視線の先

茉莉花 香乃

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第一章

02

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「でもなんで僕?彼氏のいる誤解しなさそうな子に頼んだらいいんじゃないの?」
「そんなこと出来ないよ。その彼氏に怒られる」

それはそうか?
気持ちが自分から、このウザいくらいにかっこいい奴に移ってしまわないかヒヤヒヤだよな。

「僕、セーラー服なんか持ってないよ」
「ぷっ…そりゃそうだ。何も佐々城がセーラー服持ってるとか思ってねぇよ。それは用意してある。ほら」

見せられた紙袋の中には夏服のセーラー服が入っていた。この学校の制服じゃない。

「これどうしたの?これ借りた子に頼んだらいいんじゃないの?」
「姉貴のなんだ。姉貴だとバレるだろ」
「大丈夫じゃないの?」
「バレるって。てか、俺が嫌だから」

僕の方が嫌だから!

「なあ、頼むよ」

拝むようにこっちを見て、片目を瞑り、懇願するさまは心臓に悪い。

顔が赤くなったような気がして思わず安達君から顔を背けた。

どんな表情でもかっこいいんだ。

隣の席になった時から僕は安達君の事が気になって仕方がない。

問題が解けた時の誇らしげな顔。
忘れ物をして慌てた顔。
友達と笑ってる弾けるような笑顔。
ボールを追いかける真剣な顔。

どんな表情でも僕を虜にする。

でも僕は気付かれないようにそっと見てるだけ。
最初はただ憧れていただけだったと思う。
僕に無いものをいっぱい持ってる安達君を羨望の眼差しで見ていた。
しかし、それはいつの間にか違うものに変わっていた。

二年になってクラスが別々になった時は正直ホッとした。これで忘れればいいんだと自分に言い聞かせた。
そして、聞こえてくる噂とたまに見る笑顔をやり過ごしてなんとか目で追わないようになった頃、三年でまた同じクラスになってしまった。

二年の時に培ったスルースキルは半分くらい役立って、なるべく近寄らないようにしていたのに…。

「身長、姉貴と同じくらいだろって思ってさ。165㎝なんだ。あんまり違うと着た時おかしいし」

そりゃ僕はこいつと違って低いよ。167㎝。あと3㎝高かったら…せめてあと1㎝…そしたら誤差の範囲内で170㎝に限りなく近くないか?
もう少し伸びて欲しいよ。僕の童顔は友達からからかわれるくらいなんだから…。
背がもう少し高ければからかわれなくなると思うんだ。

「でも僕じゃなくてもそのくらいの背の奴はいるだろ?なんで僕?からかってるの?なんかの罰ゲーム?『良いよ』って言った途端『引っかかった』って笑うんだろう?」

そうなんだろう?
迫力なんかないけど、一応睨んでみる。

「からかってなんかないよ。こいつ真剣なんだ。受けてやってよ」

松本君が真面目な顔で言うから、嘘ついたり、馬鹿にしてるわけじゃなさそうだ。

それでも『良いよ』とはとても言えない。

「じゃさ、お礼するから…な?なんでも言うこと聞くから」

そんなに見つめないで欲しい。
いつの間にか背けていた視線は安達君に戻っていて、窓から入ってきた風に髪が踊るさまに見惚れてしまい慌てて目線を下げた。

見惚れていたのに気付かれただろうか?
やばい、早くここから立ち去らないと。

「ごめん。無理だから」

机に置いておいた鞄を持って出て行こうと思ったら鞄を安達君に奪われてしまった。

「反則!逃げるな」
「いや…反則って」

そりゃ逃げるでしょ。

「迷惑かけないからさ」

もうかけられてるけど…。



◇◇◇◇◇



結局安達君の部屋に居る。

部屋は綺麗に片付いていて、本棚にはマンガがびっしりと並んでいた。

断ることが出来なくてセーラー服を着ることになったけど、教室じゃその女の子が納得しないだろうって言われて、無理やり連れて来られた。
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