視線の先

茉莉花 香乃

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番外編ー5 篤紀の酔っ払い記念日

02

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「ここにしようか?」

春の穏やかな太陽が降り注ぎ、心地よい風が吹く公園で芝生にシートを敷く。
まだ少し肌寒いけど上着を厚めのものにしたから大丈夫だろ。

近くに家族連れがいるから手を繋ぐこともできない。
一緒の弁当箱を突く俺たちはどう見えているだろうか?

「聡史、はい」

そんなこと気にしてないのか、持って来た皿に俺の分を取り分けてくれる。

「ありがと」

お箸とお皿を俺に渡し、今度はお茶の用意をする。甲斐甲斐しく世話をやく篤紀はすごく楽しそうだ。

自然に見えるように耳元で囁く。小さな篤紀にだけ聞こえる声。

「楽しそうだね?」
「うん。一度こうしてみたかったんだ」

一緒に住み始めて一年、二人でいろんなとこに行ったけどお弁当は始めてだ。いつもより美味しく感じるのは外で食べるってだけじゃない。

いつもと違う気遣いに、嬉しそうな篤紀に俺はメロメロだ。

「いつもごめんね」

食べ終わり、今度はコーヒーの準備をする。
ブラックコーヒーが飲めない篤紀はそう言って謝る。水筒に家で淹れたコーヒーを入れて持って来てくれる。
篤紀はカフェオレにすると砂糖なしでも飲める。
最初は砂糖とミルクを持ってこようとしてた。でも、外や車の中では煩わしいんじゃないかと思ったから準備が面倒じゃないならカフェオレにしてと言ったんだ。

そんなに謝ることないのに。

「はい、コーヒー」

普段からコーヒーには何も入れないけど、甘すぎる缶コーヒーでも飲むんだ。だから、篤紀が用意してくれたコーヒーは最高なんだ。

「美味しいよ」
「そう?ありがと」
「あー、やっぱり」

指をさしながら岸井が歩いてくる。その後ろに松本もいる。

「何二人で寛いでるんすか?俺たちもまぜてくださいよ」
「お前…」
「お弁当、もう残ってないんすか?」
「ない!残ってても、岸井に食べさせるつもりもない」
「車があったから、二人で来てると思ったんだ。邪魔するなって言ったのに」

松本が申し訳なさそうに篤紀に謝ってる。
俺にも謝れよ。

「あっ、いつものコーヒーっすね?」
「飲む?」

優しい篤紀は岸井にも優しい。

「はい!」

篤紀は食べ終わった弁当を片付けて、二人が座れるスペースを作る。

良いんだよ。
芝生に座らせとけば。

いや待て…膝に乗せられなくても、自然に俺のすぐ近くに座らせることができるんじゃない?

「お前、考えが顔に出まくってる。俺たちは邪魔なのか?邪魔じゃないのか?」
「邪魔じゃない!」
「素直だな」

そんな俺の考えをよそに、二人にコーヒーを入れる篤紀にくっ付くくらい近くに座る。

「聡史?」
「ほら、みんなで座ると狭いからくっ付かないとはみ出すよ?」
「おお!じゃあ、先輩は俺の膝の上に!」

ベシッと岸井の頭を叩き、心なしか顔が赤い松本は無視だ。

「あざっす」
「いつも、悪いな」

コーヒーを受け取り、上機嫌の岸井と照れる松本。
気持ち悪い。

「もう、時間か?」

篤紀と過ごすと時間があっという間に経ってしまう。

「いや、大丈夫だ。あと、一時間」
「そか」

篤紀の膝枕で昼寝したいな。
近寄った時に触れた右膝と右肩。後ろには誰もいないからそっと手を回して腰を抱く。
ピクってなったけど、怒らずにしたいようにさせてくれる。


練習はいつもと同じ。
篤紀の他にも何人かが見てる。彼女とか、結婚してる人は奥さんもたまに見にくる。

篤紀は女の中にいても、嫌がらずに俺を応援してくれてる。

俺たちの関係は、最初篤紀を連れて来た時にごく親しい先輩には話した。驚いてたけど、お前もか?とか言われただけだった。
その先輩が他の人にどんなふうに言ったのかは知らないけど、嫌悪するでもなく冷やかすこともない。

大学の時から割とおおっぴらに振舞ってた岸井のお陰か?松本は可哀想だったけどな。顔、赤くしたり青くしたり。

練習が終わると、新卒のメンバーが加わったから今日は歓迎会がある。

レンタルコートは時間で料金が発生するから長時間は借りられない。

飲むにはまだ早い時間なので一旦解散して、夕方六時に集合する。

マンションに帰りシャワー浴びる。

篤紀の手を引っ張って一緒に入る。抱きしめて、キスして髪に指を絡ませる。
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