消えない思い

樹木緑

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第122話 クリスマス・イブ

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自分の居る状況によって、
時間が過ぎるのを早く感じたり、
遅く感じたりする時がある。

例えば、佐々木先輩と一緒に居る時間は、
会話が無くても過ぎる時間が凄く早い。
逆に、デートの日が来るのを待つ事は凄く遅い。

冬休みに入って、イブが来るまでの3日間は
カメが歩くように凄くスローだった。
僕は何度も、佐々木先輩が今、自分の隣に座って、
くつろぎながらTVを見たり、
漫画を読んだりしてるところを想像した。

そうすれば、少しは時間が
早く過ぎてくれるかなと思ったから。
でも、僕の努力は虚しく、
そう言った妄想でさえも集中できないほど、
心はイブに向いていた。

目を閉じて佐々木先輩の存在を感じ取ろうと
頑張れば、直ぐにイブは何着て行こうとか、
準備するものは何があったかとか、
風船が割れるように僕の妄想を弾いてくれるので、
僕の努力は結局は堂々巡りで終わってしまった。

でも、どんなに時がゆっくり流れようと、
その日は必ずやって来る。

イブの朝起きた時に、
僕にはまだ、自分自身を佐々木先輩に捧げる準備が
出来ているのか分からなかった。

でも、今日がその日なのならば、
その時には自然と自分自身が
その事に気付くと言う思いはあった。

出がけにお母さんが、

「ちゃんとコンドームやジェルは持ったの?」

と聞いてきた。
僕はそう言う事を息子に
堂々と聞いてくるお母さんに目を見開いた。

「こういうことはね、
人任せにしておいちゃダメなんだよ。
自分の体の事は、自分で守らないとね」

そう言って、はいと小さな袋を持たされた。

「これ何?」

「向こうに着いたらこっそり中を覗いて。
多分使わないとは思うけど、念の為ね」

そう言われたので、

「ありがとう。
じゃあ、行ってきます!」

そう言って僕は家を出た。

この3日間の間に僕は、
佐々木先輩へのクリスマスプレゼントを買うのに、
凄く迷った。

ありきたりのプレゼンでは無く、
思い出に残るものをあげたかった。

そうなるとやっぱり僕にリボンを付けて……? 
みたいな感じ?
でもそれはそれで在り来たり?

いや、そう言う話はよく聞くけど、
実際にやる人が居るのかはクエスチョンマークだ。

考えても、考えても良い案は出てこなかったので、
結局は在り来たりな物にした。

カバンに出来たふくらみのある存在感に
そっと手を添えて、箱がつぶれない様に、
慎重に待ち合わせの駅までやって来た。

先輩との待ち合わせに待ち切れなかった僕は、
時間よりも少し早く家を出た。

やっぱりイブとも言うと、
駅前の人通りは多い。
夜になると、この辺りはイルミネーションが凄く奇麗だ。
取り合えず、先輩が来るまでに、
お母さんが何をくれたのか袋の中身を見てみる事にした。

布地の袋で、
藍色に白い水玉に
白いリボンが掛かった袋。
最初は、お母さんからの僕への
クリスマスプレゼントかな?と思った。

カサコソと袋を開けて中を覗くと、
小さい箱と小さい携帯用のボトルが入れてあった。
何だろうと思いボトルを取り出すと、
ピンク色のドロッとしたような液体が入っていて、

“ヌレヌレ・ヌーレ
夜のお供に”

と書いてあった。
そしてもう一つの小さい箱を取り出してみると、

“ウス・ウ~ス
薄いのに強さ抜群
着けてる感覚な~し”

と書いてあった。

僕はハッとして現物を
サッと袋にしまい直した。

「お母さん~!」

まさか自分の母親からそんなものをもらうとは
思いもしなかった。

中に丁寧に手紙まで入ってた。

“佐々木君と繋がることになっても、
反対はしないけど、
自分の身は自分で守ろうね”

僕はカーッとなって
袋をカバンの中にしまい込んだ。
そして深呼吸して気分を落ち着かせていると、

「おはよう!
早かったな!」

と、先輩が向こうから
キャリーケースを引きながら歩いてきた。

「どうした?
顔赤いぞ?
風邪か?」

「あ、いいえ!
全然大丈夫です!」

「じゃあ、行こうか?
駅までは送迎バスが来てくれるはずだから」

そう言って、僕達は電車に乗り込んだ。

温泉のある町は、この駅より1時間半離れた所にある。

向こうの駅に着くと、既にお迎えのバスが来ていた。
バスに入ると、僕達以外にも、数組のカップルが既に乗り込んでいた。

バスは僕達を拾うと、
ス~ッと軽やかに走り出した。

温泉宿は、少し山を登った
景色の良い、夜景の見えるところに立っている。

矢野先輩が準備してくれた部屋には
露天風呂が付いているらしく、
恐らく、矢野先輩と旅行した時、
お風呂でも緊張していた僕が
リラックスできるようにとの計らいだろう。

「この券、恐らく高かったはずだぞ。
今度浩二にも何か返さないとな」

そう佐々木先輩が言った。

温泉宿に着くと、
まだ僕達の部屋は用意できていないようで、
荷物をフロントで預かってくれた。

足湯があり、何時でも利用できると言う事だったので、
行ってみる事にした。

足湯はお土産街の真ん中ら辺にあって、
憩いの様な感じで出来ていた。

僕達は、お土産を買うにはまだ早かったけど、
とりあえずお土産屋さんを回って、
足が疲れてきたところで足湯につかろうと決めた。

僕はお土産屋さん巡りが大好きだ。
温泉街のお土産屋さんって、
ちょっと時代を超えた雰囲気がある。

ちゃきちゃきの平成っ子の僕は、
温泉街のお土産屋さんの通りは、
時間が昭和の中頃で止まったような感じが大好きだった。

デンデン太鼓や、駒、羽子板に紙風船、けん玉にビー玉、
その他の竹で出来たおもちゃ等をみると、
凄くワクワクした。

暫く歩き回った後、
僕達は足湯へ行った。

初めて足湯を使ったけど、
歩き回った足にジワ~ッときて、
気持ちよかった。

足湯には20分ほど居て、
そのあと宿に戻った。

宿に帰ると、部屋の準備が出来ていると言う事だったので、
部屋に通してもらった。

窓の所へ行くと、町の景色が部屋から奇麗に見えた。

「先輩、景色が凄いですよ!」

そう言って先輩の方を振り向くと、
何やらゴソゴソと荷物を整理していたので、
何をそんなに持ってきたのだろうと
暫く眺めていた。

先輩は、僕が眺めている事にも気付かずに、
コソコソ・コソコソとしていた。

先輩があまりにも一所懸命にゴソゴソとしてるので、
外を見るふりをしてチラチラと覗き込んだ。

その時、ふわっとした、
帽子に着けるような大きな羽が見えた。

“羽……?”

続けて覗いてみると、

今度はチョコレートシロップが見えた。

“チョコレートシロップ?”

そしてハチミツが見えた。

“ハチミツ?”

最後に、イチゴとクリームを出して、
部屋に備え付けの飲み物を冷やしておく
小さな冷蔵庫に入れた。

“えー! イチゴとクリーム?”

先輩の荷物から次々に出て来る得体の知れない、
何に使うのか分からない物体に、僕は頭が混乱した。
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