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第一章
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なんだか恥ずかしくて…。
誰も気にしていないのはわかっていたけれど、そのペンネームが僕と結びつかないとわかっていてもなんだかこそばゆい。
本名でない偽りの名前は心を覗かれているようで、落ち着かなくて、いつも原稿よりそっちの方が最後の最後になってしまう。
『そんなに迷うなら前と一緒でいいじゃん。てか、ペンネームいちいち変える奴いるか?ほら《夜芽市之丞》だっけ?前の名前。《夜芽二之丞》で良いじゃん』と呆れられてしまう。
そうは言っても、本名を晒すことはできないので、いつも悩むのだ。
「毎回楽しみにしてるんだ。次が最後だな。書くんだろ?」
安達君は楽しみにしていてくれていたの?
「うん…」
実はもう書き上がっている。
ペンネームは…まだだけど…。
「行こ…」
差し出された手に思わずそのまま繋がれるのかと思って、あの時の触れてしまった唇を思い出した。
キスと呼ぶには思わずのアクシデントのようなあの時のことは考えないようにしている。
きっと事故だ。
安達君は触れるつもりはなかったんだ…きっと。
何も言わないのがその証拠だ。
『そのことには触れてくれるな!忘れたい、黒歴史だ!誰にも言うなよ!』
とか汚いものでも見る目で言われてしまえば耐えられないだろうから僕からは聞かないし、記憶の奥へ沈めたのに…思い出してしまった。
「あ…あの」
「ん?」
「いや、この手は…」
「ああ、悪い」
何が悪いのかわからないけど、安達君の手が降ろされたことに安堵した。
いや、降ろされてはいなかった…頭ガシガシしてる…。
二度目の安達君の部屋はこの前と変わりなかったけれど、前よりも落ち着きのない安達君とそんな気配で、2人きりの部屋は緊張してしまう。
「何か飲むもの持ってくるから…待ってて」
「あっ、良いよ?」
「待ってて…」
「はい…」
何故か見つめられ、頷いた。
ジュースのペットボトルとコップ2つ、クッキーを乗せたお盆を持って戻ってきた。
正直、喉は乾いてたからありがたい。
しばらくほぼ無言でジュースを飲み、クッキーを食べた。
「見る?」
「うん」
本来の目的である写真を見せてもらう。
「じゃあこっち来て」
「いや…おかしいよ?」
ベッドに座った安達君の足の間に座れと言われても……ね?
「ほら…一緒に見れるじゃん…」
最後の方は小さい声でもそもそと言っている。どうしようかと思って動けないでいると、僕の側まで来て手を引っ張ってベッドまで連れていかれた。
その手を振りほどくことは……できない。
たった数歩の短い距離が、ドキドキとうるさい心臓には耐えられない。
僕の肩の上に腕を置いてその手にはスマホが握られている。目の前でロックを解除している指に釘付けになる。
……えっ。
その4つの数字は…見間違い?
普通ならきっと早く動いた手の動きなんて見えないだろう。
でも…。
「ほら、これ」
写真を見せられて、慌てて見た。
「えー……これ僕?」
「そだよ。可愛く撮れてるだろ?」
「可愛いって、微妙だけど…。あの時…眼鏡外して、ウイッグ付けたもんね」
「そだ…え~っと…あっ、これ」
見せられた写真は…。
「これ!?これみんなに見せたの?」
恥ずかしい。
僕だって気付かれてなくても恥ずかしい。
それはキスしてるように見える、少しだけ触れたから実際はキスだけど…きっと事故だから…その時の写真。
誰も気にしていないのはわかっていたけれど、そのペンネームが僕と結びつかないとわかっていてもなんだかこそばゆい。
本名でない偽りの名前は心を覗かれているようで、落ち着かなくて、いつも原稿よりそっちの方が最後の最後になってしまう。
『そんなに迷うなら前と一緒でいいじゃん。てか、ペンネームいちいち変える奴いるか?ほら《夜芽市之丞》だっけ?前の名前。《夜芽二之丞》で良いじゃん』と呆れられてしまう。
そうは言っても、本名を晒すことはできないので、いつも悩むのだ。
「毎回楽しみにしてるんだ。次が最後だな。書くんだろ?」
安達君は楽しみにしていてくれていたの?
「うん…」
実はもう書き上がっている。
ペンネームは…まだだけど…。
「行こ…」
差し出された手に思わずそのまま繋がれるのかと思って、あの時の触れてしまった唇を思い出した。
キスと呼ぶには思わずのアクシデントのようなあの時のことは考えないようにしている。
きっと事故だ。
安達君は触れるつもりはなかったんだ…きっと。
何も言わないのがその証拠だ。
『そのことには触れてくれるな!忘れたい、黒歴史だ!誰にも言うなよ!』
とか汚いものでも見る目で言われてしまえば耐えられないだろうから僕からは聞かないし、記憶の奥へ沈めたのに…思い出してしまった。
「あ…あの」
「ん?」
「いや、この手は…」
「ああ、悪い」
何が悪いのかわからないけど、安達君の手が降ろされたことに安堵した。
いや、降ろされてはいなかった…頭ガシガシしてる…。
二度目の安達君の部屋はこの前と変わりなかったけれど、前よりも落ち着きのない安達君とそんな気配で、2人きりの部屋は緊張してしまう。
「何か飲むもの持ってくるから…待ってて」
「あっ、良いよ?」
「待ってて…」
「はい…」
何故か見つめられ、頷いた。
ジュースのペットボトルとコップ2つ、クッキーを乗せたお盆を持って戻ってきた。
正直、喉は乾いてたからありがたい。
しばらくほぼ無言でジュースを飲み、クッキーを食べた。
「見る?」
「うん」
本来の目的である写真を見せてもらう。
「じゃあこっち来て」
「いや…おかしいよ?」
ベッドに座った安達君の足の間に座れと言われても……ね?
「ほら…一緒に見れるじゃん…」
最後の方は小さい声でもそもそと言っている。どうしようかと思って動けないでいると、僕の側まで来て手を引っ張ってベッドまで連れていかれた。
その手を振りほどくことは……できない。
たった数歩の短い距離が、ドキドキとうるさい心臓には耐えられない。
僕の肩の上に腕を置いてその手にはスマホが握られている。目の前でロックを解除している指に釘付けになる。
……えっ。
その4つの数字は…見間違い?
普通ならきっと早く動いた手の動きなんて見えないだろう。
でも…。
「ほら、これ」
写真を見せられて、慌てて見た。
「えー……これ僕?」
「そだよ。可愛く撮れてるだろ?」
「可愛いって、微妙だけど…。あの時…眼鏡外して、ウイッグ付けたもんね」
「そだ…え~っと…あっ、これ」
見せられた写真は…。
「これ!?これみんなに見せたの?」
恥ずかしい。
僕だって気付かれてなくても恥ずかしい。
それはキスしてるように見える、少しだけ触れたから実際はキスだけど…きっと事故だから…その時の写真。
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