消えない思い

樹木緑

文字の大きさ
183 / 201

第183話 矢野先輩の尋問

しおりを挟む
先輩がソファーに腰かけると、
僕はその向かいに座った。

少し緊張が走ったけど、
本題は直ぐに始まった。

「これはプライベートな事で、
僕が口をはさむ事じゃないかもしれないけど、
何故こういうことが起きてしまったのか僕はちゃんと知りたい。
その上で、要君が助けが必要なのであれば、
ちゃんと助けてあげたい」

先輩がそう言うと、僕は頷いた。

「要君は僕が要君の事凄く大切にして、
弟の様に思っているの知ってるよね?
それは今も変わって無いよ?
6年の空白はあったけど、要君は今でも凄く特別だよ。
要君に何か理不尽な事が起きているんだったら、
僕はそれを正したい」

僕は頷きながら先輩の言葉を噛みしめていた。

「今回の事はもう過ぎてしまった事だけど、
要君は今度は陽一君を教育するっていう責任と義務があるから、
厳しい事を言ったり、聞いたりするかもしれないけど、
あえて聞くよ?」

僕は先輩から発せられる言葉に覚悟して、
両手でギュッと握りこぶしを握った。

「陽一君の父親って、裕也だよね?」

僕は小さく頷いた。

「君達、避妊はしなかったの?」

僕は下を向いたまま首を左右に振った。

「どうして避妊しなかったの?」

「僕達、僕の誕生日に沖縄へ
旅行に行ったんです。

その時発情期になってしまって、
薬が間に合わなくて……」

そう言い訳をしたけど、
先輩は黙ったままで僕を見つめていた。

「あ…… 
それは言い訳ですよね……」

先輩は暫く口を噤んだまま居たけど、

「そこは分かってるみたいだね」

と僕に向かってきっぱりと言った。

「僕も健全な男子だから、その時が来ると、
セックスを回避するのが難しい事は分かってるつもりだよ。

でも発情期には周期があるから、
危ない事は分かっていた筈でしょう?
もし仮に、周期がズレてしまったとしても、
少なくとも、旅行中は抑制剤を飲むとか、
ピルを飲むとか、何か方法はあった筈でしょう?

セーフセックスは海外じゃ基本中の基本だよ?
日本でだって、性教育で学ぶでしょう?

特に不意に発情してしまうと、その熱にやられて
避妊をするのは殆ど不可能って言われてるくらいだから、
発情期を経験した君だったら
事前に対処する必要があった事位、分かっていた筈でしょう?」

「……」

僕は、先輩の正論に何も返せなかった。

「陽一君が今5歳とすると、
逆算してみたんだけど……

要君、まだ17歳だったよね、妊娠したのは……
高校2年生か……」

「今考えると、無謀ですよね……」

僕はポツリと言った。

「ねえ、もしかして、
裕也とはその時に番ってしまったの?」

僕はコクリと頷いた。

先輩がハ~と大きく一息つくと、
僕はビクッとした様にして身を縮こまらせた。

「そうだろうと思ったよ。
要君からは高校生の時にしていた甘い香りが
全然してなかったからね。

で? 陽一君はパパの事知らないって言ってたけど、
裕也とはどうしてるの?
今でも連絡とってるの?」

「……」

「黙っていちゃ分からないでしょう?」

「…… 先輩とは別れました。
今では連絡も取っていません……」

そこには先輩もちょっと困惑していた。

「あんなに愛し合って幸せそうだったのにどうして……

こんなことになるんだったら、
あの時身を引いた僕の気持ちは……」

そう言って先輩は首をブンブン振って、

「まあ、要君にとっても簡単な決断じゃ無かったとは思うけど、
陽一君の事に対してはどうしてるの?
裕也はちゃんと責任取ってる?
認知はしてあるの?
ちゃんと養育費とかもらってる?」

と尋ねた。

先輩のその問いに僕は血の気が違引いて行くような気持がした。
僕の顔色を覗った先輩が、恐らく気付いたのだろう。

「もしかして、陽一君の事……
裕也は知らないの?」

「先輩、佐々木先輩には絶対言わないで下さい!
お願いします!」

そう言って僕は先輩に縋りついた。

「いったい裕也は何をしてるの?
発情期に避妊しないでセックスしたら、
妊娠するのは分かりきってる事でしょう?
それを敢えて手放したって言うの?

要君を手放すんだったら、どうしてあの時……」

矢野先輩の佐々木先輩に対する怒りが
手に取るように分かる。

「先輩、避妊しない事は二人で決めたんです……
それに別れも僕が……」

先輩は納得して無いようだった。

「分れるくらいだったらどうして……
避妊をしようと思えば、
間に合う余裕はあったんだよね?」

僕はただ頷く事しか出来なかった。

「なぜ避妊をしないって決めたの?」

暫く黙ったままでいたけど、

「そこに佐々木先輩が居たから……」

とポツリと言った。

「えっ?」

先輩には僕の言葉が届かなかったのか、
聞き返してきた。

「佐々木先輩は僕の全てでした。

佐々木先輩が好きで、好きで、
世界の何に変えてでも先輩の全てを僕のものにしたかった……」

「今では裕也の事どう思ってるの?」

「思いは変わっていません。
この6年間ずっと諦めようと思いましたが無理でした……
先輩への思いは少しも揺らいでいません!」

「そこまでの思いを抱えながら、どうして裕也と別れたの?
高校生で妊娠して出産するって普通じゃできないよ?
高校生はまだ、自分の事でさえ責任が取れない年だよ?
両親の支えはあったとしても、
陽一君にはまだまだ父親も、母親も必要な年だよ?
ここまで陽一君を育てるのは簡単では無かったでしょう?」

両親も、両祖父母も、凄く僕を助けてくれた。
これでもかというくらい僕を受け入れて、
愛を示してくれた。

でも僕には矢野先輩のこの叱責が必要だった。
愛を受けるのも大切だったけど、
僕には誰かに叱ってもらうことが必要だった。

矢野先輩は僕を卑下したり、
理不尽にしかりつけたりはしなかった。

ただ、諭すように、僕に教えるように説教してくれた。
僕はそれが嬉しかった。

僕は先輩の顔を見て、目をしっかりと見つめた。

「僕、これは僕の問題だから、
だれにも頼らずにずっと一人で解決しようと思ってたんです。

でも、それは間違っている事に気付きました。
家族にはもう同意をもらったのですが、
僕をこういう風に叱ってくれる先輩だから敢えて話しますが、
僕には先輩の力も必要です。

でも強制はしません、
もし、出来るなら力を貸して欲しい」

僕がそう言うと、
先輩は待ってましたとばかりに、

「要君がそう言ってくれるのをずっと待ってたよ。
君は何でも一人で抱え込んで、
一人で解決しようとするからね」

と言ってくれた。

僕は先輩の気持ちが凄く嬉しかった。
そして今でも僕の事を特別に思ってくれているのが凄く嬉しかった。

そして続けて、

「すべての問題は裕也の父親だよね」

と先輩は既に分かっている様にして僕に言った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

処理中です...