龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ジェイドの恋

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「じゃあ私事になるけど、
私がマグノリアだった時の事を聞いてちょうだい」

そう言ってセシルはス~ッと大きく息を吸い込んだ。

セシルの顔からは少し緊張の色が伺えたが、
ゆっくりと吸い込んだ息を吐きだすと、

「マグノリアはね、ソレル王国って言うこの大陸の北西にある小さな国で
第一王女として生まれたの」

そう語り始めた。

するとローティがすくさま

「ソレル王国……そうだ、俺が伝え聞いたジェイド王子の婚約者は、
ソレル王国の出身だった!

確か建国王の娘が嫁いだんだったよな」

そう言ってセシルを見た。

セシルはコクリと頷くと、

「ソレル王国は小さな国だけど、
北方にある国としては緑豊かで、
これも聖龍の加護を持つ姫が嫁いできてくれたからと言って、
サンクホルムとは友好国として良い絆をつないでいたの。

そんな中マグノリアは聖龍の血を引く王女として、
小さい時からサンクホルムと言う国や、
聖龍伝説について教えられてきたんだけど、
彼女はとても活発で我が道を行くタイプの子で……
そうね、あまりお勉強は得意では無かったわね。

だからサンクホルムの事も、
聖龍の事も、知識としては中途半端な子だったの。

彼女の侍女達は彼女にすごく手を焼いていたけど、
マグノリアが5歳になった頃、
いきなり婚約の話が来て……

サンクホルムに男の子が生まれたから
その子がマグノリアの婚約者だって。

サンクホルムには代々聖龍の血を引く子が生まれるから、
銀色の髪に緑の瞳を持つ子が生まれたら、
その血筋の同じ年頃の令嬢が婚約者になるらしく、
その時ちょうど年があったのが私だけだったの。

ローティが言った様にマグノリアは
サンクホルム建国王の娘の子孫だったから自然と婚約が結ばれて……」

セシルはそう言うと、僕の方をチラッと見た。

その話を聞いたジュジュとリアは、

「じゃあ、マグノリアって生まれたばかりの赤ん坊と婚約させられたって事?!」

って驚いていたけど、貴族であるローティは、

「王族や貴族ではそれは珍しい事ではないぞ?」

そう言ってセシルをフォローしていたけど、セシルも

「そうね。 早くに婚約を結ぶことは、
貴族の間では珍しくもなかったわね……

未だってそうでしょ?

龍輝、貴方の婚約話は何時くらいから来ていたの?」

そう言ってセシルが話を龍輝に振った。

龍輝は直ぐに僕の方を見て、

「私には婚約者は居ません。

これからも婚約をするつもりは有りません!」

とそう言い切った。

”なぜ僕の方を見るんだ?!

確か夕食の時も僕に言い訳をするように……”

そう思っていると横からスーが、

「龍輝、貴方、何ってるの!

貴方にだってセシルちゃんが言った様に、
小さい時から婚約者候補として幾人か名が挙がっていたでしょう?!

どうしてあなたはそんな頑なに拒否をするの?!」

そう言って龍輝を窘め始めた。

龍輝は龍輝で、

「母上、今はセシル様の話を聞いている途中です。

話の流れを変えないで頂きたい」

とスーに文句を言い始めた。

少し場の雰囲気がピリッとしたところでジュジュがタイミングよく、

「まあ、とりあえず、
お貴族様は物心つく前から婚約者がいるって事だよな?!

ひ~ 僕はそんなの嫌だな。

マグノリアは嫌じゃなかったのか?

まだ五歳だったんだろ?

まだ会った事も無い上に、
更には生まれたばかりの赤ん坊って……」

と話を繋げてくれた。

少し場が和んでホッとしたような表情をしたセシルが続けて、

「そうね、普通はそう思うわよね?

私も今だから言えることだけど、
良く考えたら変よね?

でもね、貴族や王族の結婚となると、
平民のそれとは違って、
国やお家問題が絡んで来て、
嫌でも断れないっていうのが現状なの」

そう言うとリアが、

「じゃあ、マグノリアも嫌だったけど、
断れなかったって事?」

そう尋ねると、セシルは首を振った。

「ううん、嫌って言う訳じゃなかったんだけど、
当時のマグノリアも未だ5歳だったし、
状況も良く理解してなかったてのがあったから、
そんなもんだって思ってたの。

それで良いって……

実際にサンクホルムへ行くまでは……」

そう言って遠い目をした。

僕は直ぐにセシルの手を取り

「マグノリアの考えが変わったのは、
サンクホルムでアーウィンに会ったからだよね?」

そう尋ねると、セシルは僕を見て力強く頷いた。

「マグノリアはね、王族の結婚とはそういうものだからって、
ジェイド王子との婚約は受け入れていたんだけど、
それと同時に一生に一度でいいから結婚する前に、
恋がしてみたいとも思っていたの……」

セシルのそのセリフに僕の胸が少しざわついた。

「恋……?」

そう呟くと、セシルが頷いた。

「マグノリアがサンクホルムで一番最初に話をしたのが……
アーウィンだったの」

そう言うと、少し険しい顔になって、

「マグノリアは恋愛に対してとても無知だったわ。

結婚する前に一度恋が経験してみたいって……

絶対思うものじゃ無いわね」

そう言うと、目を伏せた。

僕は彼女の表情から、
少し勘違いをしてしまった。

「じゃあ、アーウィンとの出会いは、
マグノリアが思っていたような恋とは違ったってこと?」

僕がそう尋ねるとセシルはフルフルと首を振って、

「違ったって言えば違ったけど、
マグノリアは気付いたの。

恋はいたずらにするものじゃ無いって……

恋の力があんなに破壊力があるってあの時の彼女は全く予期してなかったの」

そう言うと、少し唇をかみしめた。

僕はその感覚が分からず、

「それってどういう意味……?」

そう尋ねると、

「アーウィンに恋をして、
もうジェイドの婚約者ではいられなくなったって事ですよね?」

そう龍輝が隣から答えた。

皆がハッとした様に龍輝の方を一斉に振り向き唖然としたようにしていると、

「ええ、そうよ、そうなの!

マグノリアは恋をした後はスッキリとして、
自分の目的が果たせたから、
心から望んでジェイドの婚約者になれると思っていたの」

そう言って語尾を強めた。

「え? それじゃ自分で墓穴を掘ってしまった……って事?」

リアがそう尋ねると、

「そうね、その時は普通に話をしただけだったんだけど、
色々と話してるうちに恋愛感覚がマグノリアと似ていてね。

アーウィンとはすぐに打ち解けたの。

それもね、婚約披露があった直ぐ後だったのよ。

今思い出すと、本当に笑っちゃうような出来事だったけど、
二人して恋がしたい~!!ってワンワン泣いちゃって。

その後泣き疲れてそのまま眠っちゃったり!

ジェイドに起こされた時はびっくりしたけど、
マグノリアにとってアーウィンの隣は凄く居心地が良かったの」

セシルがそう言い終わると、
直ぐにリアが、

「でもジェイド王子の婚約者だったんだよね?

ジェイド王子は2人の事を知ってたの?」

そう尋ねた。

セシルははにかんだように微笑むと、

「勿論よ」

そう言って頷いた。

「ジェイド王子は何も言わなかったの?

結局は婚約者を取られたような訳でしょ?

お咎めとかは……」

心配した様にリアが尋ねると、

「ううん、ジェイドは私達の事を祝福してくれたわ」

そう言ってセシルはニコリと微笑んだ。

そこで僕はすかさず、

「どうして?! ジェイドも婚約には反対だったの?!

自分の婚約者なのに、何故二人の事が祝福できたの?!

彼は何を思って……」

そう尋ねながら段々と語尾が小さくなっていった。

自分でそんな質問をしながら胸がザワザワとし始めたからだ。

”待って……

何かが……

僕は何かを見落としている……

一体何が僕をこんなにざわつかせているのか?!”

そんなことを一人でブツブツと言っているとセシルが、

「ジェイドは……

ジェイドは……」

何かを言いたそうにして言えないジレンマを抱えたような表情をすると、
僕は悟ってしまった。

”ジェイドにもマグノリアとは別に好きな人がいたんだ……”

そう呟くと、胸の奥がカッと熱くなった。

胸が焦げ付きるようで苦しくて、
心臓が握りつぶされたような感覚がした。

頭の中でドクンと言う振動が広がって、
何かを思い出しそうでいて思い出せなかった。

セシルの肩を強く掴んで揺らすと、

「ねえ、ジェイドにも好きな人が居たんでしょ?!

誰なの?! ジェイドが好きだった人って誰だったの?!」

そう尋ねると彼女は少し顔を歪めた。

「あ……ごめん……」

そう言ってセシルの肩から手を引くと
彼女は肩を上下に揺らしながら、

「ううん、大丈夫よ。

そうね、翠はジェイドに他に好きな人がいたと言う結論に至ったのね」

そう言って僕を見上げた。

僕が息を詰まらせたようにグッと息をのんでセシルを見つめると、

「そうね、これだけは教えておいてあげる。

きっと教えてもあなたの負にはならないと思うわ。

ねえ、デューデューもそう思うでしょ?」

セシルが急に父さんに話を振ったので、
僕は父さんの方を見た。

「そうだ! 父さんは知ってるんでしょ?

父さんだけがずっと時をまたいでここに居るから!

父さんはジェイドのそんな姿を見てきてるんだよね?!」

今度はそう言って父さんに迫ると、

「どうしてジェイドの事がそんなに気になるのだ?

ジェイドの恋愛話なんてお前にとってはどうでもいいんじゃ無いのか?

それともジェイドの恋が成就したのか知りたいのか?」

そんな風に聞かれると、グッときて何の言葉も返せない。

自分でもなぜそんなにジェイドの恋愛が気になるのか分からない。

でもさっきセシルが言っていた

”恋がしたい”

という言葉が凄く心に引っ掛かる。

なぜか遠い昔に僕も同じように思った事があるような気がする。

”もしかしたら僕がアーウィンだったんじゃ?

いや、いや、それは無い。

僕の父親がアーウィンだとすると、
僕がアーウィンであることは不可能だ……

という事はもし僕が本当にジェイドだったとするならば、
僕の今感じるこの感覚は……”

僕は父さんをグッと見て、

「僕が知りたいって言ったら教えてくれるの?」

そう尋ねた。

父さんは涼しい顔をすると、

「そうだよ」

と一言口早に言った。

「えっ?」

一瞬の事で、

”聞き間違いか?”

そう思っていると、

「ジェイドの恋もマグノリアと同じように実ったよ」

何でもないような顔をして、
父さんが又そう言った。

「ジェイドの恋も実ったって……

じゃあやっぱりジェイドにも好きな人がいたんだ……

そして相手にもそれが受け入れられたんだ……」

そう思うと僕の胸は更にざわつき始めた。

と同時にブワッと胸を押しつぶされるような感情に苛まれ、
僕はそこに蹲った。

息が出来ないくらいに苦しくなって、
僕はうずくまりながら嗚咽した。

「ねえ、ジェイドの相手って誰?

教えて……その事を考えると胸が押しつぶされそうだ」

やっとの事でそう言い終えると、
セシルが一言、

「それは貴方が思い出して」

そう言って俯いた。

「どうして! それは僕がジェイドだから?!

もし違ったら?! どうして皆僕をジェイドにしたがるの?!」

苦し紛れにそう言うと、

「ではなぜお前はそんなにジェイドの愛した者を知ろうとするのだ?!

自分でジェイドではないと思うのなら、
それこそ誰でも良いのではないのか?!」

そう冷たく言い放った父さんを初めて恨めしく思った。

でもなぜ自分がこんなにもジェイドの愛した人を知りたいと思うのか分からない。

心の奥底からそう言った感情が溢れてくるのだ。

”知りたい、知りたい!

誰? 誰なの?!

ジェイドが愛した人……

ジェイドを愛した人……”

悔しさに身を悶えながら蹲る僕の隣で、
龍輝が優しく僕の背中をさすった。

その手の大きさが、感覚が、ぬくもりが心地よくて何だか安心できて、
不意にそっと見上げた龍輝の顔は何だか少し泣きそうな表情をしていた。


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