視線の先

茉莉花 香乃

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第五章

01

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来週の日曜日に僕は聡史のマンションに引越す。

荷物は少しずつ運んでいたので、後は今の着替えと、母さんが家にあるから使ってと用意してくれたチェストを運ぶだけだ。

あれから家具や家電を買い揃えて、生活に必要な物はだいたい揃った。
僕が大学の時に使ってた扇風機や炬燵などの暖房器具はそのまま置いていたので使うことにした。他にも使えるものは持ち寄って出来るだけ出費を少なくしようと話し合った。

じゃないと聡史は何でも新しく買おうと言ってくる。

それこそお揃いのパジャマとか…。
うっ、それは僕もお揃いで着て一緒に寝たいけど…。





今日は買い物に来ている。

食品の買い物は後にして、食器や小物を見ようと店に入ったのだけど…。

「これは?」
「ダメ」
「あっ、これ、良いね。お揃いで買お」

マグカップを二つ持って、できる男の何とかって雑誌の特集で見たんだ、とはしゃいでる聡史は可愛いけど、就職して二年目の僕たちは出来るだけ節約しないといけない。
家電って結構高いんだ。
家具も質の良い物にすると高くなるので、リサイクルショップなども見て回った。

「ダメだよ。僕が使ってたのがあるからね」
「篤紀はしっかりしてる。良い奥さんになるな」

恥ずかしいこと言わないで欲しい。

耳元で囁かれると一気に熱が集まってしまい顔が赤くなる。大きな声で言わなかっただけマシなのか?

「篤紀、これは?」

今度はお茶碗を二つ持ってる。

それは…いわゆる夫婦茶碗というやつだ。一つは青を基調にした少し大きいもので、一つは赤を基調にした青よりは小さく、並べると成る程ペアだとわかる。

星のように散りばめた花の中にウサギが二羽描かれている。黒で描かれたウサギは寄り添っていてその姿は微笑ましい。
こんな趣味があったのかな?
もしこれを買ったとして…やっぱり僕は赤なんだろうか?

一つくらいは新しいお揃いの物を買いたいとは思ってたけど…これはどうなの?

「これ欲しいの?」
「おっ、良いのか?」
「いや、これはちょっと…だって僕がこっちだよね?」

赤い方を指差すと満面の笑顔だ。

「嫌?」
「嫌って言うか、変だよね?」
「じゃあ、俺がこっちでも良いけど?」

いやいや…

「それも変でしょ?同じので良いんじゃないの?」
「せっかく一緒に住むのに…きっと可愛いのに…せっかく奥さんになるのに…」

なんかブツブツ言ってるけど怖いからね。

「ウサギ好きなの?」
「いや、でも篤紀が好きかなって」

まあ、可愛いものは好きだけど。
淡い感じの絵も、黒で描かれたウサギが全体を引き締めているデザインもバランスが良くてこういうのは好きだけど。

僕の心が揺れ動いているのがわかって、もう一押しと思ったのか真剣な顔で言い募る。

「篤紀が青でも良いよ。でも可愛い篤紀が赤いのってぴったりだなって思うんだ。篤紀が作ってくれたご飯、これで食べたいな。絶対美味しいと思う」

どんだけ必死なんだと笑えてくる。
そんなにこれが欲しいのか?別に赤に抵抗があるわけじゃない。家の中に置いておくものだし、誰に見られることもない。

ただ、夫婦茶碗ってところが、引っかかる…って言うか、照れるって言うか。さっきから『奥さん』『奧さん』って言われて嬉しいってか恥ずかしいってか、もぞもぞする。

買う時もどんな顔して買うのか…。
あっ、プレゼント用にってラッピングして貰えば良いのか?僕が悶々と悩んでいると「良いんだな。やた!」とさっさと二つ持ってレジまで行ってしまった。

普通に買い物してるし、店員さんも別に何も言わない。
当たり前か?
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