視線の先

茉莉花 香乃

文字の大きさ
42 / 47
番外編ー4 岸井の満願成就

03

しおりを挟む
次の日の昼休み、安達先輩と慎二先輩と三人でまた第二体育館の裏。

「お前、またここかよ?」

安達先輩は不機嫌だ。

でも、俺は知ってる。朝一で謝りに行った。教室はまずいと思ったから、下駄箱で待った。
すると、ちょーご機嫌。口笛吹いてスキップしそう…いや、それはなかったけど、鼻歌歌ってた。歌が何かはわからなかったけど、これは今しかないと謝った。

「申し訳ございませんでした」

90度腰を折り丁寧に謝ると「おう、昼な」とスタスタと足早に靴を履き替え遠ざかる。
俺を見る目はそりゃ笑顔じゃなかったけど、ブチ切れ…でもなかった。

良いことあったんだ…。
そかそか…。
その方が俺にも都合が良いよな?

「グラウンドでも良かったけど、校舎からけっこう見えんぞ?何してるって佐々城が見たら気にするだろ?」
「ああ、まあな」
「あの…佐々城さんは?怒っておられますか?」
「篤紀はそんなことで怒ったりしないよ」

ありゃりゃ…呼び方まで変わってる。

「大体のことは松本に聞いた。お前本気?」
「はい!本気も本気」
「だってさ、松本。モテモテだな」
「俺は受けてない!」
「そうなのか?」
「あ、当たり前だろ?岸井だぞ?」
「あっ?なんすか、それ?俺以外なら男もOKみたいな…?」

そりゃないよ…気持ちが沈んでしまう。



安達先輩は俺が佐々城さんに近づかないと約束したら許してくれた。佐々城さんの希望だそうだ。
佐々城さんは怒ってないらしいです。

良い人です。
そんな良い人を…俺はバカだった。

謝りたいと言ったら、それは安達先輩から却下された。怒ってはないけど佐々城さんが俺に会って嫌なこと思い出したらかわいそう…安達先輩はあくまで佐々城さんLOVEなのだ。

俺は慎二先輩LOVE。

もし直接会って謝らせてもらって、また会っても良いよって言ってもらえたらさ、四人でダブルデートなんて良いと思わない?

ぐふふっ…。
ジュルっと唾を飲み込んでたら慎二先輩が睨んでくる。

安達先輩は先に教室に戻り今は二人きり。慎二先輩も一緒に帰ろうとしたのを腕を掴んで残ってもらった。

「先輩…ダメですか?大切にします」
「俺は勉強、岸井はサッカー、それぞれすることがあるだろう?」
「そんな…じゃあ、先輩が大学入って、俺が来年の夏の大会頑張ったら…」

ダメだ。
程良い緩さの我が部は、俺が一人息巻いてもどうにかなるものでもない。全国出場なんて夢のまた夢。いや、地区大会さえどれだけ行けるかわからねぇのに…。

うな垂れて深く、地底深く埋もれてしまいそうになってるのに慎二先輩は笑ってる。

「な、何笑ってくれちゃってんですか?」

涙が出てきて慎二先輩の顔が見られない。

「お前、必死なのな」

ククッと笑い俺の頭を小突く。

「正直さ、岸井と付き合うとか全然考えてなかったからさ。昨日聞いてからも、まあちょっとは考えてみたけどよ…。やっぱ、ないな…」
「えっ!」
「最後まで聞けよ」
「…はい」
「まあ、今はな…俺も今のままじゃヤバイからさ…大学。余計なこと考えたくないんだわ。また、練習にも行くからさ」
「じゃあ…保留ってこと?」

考えてくれるってこと?

「期待するなよ?」

いや、期待するよ!でもここでごねても先輩の返事が変わるわけないし、もしかしたらじゃあ、ってすっぱりと『ごめんなさい』って断られたら嫌だ。

「わかりました。もう教室行けないから…先輩、また練習来てくださいね」

失敗したな…あんなことしなければ、会いに行けたのに…。
携帯の連絡先は知ってる。

「先輩、携帯に連絡入れて良いっすか?」
「おう、ラインな。お前、間違って部のグループに俺宛の入れるんじゃないぞ?なんか怖そう…」

あ~…居たなそんな失敗した奴。
なぜ間違えるか不明だが、愛の告白を部のグループに乗っけやがった。一斉に攻撃されてたな…。相手の名前がわからなかったから噂は広がらなかったけど、しばらくからかわれてた。

「わかりました。先輩だけに愛のあるやつを送ります」
「いや、愛はなくていい。ほら、戻るぞ」
「はい!」

まあ、完全拒絶じゃなかったことを喜ばなきゃだな。
まだチャンスはあるんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。 じれじれ ハッピーエンド 1ページの文字数少ないです 初投稿作品になります 2015年に他サイトにて公開しています

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...