161 / 167
始まり
しおりを挟む
龍輝の事をあれこれ考えながらロビーに戻ると、
セシルが言った様にローティとジュジュがリアに背中を擦られながら
床に蹲っていた。
余りにもの悲惨な姿に、
「ちょっと、君達大丈夫?!」
そう言って近づくと、
リアの時よりも青白い顔をした二人が床に手をつきながら、
「あ~ ズイ~
やっとモドってきた。
あ、アダマが~
キボジワル~
早くダスケテ~」
そう言って潤んだ目で這いながら縋り寄ると、
情けない声を出して僕を見た。
「うわー! 君達、お酒の匂い凄いね。
一体いつまで飲んでたの?」
そう尋ねながら二人に手をかざすと、
ス~っと引く様に酒の匂いが消え、
顔色がみるみる良くなってきた。
ローティはフーっと一息つくと、
床にあぐらをかきなおして座り込み
頭をワシャワシャと掻きながら、
「スマン、昨夜はつい興奮しすぎて酒盛りしてたら~
なんだその~
いや~
ま~気が付いたらリアに叩き起こされてて~
早く言うと昨夜の事はよく覚えてないんだよ!」
そう言って悪気のない様な顔をしてワハハと笑った。
「全く、記憶を失くすまで飲むなんて、
こんな人達初めてだよ!
ほんと、気を付けないとこれからは野営とかもあるんだから
夜中に野獣とかに襲われたら君達アウトだよ?」
そう言ってブツブツと文句を言うと、
直ぐに真剣な顔付きになり、
「いや、今回は本当にすまん!
レベルが上がる様になってからの初めての旅だし、
今回は嬉しすぎて油断して居た!
だがよ?
思ったんだが、普通二日酔いは解毒の魔法じゃないのか?
翠が使ったのは回復魔法だって言ってたよな?
前にも二日酔いで潰れた時に魔法をかけてもらった事があるんだが、
それは解毒だった様な?」
そうローティに聞かれ、
「あー僕、回復と解毒と浄化一緒に使えるんだよ。
二日酔いってどれが効くのか分からなかったからね。
こんな酔った人初めてだったし、
酔っ払った人に魔法使ったのも初めてだし!」
そう言うと、
「へー混合魔法って初めてだな。
翠ってもしかしてものすごい魔法使いなのか?
誰も出来なかった俺の解呪も簡単にやって退けたしな」
ローティにそう言われたけど、
自分でも自分の魔力はどのくらい強のかは良く分からなかった。
父さんは僕の魔法の強さとか、
その辺のことは教えてくれなかったし、
僕も気にしたことは無かった。
ただ横からセシルが
“翠、あなた気をつけてね。
あなたの魔法はかなり特殊だから目を付けられやすいかもしれないから。
ジェイドが使っていた魔法がどれくらい翠も使えるのか分からないけど、
本当にジェイドは凄かったから。
それに貴方も無詠唱でしょ。
前にも言ったけど、それ、普通じゃないから。
それはジェイドも同じだったから。
噂にでもなったらちょっと不味いからね。
でも彼方さんも、
どれくらいその事について知ってるかは
ちょっと私にも分からないのよね“
とボソッと僕の耳元で囁いた。
僕はセシルにコクコクと頷くと、
フ~っと一息ついて胸を撫で下ろした。
これから新しい冒険が始まると思うとワクワクとして、
僕もローティ達が昨夜酒盛りをした気持ちも分からなくはない。
リアにガミガミと怒られながらシュンとしている
ローティとジュジュを眺めていると、
宿の戸が開いて龍輝と龍星が同時に中に入って来た。
僕は宿に入って来た龍輝と目が合って、
ドキッとして顔を逸らした。
まだ心の整理ができて居なかった僕は
どう言う顔をすればいいのか分からなかったけど、
顔を逸らしたにも関わらず、
変な動悸がして他の人から見たら思いっきり挙動不審だったかもしれない。
そんな僕とは裏腹にルーが入って来たのを見たセシルが、
「あら、皆んな来たようね。
人数も多くなった事だし、
点呼始めまーす!」
そう言って仕切り出したのだ。
まあ、ルーも居るから張り切りたい気持ちはわかるけど、
彼女はいつも元気なのだ。
そんな彼女を見ると覚えのない懐かしさを感じてしまう。
そしてそんな彼女に救われている僕を不思議な感覚で首を傾げて感じて居た。
そんな時僕の横にスーッと影が掛かった。
途端僕の心臓が又激しくドクンと弾けた。
”龍輝だ!“
顔を見なくても、隣に立ったのが龍輝だと直ぐに分かった。
何故だか分からないけど、
彼の雰囲気は目を閉じて居ても分かってしまう。
それにジェイドだった時の事を思い出した訳ではないのに、
もしかしたら龍輝がジェイドの想い人だったダリルと言う人かもと思うと、
何だか妙に緊張した。
だって父さんは
“ジェイドの思いは成就した”
そう言って居たから。
と言う事はもし彼がダリルだったとすると、
彼もジェイドの事を愛して居たのだ。
そう考えると心臓はバクバクで、
冷や汗がダラダラ流れて来そうで、
セシルの点呼の声なんて少しも耳に入って来なかった。
それも、セシルが、
「えー何でショウも居るの?!」
と叫ぶまでは。
”へっ?!“
と不意に言葉が出てその場にいる者達を見回すと、
確かに龍輝の父親が龍星の隣に立って居た。
彼があまりにも僕達に浸透しすぎて彼が居る事に気付けなかった。
すると彼はケロッとした様に、
「流石マグノリア様の魂を宿したセシル様ですね。
気配を消して紛れて居ましたのに直ぐにお気づきになるとは!」
そう言ってワハハと笑って居た。
“何だかこの人……”
そう思っていると、
ショウはキリッとした立ち姿になり、
「実は私も皇帝の命を受け同行する事になりました」
そう言ってお辞儀をした。
そんな彼にセシルは目を大きく見開くと、
「え?! あなた、領主でしょ?!
それも国周りの安全を預かる人じゃないの?!
フジワラ家男性陣総出で大丈夫なの?!
皇帝、それで良いの?!
それにスーは?!
貴方の大好きな龍達は?!」
矢継ぎ早にセシルがショウに問いかけると、
「あ、そこはご心配なく。
私には奥の手が有りますので!
それにデューデュー様同様、
先の世から物事を知り得ているのは、
何を隠そうこの私だけですからね!」
自分の胸をポンポンと叩きながら、
そう鼻高々~に言った瞬間、
「あれ? そう言えばデューデューは?
デューデューは何処?」
セシルが少しパニックになった様にキョロキョロとし始めた。
「父さんは用があるから後で落ち合うって言ってたけど?
何か不備が?」
そう尋ねると、
セシルは少し落ち着きがなくなった様に、
「デューデューはちゃんと来るわよね?」
そんな事をなん度も必死に尋ねて来た。
僕が変な顔をしてセシルを見ていると、
横からショウが、
「大丈夫ですよ。
前世で貴方に何が起こったのかデューデュー様に全てお聞きして居ますが、
今回は貴方達だけではありません。
私達もちゃんといるんです。
デューデュー様は必ず言った事を守るお方なのは
貴方が一番よく知っているでしょう?」
そう言ってセシルを宥めて居た。
“前世であった事?”
ショウの言葉が少し気になったけど、
セシルはすぐの気を取り戻して、
「あ……御免なさい。
そ……そうよね。
今回はみんないるのよね。
少し前のことを思い出して……」
そう言ってフーっと深呼吸した。
すると物凄く早い切り替えで笑顔を戻すと、
辺りを見回して、
「うん! 皆んないる様ね。
じゃあ馬車に乗るわよ。
御者は龍輝か龍星が出来るのよね?!
じゃあ最初は~」
そうセシルが言いかけると、
ショウがスッと手を上げ、
「私が手綱を引きますので、
皆様は幌の中へどうぞ」
そう言ってサッと手を馬車の方へと差し出した。
それを見て居たセシルは、
「え? 貴方が?!
馬車は龍では無く馬よ?!
貴方、馬に乗れるの?!」
と小馬鹿にした様にそう言うと、
ショウはフッと勝ち誇った様な笑みを浮かべると、
「私より条件の良い御者はこの中には居ないでしょう!
何と言っても、私、ハンターなので!」
そう訳のわからないことを言い出したので、
僕は隣に立って居た龍輝の顔を見上げた。
龍輝は苦笑いをすると、
”あの、ほら、父はサーチが使えますし、
馬車毎結界が張れますので、
割りかし安全に旅をする事が出来るかと……
それに此処には殿下もいらっしゃいますし……“
そう言ってチラッとルーの方を見ると、
セシルはちゃっかりとルーの隣で甲斐甲斐しくお世話を始めて居た。
その姿が何とも言えなくて、
僕は少しこのメンバーでの旅が不安になって来た。
ハ~っとため息を吐いていると、
「翠! ほら! 乗って!」
そう言って先に馬車に乗り込んでいたセシルが僕に手を差し伸べて来た。
僕は首を振り、
「大丈夫、一人で乗れるよ!」
そう言って踏み台に足をかけて幌に乗り込むと、
“此処は何処?!”
と言う様に幌の中が煌びやかになって居た。
今朝までは確かに普通の幌馬車だった。
僕がまだ後ろに続いて居た龍輝の方を振り向くと、
龍輝は自分ではないと言う様に首をブンブンと振った。
“は~先が思いやられるよ!”
そんな感じに呆気に取られてキョロキョロと中を見回していると、
「殿下にこの様な乗り物で何年も旅を続けて頂くわけにはいきません。
所々でこの内装は取り替えていくので!」
そう言ってシャムアが金の刺繍が入った様なクッションをパンパンと叩いた。
僕が頭に手をついて目を回していると、
「ほら、翠もこっちに来て此処に座りなさいよ!
このクッション、フカフカでとても気持ちいいわよ!」
と、その場にすごく馴染んだ様に座って居たセシルが僕に声をかけた。
別に遠慮をして居た訳ではないけど、
「あ……」
と言い淀んでいると、
リアもセシルと一緒に、
「うわー凄い!
本当にフカフカ!
こんなクッション、今まで座ったこともないわ!
生地もスベスベで肌触りがいいわね。
通気性も良さそうだし!
翠も早くこっちに来て座りなさいよ!」
そう言ってはしゃぎ出した。
そんな女性陣を見て居たら、
「翠、私の隣にどうぞ。
此方も中々心地良いですよ」
そう言って龍輝が自分の隣を手でポンポンと叩いた。
先程のこともあってか少し躊躇したけど、
何故か吸い込まれる様に体はス~っと
龍輝の方へと吸い寄せられてしまった。
僕は手に汗をじっとりとかきながら、
「それじゃ、お邪魔します」
そう言って龍輝の横にそっと腰を下ろした。
少しの緊張でぎこちなかったシーンも、
後から入って僕達の目の前に座り込んだ男性陣のお陰でそれも和らいだ。
それでもサーシャは矢張り気押されたのか、
隅っこの方で少し緊張した様に座って居た。
無理もない、周りは皇族やら皇位貴族のオンパレードだ。
それでも馬車が走り出すと皆リラックスしたのか、
それぞれでグループになって話し始めた。
ルー、シャムア、龍星、女性陣と
残りの男性陣の2つのグループに分かれた様になったけど、
結局は後では僕と龍輝だけで話し始めた。
“何か会話を”
そう思った僕はこっそり龍輝に、
“ねえ、さっき龍輝の父さんが言ってた奥の手って何だか知ってる?”
そう囁くと、
龍輝は少し考えた様にして、
「あー奥の手ですね。
あれは別に奥の手では無く、
チートですね」
そう言って肩を窄めた。
益々訳が分からなくなった僕が
“?”
とした様な顔をしていると、
龍輝はフフっと笑って、
「そうですね、翠には馴染みがないかもしれませんが、
私の母方の祖父は転移魔法が使えるのです。
この旅に関しては祖父もわかって居た様で、
父が家に居ない間は母をサポートする様ですし、
何かあれば転移魔法で父を瞬時に家に戻せる様です」
そう説明してくれた。
「へー君のお祖父さん凄いんだね。
エルフの王って言ってたもんね~
ねえねえ、エルフって君や君の母さん以外見た事ないんだけど、
エルフって普段はどんな生活してるの?」
そう尋ねると、
「そうですね、私も実際の生活は見た事が無いのですが……」
と来たところで、
「え? 龍輝はお母さんの郷に行った事がないの?」
そう尋ねると、
「はい、普通、人は入れない様です。
私も一応はエルフの様な形をしているので
もしかしてと試しては見たのですが、
森が私を受け入れてくれませんでした」
そう言ってバツが悪そうな顔をした。
「森が受け入れてくれないって……」
困惑してそう尋ねると、
「エルフの国は精霊たちに隠されている様です。
自然界が絡んでいる様ですが、
そこはエルフ王である祖父でもどうにもする事が出来ないようです」
そう言って俯いた。
僕は何と言えば良いのか分からず黙っていると、
「私は大丈夫ですよ。
父も母も龍星も私には居ますからね。
それに祖父も良く尋ねて来てくれるんです」
そう言って微笑んだ。
「あのさ、君のお祖父さんが訪ねてくる時って転移魔法で来るんだよね?
それってさ、どんな感じでくるの?
フッと目に前に現れるとか?」
そう尋ねると、
「いえ、そうでは無く、
壁にポータルが現れるんです」
そう言って説明してくれたけど、
意味がよく分からなかった。
首を傾げていると、
「そうですね、
簡単に言うと、壁にドアが有るけど、
向こうは普通に部屋があるんじゃやんく、
そのドアを開くとエルフの国に繋がってるって思って頂ければ」
そう龍輝に言われた時、
頭の中で一つの光景が浮かび上がった。
「僕、知ってる……
そう言う場所が何処かにあった……
普段は蔦の葉で隠れて居て……」
そう言った瞬間ルーが僕達の話を聞いて居たのか、
「僕もその場所知ってる!
夢で見たのかと思ったけど、
もしかしてそれって何処かのお城の裏庭にある壁の事じゃない?!」
そう言って僕の方へと這って来た。
セシルが言った様にローティとジュジュがリアに背中を擦られながら
床に蹲っていた。
余りにもの悲惨な姿に、
「ちょっと、君達大丈夫?!」
そう言って近づくと、
リアの時よりも青白い顔をした二人が床に手をつきながら、
「あ~ ズイ~
やっとモドってきた。
あ、アダマが~
キボジワル~
早くダスケテ~」
そう言って潤んだ目で這いながら縋り寄ると、
情けない声を出して僕を見た。
「うわー! 君達、お酒の匂い凄いね。
一体いつまで飲んでたの?」
そう尋ねながら二人に手をかざすと、
ス~っと引く様に酒の匂いが消え、
顔色がみるみる良くなってきた。
ローティはフーっと一息つくと、
床にあぐらをかきなおして座り込み
頭をワシャワシャと掻きながら、
「スマン、昨夜はつい興奮しすぎて酒盛りしてたら~
なんだその~
いや~
ま~気が付いたらリアに叩き起こされてて~
早く言うと昨夜の事はよく覚えてないんだよ!」
そう言って悪気のない様な顔をしてワハハと笑った。
「全く、記憶を失くすまで飲むなんて、
こんな人達初めてだよ!
ほんと、気を付けないとこれからは野営とかもあるんだから
夜中に野獣とかに襲われたら君達アウトだよ?」
そう言ってブツブツと文句を言うと、
直ぐに真剣な顔付きになり、
「いや、今回は本当にすまん!
レベルが上がる様になってからの初めての旅だし、
今回は嬉しすぎて油断して居た!
だがよ?
思ったんだが、普通二日酔いは解毒の魔法じゃないのか?
翠が使ったのは回復魔法だって言ってたよな?
前にも二日酔いで潰れた時に魔法をかけてもらった事があるんだが、
それは解毒だった様な?」
そうローティに聞かれ、
「あー僕、回復と解毒と浄化一緒に使えるんだよ。
二日酔いってどれが効くのか分からなかったからね。
こんな酔った人初めてだったし、
酔っ払った人に魔法使ったのも初めてだし!」
そう言うと、
「へー混合魔法って初めてだな。
翠ってもしかしてものすごい魔法使いなのか?
誰も出来なかった俺の解呪も簡単にやって退けたしな」
ローティにそう言われたけど、
自分でも自分の魔力はどのくらい強のかは良く分からなかった。
父さんは僕の魔法の強さとか、
その辺のことは教えてくれなかったし、
僕も気にしたことは無かった。
ただ横からセシルが
“翠、あなた気をつけてね。
あなたの魔法はかなり特殊だから目を付けられやすいかもしれないから。
ジェイドが使っていた魔法がどれくらい翠も使えるのか分からないけど、
本当にジェイドは凄かったから。
それに貴方も無詠唱でしょ。
前にも言ったけど、それ、普通じゃないから。
それはジェイドも同じだったから。
噂にでもなったらちょっと不味いからね。
でも彼方さんも、
どれくらいその事について知ってるかは
ちょっと私にも分からないのよね“
とボソッと僕の耳元で囁いた。
僕はセシルにコクコクと頷くと、
フ~っと一息ついて胸を撫で下ろした。
これから新しい冒険が始まると思うとワクワクとして、
僕もローティ達が昨夜酒盛りをした気持ちも分からなくはない。
リアにガミガミと怒られながらシュンとしている
ローティとジュジュを眺めていると、
宿の戸が開いて龍輝と龍星が同時に中に入って来た。
僕は宿に入って来た龍輝と目が合って、
ドキッとして顔を逸らした。
まだ心の整理ができて居なかった僕は
どう言う顔をすればいいのか分からなかったけど、
顔を逸らしたにも関わらず、
変な動悸がして他の人から見たら思いっきり挙動不審だったかもしれない。
そんな僕とは裏腹にルーが入って来たのを見たセシルが、
「あら、皆んな来たようね。
人数も多くなった事だし、
点呼始めまーす!」
そう言って仕切り出したのだ。
まあ、ルーも居るから張り切りたい気持ちはわかるけど、
彼女はいつも元気なのだ。
そんな彼女を見ると覚えのない懐かしさを感じてしまう。
そしてそんな彼女に救われている僕を不思議な感覚で首を傾げて感じて居た。
そんな時僕の横にスーッと影が掛かった。
途端僕の心臓が又激しくドクンと弾けた。
”龍輝だ!“
顔を見なくても、隣に立ったのが龍輝だと直ぐに分かった。
何故だか分からないけど、
彼の雰囲気は目を閉じて居ても分かってしまう。
それにジェイドだった時の事を思い出した訳ではないのに、
もしかしたら龍輝がジェイドの想い人だったダリルと言う人かもと思うと、
何だか妙に緊張した。
だって父さんは
“ジェイドの思いは成就した”
そう言って居たから。
と言う事はもし彼がダリルだったとすると、
彼もジェイドの事を愛して居たのだ。
そう考えると心臓はバクバクで、
冷や汗がダラダラ流れて来そうで、
セシルの点呼の声なんて少しも耳に入って来なかった。
それも、セシルが、
「えー何でショウも居るの?!」
と叫ぶまでは。
”へっ?!“
と不意に言葉が出てその場にいる者達を見回すと、
確かに龍輝の父親が龍星の隣に立って居た。
彼があまりにも僕達に浸透しすぎて彼が居る事に気付けなかった。
すると彼はケロッとした様に、
「流石マグノリア様の魂を宿したセシル様ですね。
気配を消して紛れて居ましたのに直ぐにお気づきになるとは!」
そう言ってワハハと笑って居た。
“何だかこの人……”
そう思っていると、
ショウはキリッとした立ち姿になり、
「実は私も皇帝の命を受け同行する事になりました」
そう言ってお辞儀をした。
そんな彼にセシルは目を大きく見開くと、
「え?! あなた、領主でしょ?!
それも国周りの安全を預かる人じゃないの?!
フジワラ家男性陣総出で大丈夫なの?!
皇帝、それで良いの?!
それにスーは?!
貴方の大好きな龍達は?!」
矢継ぎ早にセシルがショウに問いかけると、
「あ、そこはご心配なく。
私には奥の手が有りますので!
それにデューデュー様同様、
先の世から物事を知り得ているのは、
何を隠そうこの私だけですからね!」
自分の胸をポンポンと叩きながら、
そう鼻高々~に言った瞬間、
「あれ? そう言えばデューデューは?
デューデューは何処?」
セシルが少しパニックになった様にキョロキョロとし始めた。
「父さんは用があるから後で落ち合うって言ってたけど?
何か不備が?」
そう尋ねると、
セシルは少し落ち着きがなくなった様に、
「デューデューはちゃんと来るわよね?」
そんな事をなん度も必死に尋ねて来た。
僕が変な顔をしてセシルを見ていると、
横からショウが、
「大丈夫ですよ。
前世で貴方に何が起こったのかデューデュー様に全てお聞きして居ますが、
今回は貴方達だけではありません。
私達もちゃんといるんです。
デューデュー様は必ず言った事を守るお方なのは
貴方が一番よく知っているでしょう?」
そう言ってセシルを宥めて居た。
“前世であった事?”
ショウの言葉が少し気になったけど、
セシルはすぐの気を取り戻して、
「あ……御免なさい。
そ……そうよね。
今回はみんないるのよね。
少し前のことを思い出して……」
そう言ってフーっと深呼吸した。
すると物凄く早い切り替えで笑顔を戻すと、
辺りを見回して、
「うん! 皆んないる様ね。
じゃあ馬車に乗るわよ。
御者は龍輝か龍星が出来るのよね?!
じゃあ最初は~」
そうセシルが言いかけると、
ショウがスッと手を上げ、
「私が手綱を引きますので、
皆様は幌の中へどうぞ」
そう言ってサッと手を馬車の方へと差し出した。
それを見て居たセシルは、
「え? 貴方が?!
馬車は龍では無く馬よ?!
貴方、馬に乗れるの?!」
と小馬鹿にした様にそう言うと、
ショウはフッと勝ち誇った様な笑みを浮かべると、
「私より条件の良い御者はこの中には居ないでしょう!
何と言っても、私、ハンターなので!」
そう訳のわからないことを言い出したので、
僕は隣に立って居た龍輝の顔を見上げた。
龍輝は苦笑いをすると、
”あの、ほら、父はサーチが使えますし、
馬車毎結界が張れますので、
割りかし安全に旅をする事が出来るかと……
それに此処には殿下もいらっしゃいますし……“
そう言ってチラッとルーの方を見ると、
セシルはちゃっかりとルーの隣で甲斐甲斐しくお世話を始めて居た。
その姿が何とも言えなくて、
僕は少しこのメンバーでの旅が不安になって来た。
ハ~っとため息を吐いていると、
「翠! ほら! 乗って!」
そう言って先に馬車に乗り込んでいたセシルが僕に手を差し伸べて来た。
僕は首を振り、
「大丈夫、一人で乗れるよ!」
そう言って踏み台に足をかけて幌に乗り込むと、
“此処は何処?!”
と言う様に幌の中が煌びやかになって居た。
今朝までは確かに普通の幌馬車だった。
僕がまだ後ろに続いて居た龍輝の方を振り向くと、
龍輝は自分ではないと言う様に首をブンブンと振った。
“は~先が思いやられるよ!”
そんな感じに呆気に取られてキョロキョロと中を見回していると、
「殿下にこの様な乗り物で何年も旅を続けて頂くわけにはいきません。
所々でこの内装は取り替えていくので!」
そう言ってシャムアが金の刺繍が入った様なクッションをパンパンと叩いた。
僕が頭に手をついて目を回していると、
「ほら、翠もこっちに来て此処に座りなさいよ!
このクッション、フカフカでとても気持ちいいわよ!」
と、その場にすごく馴染んだ様に座って居たセシルが僕に声をかけた。
別に遠慮をして居た訳ではないけど、
「あ……」
と言い淀んでいると、
リアもセシルと一緒に、
「うわー凄い!
本当にフカフカ!
こんなクッション、今まで座ったこともないわ!
生地もスベスベで肌触りがいいわね。
通気性も良さそうだし!
翠も早くこっちに来て座りなさいよ!」
そう言ってはしゃぎ出した。
そんな女性陣を見て居たら、
「翠、私の隣にどうぞ。
此方も中々心地良いですよ」
そう言って龍輝が自分の隣を手でポンポンと叩いた。
先程のこともあってか少し躊躇したけど、
何故か吸い込まれる様に体はス~っと
龍輝の方へと吸い寄せられてしまった。
僕は手に汗をじっとりとかきながら、
「それじゃ、お邪魔します」
そう言って龍輝の横にそっと腰を下ろした。
少しの緊張でぎこちなかったシーンも、
後から入って僕達の目の前に座り込んだ男性陣のお陰でそれも和らいだ。
それでもサーシャは矢張り気押されたのか、
隅っこの方で少し緊張した様に座って居た。
無理もない、周りは皇族やら皇位貴族のオンパレードだ。
それでも馬車が走り出すと皆リラックスしたのか、
それぞれでグループになって話し始めた。
ルー、シャムア、龍星、女性陣と
残りの男性陣の2つのグループに分かれた様になったけど、
結局は後では僕と龍輝だけで話し始めた。
“何か会話を”
そう思った僕はこっそり龍輝に、
“ねえ、さっき龍輝の父さんが言ってた奥の手って何だか知ってる?”
そう囁くと、
龍輝は少し考えた様にして、
「あー奥の手ですね。
あれは別に奥の手では無く、
チートですね」
そう言って肩を窄めた。
益々訳が分からなくなった僕が
“?”
とした様な顔をしていると、
龍輝はフフっと笑って、
「そうですね、翠には馴染みがないかもしれませんが、
私の母方の祖父は転移魔法が使えるのです。
この旅に関しては祖父もわかって居た様で、
父が家に居ない間は母をサポートする様ですし、
何かあれば転移魔法で父を瞬時に家に戻せる様です」
そう説明してくれた。
「へー君のお祖父さん凄いんだね。
エルフの王って言ってたもんね~
ねえねえ、エルフって君や君の母さん以外見た事ないんだけど、
エルフって普段はどんな生活してるの?」
そう尋ねると、
「そうですね、私も実際の生活は見た事が無いのですが……」
と来たところで、
「え? 龍輝はお母さんの郷に行った事がないの?」
そう尋ねると、
「はい、普通、人は入れない様です。
私も一応はエルフの様な形をしているので
もしかしてと試しては見たのですが、
森が私を受け入れてくれませんでした」
そう言ってバツが悪そうな顔をした。
「森が受け入れてくれないって……」
困惑してそう尋ねると、
「エルフの国は精霊たちに隠されている様です。
自然界が絡んでいる様ですが、
そこはエルフ王である祖父でもどうにもする事が出来ないようです」
そう言って俯いた。
僕は何と言えば良いのか分からず黙っていると、
「私は大丈夫ですよ。
父も母も龍星も私には居ますからね。
それに祖父も良く尋ねて来てくれるんです」
そう言って微笑んだ。
「あのさ、君のお祖父さんが訪ねてくる時って転移魔法で来るんだよね?
それってさ、どんな感じでくるの?
フッと目に前に現れるとか?」
そう尋ねると、
「いえ、そうでは無く、
壁にポータルが現れるんです」
そう言って説明してくれたけど、
意味がよく分からなかった。
首を傾げていると、
「そうですね、
簡単に言うと、壁にドアが有るけど、
向こうは普通に部屋があるんじゃやんく、
そのドアを開くとエルフの国に繋がってるって思って頂ければ」
そう龍輝に言われた時、
頭の中で一つの光景が浮かび上がった。
「僕、知ってる……
そう言う場所が何処かにあった……
普段は蔦の葉で隠れて居て……」
そう言った瞬間ルーが僕達の話を聞いて居たのか、
「僕もその場所知ってる!
夢で見たのかと思ったけど、
もしかしてそれって何処かのお城の裏庭にある壁の事じゃない?!」
そう言って僕の方へと這って来た。
20
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる