿に足を運んでいたんだ。
だから自然とその祝福師とも仲良くなったと言うか
彼は良くラルフ神官の隣で静かに俺達の事を眺めていた。
時折マリオンと言う、いけすかない奴が偵察みたいな感じで王都から来ていたけど、
アイツが来るたびに祝福師は寝込んでいた……
きっとアイツは祝福師を虐めていたんだって俺達は言っていたけど、
実際はどうだったのかな……
そう言う時は母親から持たされた菓子を持って、
野から花を積んで持って行ったんよ。
おれは割とあの祝福師は好きだったよ。
まあ、もう気付いたと思うが、
俺に祝福を与えたのはその祝福師なんだ。
ラルフの推薦なんだけどな。
国を追い出される子供達に望めば祝福を施していたんだ。
だからまさか彼が……と……」
そこまでローティが話し終えた時、
僕は頭痛に耐えられず倒れてしまった。
まさか僕が倒れるとは思っていなかったローティは
叫ぶ様に僕に名を呼んでいたけど、
僕の意識はどんどん遠くなっていった。
そして頭の何処かでローティがセシルの名を呼ぶ声も聞こえた。
その時はぼんやりと、
“あれ? セシルも倒れた?”
そんな事を考えていた。
でも目が覚めると、
僕はお馴染みの城の中に立っていた。
”あ……これは……“
そう思っていると、
「ローティの話に感化されちゃったのかしらね?」
そう言ってマグノリアが僕の隣に立っていた。
「あ、やっぱり君も倒れちゃったんだ」
僕がそう尋ねると、
「そうね、やっぱり私たちの魂はこの時のことを覚えているみたいね。
ローティの話は少しそれを引き出しちゃったみたいね」
そう言ってマグノリアは城を見渡した。
「でもこのお城の出来事って……」
マグノリアがそう言ったところで、
「うん、この城での出来事だけは第三者になっちゃうんだよね」
そう言ったところで、
「動くな!」
と言う声と共に叔父が僕達に向け弓を構えている所に出会した。
マグノリアが、
「危ない!」
そう叫んで隣にいる僕に目を向けた。
そして僕の顔をペタペタと触ると、
「本当だ…… 私達は此処では第三者なんだ……
ジェイドは此処にいるのに向こうにももう1人ジェイドが……」
そう言って向こうにいるジェイドに目を向けた。
そして向こうへ行こうとして見えない壁にぶつかった。
「此処に壁が……ぶつかったけど痛く無いのね……
でも向こうへ行けない! 向こうにいるジェイドが!」
マグノリアが僕の胸ぐらを掴んで向こうを指差した。
「無理だって言ったでしょ?
これから此処で起きる事に僕達は関与できないんだ」
そう言うと、
「ク~! ムカつく! 今からアーレンハイム公の所まで行って殴ってやりたいわ!」
マグノリアがそう言うと、
僕はクスクスと笑った。
「こんな時に笑って非常識だけど、
僕もそれやろうとしたことあるんだ。
でも此処から僕たちは動けないよ。
向こうの動きや声は僕達に届くけど、
僕達の声も届かないし……」
そう言うと、
「あなた、この夢、何度も見てるのね」
そう言ってマグノリアが僕の肩を抱き寄せた。
そこに崩れた壁の方で小さな影がチラチラと動いた。
もう何度もこの光景も目にしている。
マグノリアの肩を掴んで揺らすと、
「あ、ほら見て!
君たちの登場だよ」
僕がそう言いながら崩れた城の壁を指さすと、
そこからひょっこりとマグノリアとアーウィンが顔を表した。
「本当だ!」
マグノリアはそう言って、
「アーウィン! アーウィン!」
そう叫んだ。
でもそのシーンは僕がいつも見る様にあの日を繰り返して淡々と進んで行った。
隣ではマグノリアが自分の頭をポカポカと叩きながら、
「私、なんであの時もっと戦う事ができなかったのかしら!」
そう言って悔しがっていた。
そして急にプフッと笑い出して、
「アハッ! 見て見て! アーウィンったら
アーレンハイム公に向けられた弓見て真っ青になってる!
全く! 今こうしてみると可笑しいわね!」
そう笑いながら言うマグノリアの声は震え涙が頬を伝っていた。
震える声で
「私達、あんな顔してたのね……」
そうポツリと言うマグノリアに、
「仕方ないよ……
僕達は未だ子供で経験も少なくて準備の期間も少なかったから……
それにこれは急に起こったし、僕達には何の手立ても無かった……」
小さい声でそう言うと、
「あ! デューデューだ! デューデュー……
貴方にも会いたい……」
そう言って又ポツリと涙を流した。
そして気を取り戻した様にして、
「やっぱりデューデューは早いね! あっという間の出来事だったね」
マグノリアはそう言ってデューデューが飛んでいった方を見上げた。
そして鼻を啜りながら、
「私、この先どうなったのか知らないのよね」
そう言って事の起こりをしっかりと見据えた。
「アーレンハイム公、真っ赤な顔をしてジェイドに怒ってるわね。
あれは私たちを逃したから?」
マグノリアが尋ねた。
「うん、それに僕がデューデューを横取りしたからって。
あれは自分の龍だーって凄く怒ってた」
僕がそう言うと、
「バカね、デューデューは誰の物でもないのに!」
そう言うマグノリアの目には怒りが籠っていた。
その瞬間、マグノリアが
「あっ!!!」
と叫んだ。
僕はこの光景を決して忘れる事ができない。
瞬きもせずに釘付けになり彼を見た。
“ダリル……”
この一瞬一瞬がスローモーションの様に僕の目の前を流れていく。
どんなに手を差し伸べたくても彼には手が届かない。
どんなに声をかけようとしても僕の声は彼に届かない。
血を吐きながら地に倒れていくダリルをただ見ることしか出来ないのだ。
愛する人が目の前でその命を終えようとしているのに、
抱きしめることもできないのだ。
僕は歯を食いしばり拳を握りしめた。
「貴方達はこうして終わったのね……」
マグノリアがポツリと言って唇を震わせながら真っ直ぐ僕らを見据えていた。
「ねえ、ローティが言っていたラルフ神官ってアーウィンの師匠よね?」
マグノリアが急に尋ねた。
「うん、彼は僕の父の神官だった。
彼がアーウィンを連れて来たんだ。
アーウィンは彼をとても信頼していた。
もちろん僕の父も」
僕がそう言うと、
「ラルフの所にいる祝福師ってもしかして大賢者かしら……」
マグノリアの言葉にハッとした。
「もしかしたらそうかもしれない……
ローティがマリオンがやって来るって言ってたよね?
なぜラルフの所にいるのか分からないけど、
きっと何か理由があるはずだよ。
それに僕が感じたあの呪詛はあの大賢者の物だった!
でも何故……」
そう言うと、
「私も分からないけど、
きっと理由があるはずよ!
彼等はきっと何かの思惑があってそうしてる筈だわ」
そうマグノリアも感じた様だ。
「きっとローティと出会えた事は私達の目標に向けてプラスになるはずよ。
今は早く前世の記憶を取り戻さないと!
でもきっかけが分からない!
こんな夢を見ているはずだから、
絶対思い出せるはずよ!
それに大賢者が転生の術を貴方に授けたって事はきっと深い意味があるはずよ!
うん、きっと私たちは思い出せる!
それにダリルにもきっと会えるはずよ!」
マグノリアがそう言った所で向こうにいる僕達の体が金色に光った。
それを見たマグノリアが無表情のまま、
「転生の術をかけたようね」
そう呟いた。
僕が光に包まれた僕とダリルを見た後もう一度マグノリアを見直すと、
彼女はもうそこには居なかった。
“マグノリア……目が覚めた様だね……”
そう思っていると、
僕もだんだんと意識が遠のいていった。
「翠! 翠!」
耳元ではローティが心配そう僕の名を呼んでいた。
目を開けローティの方を見ると、
ローティの向こうでセシルも起き出していた。
「う……ん……
頭が重い……」
そう言って頭を抱えるセシルに、
「セシルも大丈夫?!
2人とも同時に倒れ込むからビックリしたよ!
少しうなされていたけど悪い夢でも見た?!
僕の話が強烈すぎたのかな?! スマン」
そう言ってローティが済まなそうにした。
「いや、聞いたのは僕達だしローティが謝る事は……」
そう言うと、
「だが、翠もセシルも国は違うんだよな?
2人が出会ったのは最近だよな?」
そうローティが尋ねて来た。
僕とセシルは顔を見合わせ、
「うん、そうだけど、急にどうしたの?」
そうたずねると、
「いや、何度も繰り返して言ってたから聞き間違いではないと思うけど……」
そう言い淀んだ。
「一体何の事?」
セシルが不思議そうな顔で尋ねると、
「いや、2人とも寝言で同じ人物の名を呼んでいたから……」
ローティのその言葉に僕とセシルは又顔を見合わせた。
「誰の名を呼んでいたんだ?」
僕が尋ねると、
「2人ともアーウィンとか、ダリルとか……」
そう言われ、
“アーウィン? ダリル? 聞いた事のない名だな?”
そう思っていると、セシルも
「う~ん、聞いたこともない様な名前ね~
本当に私達がそう言ってたの?」
そう尋ね返した。
ローティは少し顔を曇らせると、
「うん、間違い無いよ。
ハッキリと彼等の名を何度も口に出していたよ?
それにこれは聞き間違いかもしれないけど……」
そう言いながら段々と声が小さくなった。
「え? 今何と言ったの?」
セシルが大声で尋ねると、
「いや、君達、サンクホルムは知らないって言ったよね?」
ローティもつられて大声でそう尋ねた。
僕達が、
「うん、それは前にもちゃんと知らないって言ったよね?」
そう言うと、
「だって君たち、寝言でアーレンハイム公って!
それってサンクホルムの現王が王になる前に呼ばれていた名だよ!
それに確かアーウィンって行方不明になった最高大神官の名だし、
ダリルだって僕の記憶から行くと、
確か亡くなった王子の専属護衛騎士の名だった筈だよ?
本当に君達最近会ったばかりなの?
本当にサンクホルム知らなかったの?!
君達一体何者?!」
そう言って僕達を疑いの眼差しで見た。
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