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第四章
06
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「そうだよ。俺の事、ほんとに好きなのかなって、真剣じゃないのかなって…。松本に相談したこともあったよ」
「もしかしてさ…その時って…」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
「もう、我慢したり、遠慮したりしないの。素直な篤紀がいいんだからさ」
チュって触れた唇に勇気を貰って口にする。
「家に帰ってないのに『今帰った』って電話してきた時があった」
「それって、文化祭の準備してた時?」
「うん…そうかな。女子に連れ去られた時」
「連れ去られたって…あ~多分それかな。なんで家帰ってないって知って…もしかして、家の前で待っててくれた?」
「うん。それからは、一回も待ってないけど一度だけね」
「その時も聞いてくれたらよかったのに…まあ、嘘吐いた俺が悪いんだけどさ。お互いもう少し話し合えば良かったんだな。俺も不安だったからさ」
「そう言えば…」
「何?」
「『中谷由貴〈ゆき〉』って誰?」
「中谷は会社の同期だけど男だし、〈ゆき〉なんて可愛い名前じゃないしな…。他に中谷っていたかな?」
考え込んでる聡史に不安になる。
知らないって、嘘を突き通すのか?つい先日連絡してきた相手を知らない筈はない。
でもここで聞かなければまたすれ違いの原因になってしまう。そんなことはしたくない。
「前に居酒屋で会った時に電話とメールがあった人だけど」
携帯を出してロックを解除する。
直ぐそばにいるから自然とその指の動きは目に入る。そのパスコードは高校の時のままだった。
ドキンと心臓が跳ねた。
何だこれ?
嬉しすぎる。
「これ?」
見せられた着信履歴は『中谷由貴』だった。
「うん」
「これは『中谷由貴〈よしたか〉』だよ。男」
「えっ?そうなの?」
「電話してみよっか?男が出るから。ああ、メール見る?仕事の連絡だったと思う」
「ううん、良いよ」
さっきのパスコードで充分だ。
この五年間ずっと同じだったのかはわからない。けど、今が大事だ。そんな些細なことでも僕の気持ちは浮き沈みする。
抱きついて嬉しい気持ちを伝える。誤解したお詫びも込めて…。
「ありがとう」
「ん?どうした?」
「何でもない」
チュっと僕からキスをした。
聡史が僕を抱きしめる。
ベッドは二人で寝られるように大きなものが欲しいからと、取り合えずで布団を一つだけ持ってきたそうだ。
今は二人の下にある。
ラグもソファも、椅子さえないこのマンションに落ち着けるのはここだけだろうと、二人で並んで座ってた。
「今日は泊まれる?」
キスの合間に囁くような声で質問された。
耳からも愛撫されているようで全身に痺れが走る。
「んっ…ダメ」
「何がダメ?キスやめる?」
「ダ、ダメ止め、ないで。あっ…泊まれ、ないから」
「もっかい、言って」
「な、にを?」
「ほら、今、言ったこと」
その交わす言葉の間もキスは続く。深く、激しいキスではないけど、くすぐったいまでに優しく触れる唇にずっとこのままでいたくなる。
「泊まれ、ないって?」
「違うだろ」
聡史がキスを止めて、顔を覗き込む。
「や、キス止めないで」
思わず自分からたった今離れた距離を埋めた。その途端強く抱きしめられて耳に聡史の声が響く。
「そうやって、ずっと素直な篤紀でいて」
その日は、着替えもないしスーツを取りに戻るのもおかしな気がしたから家に帰った。
実はあのまま押し倒されてしまった。倒れた先は布団で、最初からそのつもりだったのか必要なものは直ぐそばにあって用意周到な聡史に笑ってしまった。
「もしかしてさ…その時って…」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
「もう、我慢したり、遠慮したりしないの。素直な篤紀がいいんだからさ」
チュって触れた唇に勇気を貰って口にする。
「家に帰ってないのに『今帰った』って電話してきた時があった」
「それって、文化祭の準備してた時?」
「うん…そうかな。女子に連れ去られた時」
「連れ去られたって…あ~多分それかな。なんで家帰ってないって知って…もしかして、家の前で待っててくれた?」
「うん。それからは、一回も待ってないけど一度だけね」
「その時も聞いてくれたらよかったのに…まあ、嘘吐いた俺が悪いんだけどさ。お互いもう少し話し合えば良かったんだな。俺も不安だったからさ」
「そう言えば…」
「何?」
「『中谷由貴〈ゆき〉』って誰?」
「中谷は会社の同期だけど男だし、〈ゆき〉なんて可愛い名前じゃないしな…。他に中谷っていたかな?」
考え込んでる聡史に不安になる。
知らないって、嘘を突き通すのか?つい先日連絡してきた相手を知らない筈はない。
でもここで聞かなければまたすれ違いの原因になってしまう。そんなことはしたくない。
「前に居酒屋で会った時に電話とメールがあった人だけど」
携帯を出してロックを解除する。
直ぐそばにいるから自然とその指の動きは目に入る。そのパスコードは高校の時のままだった。
ドキンと心臓が跳ねた。
何だこれ?
嬉しすぎる。
「これ?」
見せられた着信履歴は『中谷由貴』だった。
「うん」
「これは『中谷由貴〈よしたか〉』だよ。男」
「えっ?そうなの?」
「電話してみよっか?男が出るから。ああ、メール見る?仕事の連絡だったと思う」
「ううん、良いよ」
さっきのパスコードで充分だ。
この五年間ずっと同じだったのかはわからない。けど、今が大事だ。そんな些細なことでも僕の気持ちは浮き沈みする。
抱きついて嬉しい気持ちを伝える。誤解したお詫びも込めて…。
「ありがとう」
「ん?どうした?」
「何でもない」
チュっと僕からキスをした。
聡史が僕を抱きしめる。
ベッドは二人で寝られるように大きなものが欲しいからと、取り合えずで布団を一つだけ持ってきたそうだ。
今は二人の下にある。
ラグもソファも、椅子さえないこのマンションに落ち着けるのはここだけだろうと、二人で並んで座ってた。
「今日は泊まれる?」
キスの合間に囁くような声で質問された。
耳からも愛撫されているようで全身に痺れが走る。
「んっ…ダメ」
「何がダメ?キスやめる?」
「ダ、ダメ止め、ないで。あっ…泊まれ、ないから」
「もっかい、言って」
「な、にを?」
「ほら、今、言ったこと」
その交わす言葉の間もキスは続く。深く、激しいキスではないけど、くすぐったいまでに優しく触れる唇にずっとこのままでいたくなる。
「泊まれ、ないって?」
「違うだろ」
聡史がキスを止めて、顔を覗き込む。
「や、キス止めないで」
思わず自分からたった今離れた距離を埋めた。その途端強く抱きしめられて耳に聡史の声が響く。
「そうやって、ずっと素直な篤紀でいて」
その日は、着替えもないしスーツを取りに戻るのもおかしな気がしたから家に帰った。
実はあのまま押し倒されてしまった。倒れた先は布団で、最初からそのつもりだったのか必要なものは直ぐそばにあって用意周到な聡史に笑ってしまった。
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