20 / 47
第四章
01
しおりを挟む
今日も神社に来ていた。
聡史との再会から一年が経っていた。
もう自分の気持ちがわからない。
昨日は結局村越君と飲みに行った。僕は酔えないんだから良いと言うのに、『まあ、付き合え』って自分が飲みたいだけじゃないのか?いつも楽しそうに飲んでるからな。
最近は200段の階段がきついから車で社の傍まで来る。
「こんにちは」
ボーっとベンチに座って空を見ていたらおじいさんが声を掛けてきた。
「ああ、こんにちは。今日は日差しが暖かいですね」
四月はまだ肌寒い日が多く、木々が鬱蒼としているここは下界より少し気温が低い。
夏は涼しく感じるけど、今は寒い。
このおじいさんは大学の頃からたまにここで会う。挨拶を交わすだけの知り合いとも言えない人。名前も知らない。
就職して一年と少し、暇があればここに来る。
大抵が聡史と会ってしまった次の日。
ここではこのおじいさんとしか話したことはない。
200段の階段は相変わらずトレーニングに使われているけど、横から車で来ているからほぼ誰にも会わない。
「今日はあんたか?」
「…えっ…誰か他にもここに来る人がいるんですか?」
「ああ、兄ちゃんがいない時にたまにな。その兄ちゃんも同じようにそのベンチに座ってたよ。でも、最近は階段の下にいる時の方が多いかな」
まさかね。
「邪魔したな」とそのおじいさんは帰って行った。
高校の時に会ったことがなかったのは、ここに来る時間が違ったからだろう。二人で来ていた時も夕方に来ることが多かったと覚えている。
おじいさんは大雨の時以外毎日家から歩いてこの下まで来て、毎回階段を登り神社にお参りして階段で帰るそうだ。
僕も見習わないと。
体力落ち過ぎないうちに…。今度来る時は200段頑張ろうかな…。
「篤紀…」
「えっ…」
聡史が驚いた顔をしてそこに立っていた。息を切らしていて、今階段を駆け上がってきたのがわかる。
「どうして…ここに?」
さっきのおじいさんが言ってた『もう一人』は聡史だった?
そうではないかな…そうであって欲しいなと思ったけど…こんなに早く会ってしまうなんて…。
「ずっと、待ってた。篤紀…車で来てたのか?」
「うん」
「階段の下で待ってたんだ。ここだと砂利の音で篤紀が逃げてしまうかもしれないと思ったから…。
おじいさんに会っただろ?俺も会っててさ、ここで篤紀らしい人を何度も見たって言うから…。
今、階段の下で待ってたら、ベンチのとこに居るって聞いて」
「どうして…?」
「片想いの奴に会うんじゃないのか?」
怒った様子の聡史は少しずつ近づいてくる。
「それは…」
「俺じゃないのか?その相手って俺じゃないのか?…」
「えっ…っと」
そうだけど…。
「篤紀はメールでも、電話でも本音を言わない。高校の時だって本当のこと言わなかった!会って聞きたかったんだ。篤紀…俺は今も好きだよ…」
優しい腕が僕を包む。
でも、その力は弱くて、直ぐに解けてしまうくらい。
もっと強く抱きしめて欲しい。けど…あの時と同じ…僕からはその腕を振り解くことはできないけれど、聡史の背中に腕を回すことはできなかった。
「本当のこと教えて?篤紀の言葉で聞きたい」
「僕は…」
「うん」
言っても良いのかな?ここまで来てくれた。
いつも待っててくれた?
聡史との再会から一年が経っていた。
もう自分の気持ちがわからない。
昨日は結局村越君と飲みに行った。僕は酔えないんだから良いと言うのに、『まあ、付き合え』って自分が飲みたいだけじゃないのか?いつも楽しそうに飲んでるからな。
最近は200段の階段がきついから車で社の傍まで来る。
「こんにちは」
ボーっとベンチに座って空を見ていたらおじいさんが声を掛けてきた。
「ああ、こんにちは。今日は日差しが暖かいですね」
四月はまだ肌寒い日が多く、木々が鬱蒼としているここは下界より少し気温が低い。
夏は涼しく感じるけど、今は寒い。
このおじいさんは大学の頃からたまにここで会う。挨拶を交わすだけの知り合いとも言えない人。名前も知らない。
就職して一年と少し、暇があればここに来る。
大抵が聡史と会ってしまった次の日。
ここではこのおじいさんとしか話したことはない。
200段の階段は相変わらずトレーニングに使われているけど、横から車で来ているからほぼ誰にも会わない。
「今日はあんたか?」
「…えっ…誰か他にもここに来る人がいるんですか?」
「ああ、兄ちゃんがいない時にたまにな。その兄ちゃんも同じようにそのベンチに座ってたよ。でも、最近は階段の下にいる時の方が多いかな」
まさかね。
「邪魔したな」とそのおじいさんは帰って行った。
高校の時に会ったことがなかったのは、ここに来る時間が違ったからだろう。二人で来ていた時も夕方に来ることが多かったと覚えている。
おじいさんは大雨の時以外毎日家から歩いてこの下まで来て、毎回階段を登り神社にお参りして階段で帰るそうだ。
僕も見習わないと。
体力落ち過ぎないうちに…。今度来る時は200段頑張ろうかな…。
「篤紀…」
「えっ…」
聡史が驚いた顔をしてそこに立っていた。息を切らしていて、今階段を駆け上がってきたのがわかる。
「どうして…ここに?」
さっきのおじいさんが言ってた『もう一人』は聡史だった?
そうではないかな…そうであって欲しいなと思ったけど…こんなに早く会ってしまうなんて…。
「ずっと、待ってた。篤紀…車で来てたのか?」
「うん」
「階段の下で待ってたんだ。ここだと砂利の音で篤紀が逃げてしまうかもしれないと思ったから…。
おじいさんに会っただろ?俺も会っててさ、ここで篤紀らしい人を何度も見たって言うから…。
今、階段の下で待ってたら、ベンチのとこに居るって聞いて」
「どうして…?」
「片想いの奴に会うんじゃないのか?」
怒った様子の聡史は少しずつ近づいてくる。
「それは…」
「俺じゃないのか?その相手って俺じゃないのか?…」
「えっ…っと」
そうだけど…。
「篤紀はメールでも、電話でも本音を言わない。高校の時だって本当のこと言わなかった!会って聞きたかったんだ。篤紀…俺は今も好きだよ…」
優しい腕が僕を包む。
でも、その力は弱くて、直ぐに解けてしまうくらい。
もっと強く抱きしめて欲しい。けど…あの時と同じ…僕からはその腕を振り解くことはできないけれど、聡史の背中に腕を回すことはできなかった。
「本当のこと教えて?篤紀の言葉で聞きたい」
「僕は…」
「うん」
言っても良いのかな?ここまで来てくれた。
いつも待っててくれた?
4
あなたにおすすめの小説
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
エスポワールで会いましょう
茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。
じれじれ
ハッピーエンド
1ページの文字数少ないです
初投稿作品になります
2015年に他サイトにて公開しています
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる