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「こ……これは!」
地図の通りにフジワラ侯爵家を訪ねて来て、
その建物の大きさに度肝を抜かれた。
”これは家なの?!“
立派に構えられた門の前に立って
冷や汗がダラダラと流れた。
洞窟の中で育った僕に、
まさか、こんな大きさの家があるとは信じ難い事だった。
いや、これが家と言えるのかは疑わしい。
前に聞いて居たお城という容貌に似ている様な気がする。
それに敷地も広い。
塀もグルッと敷地を取り囲んだ様に立っているし,
まるで要塞だ。
それに中に入れるのは取り敢えず僕達が今立っている門のみの様だった。
それに門もデカい。
これまで家を見たことはあるが、
僕の知ってる家という物は、
居間と台所と寝室の2、3部屋からなる小さな物ばかりだった。
僕は門の鉄格子から中を覗くと,
右から左までその外観を目で追った。
“此処から玄関までの距離が有り過ぎる……
一体急な来客が来たらどうやって取り継ぐんだろう?
何処かに呼び鈴が有るのか?!”
そう思い門の周りを探し回ったけど,
呼び鈴らしき物も見当たらなかった。
「これ、家として機能しているの?!
貴族の家って皆こんな感じなの?!」
僕が驚いた様な顔をすると、
「まあ、大抵の貴族の家は平民よりはデカいが、
貴族でも爵位が上位だったり、
領地持ちだと大抵はこんな家じゃないかな?
俺の家は此処まではないが……」
ローティがそう言って目の先にある屋敷を見上げた。
セシルは辺りをキョロキョロと見回すと,
「誰も門の側には立ってなさそうね……
これだけ大きければ護衛の騎士が立ってそうなんだけど……」
そういいながら門の鉄格子をガシガシと揺すった。
「う~ん揺するだけじゃ誰も出てこないわね。
ジュジュ、貴方のファイヤーボールをこの門に当てて見なさいよ」
セシルは割と真面目そうな顔でそう言った。
それを慌ててローティが、
「バ……バカ! 何言ってるんだ!
もし家の者に見られれば、
それこそ、その場で切り捨てられるぞ」
そう言って鉄格子を掴んだセシルの腕を掴み、
セシルの提案を止めに入った。
セシルはローティに向かうと、
「あらじゃあ貴方、
何か他に良い方法はあるの?
間違っても
“御免下さ~い!”
って叫ぶんじゃ無いのよ?」
そう言ってローティをジッと見つめた。
セシルのそんなセリフに、
ローティは罰が悪そうに格子の向こうを覗き込んだ。
そんなローティを見て僕は直ぐに、
“彼はきっとセシルが言う様にしようとしたんだ”
と思った。
でも困った。
家の者に話しかけるきっかけさえ分からない。
ギルドの受付嬢が言っていた様に、
貴族という者は約束を取り付けて居ないと会えないものだろうか?
そんなことを思っていると、
セシルが急に門をよじ登り始めた。
僕はセシルの足をガッと捕まえると,
「セシル! な、何してるの?!」
そう言って引っ張った。
セシルは足をバタバタとさせると,
「だってこうでもしないと中には入れないでしょ?!
翠、貴方は何かいい案でもあるの?!」
そう言ってバタバタとした足で僕の胸を蹴った。
「イッ…… セシル、やっぱりダメだよ。
そんな所よじ登ったら危ないよ!
僕が何とかしてみるからセシルは下りて!」
そう言うとセシルは僕の方を見下ろして、
ピョーンと飛んで着地した。
「それで? 一体どうするつもりなの?!」
胸の前で腕を組んだセシルが、
“やれるものならやってみなさいよ!”
とでも言う様に鼻息を荒くして僕の方を見た。
僕は大体の門の高さを目で測定すると,
身体強化をさせた。
僕が身体強化できることは、
未だセシルにもローティにも言ってない。
これは僕の持つスキルだから魔法をかけるわけでは無い。
きっと此処にいる誰もが
僕が身体強化を付けたことに気付いてない。
僕は下半身に力を入れ足首を屈折させ地を蹴り上げると,
ポーンといとも簡単に門を超えてトタッと敷地側に着地した。
立ち上がり門の方を向くと皆、
“信じられない!”
と言う様な顔をして僕の方を見ていた。
「す……翠!
一体その力は何なの?!
貴方、体が軽くなる様な魔法でも使ったの?!」
セシルがそう言うと,
「いや、翠は魔法なんて使ってないと思うよ。
だって、魔法なんて使っているところ見てないよね?!」
今度は続いてジュジュがそう言った。
するとまたセシルが、
「いや、翠は詠唱なしで魔法が使えるのよ。
ねえ、翠、それって貴方の魔法の一環なの?!」
そう尋ねてきた。
僕は首を振ると,
「いや、僕はずっと山奥で育ったからずっと父さんに小さい時から
岩山を登ったり下りたりする訓練を受けてきたんだ。
だからこの高さの門くらいだったら飛び越えることができるのさ」
そう説明をした。
セシルは少し俯くと指で顎を撫でて、
「そうか、あのデューデューに育てられたんだもんね。
こう言う事出来ても不思議では無いか……」
そう独り言を言って納得していた。
ローティは、
「翠、俺たちは此処で待っているから、
屋敷へ行って誰かと話をつけて来い」
そう言って鉄格子をガシッと握りしめた。
するとセシルが、
「えっ?! 翠だけ行っちゃうの?!
ズルイ!! 私も行きたい!」
そう言うふうに駄々を捏ね始めた。
「セシル,僕が屋敷まで行って人を呼んでくるから君は此処に皆と一緒にいて!
すぐに戻って来るから!」
そう言いかけた時、
皆の顔が急に引き攣り出し静かになった。
「え? 皆どうしたの?!
僕、ちゃんと誰かと話をつけて必ず直ぐに戻って来るよ?
だから僕を信じて此処で待っていて!」
僕がそう言うと,セシルが、
「あ、いや、あのさ~
翠、貴方の後ろ……」
そう言って僕の後ろを指差した。
“えっ?!”
そう思い後ろを振り返ると,
“ウワップッ”
と誰かの胸に激突した。
“ヒッ!”
そう小声を出し跳び退ると、
「私の家に何か御用ですか?」
そう言って年配の男性が立っていた。
僕はその人を見た時思わず、
「と……父……さん?」
そう口走ってしまった。
その人はにこりと笑うと,
「おや、おや、私は貴方の御父上に似ているのですか?
と言うことは、
貴方の御父上は東の大陸のかたですか?」
そう丁寧に尋ねてきた。
僕は眉間に皺を寄せた様にして、
「東……の大……陸?」
そう言って彼を見上げた。
彼は丁寧にお辞儀をすると,
「おや,おや,自己紹介が未だでしたね。
私はフジワラ家の当主で名をショウと申します」
そう言って僕の顔をじっと見た。
「おや、おや、貴方は何処かで見た様な顔ですね?
名は何と仰りますか?」
そう言って尋ねてきた。
僕は訝しそうに彼をみると,
「あ……いえ,会ったことはないと思いますが、
僕の名は翠と言います」
そう言って上目遣いで彼のことを見た。
すると彼は僕の顔をまじまじと見て、
目幅大の涙を流し始めた。
僕は訳が分からず、オロオロとし始めた。
彼は自分の袖を目頭に押し付けると,
「もしかして貴方のお父様の名は
デューデュー様と言うのではありませんか?!」
そう言って急に僕の父さんの名を言い始めた。
僕は訳が分からず,
少し後ろに引き下がった。
すると,僕達の会話を後ろから聞いていたセシルが,
「そうよ! 翠の父親の名はデューデューよ!
何故貴方がそんな事を知っているの?!」
そう言って僕達に話しかけてきた。
ショウと自分の事を呼んだ人はジリジリと門に近づくと,
「貴方は……」
そう言ってセシルの方を見つめた。
セシルは少し気後れした様に後退りしたかと思うと,
「な……何よ! 何か文句でもあるの?!」
そう言って今度は強気に出始めた。
ショウは門を開けると,
「貴方の名は?」
そう言ってセシルに話しかけた。
セシルはちょっと悪態をつくと,
「え? 何? 私の名?
私はセシルよ!
翠の一番のお友達なの!
翠の事虐めたら、私が承知しないわよ!」
そう言ってショウをきっと睨んだ。
ショウはセシルの顔をじっと見つめると,
「フフ、私は翠様を虐めたりしませんよ。
それよりも、セシルはデューデュー様の事を知っているのですね」
ズイっとセシルに近づきそう尋ねた。
「何よ! 知ってたら悪いの?!」
セシルはそう言ってそっぽを向くと,
「いえ、悪い訳ではありませんが、
セシルはどうしてデューデュー様の事を知っているのですか?」
と、ショウはセシルにそう尋ねた。
セシルはそっぽを向いたまま、
「そうしてだって良いでしょう?!
貴方には関係のない事でしょう?!
じゃあ、私も言わせてもらいますけど、
貴方は何故デューデューの事を知っているの?!」
そんな事を尋ね始めた。
ショウは優しそうに微笑むと,
「そうですね、話せば長くなりますね。
如何ですか? 私の家にいらっしゃいませんか?
今ですと妻も家に居ます。
何故私がデューデュー様を知っているのか知りたくありませんか?
宜しければそちらのお友達もご一緒に如何ですか?」
そう言ってローティ達の方を向いて手を差し伸べた。
セシルは悪態を付いたまま、
「そうね、貴方がそこまでして話したいって言うのなら
聞いてあげない事もないけど……」
そっぽを向いてそう返した。
ショウはニコリと微笑むと,
「では此方へ。
お友達も一緒にどうぞいらして下さい」
そう言って僕達を案内し始めた。
ショウの後ろからゾロゾロと付いて行くと、
急に龍達が
“ピュルピュルピュル~”
と鳴きながら屋敷の裏から飛び上がった。
僕は立ち止まって上を眺めると,
「丁度龍達の放龍の時間だったのです。
貴方達の事はメス龍のナナが教えてくれたんですよ」
そう言うショウに、
「え? 貴方の龍は言葉が話せるのですか?!」
びっくりしてそう尋ねると,
ショウは立ち止まり僕の方を見て、
「そうですね、デューデュー様は人の言葉を話しますね」
そう言って飛び去る龍達を見上げた。
「僕の父さんが龍だと言う事を知ってるんだ……」
驚いた様にそう呟くと,
彼はニコリとして、
「私の龍は人の言葉は話せませんが、
息子の龍輝が龍の言葉を理解するのです。
今回もナナから事情を聞いた龍輝が私に教えに来てくれました。
だから貴方方が門の前に居るのが分かったのですよ」
そう言って僕を見た。
”龍輝……って……“
そう呟くと,
「私には息子が二人いましてね、
龍輝は息子の一人です。
生憎息子達は今日は帝城へ行く事になっておりますので
家は留守にしますが、今度機会があれば息子達も紹介しましょう。
さ、さ、妻も何方が訪ねていらしたのか大変ワクワクとして待って居ます。
どうぞ中へ御入り下さい」
ショウはそう言って大きな玄関のドアを開けた。
中では使用人という人達がズラッと肩を並べて
僕達が来るのを待って居た様だった。
ドアが開いた瞬間一斉に皆頭を下げた。
「さ、さ、奥へどうぞ」
そう勧められ、
僕達は迎え並ぶ人たちの間をショウについて進んで行った。
すると奥の方からパタパタとピンク色の髪をした可愛らしい女性が
僕達に向かって走ってきた。
そして僕達の前で止まると,
目をウルウルとさせて、
「翠……様?
本当に翠様なの?!」
と泣きながらショウの顔を見た。
僕はさらに訳が分からず、
「あの……」
恐る恐るそういうと,
彼女は急に僕に抱きついて来て、
「本当に大きくなって!
ああ、ちゃんと顔を見せて」
そう言って僕の頬を両手で掴んだ。
そして僕の顔を覗き込むと,
「本当にお姉様にそっくりになって!
何処となくお兄様にも似ているわね!」
そう言ってもう一度僕に抱きついた。
僕はショウの方を横目で見ると,
「あの……この方は?
娘さんもいらっしゃったのでしょうか……?」
そう尋ねると,
「あ、いや、彼女のは私の妻でスーと言います」
その答えに僕達皆が、
「えー!!!」
と叫んでしまった。
ショウの妻のスーは如何見てみも、
僕達と同じ様な年にしか見えない。
皆一同が驚いているところを見回したスーの目が
セシルに留まった。
そしてセシルに手を伸ばし抱きつくと,
「お姉様!
還っていらっしゃると信じていました!
遂に翠様と再会されたのですね!」
そう言って泣き始めたので、
僕達は一斉にセシルにしがみついたスーとセシルを見た。
地図の通りにフジワラ侯爵家を訪ねて来て、
その建物の大きさに度肝を抜かれた。
”これは家なの?!“
立派に構えられた門の前に立って
冷や汗がダラダラと流れた。
洞窟の中で育った僕に、
まさか、こんな大きさの家があるとは信じ難い事だった。
いや、これが家と言えるのかは疑わしい。
前に聞いて居たお城という容貌に似ている様な気がする。
それに敷地も広い。
塀もグルッと敷地を取り囲んだ様に立っているし,
まるで要塞だ。
それに中に入れるのは取り敢えず僕達が今立っている門のみの様だった。
それに門もデカい。
これまで家を見たことはあるが、
僕の知ってる家という物は、
居間と台所と寝室の2、3部屋からなる小さな物ばかりだった。
僕は門の鉄格子から中を覗くと,
右から左までその外観を目で追った。
“此処から玄関までの距離が有り過ぎる……
一体急な来客が来たらどうやって取り継ぐんだろう?
何処かに呼び鈴が有るのか?!”
そう思い門の周りを探し回ったけど,
呼び鈴らしき物も見当たらなかった。
「これ、家として機能しているの?!
貴族の家って皆こんな感じなの?!」
僕が驚いた様な顔をすると、
「まあ、大抵の貴族の家は平民よりはデカいが、
貴族でも爵位が上位だったり、
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俺の家は此処まではないが……」
ローティがそう言って目の先にある屋敷を見上げた。
セシルは辺りをキョロキョロと見回すと,
「誰も門の側には立ってなさそうね……
これだけ大きければ護衛の騎士が立ってそうなんだけど……」
そういいながら門の鉄格子をガシガシと揺すった。
「う~ん揺するだけじゃ誰も出てこないわね。
ジュジュ、貴方のファイヤーボールをこの門に当てて見なさいよ」
セシルは割と真面目そうな顔でそう言った。
それを慌ててローティが、
「バ……バカ! 何言ってるんだ!
もし家の者に見られれば、
それこそ、その場で切り捨てられるぞ」
そう言って鉄格子を掴んだセシルの腕を掴み、
セシルの提案を止めに入った。
セシルはローティに向かうと、
「あらじゃあ貴方、
何か他に良い方法はあるの?
間違っても
“御免下さ~い!”
って叫ぶんじゃ無いのよ?」
そう言ってローティをジッと見つめた。
セシルのそんなセリフに、
ローティは罰が悪そうに格子の向こうを覗き込んだ。
そんなローティを見て僕は直ぐに、
“彼はきっとセシルが言う様にしようとしたんだ”
と思った。
でも困った。
家の者に話しかけるきっかけさえ分からない。
ギルドの受付嬢が言っていた様に、
貴族という者は約束を取り付けて居ないと会えないものだろうか?
そんなことを思っていると、
セシルが急に門をよじ登り始めた。
僕はセシルの足をガッと捕まえると,
「セシル! な、何してるの?!」
そう言って引っ張った。
セシルは足をバタバタとさせると,
「だってこうでもしないと中には入れないでしょ?!
翠、貴方は何かいい案でもあるの?!」
そう言ってバタバタとした足で僕の胸を蹴った。
「イッ…… セシル、やっぱりダメだよ。
そんな所よじ登ったら危ないよ!
僕が何とかしてみるからセシルは下りて!」
そう言うとセシルは僕の方を見下ろして、
ピョーンと飛んで着地した。
「それで? 一体どうするつもりなの?!」
胸の前で腕を組んだセシルが、
“やれるものならやってみなさいよ!”
とでも言う様に鼻息を荒くして僕の方を見た。
僕は大体の門の高さを目で測定すると,
身体強化をさせた。
僕が身体強化できることは、
未だセシルにもローティにも言ってない。
これは僕の持つスキルだから魔法をかけるわけでは無い。
きっと此処にいる誰もが
僕が身体強化を付けたことに気付いてない。
僕は下半身に力を入れ足首を屈折させ地を蹴り上げると,
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立ち上がり門の方を向くと皆、
“信じられない!”
と言う様な顔をして僕の方を見ていた。
「す……翠!
一体その力は何なの?!
貴方、体が軽くなる様な魔法でも使ったの?!」
セシルがそう言うと,
「いや、翠は魔法なんて使ってないと思うよ。
だって、魔法なんて使っているところ見てないよね?!」
今度は続いてジュジュがそう言った。
するとまたセシルが、
「いや、翠は詠唱なしで魔法が使えるのよ。
ねえ、翠、それって貴方の魔法の一環なの?!」
そう尋ねてきた。
僕は首を振ると,
「いや、僕はずっと山奥で育ったからずっと父さんに小さい時から
岩山を登ったり下りたりする訓練を受けてきたんだ。
だからこの高さの門くらいだったら飛び越えることができるのさ」
そう説明をした。
セシルは少し俯くと指で顎を撫でて、
「そうか、あのデューデューに育てられたんだもんね。
こう言う事出来ても不思議では無いか……」
そう独り言を言って納得していた。
ローティは、
「翠、俺たちは此処で待っているから、
屋敷へ行って誰かと話をつけて来い」
そう言って鉄格子をガシッと握りしめた。
するとセシルが、
「えっ?! 翠だけ行っちゃうの?!
ズルイ!! 私も行きたい!」
そう言うふうに駄々を捏ね始めた。
「セシル,僕が屋敷まで行って人を呼んでくるから君は此処に皆と一緒にいて!
すぐに戻って来るから!」
そう言いかけた時、
皆の顔が急に引き攣り出し静かになった。
「え? 皆どうしたの?!
僕、ちゃんと誰かと話をつけて必ず直ぐに戻って来るよ?
だから僕を信じて此処で待っていて!」
僕がそう言うと,セシルが、
「あ、いや、あのさ~
翠、貴方の後ろ……」
そう言って僕の後ろを指差した。
“えっ?!”
そう思い後ろを振り返ると,
“ウワップッ”
と誰かの胸に激突した。
“ヒッ!”
そう小声を出し跳び退ると、
「私の家に何か御用ですか?」
そう言って年配の男性が立っていた。
僕はその人を見た時思わず、
「と……父……さん?」
そう口走ってしまった。
その人はにこりと笑うと,
「おや、おや、私は貴方の御父上に似ているのですか?
と言うことは、
貴方の御父上は東の大陸のかたですか?」
そう丁寧に尋ねてきた。
僕は眉間に皺を寄せた様にして、
「東……の大……陸?」
そう言って彼を見上げた。
彼は丁寧にお辞儀をすると,
「おや,おや,自己紹介が未だでしたね。
私はフジワラ家の当主で名をショウと申します」
そう言って僕の顔をじっと見た。
「おや、おや、貴方は何処かで見た様な顔ですね?
名は何と仰りますか?」
そう言って尋ねてきた。
僕は訝しそうに彼をみると,
「あ……いえ,会ったことはないと思いますが、
僕の名は翠と言います」
そう言って上目遣いで彼のことを見た。
すると彼は僕の顔をまじまじと見て、
目幅大の涙を流し始めた。
僕は訳が分からず、オロオロとし始めた。
彼は自分の袖を目頭に押し付けると,
「もしかして貴方のお父様の名は
デューデュー様と言うのではありませんか?!」
そう言って急に僕の父さんの名を言い始めた。
僕は訳が分からず,
少し後ろに引き下がった。
すると,僕達の会話を後ろから聞いていたセシルが,
「そうよ! 翠の父親の名はデューデューよ!
何故貴方がそんな事を知っているの?!」
そう言って僕達に話しかけてきた。
ショウと自分の事を呼んだ人はジリジリと門に近づくと,
「貴方は……」
そう言ってセシルの方を見つめた。
セシルは少し気後れした様に後退りしたかと思うと,
「な……何よ! 何か文句でもあるの?!」
そう言って今度は強気に出始めた。
ショウは門を開けると,
「貴方の名は?」
そう言ってセシルに話しかけた。
セシルはちょっと悪態をつくと,
「え? 何? 私の名?
私はセシルよ!
翠の一番のお友達なの!
翠の事虐めたら、私が承知しないわよ!」
そう言ってショウをきっと睨んだ。
ショウはセシルの顔をじっと見つめると,
「フフ、私は翠様を虐めたりしませんよ。
それよりも、セシルはデューデュー様の事を知っているのですね」
ズイっとセシルに近づきそう尋ねた。
「何よ! 知ってたら悪いの?!」
セシルはそう言ってそっぽを向くと,
「いえ、悪い訳ではありませんが、
セシルはどうしてデューデュー様の事を知っているのですか?」
と、ショウはセシルにそう尋ねた。
セシルはそっぽを向いたまま、
「そうしてだって良いでしょう?!
貴方には関係のない事でしょう?!
じゃあ、私も言わせてもらいますけど、
貴方は何故デューデューの事を知っているの?!」
そんな事を尋ね始めた。
ショウは優しそうに微笑むと,
「そうですね、話せば長くなりますね。
如何ですか? 私の家にいらっしゃいませんか?
今ですと妻も家に居ます。
何故私がデューデュー様を知っているのか知りたくありませんか?
宜しければそちらのお友達もご一緒に如何ですか?」
そう言ってローティ達の方を向いて手を差し伸べた。
セシルは悪態を付いたまま、
「そうね、貴方がそこまでして話したいって言うのなら
聞いてあげない事もないけど……」
そっぽを向いてそう返した。
ショウはニコリと微笑むと,
「では此方へ。
お友達も一緒にどうぞいらして下さい」
そう言って僕達を案内し始めた。
ショウの後ろからゾロゾロと付いて行くと、
急に龍達が
“ピュルピュルピュル~”
と鳴きながら屋敷の裏から飛び上がった。
僕は立ち止まって上を眺めると,
「丁度龍達の放龍の時間だったのです。
貴方達の事はメス龍のナナが教えてくれたんですよ」
そう言うショウに、
「え? 貴方の龍は言葉が話せるのですか?!」
びっくりしてそう尋ねると,
ショウは立ち止まり僕の方を見て、
「そうですね、デューデュー様は人の言葉を話しますね」
そう言って飛び去る龍達を見上げた。
「僕の父さんが龍だと言う事を知ってるんだ……」
驚いた様にそう呟くと,
彼はニコリとして、
「私の龍は人の言葉は話せませんが、
息子の龍輝が龍の言葉を理解するのです。
今回もナナから事情を聞いた龍輝が私に教えに来てくれました。
だから貴方方が門の前に居るのが分かったのですよ」
そう言って僕を見た。
”龍輝……って……“
そう呟くと,
「私には息子が二人いましてね、
龍輝は息子の一人です。
生憎息子達は今日は帝城へ行く事になっておりますので
家は留守にしますが、今度機会があれば息子達も紹介しましょう。
さ、さ、妻も何方が訪ねていらしたのか大変ワクワクとして待って居ます。
どうぞ中へ御入り下さい」
ショウはそう言って大きな玄関のドアを開けた。
中では使用人という人達がズラッと肩を並べて
僕達が来るのを待って居た様だった。
ドアが開いた瞬間一斉に皆頭を下げた。
「さ、さ、奥へどうぞ」
そう勧められ、
僕達は迎え並ぶ人たちの間をショウについて進んで行った。
すると奥の方からパタパタとピンク色の髪をした可愛らしい女性が
僕達に向かって走ってきた。
そして僕達の前で止まると,
目をウルウルとさせて、
「翠……様?
本当に翠様なの?!」
と泣きながらショウの顔を見た。
僕はさらに訳が分からず、
「あの……」
恐る恐るそういうと,
彼女は急に僕に抱きついて来て、
「本当に大きくなって!
ああ、ちゃんと顔を見せて」
そう言って僕の頬を両手で掴んだ。
そして僕の顔を覗き込むと,
「本当にお姉様にそっくりになって!
何処となくお兄様にも似ているわね!」
そう言ってもう一度僕に抱きついた。
僕はショウの方を横目で見ると,
「あの……この方は?
娘さんもいらっしゃったのでしょうか……?」
そう尋ねると,
「あ、いや、彼女のは私の妻でスーと言います」
その答えに僕達皆が、
「えー!!!」
と叫んでしまった。
ショウの妻のスーは如何見てみも、
僕達と同じ様な年にしか見えない。
皆一同が驚いているところを見回したスーの目が
セシルに留まった。
そしてセシルに手を伸ばし抱きつくと,
「お姉様!
還っていらっしゃると信じていました!
遂に翠様と再会されたのですね!」
そう言って泣き始めたので、
僕達は一斉にセシルにしがみついたスーとセシルを見た。
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明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
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