153 / 167
ルーとの再会
しおりを挟む
“これが宮殿……”
宮殿の門をくぐると、
目の前に壮大な敷地が広がった。
“やっぱりフジワラ家より凄い佇まいだな……
でもこの雰囲気を懐かしく感じるのは何故だろう……?
宮殿なんて今まで来た事もないのに……
これってやっぱりジェイドの記憶なんだろうか?!”
僕はそう思いながら目の前に聳え立つ宮殿をじっと見つめた。
“それにしても門から遠いな”
門を潜ったはいいが,
敷地が広いせいか中々宮殿の入り口に辿り着けない。
「セシル,ルーって僕たちの事覚えてるかな?」
そう言って顔をセシルの方へ向けると,
セシルは顔を強張らせてジーッと一点を見つめていた。
「セシル、緊張してるの?」
僕がそう尋ねても、
セシルの耳には届いてないようだった。
「セシル?」
もう一度呼びかけると,
「は? え? 何か言った?!」
そう言ってビクッとしたように僕の方を見た。
僕は首を傾げると,
「あ、いや、緊張してるのかな?って……」
そう尋ねると,セシルは慌てて、
「緊張?! 私が?!
そんな訳無いでしょう?!」
そう言って大きな声で大袈裟に否定した。
「いや……それ、明らかに緊張してるでしょう?!
隠してもダメだよ。
僕、段々君の事分かってきたから」
そういうと,観念したのか、
「どうしよう!
さっきから震えが止まらないの!
心臓はドキドキと跳ねてるし、
頭の中は真っ白で、
尋ねようと思った事も一つも出てこないの!」
そういうと,両手で顔を覆った。
「セシルはやっぱりルーはアーウィンだと思うの?」
そう尋ねると,
「分からない!
でも条件はあってるの!
同じ歳だし,
アーウィンと同じ赤い髪だし、
何と言っても回復魔法が使えるし……」
そういうと,ハッとしたように龍輝を見た。
僕もつられて龍輝の方を見ると,
龍輝は?としたような顔をした。
そしてセシルの方をまた見ると,
”しまった!“と言うような顔をしていたので,
“あ、そういえば,ルーは回復魔法が使える事を隠してんだっけ?!”
そう思うと又龍輝の顔を見た。
でも龍輝は気を効かしてか、
僕達の話は聞かないようにしているようだった。
僕は又セシルの方を見ると,
囁くように、
“あのさ、少し気になったんだけど、
セシルってもう結構ルーに心掴まれてるよね?
もしさ、もし、ルーがアーウィンじゃなかったらどうするの?
直ぐに心って切り替えられるもの?!」
そう尋ねたけど、
セシルの心はもう先へと進んでいるようだった。
「ねえ、翠! ルーは私の事思い出しているかしら?!
翠の事思い出しているかしら?!」
そう言って尋ねて来た。
もうルーはアーウィンだと決めつけてるような言動だ。
僕は未だ半信半疑なまま、
「いや、僕に聞かれても……
僕も実際は思い出してないわけだし……
さっきから聞いてるとセシルって
もうルーをアーウィンって決めつけてるけど,
違う場合もあるって事は覚えておかないと」
冷たいようだけど,
ぬか喜びになってしまっても後が面倒だ。
僕がじっとセシルの瞳を覗き込むと,
「そうよね、そうよね……」
そう言ってセシルは肩を落とした。
でも宮殿に近づくにつれ緊張が高まっているのは僕でも同じだ。
セシルは膝に手を置きギュッと拳を握りしめると、
キッと外を見つめた。
ふ~っと深呼吸すると,
馬がブルルンと唇を震わせたように鳴くと、
馬車がコトンと小さく躓いたようにして止まった。
ドアが開くと、目の前にシャントした服装をした若い男性が立っていた。
龍輝が先に馬車から降りて、
先ずセシルの手を取り馬車から降ろすと、
僕はそれに続いて自分でトンと馬車から降りた。
僕が馬車を降りると僕達を待っていた男性は会釈をして、
「私はリュシアン殿下の従者でシャムアと申します。
殿下の命で皆様をお迎えに上がりました。
フジワラ侯爵ご子息の龍輝様と
そのお連れ様で間違いございませんか?」
そう尋ねられると、
「シャムア、何を畏って、
私の事は幼少の折より知っているだろう?」
龍輝がそう言うと,
「いや、初めての訪問客だ。
少しくらいは殿下の御付きとしてカッコつけさせろよ」
といきなり砕けた会話をし始めた。
僕がポカンとして二人のやりとりを見ていると,
「龍輝、私とシャムアは殿下の幼馴染で
幼少期から共に育ちました」
そう教えてくれた。
「私の事はシャムアとお呼び下さい。
殿下が仰っていた冒険者とは貴方達のことですね」
そう尋ねられ、
「やっぱりルーは僕達の事を覚えてたんですね」
そう言いながら僕はコクリと頷いた。
“翠、此処ではちゃんとリュシアン殿下と呼ばないと!”
そう言ってセシルが耳打ちした。
「あ、そうか、殿下だね。
すぐに忘れちゃうよ」
そう言うとシャムアはクスッと笑って、
「私達も普段はルーって呼びます。
殿下は友にはそう呼ばれる事が好きなのです」
とそう言うと,
「私の事は何時でもシャムアとお呼び下さい」
そう言ってニコリと笑った。
セシルが
「でも殿下に支えているって事は
シャムアも貴族なのよね?」
そう尋ねると,
「シャムアはこの国のコールドウェイ伯爵家の次男です」
そう言って龍輝が教えてくれた。
「あの、貴族の方をお名前で呼ぶのは……」
セシルが遠慮したようにそう言うと,
「殿下の友は私の友です。
遠慮ぜずにシャムアとお呼び下さい」
そう言うと,一礼した。
そして一つのドアの前で止まると、
「殿下はこちらでお待ちです」
そう言うと,ドアをノックした。
「殿下,シャムアです。
龍輝殿とお共の方々をお連れしました」
そう言うと、中から
「お入り下さい」
と言う声がした。
途端セシルが僕の手を掴んだ。
ブルブルと震えているのがハッキリと分かる。
“翠……どうしよう……
震えが止まらないの……”
セシルはそう呟くと戸のほうをしっかりと見た。
僕はセシルの手をしっかりと握り返すと,
“大丈夫だよ。
僕が付いてるからね。
手をずっと握っててあげるから”
そう言うと同時にドアが開いた。
ドアの向こうには知った顔があって、
僕達を見るなりパーッと明るく笑った。
そして僕達の方へと駆け寄ってくると,
「翠とセシルだったよね!
ずっと君たちが来るのを待ってたんだ」
そう言ってソワソワとし始めた。
ルーが僕達の事を覚えている事を知って、
少し肩の力が抜けた。
「良かった! 僕達の事覚えてたんだね。
少し心配してたんだ!」
そう言うと,ルーは慌てて、
「もちろん覚えてたよ!
何故か君たちの事が頭から離れなくて、
君達こそ僕の事を忘れてしまったのではないかと思っていたんだ」
そう言って少し泣きそうな顔をした。
「兎に角、又会えて良かったよ。
取り敢えず座って」
ルーはそう言うと,部屋のソファーへと僕達を誘った。
ルーはシャムアにお茶の用意をするよう伝えると,
シャムアは部屋を出て行った。
「シャムアが出て行った後、
僕は単刀直入に尋ねた。
「それで? 君の父上は君が冒険者になる事を許したの?」
そう尋ねると,ルーは顔を逸らした。
その仕草に僕は
”ん?“
と思った。
横からセシルが、
「もしかして許可が下りなかったの?」
直ぐ様そう尋ねた。
ルーは少し沈黙した後、
「2年……
2年間だけ許すって……
でも……」
そう言って黙り込んだ。
「2年か……
微妙な期間だよね?
でもっって…… 何か理由があるんだよね?」
僕がそう尋ねると,
ルーは又ソッポを向いた。
「え? 何?
何か困ったことがあるんだったら
力になるよ?
僕達、もう友達だよね?」
そう言うとルーは僕を見て微笑んだ。
「有難う。
未だ出会って間も無いのに友と呼んでくれて嬉しいよ。
でもこれは僕の問題なんだ」
そう言って唇を噛んだ。
その仕草から
“何かとんでも無いことがあるんだ”
そう思った。
「2年か……
冒険者として2年は少し短いよね?
“でも”って言う言葉の先にあるのが
2年しか冒険者でいられない理由なの?」
そう尋ねると,ルーは切羽詰まったようにして、
「僕が冒険者になりたいのは
見つけたい人がいるからで……
2年で見つかるって保証はないし、
だから……僕は皇室から抜けて平民になろうと思っている!」
そう言うと、俯いた。
「皇室ってそんな簡単に抜けられるの?」
僕がそう尋ねると,
「いや、それがダメなら家出……」
とルーが言いかけた途端、
「家出はダメよ!
追っ手がかかるわ!
見つかったら一緒にいる私達は最悪の場合、
誘拐犯として斬首刑よ」
そう言ってセシルがルーを止めた。
そして何か期待したように、
「ねえ、探したい人がいるって言ったわよね?
それって……」
そうルーに尋ねると,
ルーは遠くを見つめて、
「前にも話したと思うけど、
僕は誰かを探さなくてはいけなくて、
でも、誰を探すのかよく分からないんだ。
だけど探さなきゃって……
冒険者になっていろんな国を回って、
いろんな冒険者の話を聞いていくうちに、
何か掴めるような気がして……」
そう言って目を閉じた。
逆にセシルは段々興奮したようにして、
「ねえ、その探さなくちゃいけない人って
何かヒントとかないの?
どうやって探さなくちゃって思ったの?
夢に見たとか?!」
そう言ってルーに迫る勢いで問いかけた。
ルーは首を傾げると,
「分からない……
夢に見たような見てないような……
朝になると忘れている夢があって……
その所為かと思ったり……
でも分からない」
そう言って頭を抱えた。
セシルは更に身を乗り出して、
「夢よね?
朝になると覚えてない夢を見てるのよね?!」
そう言って目をキラキラとさせた。
ルーはそんなセシルにチョット引いたようにすると,
少し慌てて、
「あ、でも一つだけ何時も頭の中に巡ってくる名があるんだ」
そう言うと,セシルが矢継ぎ早に、
「何、名前?!
なんと言う名前?!
もしかしてマグノリア?!
それともジェイド?!
う~ん、それかダリルかしら?
デューデューって事もあるかも?!」
そう息もつかずに言うと,
ルーは済まなそうな瞳をして、
「いや、その名は聞いた事もないけど、
何故かアーウィンという名が何時も頭の中で響いていて……」
そう言うと,セシルがパーンと手を叩いた。
そんなセシルにビックリしているルーに、
「ほら、やっぱりアーウィン!」
そう言うと,僕の方見て胸ぐらを掴むと、
「翠! 私の言った通りでしょ!
やっぱり彼がアーウィンよ!」
そう言って僕をユサユサと揺らした。
僕はセシルの両手を掴むと、
「セシル,落ち着いて!
未だ彼がアーウィンだって決まったわけじゃないでしょ?!」
そう言うと,ルーは目を白黒させて、
「君達、アーウィンって人の事知ってるの?!
アーウィンって誰?!
なぜ僕の頭にその名が響くの?!
何も分からなくて気が狂いそうだ!」
ルーはそう言うと顔を両手で覆った。
「あの……つかぬ事をお伺いしますが、
ルーはアーウィンの事はどう思って……?
一体どんなふうに彼の名が頭の中を巡るの?!」
そう尋ねると,
「分からない……
ただ、アーウィンを探せって……
アーウィンを知る者達を見つけると、
アーウィンについて知ることが出来るって……
そう言う思いが頭の中を駆け巡るんだ。
僕にとっては訳がわからないよ!
だからいろんな人と会う機会が多い冒険者になる事に決めたんだ!
それが探し人を見つける手っ取り早い方法と思ったし、
幸い僕には冒険者になれるだけの魔力があるから」
そう言って手を翳し魔力をその手に込めた。
ルーの手が金色に光ると,
又スーッとその光が消えた。
「それ、回復魔法だよね?
ルーは生まれた時から回復魔法が使えたの?」
そう尋ねると,
「ああ、皇家にしては回復魔法は珍しいんだ。
元々回復魔法自体珍しいんだけど、
皇室は戦闘用の魔法が主流なんだ。
赤い髪も僕だけだし……」
そう言うと,前髪を指で摘んだ。
僕はここでアーウィンの事を話して良いのか分からなかった。
セシルを見ると,彼女も少し迷っているようだった。
“ねえ、ルーに言わないの?”
そう囁くと,
“んー、ちょっと思う事があって……”
そう言ってセシルが煮え切らないような返事をした。
そして、
「ねえ、本当に大切な事なの。
貴方がアーウィンを見つけたいんだったら私たちの事を信じてなんでも話して。
そう言うと,
「2年と言う月日はどうして?
理由がわからないと助ける事が出来ないわ」
そう言ってルーの瞳を見つめた。
ルーは一息おくと,
「本当にこれは私の問題で他の人にどうこう出来るものではありません」
そう言ってセシルを見つめ返した。
僕はそんな二人のやりとりを見て、
何だか懐かしさが込み上げてきた。
“チョット待て,チョット待て!
この感覚は何事だ?!
本当にルーはアーウィンなのか?!”
そう思うと,
「取り敢えず言って!
助けられるか、られないかは話を聞いてからだ!
話してくれないと、
出来る事でさえも始まらないだろ?
話さず後悔するより、
話して行動を起こして、
それでも出来なかったって方が何倍も良いだろ?」
そう言うとルーも堪忍したのか、
「絶対に君達ではどうすることも出来ないよ!」
そう前置きしながら、
「僕は2年後に成人する」
そう言った。
僕は
“だから?”
と思ったけど,
セシルはピンと来たようだった。
急に顔が青ざめた。
ルーは真っ直ぐ僕達を見るとゆっくりと,
「僕には現在婚約者がいる。
2年後はその人と結婚する義務があるんだ」
そう言ってソッポを向いた。
宮殿の門をくぐると、
目の前に壮大な敷地が広がった。
“やっぱりフジワラ家より凄い佇まいだな……
でもこの雰囲気を懐かしく感じるのは何故だろう……?
宮殿なんて今まで来た事もないのに……
これってやっぱりジェイドの記憶なんだろうか?!”
僕はそう思いながら目の前に聳え立つ宮殿をじっと見つめた。
“それにしても門から遠いな”
門を潜ったはいいが,
敷地が広いせいか中々宮殿の入り口に辿り着けない。
「セシル,ルーって僕たちの事覚えてるかな?」
そう言って顔をセシルの方へ向けると,
セシルは顔を強張らせてジーッと一点を見つめていた。
「セシル、緊張してるの?」
僕がそう尋ねても、
セシルの耳には届いてないようだった。
「セシル?」
もう一度呼びかけると,
「は? え? 何か言った?!」
そう言ってビクッとしたように僕の方を見た。
僕は首を傾げると,
「あ、いや、緊張してるのかな?って……」
そう尋ねると,セシルは慌てて、
「緊張?! 私が?!
そんな訳無いでしょう?!」
そう言って大きな声で大袈裟に否定した。
「いや……それ、明らかに緊張してるでしょう?!
隠してもダメだよ。
僕、段々君の事分かってきたから」
そういうと,観念したのか、
「どうしよう!
さっきから震えが止まらないの!
心臓はドキドキと跳ねてるし、
頭の中は真っ白で、
尋ねようと思った事も一つも出てこないの!」
そういうと,両手で顔を覆った。
「セシルはやっぱりルーはアーウィンだと思うの?」
そう尋ねると,
「分からない!
でも条件はあってるの!
同じ歳だし,
アーウィンと同じ赤い髪だし、
何と言っても回復魔法が使えるし……」
そういうと,ハッとしたように龍輝を見た。
僕もつられて龍輝の方を見ると,
龍輝は?としたような顔をした。
そしてセシルの方をまた見ると,
”しまった!“と言うような顔をしていたので,
“あ、そういえば,ルーは回復魔法が使える事を隠してんだっけ?!”
そう思うと又龍輝の顔を見た。
でも龍輝は気を効かしてか、
僕達の話は聞かないようにしているようだった。
僕は又セシルの方を見ると,
囁くように、
“あのさ、少し気になったんだけど、
セシルってもう結構ルーに心掴まれてるよね?
もしさ、もし、ルーがアーウィンじゃなかったらどうするの?
直ぐに心って切り替えられるもの?!」
そう尋ねたけど、
セシルの心はもう先へと進んでいるようだった。
「ねえ、翠! ルーは私の事思い出しているかしら?!
翠の事思い出しているかしら?!」
そう言って尋ねて来た。
もうルーはアーウィンだと決めつけてるような言動だ。
僕は未だ半信半疑なまま、
「いや、僕に聞かれても……
僕も実際は思い出してないわけだし……
さっきから聞いてるとセシルって
もうルーをアーウィンって決めつけてるけど,
違う場合もあるって事は覚えておかないと」
冷たいようだけど,
ぬか喜びになってしまっても後が面倒だ。
僕がじっとセシルの瞳を覗き込むと,
「そうよね、そうよね……」
そう言ってセシルは肩を落とした。
でも宮殿に近づくにつれ緊張が高まっているのは僕でも同じだ。
セシルは膝に手を置きギュッと拳を握りしめると、
キッと外を見つめた。
ふ~っと深呼吸すると,
馬がブルルンと唇を震わせたように鳴くと、
馬車がコトンと小さく躓いたようにして止まった。
ドアが開くと、目の前にシャントした服装をした若い男性が立っていた。
龍輝が先に馬車から降りて、
先ずセシルの手を取り馬車から降ろすと、
僕はそれに続いて自分でトンと馬車から降りた。
僕が馬車を降りると僕達を待っていた男性は会釈をして、
「私はリュシアン殿下の従者でシャムアと申します。
殿下の命で皆様をお迎えに上がりました。
フジワラ侯爵ご子息の龍輝様と
そのお連れ様で間違いございませんか?」
そう尋ねられると、
「シャムア、何を畏って、
私の事は幼少の折より知っているだろう?」
龍輝がそう言うと,
「いや、初めての訪問客だ。
少しくらいは殿下の御付きとしてカッコつけさせろよ」
といきなり砕けた会話をし始めた。
僕がポカンとして二人のやりとりを見ていると,
「龍輝、私とシャムアは殿下の幼馴染で
幼少期から共に育ちました」
そう教えてくれた。
「私の事はシャムアとお呼び下さい。
殿下が仰っていた冒険者とは貴方達のことですね」
そう尋ねられ、
「やっぱりルーは僕達の事を覚えてたんですね」
そう言いながら僕はコクリと頷いた。
“翠、此処ではちゃんとリュシアン殿下と呼ばないと!”
そう言ってセシルが耳打ちした。
「あ、そうか、殿下だね。
すぐに忘れちゃうよ」
そう言うとシャムアはクスッと笑って、
「私達も普段はルーって呼びます。
殿下は友にはそう呼ばれる事が好きなのです」
とそう言うと,
「私の事は何時でもシャムアとお呼び下さい」
そう言ってニコリと笑った。
セシルが
「でも殿下に支えているって事は
シャムアも貴族なのよね?」
そう尋ねると,
「シャムアはこの国のコールドウェイ伯爵家の次男です」
そう言って龍輝が教えてくれた。
「あの、貴族の方をお名前で呼ぶのは……」
セシルが遠慮したようにそう言うと,
「殿下の友は私の友です。
遠慮ぜずにシャムアとお呼び下さい」
そう言うと,一礼した。
そして一つのドアの前で止まると、
「殿下はこちらでお待ちです」
そう言うと,ドアをノックした。
「殿下,シャムアです。
龍輝殿とお共の方々をお連れしました」
そう言うと、中から
「お入り下さい」
と言う声がした。
途端セシルが僕の手を掴んだ。
ブルブルと震えているのがハッキリと分かる。
“翠……どうしよう……
震えが止まらないの……”
セシルはそう呟くと戸のほうをしっかりと見た。
僕はセシルの手をしっかりと握り返すと,
“大丈夫だよ。
僕が付いてるからね。
手をずっと握っててあげるから”
そう言うと同時にドアが開いた。
ドアの向こうには知った顔があって、
僕達を見るなりパーッと明るく笑った。
そして僕達の方へと駆け寄ってくると,
「翠とセシルだったよね!
ずっと君たちが来るのを待ってたんだ」
そう言ってソワソワとし始めた。
ルーが僕達の事を覚えている事を知って、
少し肩の力が抜けた。
「良かった! 僕達の事覚えてたんだね。
少し心配してたんだ!」
そう言うと,ルーは慌てて、
「もちろん覚えてたよ!
何故か君たちの事が頭から離れなくて、
君達こそ僕の事を忘れてしまったのではないかと思っていたんだ」
そう言って少し泣きそうな顔をした。
「兎に角、又会えて良かったよ。
取り敢えず座って」
ルーはそう言うと,部屋のソファーへと僕達を誘った。
ルーはシャムアにお茶の用意をするよう伝えると,
シャムアは部屋を出て行った。
「シャムアが出て行った後、
僕は単刀直入に尋ねた。
「それで? 君の父上は君が冒険者になる事を許したの?」
そう尋ねると,ルーは顔を逸らした。
その仕草に僕は
”ん?“
と思った。
横からセシルが、
「もしかして許可が下りなかったの?」
直ぐ様そう尋ねた。
ルーは少し沈黙した後、
「2年……
2年間だけ許すって……
でも……」
そう言って黙り込んだ。
「2年か……
微妙な期間だよね?
でもっって…… 何か理由があるんだよね?」
僕がそう尋ねると,
ルーは又ソッポを向いた。
「え? 何?
何か困ったことがあるんだったら
力になるよ?
僕達、もう友達だよね?」
そう言うとルーは僕を見て微笑んだ。
「有難う。
未だ出会って間も無いのに友と呼んでくれて嬉しいよ。
でもこれは僕の問題なんだ」
そう言って唇を噛んだ。
その仕草から
“何かとんでも無いことがあるんだ”
そう思った。
「2年か……
冒険者として2年は少し短いよね?
“でも”って言う言葉の先にあるのが
2年しか冒険者でいられない理由なの?」
そう尋ねると,ルーは切羽詰まったようにして、
「僕が冒険者になりたいのは
見つけたい人がいるからで……
2年で見つかるって保証はないし、
だから……僕は皇室から抜けて平民になろうと思っている!」
そう言うと、俯いた。
「皇室ってそんな簡単に抜けられるの?」
僕がそう尋ねると,
「いや、それがダメなら家出……」
とルーが言いかけた途端、
「家出はダメよ!
追っ手がかかるわ!
見つかったら一緒にいる私達は最悪の場合、
誘拐犯として斬首刑よ」
そう言ってセシルがルーを止めた。
そして何か期待したように、
「ねえ、探したい人がいるって言ったわよね?
それって……」
そうルーに尋ねると,
ルーは遠くを見つめて、
「前にも話したと思うけど、
僕は誰かを探さなくてはいけなくて、
でも、誰を探すのかよく分からないんだ。
だけど探さなきゃって……
冒険者になっていろんな国を回って、
いろんな冒険者の話を聞いていくうちに、
何か掴めるような気がして……」
そう言って目を閉じた。
逆にセシルは段々興奮したようにして、
「ねえ、その探さなくちゃいけない人って
何かヒントとかないの?
どうやって探さなくちゃって思ったの?
夢に見たとか?!」
そう言ってルーに迫る勢いで問いかけた。
ルーは首を傾げると,
「分からない……
夢に見たような見てないような……
朝になると忘れている夢があって……
その所為かと思ったり……
でも分からない」
そう言って頭を抱えた。
セシルは更に身を乗り出して、
「夢よね?
朝になると覚えてない夢を見てるのよね?!」
そう言って目をキラキラとさせた。
ルーはそんなセシルにチョット引いたようにすると,
少し慌てて、
「あ、でも一つだけ何時も頭の中に巡ってくる名があるんだ」
そう言うと,セシルが矢継ぎ早に、
「何、名前?!
なんと言う名前?!
もしかしてマグノリア?!
それともジェイド?!
う~ん、それかダリルかしら?
デューデューって事もあるかも?!」
そう息もつかずに言うと,
ルーは済まなそうな瞳をして、
「いや、その名は聞いた事もないけど、
何故かアーウィンという名が何時も頭の中で響いていて……」
そう言うと,セシルがパーンと手を叩いた。
そんなセシルにビックリしているルーに、
「ほら、やっぱりアーウィン!」
そう言うと,僕の方見て胸ぐらを掴むと、
「翠! 私の言った通りでしょ!
やっぱり彼がアーウィンよ!」
そう言って僕をユサユサと揺らした。
僕はセシルの両手を掴むと、
「セシル,落ち着いて!
未だ彼がアーウィンだって決まったわけじゃないでしょ?!」
そう言うと,ルーは目を白黒させて、
「君達、アーウィンって人の事知ってるの?!
アーウィンって誰?!
なぜ僕の頭にその名が響くの?!
何も分からなくて気が狂いそうだ!」
ルーはそう言うと顔を両手で覆った。
「あの……つかぬ事をお伺いしますが、
ルーはアーウィンの事はどう思って……?
一体どんなふうに彼の名が頭の中を巡るの?!」
そう尋ねると,
「分からない……
ただ、アーウィンを探せって……
アーウィンを知る者達を見つけると、
アーウィンについて知ることが出来るって……
そう言う思いが頭の中を駆け巡るんだ。
僕にとっては訳がわからないよ!
だからいろんな人と会う機会が多い冒険者になる事に決めたんだ!
それが探し人を見つける手っ取り早い方法と思ったし、
幸い僕には冒険者になれるだけの魔力があるから」
そう言って手を翳し魔力をその手に込めた。
ルーの手が金色に光ると,
又スーッとその光が消えた。
「それ、回復魔法だよね?
ルーは生まれた時から回復魔法が使えたの?」
そう尋ねると,
「ああ、皇家にしては回復魔法は珍しいんだ。
元々回復魔法自体珍しいんだけど、
皇室は戦闘用の魔法が主流なんだ。
赤い髪も僕だけだし……」
そう言うと,前髪を指で摘んだ。
僕はここでアーウィンの事を話して良いのか分からなかった。
セシルを見ると,彼女も少し迷っているようだった。
“ねえ、ルーに言わないの?”
そう囁くと,
“んー、ちょっと思う事があって……”
そう言ってセシルが煮え切らないような返事をした。
そして、
「ねえ、本当に大切な事なの。
貴方がアーウィンを見つけたいんだったら私たちの事を信じてなんでも話して。
そう言うと,
「2年と言う月日はどうして?
理由がわからないと助ける事が出来ないわ」
そう言ってルーの瞳を見つめた。
ルーは一息おくと,
「本当にこれは私の問題で他の人にどうこう出来るものではありません」
そう言ってセシルを見つめ返した。
僕はそんな二人のやりとりを見て、
何だか懐かしさが込み上げてきた。
“チョット待て,チョット待て!
この感覚は何事だ?!
本当にルーはアーウィンなのか?!”
そう思うと,
「取り敢えず言って!
助けられるか、られないかは話を聞いてからだ!
話してくれないと、
出来る事でさえも始まらないだろ?
話さず後悔するより、
話して行動を起こして、
それでも出来なかったって方が何倍も良いだろ?」
そう言うとルーも堪忍したのか、
「絶対に君達ではどうすることも出来ないよ!」
そう前置きしながら、
「僕は2年後に成人する」
そう言った。
僕は
“だから?”
と思ったけど,
セシルはピンと来たようだった。
急に顔が青ざめた。
ルーは真っ直ぐ僕達を見るとゆっくりと,
「僕には現在婚約者がいる。
2年後はその人と結婚する義務があるんだ」
そう言ってソッポを向いた。
31
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる