消えない思い

樹木緑

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第104話 エスパーな矢野先輩

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何なの? これ一体何なの?
矢野先輩ってエスパー?
僕のスーパーマン?

何故矢野先輩はこうも何時も
タイミング良く僕のピンチに現れるんだろう?

これって何か意味があるのだろうか?
運命の番だったら、そう言う事もあるかもしれないけど、
矢野先輩は僕がかつて好きだった人。
特別な運命的なつながりはなかった。

「あれ? 矢野っち、
赤城君のこと知ってるの?」

3年生の先輩がそう尋ねると、

「うん、要君はクラブの後輩で
僕が弟の様に可愛がってるんだけど、
要君がどうかしたの?」

そう言って僕をチラッとみた。

僕は助けて下さ~いと言う様な表情をして、
矢野先輩の目を見た。
恐らく先輩は僕が告白されていたと悟ったのだろう、


「今ね、裕也にインハイ出場の激励を贈ろうと
体育館に行くところだったんだけど、
一緒に行かない?
そう言えば、柳瀬君もバレー部で同じ立場なんだよね?
インハイ出場おめでとう。
流石バレー部だよね。
調子の方はどう?」

あ、この先輩、柳瀬先輩って言うんだ……

「あ、イヤ、調子は良いんだけど、
ちょっと赤城君と話しても良い?」

「どうして?
何処で要君と知り合いになったの?
僕が居たら離せない内容?」

「実はな……」

柳瀬先輩は矢野先輩に耳打ちして、
コソコソと言っていたけど、
恐らく告白タイム中だと言ったんだろう。

続いて矢野先輩も、
コソコソと何かを柳瀬先輩に耳打ちしていた。

その後柳瀬先輩が、

「マジか?!」

と言って僕を見たので、僕は

?????

と言う様な顔をして二人を見た。
多分先輩は僕と佐々木先輩が付き合っている事を
ばらしてはいない。
一体何を柳瀬先輩に言ったんだろう?
ただ単に僕には付き合ってる人が居るとか?

そう思っていると柳瀬先輩が、

「ごめん、さっき言った事は忘れてくれ。
じゃあ、俺は練習に戻るから、
矢野っち達もくるんだろ?」

そう言って僕達は柳瀬先輩の後を付いて、
体育館へと戻って行った。

僕はヒソヒソと、

「二人何を話していたんですか?」

そう尋ねると、先輩は

「秘密」

と言って教えてくれなかった。
僕は、

まあ、いいやどっちにしろ丸く収まったんだし、
何も問題も無さそうだし。
流石矢野先輩だな。

と思いながら、柳瀬先輩の後を付いて行った。

僕達が体育館に入って来た姿を見た佐々木先輩は
そこに矢野先輩が居るのを見てびっくりしていた。

「何だお前、クラブはもう引退したんだろ?
学校に何しに来たんだ?」

佐々木先輩の問いに、

「あ、ちょっと進路の事で話があって、
急遽先生に呼び出されたんだよ。
で、裕也の活躍を見に行こうと思ったら
要君が水飲み場に居たからびっくりしたよ」

そう言って、お邪魔しま~すとでも言うように、
ステージの上に飛び乗った。
そして僕を、隣に座るように誘ったので、
矢野先輩の隣にちょこんと腰かけた。

佐々木先輩は訝し気に僕達の事を見ていたけど、
僕は目で、偶然ですよと合図した。
佐々木先輩に通じたかは分からなかったけど、
後半の練習が始まったので、
僕はハッキリと弁解する事も出来なかった。

「要君、行動力出てきたね~」

そう不意に矢野先輩が僕に言ってきた。
僕は

「へ?」

と答えると、

「今日は何をしに体育館まで来たの?」

そう尋ねた。

「今日ですね、お散歩してたら、
凄い発見したんですよ!
先輩アメンボ見たことありますか?
僕、初めてあの河川敷の川にアメンボが居る事に気付きました!
その勢いで気付けば学校まで来てて、
そこで青木君とかち合っちゃったんです。
で、バイト無ければ、見学に来いって事で……」

そう説明すると、
先輩も青木君と同じようにプッと笑って、

「都会っ子が初めて田舎に行った時みたいだね~」

と言ったので、僕は大笑いをしてしまった。

先輩と青木君の思考回路が同じだったことが凄く
アンバランスで、可笑しくて、可笑しくてたまらなかった。

先輩がどうしたの?とびっくりして聞いたので、
青木君の事を話してあげると、
先輩も大笑いしていた。

「裕也もインハイ終ったら後は受験一色だよね。
要君、余り会えなくなったら寂しい?」

先輩が僕の方を見てそう尋ねてきた。

「会えなくなって寂しいのは、
矢野先輩もおなじですよ」

僕がそう言うと、先輩は

「嬉しい事言ってくれるね~」

と僕の頭をぐりぐりとした。

「痛いですってば~
もう!
何時も言ってるじゃ無いですか~
子供扱いするなって!
それよりも、先輩は
佐々木先輩ってどこの大学受けるか知ってますか?」

まだ佐々木先輩とは、そう言う話をしたことが無かった。

「たぶんT大の法律科じゃないかな?」

「あ~ やっぱり、未来の政治家は
そういうとこですよね。
僕にはとても無理だな~」

そう言うと、先輩は僕の方を向いて、

「一緒にする必要も無いでしょう?
お互いが、お互いの所で頑張ってたら、
それが一番だよ」

と言ったのが、凄く印象的だった。

「先輩はもうどこの経済受けるか決まったんですか?」

僕がそう尋ねると、
先輩は煮え切らないような返事をした。

何時もはっきりとした意見を持ってる先輩なのに、
こういった煮え切らない返事をするのは珍しいなと思いながらも、
その時は、先輩にもこんな時もあるんだな~くらいにしか
僕は思っていなかった。

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