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空回る過去
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「僕には現在婚約者がいる。
2年後はその人と結婚する義務があるんだ」
ルーのそのセリフに、
僕は少し妙な感覚を覚えた。
ルーがどんな顔をしているのか気になって、
彼の顔をチラッと横目で見たけど,
彼は未だソッポを向いたままだった。
僕はその態度に少し違和感を感じた。
セシルの方を見ると
ルーがソッポを見ているのも気にせず、
彼女は真っ直ぐルーの方を見ていた。
そんな二人を僕は交互に見ていた。
“旅立ちの話に来たはずなのに、
妙な雰囲気になったな……”
そんな事を考えていると、
“翠は今何を考えていますか?”
そう耳元で囁く声がしたので横を見ると,
龍輝が僕の横に立っていた。
僕は少し考えてみた。
世間知らずな僕でも、
婚約や結婚くらい知っている。
貴族や王族が結婚に対して
規制を持っていることも聞いた事がある。
“政略結婚についても……”
そう思い、
“いや? 政略結婚なんて、そんな事聞いた事があったか?”
そう思い龍輝の顔を見上げた。
龍輝は背を屈めて耳を僕の口元に近づけると,
ピクンと耳を引くつかせた。
僕はそんな龍輝の心遣いを感じると,
遠慮なく龍騎の耳元に唇を寄せて、
“ねえ、この結婚って……
ルーは納得してないって事だよね?”
そう龍輝の耳に囁いた。
龍輝はまた耳を数回ピクピクっとさせると,
今度は僕の耳に自分の唇を近づけて、
“そうですね、殿下は余り乗り気ではない様ですね。
でも貴族や皇族の結婚というものは……”
そこまで龍輝が行った時に、
『セシル……又君は……』
そんな思いが僕の中に込み上げて来て、
『又? セシルにとって何が……又……?』
そう思うと少し頭がズキっと痛んだ。
手を額に当て眉間を歪めると,
“翠?”
と、少し頭を抱え込んだ僕を見て龍輝が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
龍輝の顔を見上げ、不意に
”そう言えば君にも婚約者候補なる者が居たよね?“
そう言ったセリフが口を吐いた。
別に話を蒸し返そうと思っていたわけでは無いけど,
自分でも思ってないうちにフッと口からそんなセリフが出てしまったのだ。
そんな自分にもびっくりしたけど、
龍輝も慌てた様に、
「ち、違うんだ!」
そう言って我を忘れた様に大声を出した。
龍輝の大声にびっくりして慌てて龍輝の口に手を当てると、
そのままセシルの方を見た。
セシルは僕達のやりとりに気づかない様に、
未だソッポを向いたままのルーを見ていた。
彼女が気になって、
「セシル……」
と僕が声をかけようとすると、
セシルは僕の声を遮って、
「私なら大丈夫よ。
お願いだから何も言わないで」
そう言ってピンと背筋を伸ばした彼女の姿は
とても美しかった。
誰の目も惹きつける様な姿ではあるけど,
誰をも近づかせない様な威厳を持ったその姿は,
女王のようであり、世界の覇者の様だった。
たった11歳の少女がそんな権威を見てる物なのだろうか?!
でも僕はその姿に見覚えがあると思った。
僕は彼女のそんな姿に釘付けになっていた。
龍輝のモゴモゴとする
「翠?」
という呼びかけにハッとして、
パッと手を離した。
「ご…… ごめん、ちょっとセシルが気になったから」
そう慌てて言うと、龍輝が何を思ったのか、
「あの……
翠とセシルはとても仲がいいんですね……
もしかして……」
勘繰った様にそう聞いて来たので、
いくら鈍感な僕でも、
彼が聞こうとしてる事はすぐに分かった。
「違う,違う、どうして龍輝がそう思ったのか分からないけど,
龍輝が考えている様な事は全然無いんだ。
もちろん彼女の事は凄く好きだけど、
それはどちらかと言うと家族みたいなもので……
あ、勿論、僕には龍である父さんしかいなかったけど、
でも何故か彼女の事は次元が違う所で凄く繋がってるて思う事が有るんだ。
説明するのは難しいけど、
でも彼女の事は結婚したいとか、
彼女と子供を作りたいとか,
そう言った思いじゃ無いんだ……
分かってくれるか分からないけど……」
そう言って龍輝の顔を覗き込んだ。
確かにセシルに対する思いは彼女を僕の母親として見た目での感情だろう。
だが龍輝にはそれが分からない。
セシルにはそんな感情だけど、
僕は結婚とか子供とかそんなことは一切念頭に無い。
”どちらかと言うと僕は……“
そう思ってブンブンと首を振った。
「それじゃ翠はセシルとは恋人同士と言うわけでは無いんですね」
龍輝のその問いに
「セシルどころか,
僕は結婚も考えてないし、
女の子にもまだ興味なくて……」
そう言った後、
“そう、未だ……
きっと,未だって言うだけなんだ……”
僕がそんな事をブツブツと頭の中で繰り返している間、
龍輝は何故かほっとした様な顔をして見せた。
そんな時ハッとして、
「それでさ、話は次いでなんだけど、
龍輝はあの夕食の会で会った婚約者候補を凄く否定してたじゃない?
その事について何か僕に説明したい事がるの?
僕が何か誤解してる様なこと言ってたよね?」
そう尋ねると龍輝は少し驚いた様な顔をして、
「話を聞いてくれるのですか?」
そう言って僕の手を取った。
僕が手に目を落とすと、
龍輝はパッと手を離して、
「あ、いや、翠が私に話を聞いてくれると言った事が嬉しくてつい……」
そう言って顔を少し赤らめた。
「何? 龍輝には話を聞いてくれる様な友達はいないの?」
そう尋ねると、
「あの……私はこれですので……」
そう言って髪に手を掛けると、
そっとその髪を耳の後ろにかけた。
僕が少し人とは違う龍輝の耳をそっと指で触れると、
その長い耳がピクッとびっくりした様に動いた。
「もしかしてこの耳のせいで友達が出来なかったの?」
そう尋ねると龍輝はサッと又髪で耳を隠した。
そんな龍輝を見ながら、
“ 龍輝って変なの!
僕にはグイグイ近づいて来るのに、
僕が近づいたら真っ赤になって狼狽えて……”
そんな事を思っていると、
龍輝が少しはにかんだ様に僕を横目で見た。
その瞬間何だか懐かしさが込み上げて
僕は泣きそうになった。
“え? 何?
僕知ってる!
龍騎が今見せたあの顔、僕は知ってる!
何故?! 何時?! 何処で見た?!”
少し戸惑った様に考えていると、
龍輝が心配そうに僕の顔を覗き込んできたので、
僕は龍輝に微笑むと、
「確かスーがエルフ?って言う人種なんだよね?
スーは耳を隠してるみたいだけど、
龍輝は隠したりしないの?」
気分を落ち着けそう尋ねた。
フジワラ家を尋ねた時
スーは自分のエルフである姿を僕の前に現してくれた。
普段は普通の人と変わらない姿をしている。
もちろんその姿の時は耳も長くは無い。
龍輝は首を振ると、
「私には何故か耳を隠す魔法が掛からないのです。
母方の祖父はかなり高い魔力があるのですが、
それでも隠す事が出来ませんでした。
母はちゃんと魔法で姿を変えれるのですが……」
そう言ってそっと耳をなぞった。
「そっか、分かった。
大丈夫だよ!
僕がちゃんと龍輝の話を聞いてあげるから!
僕達はもう友達でしょ?!
でもほら、今はルーの事を」
そう言うと,龍輝はルーの方を見た。
少しルーとセシルの状況が変わった様で、
何故か二人は離れた場所から見つめ合っていた。
龍輝と話をしていた僕はどうやってそう言った状況になったのか分からなく、
不思議そうに二人を眺めていた。
暫くそこだけ時が止まった様に見つめ合う二人に、
最初にモーションを掛けたのはルーだった。
「済まない……
貴方には何の非も無いのに大人気無い態度でした……」
そう言うとセシルに近づいて来た。
セシルはドレスの裾を掴むと、
中屈みになり、綺麗なお辞儀をした。
僕はこれだけが腑に落ちない。
彼女は貴族の様な綺麗な挨拶をする。
勿論貴族が挨拶をするところなんて見た事無かったけど、
彼女のする挨拶が平民のそれで無い事だけは分かる。
なのに自分の事を平民と言う彼女は何処でその挨拶を覚えたのだろう?
商家の娘とは言っていたけど、
貴族との付き合いはそこまで無かった筈だ。
もしかしてマグノリアであった時の記憶からなのだろうか?
彼女はマグノリアの記憶が戻る前からそう言う挨拶をしていた。
ではジェイドの生まれ変わりだと言われている僕は何なのだろう?
王家どころか、貴族のしきたりでさえもこの記憶には染み付いていない。
僕は礼をしたセシルの顔がゆっくりと上を向いていく動作を見守っていた。
挨拶か終わりルーをしっかりと見据えた彼女の姿を見た時、
思わず
”マグノリア“
と呟いてしまった。
”僕は彼女のこんな顔を知っている!“
そう思いギクっとしてセシルから顔を逸らした。
僕の顔を逸らした先には龍輝の横顔があり、
彼の横顔を見た時誰かと重なった。
僕は数回瞬きをしてしっかりと龍輝を見直すと、
彼の髪から少し覗き出した耳のとっぺんに目が行った。
ピクピクと二、三回彼の耳がピクついたかと思うと、
部屋のドアがノックされた。
皆が一斉のドアの方を見ると、
ルーが
”はい?“
と返事をした。
ドアの外から、
「殿下,龍星様がいらっしゃっています」
と声がかかると、
僕はすぐに龍輝を見た。
龍輝は龍星が来る事がわかっていたらしく、
表情を変えずにドアの方を見つめていた。
ルーが
「お通し下さい」
そう言うと,ドアが開いて龍星が入って来た。
それと同時に、
「殿下,お茶の用意が済みました」
そう言って、二人のメイドがカートを押しながら部屋へ入って来た。
テーブルの上にお茶が並べられると、
メイド達が部屋を出て行った。
でも従者のシャムアは部屋に残った。
ルーが
「皆様、 どうぞこちらへ」
そう言ってお茶の周りに誘うと、
「それでは……」
そう言ってお茶のテーブルに手を翳した。
その光景を目にした時、
僕は思わず
”アーウィン“
と呟いてしまった。
途端皆が一斉に僕を見た。
僕の隣に居たシャムアが、
“アーウィンとは一体どなたで?
もしかして殿下と同じ様に浄化魔法が使えたのですか?”
そう耳打ちして来た。
僕は
”え?“
と言ってシャムアから一歩離れると、
「浄化魔法って……」
そう言ってテーブルに手を翳すルーの方を見た。
翳したルーの手からは緑の様なキラキラとした粉の様な光が舞い降りて、
テーブル全体を包んだ。
途端、テーブルの上がカッと光って
透き通ったモヤの様なものがスーッと舞い上がって消えた。
「毒の解呪ですか?」
僕がそう言うと、
皆が一斉に僕を見た。
「翠も使えたわよね?」
セシルがそう言うと、
皆が僕を見た。
「翠はもしかして回復魔法が使えるのですか?」
ルーがそう尋ねると,
「そうね、翠は回復魔法使えるけど,
攻撃魔法も使えるわよね?」
とセシルが答えた。
「それは珍しいですね。
普通、回復職は大した攻撃魔法は使えないのですが……
翠はどの様な攻撃魔法が使えるのですか?」
ルーが皆にお茶を勧めながらそう尋ねた。
僕は全ての属性の魔法が使えるが、
父さんに隠す様に言われている。
「いや、攻撃と言っても多分ルーが言う様に大したものではありません。
セシルはあまり知らなかったからそう言ったんだよね?」
僕が目で
“その口を閉じろ!!”
と言う様にジッとセシルを見つめると、
セシルは
“ハイハイ”
とても言う様に、
「な~んだ、あの魔法ってそんな大した物じゃなかったのね。
私魔法が使えないから良く分からなかったわ!」
そう言ってケーキを大口で頬張った。
「あら、このケーキ美味しい!」
そう言ったかと思うと、
もう一個頬張った。
ルーはそれを見届けたかの様にすると,
本題に入った。
「それでは今日来ていただいた件ですが、
私が冒険者として宮殿を出る事………
私は父上がおっしゃる様に2年の契約として此処を出ようと思います」
そう言うとコクっとお茶を飲んだ。
そしてフ~っと一呼吸置くと、
「でも……」
そう言って僕達を見回すと、
「僕は2年が来ても此処へ戻る気は更々ありません」
そう言ってまたお茶を啜った。
僕が呆気に取られた様に呆けながら、
「え? でも結婚は?」
そう言うと、ルーははニコリと微笑んで、
いかにもの様に、
「2年で帰るというのは単なる建前です。
私はこの2年の間にも父上を説得し続けます。
もし認めなけれなばその時は……」
そう言って口を閉じたので、
「え? その時はどうするの?!」
心配した様にそう尋ねると、
「その時は家出します。
皆さんを巻き込んだり、
悪い様にはしません。
どうかそれを前提に私を皆様と一緒に連れて行ってください。
私には護衛として
フジワラ家の龍星と龍輝、
また従者であるシャムアが付きます。
又影として隠密達が常に数名は私の後にいるはずです!
お願いします。
どうか私を連れて行って下さい!」
そう言って土下座しようとした。
そんなルーを龍輝が止めると、
「決定権があるのは翠とセシルのお二方です」
そう言ってルーの手を取って床から引き上げた。
僕はセシルの顔を見た。
セシルは僕の方を見もせずに、
「ルーはそれでいいかもしれないけど,
婚約者の姫はどうするの?」
と言ってルーに問い詰めた。
僕はギョッとして、
“何?
セシルってばルーは絶対アーウィンだって言ってなかった?!
会える事を手を震わせて緊張して無かった?!
それなのに、君がそれを問い詰めるの?!
アーウィンに会いたかったんじゃ無いの?!”
そう思いながらセシルを見た時、
誰にも分からない様に唇を震わせながら
泣きそうでいてシャンとしているセシルの表情を見た時、
僕は何だか少し切なくなった。
2年後はその人と結婚する義務があるんだ」
ルーのそのセリフに、
僕は少し妙な感覚を覚えた。
ルーがどんな顔をしているのか気になって、
彼の顔をチラッと横目で見たけど,
彼は未だソッポを向いたままだった。
僕はその態度に少し違和感を感じた。
セシルの方を見ると
ルーがソッポを見ているのも気にせず、
彼女は真っ直ぐルーの方を見ていた。
そんな二人を僕は交互に見ていた。
“旅立ちの話に来たはずなのに、
妙な雰囲気になったな……”
そんな事を考えていると、
“翠は今何を考えていますか?”
そう耳元で囁く声がしたので横を見ると,
龍輝が僕の横に立っていた。
僕は少し考えてみた。
世間知らずな僕でも、
婚約や結婚くらい知っている。
貴族や王族が結婚に対して
規制を持っていることも聞いた事がある。
“政略結婚についても……”
そう思い、
“いや? 政略結婚なんて、そんな事聞いた事があったか?”
そう思い龍輝の顔を見上げた。
龍輝は背を屈めて耳を僕の口元に近づけると,
ピクンと耳を引くつかせた。
僕はそんな龍輝の心遣いを感じると,
遠慮なく龍騎の耳元に唇を寄せて、
“ねえ、この結婚って……
ルーは納得してないって事だよね?”
そう龍輝の耳に囁いた。
龍輝はまた耳を数回ピクピクっとさせると,
今度は僕の耳に自分の唇を近づけて、
“そうですね、殿下は余り乗り気ではない様ですね。
でも貴族や皇族の結婚というものは……”
そこまで龍輝が行った時に、
『セシル……又君は……』
そんな思いが僕の中に込み上げて来て、
『又? セシルにとって何が……又……?』
そう思うと少し頭がズキっと痛んだ。
手を額に当て眉間を歪めると,
“翠?”
と、少し頭を抱え込んだ僕を見て龍輝が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
龍輝の顔を見上げ、不意に
”そう言えば君にも婚約者候補なる者が居たよね?“
そう言ったセリフが口を吐いた。
別に話を蒸し返そうと思っていたわけでは無いけど,
自分でも思ってないうちにフッと口からそんなセリフが出てしまったのだ。
そんな自分にもびっくりしたけど、
龍輝も慌てた様に、
「ち、違うんだ!」
そう言って我を忘れた様に大声を出した。
龍輝の大声にびっくりして慌てて龍輝の口に手を当てると、
そのままセシルの方を見た。
セシルは僕達のやりとりに気づかない様に、
未だソッポを向いたままのルーを見ていた。
彼女が気になって、
「セシル……」
と僕が声をかけようとすると、
セシルは僕の声を遮って、
「私なら大丈夫よ。
お願いだから何も言わないで」
そう言ってピンと背筋を伸ばした彼女の姿は
とても美しかった。
誰の目も惹きつける様な姿ではあるけど,
誰をも近づかせない様な威厳を持ったその姿は,
女王のようであり、世界の覇者の様だった。
たった11歳の少女がそんな権威を見てる物なのだろうか?!
でも僕はその姿に見覚えがあると思った。
僕は彼女のそんな姿に釘付けになっていた。
龍輝のモゴモゴとする
「翠?」
という呼びかけにハッとして、
パッと手を離した。
「ご…… ごめん、ちょっとセシルが気になったから」
そう慌てて言うと、龍輝が何を思ったのか、
「あの……
翠とセシルはとても仲がいいんですね……
もしかして……」
勘繰った様にそう聞いて来たので、
いくら鈍感な僕でも、
彼が聞こうとしてる事はすぐに分かった。
「違う,違う、どうして龍輝がそう思ったのか分からないけど,
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それはどちらかと言うと家族みたいなもので……
あ、勿論、僕には龍である父さんしかいなかったけど、
でも何故か彼女の事は次元が違う所で凄く繋がってるて思う事が有るんだ。
説明するのは難しいけど、
でも彼女の事は結婚したいとか、
彼女と子供を作りたいとか,
そう言った思いじゃ無いんだ……
分かってくれるか分からないけど……」
そう言って龍輝の顔を覗き込んだ。
確かにセシルに対する思いは彼女を僕の母親として見た目での感情だろう。
だが龍輝にはそれが分からない。
セシルにはそんな感情だけど、
僕は結婚とか子供とかそんなことは一切念頭に無い。
”どちらかと言うと僕は……“
そう思ってブンブンと首を振った。
「それじゃ翠はセシルとは恋人同士と言うわけでは無いんですね」
龍輝のその問いに
「セシルどころか,
僕は結婚も考えてないし、
女の子にもまだ興味なくて……」
そう言った後、
“そう、未だ……
きっと,未だって言うだけなんだ……”
僕がそんな事をブツブツと頭の中で繰り返している間、
龍輝は何故かほっとした様な顔をして見せた。
そんな時ハッとして、
「それでさ、話は次いでなんだけど、
龍輝はあの夕食の会で会った婚約者候補を凄く否定してたじゃない?
その事について何か僕に説明したい事がるの?
僕が何か誤解してる様なこと言ってたよね?」
そう尋ねると龍輝は少し驚いた様な顔をして、
「話を聞いてくれるのですか?」
そう言って僕の手を取った。
僕が手に目を落とすと、
龍輝はパッと手を離して、
「あ、いや、翠が私に話を聞いてくれると言った事が嬉しくてつい……」
そう言って顔を少し赤らめた。
「何? 龍輝には話を聞いてくれる様な友達はいないの?」
そう尋ねると、
「あの……私はこれですので……」
そう言って髪に手を掛けると、
そっとその髪を耳の後ろにかけた。
僕が少し人とは違う龍輝の耳をそっと指で触れると、
その長い耳がピクッとびっくりした様に動いた。
「もしかしてこの耳のせいで友達が出来なかったの?」
そう尋ねると龍輝はサッと又髪で耳を隠した。
そんな龍輝を見ながら、
“ 龍輝って変なの!
僕にはグイグイ近づいて来るのに、
僕が近づいたら真っ赤になって狼狽えて……”
そんな事を思っていると、
龍輝が少しはにかんだ様に僕を横目で見た。
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僕は泣きそうになった。
“え? 何?
僕知ってる!
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「済まない……
貴方には何の非も無いのに大人気無い態度でした……」
そう言うとセシルに近づいて来た。
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僕はこれだけが腑に落ちない。
彼女は貴族の様な綺麗な挨拶をする。
勿論貴族が挨拶をするところなんて見た事無かったけど、
彼女のする挨拶が平民のそれで無い事だけは分かる。
なのに自分の事を平民と言う彼女は何処でその挨拶を覚えたのだろう?
商家の娘とは言っていたけど、
貴族との付き合いはそこまで無かった筈だ。
もしかしてマグノリアであった時の記憶からなのだろうか?
彼女はマグノリアの記憶が戻る前からそう言う挨拶をしていた。
ではジェイドの生まれ変わりだと言われている僕は何なのだろう?
王家どころか、貴族のしきたりでさえもこの記憶には染み付いていない。
僕は礼をしたセシルの顔がゆっくりと上を向いていく動作を見守っていた。
挨拶か終わりルーをしっかりと見据えた彼女の姿を見た時、
思わず
”マグノリア“
と呟いてしまった。
”僕は彼女のこんな顔を知っている!“
そう思いギクっとしてセシルから顔を逸らした。
僕の顔を逸らした先には龍輝の横顔があり、
彼の横顔を見た時誰かと重なった。
僕は数回瞬きをしてしっかりと龍輝を見直すと、
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ルーが
”はい?“
と返事をした。
ドアの外から、
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ルーが
「お通し下さい」
そう言うと,ドアが開いて龍星が入って来た。
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ルーが
「皆様、 どうぞこちらへ」
そう言ってお茶の周りに誘うと、
「それでは……」
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僕は思わず
”アーウィン“
と呟いてしまった。
途端皆が一斉に僕を見た。
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“アーウィンとは一体どなたで?
もしかして殿下と同じ様に浄化魔法が使えたのですか?”
そう耳打ちして来た。
僕は
”え?“
と言ってシャムアから一歩離れると、
「浄化魔法って……」
そう言ってテーブルに手を翳すルーの方を見た。
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「毒の解呪ですか?」
僕がそう言うと、
皆が一斉に僕を見た。
「翠も使えたわよね?」
セシルがそう言うと、
皆が僕を見た。
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ルーがそう尋ねると,
「そうね、翠は回復魔法使えるけど,
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とセシルが答えた。
「それは珍しいですね。
普通、回復職は大した攻撃魔法は使えないのですが……
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ルーが皆にお茶を勧めながらそう尋ねた。
僕は全ての属性の魔法が使えるが、
父さんに隠す様に言われている。
「いや、攻撃と言っても多分ルーが言う様に大したものではありません。
セシルはあまり知らなかったからそう言ったんだよね?」
僕が目で
“その口を閉じろ!!”
と言う様にジッとセシルを見つめると、
セシルは
“ハイハイ”
とても言う様に、
「な~んだ、あの魔法ってそんな大した物じゃなかったのね。
私魔法が使えないから良く分からなかったわ!」
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「あら、このケーキ美味しい!」
そう言ったかと思うと、
もう一個頬張った。
ルーはそれを見届けたかの様にすると,
本題に入った。
「それでは今日来ていただいた件ですが、
私が冒険者として宮殿を出る事………
私は父上がおっしゃる様に2年の契約として此処を出ようと思います」
そう言うとコクっとお茶を飲んだ。
そしてフ~っと一呼吸置くと、
「でも……」
そう言って僕達を見回すと、
「僕は2年が来ても此処へ戻る気は更々ありません」
そう言ってまたお茶を啜った。
僕が呆気に取られた様に呆けながら、
「え? でも結婚は?」
そう言うと、ルーははニコリと微笑んで、
いかにもの様に、
「2年で帰るというのは単なる建前です。
私はこの2年の間にも父上を説得し続けます。
もし認めなけれなばその時は……」
そう言って口を閉じたので、
「え? その時はどうするの?!」
心配した様にそう尋ねると、
「その時は家出します。
皆さんを巻き込んだり、
悪い様にはしません。
どうかそれを前提に私を皆様と一緒に連れて行ってください。
私には護衛として
フジワラ家の龍星と龍輝、
また従者であるシャムアが付きます。
又影として隠密達が常に数名は私の後にいるはずです!
お願いします。
どうか私を連れて行って下さい!」
そう言って土下座しようとした。
そんなルーを龍輝が止めると、
「決定権があるのは翠とセシルのお二方です」
そう言ってルーの手を取って床から引き上げた。
僕はセシルの顔を見た。
セシルは僕の方を見もせずに、
「ルーはそれでいいかもしれないけど,
婚約者の姫はどうするの?」
と言ってルーに問い詰めた。
僕はギョッとして、
“何?
セシルってばルーは絶対アーウィンだって言ってなかった?!
会える事を手を震わせて緊張して無かった?!
それなのに、君がそれを問い詰めるの?!
アーウィンに会いたかったんじゃ無いの?!”
そう思いながらセシルを見た時、
誰にも分からない様に唇を震わせながら
泣きそうでいてシャンとしているセシルの表情を見た時、
僕は何だか少し切なくなった。
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不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
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