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第一章
01
しおりを挟むあいつに初めて会ったのは高校の入学式だった。
同じクラスにならなかったらきっと三年間接点もなく、名前くらいは知ってるかな…いや、顔くらいは見たことあるかなってそんな、共通の友だちも共通の話題さえなさそうな…、僕と比べて華やかな雰囲気の奴だった。
もっとも、きっと僕はあいつに気付いてたと思うけどね。
顔も知ってただろうし、噂も聞いていただろう。
あいつは友だちも多くて、サッカー部のエースで、背も高くて、顔も良くて……とにかくかっこ良かった。
高校に入学して最初の席で隣になったのがあいつだった。
入学式が終わり教室に入ると、僕は二列目の一番前の席。段々視力が落ちていたので教室の一番後ろで端の席なんて、普通なら誰もが落ち着くであろうその場所にならなくてよかったと思った。
そして、隣を見てドキンと心臓がドラムを叩いた。
「やだな…一番前…」
呟くその声に、頭ガシガシしてるその手にそして何より、切れ長の目に、通った鼻筋に、薄い唇に目が離せなくなった。
◇◇◇◇◇
三年の夏休み前に、教室であいつ…安達君に呼び止められた。
「ちょっと、良い?」
先生に頼まれた用事を済ましていたからもう教室にはほとんど人が残っていなかった。
安達君はいつも一緒にいる同じサッカー部の松本君と一緒だった。
一年と数ヶ月も同じクラスだったのに、必要なこと以外ほとんど話したことがなかったので、まさか僕に話しかけられているとは思わなかった。
そのまま帰ろうとすると、焦ったような顔に、やっぱり僕に話しかけたのかと思ったけど、でもその内容は最悪だった。
「なあ、セーラー服着て、写真撮らせてよ」
「……えっ?」
意味がわからない。
僕に声掛けたのではなく、後ろに女の子がいるのだと、その子に声をかけたのだと一瞬で顔に熱が集まった。
(恥ずかし…)
そう思って、慌ててその場を立ち去ろうとしたけど、できなかった。
「あ~ごめん」
二年間何度も盗み見た笑顔を見てしまうと、動けなくなった。
「言葉、少なすぎ」
松本君に言われて、「だってよ…」と髪をかき上げながら、僕を真っ直ぐ見てくるから…動けない。
「ちゃんとお願いしなさいよ」
「わかったよ。…あのな…女の子に告られて…」
その事とセーラー服が結びつかないからどうしても探るような視線を向けてしまう。
「しつこい子でさ。何度も断ってるのに…。だから『受験だから勉強を優先したい』って言ったら『邪魔しないから』って何回断ってもダメでさ…」
だから、その事とセーラー服はやっぱり結びつかない。
「それで『ごめん嘘ついてた。実は付き合ってる子がいるから』って言ったんだけど、『その話も嘘じゃないの?』って言われてさ…」
やっぱりわからない。
「『じゃあ、証拠の写真見せて』って言われてさ」
えっ…写真?
「その写真撮らせて欲しいんだ。セーラー服着て」
「嫌だよ」
絶対無理。
「女の子に頼みなよ」
「そんなことしたら、その子が誤解してしつこく付きまとわれたら嫌だからさ…」
「じゃあ、松本君にセーラー服着てもらいなよ」
「こいつに着られるセーラー服なんかないよ。それに…笑えるだけだから」
それはそうかもしれない。松本君は身長180㎝はあるし、がっちりした体格でセーラー服は…うん、笑えるかも。
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