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別れても好きな人
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次の日も昼休みに弁当持ってやって来た。
勘違いしそうになる。
違うから。
これは同情。直輝が優しいから。
…いや、残酷なのか?
いっそ嫌いになれたら良いのに。ますます好きになる。同じ学校に通う間は、なかなか忘れることはできないだろうな…何て思ってたのに。こんなの辛い。
「もう良いよ?僕は一人で食べるから。財前と食べてきたら?」
これ以上優しくしないで欲しい。同じクラスってだけで辛いのに、これじゃ拷問だ。甘い、心をギュッと押しつぶすほどの優しさ。
彼女がいるのに。元カレにお情け?別れた翌日に噂を聞いた。それはつまり、重なっていたと言うことなのだろう。それに文句を言える立場になかった。最初から彼女ができるまでとわかっていたこと。ちゃんと別れてくれたじゃないか。のらりくらりと身体だけを求められたって、僕が拒めるはずはない。まだ、はっきりと言葉にされた方が諦めがつく。実際、諦めきれていないから辛いのだけど、その心算はできるはすだった。それが、どうだ。どうしてと聞くことさえ許されないなんて。
「ヨシは食堂行ったよ?安村はヨシと食べたかった?」
「そ、そんなことないし!」
「なんか、ムキになってる?怪しいな」
「……何言って…」
「ごめん、ごめん」
全然悪いと思っていない謝罪の言葉はその真意さえもわからない。直輝からの接触がクラスメイトにどう映るのか、気にしてキョロキョロしてみるけれど、奇異なものを見る目はなかった。そりゃそうか、直輝だし。僕が相手だってとこが変なだけで…、直輝だし。
「あれ、どうなった?」
直輝の言う『あれ』とは、二人だけの秘密の話題ではない。僕が悩んでいることを知っているのは、散々愚痴っていたからではあるけれど、クラスメイトなら誰でも知っていることだった。
今学校では、文化祭の準備に追われる日が続いている。二学期のイベントの一つだ。
「ダメ。全然聞いてくれない」
「やっちゃえば?」
「そんな無責任な…」
文化祭で、僕たちのクラスは『猫カフェ』をすることになった。一般的には本物の猫がお客を癒す空間であるけれど、生憎本物の猫を連れてくることはできない。
猫耳と尻尾を付けて接客するのだが、やりたい奴がやれば良いと反対する声は少なかった。僕もその一人。裏方で、その時は何を提供するか決まってなかったけれど…コーヒー淹れてりゃ良いよねと気軽に考えてた。
直輝や財前など、見目のいい男子と可愛い女子が猫耳つければ、僕にお鉢が回ってくることはないと高を括っていた。
案の定、僕は裏方に決まり順調に準備は進んでいた。
ところが接客係の女子の一人が事故に遭い、足の骨を折った。一昨日に退院したけれど、当日トレイを持って動くことは難しい。そこで誰か代わりの人を決めなくてはならない。
そして、僕に白羽の矢が当たった。どうしてと文句を言う僕を、有無を言わさず実行委員長の名の下に財前は決めたからと宣った。
直輝たち男子と同じようにギャルソンエプロンと頭上の猫耳だけなら僕もこんなに悩まないし、いやいや言うことはない。クラスで決まったことだ。反対はしなかったし、従うよ。
でも、でも!
その女子が着るはずだったメイド服を着ろと言うんだ。そりゃ、ごねるでしょ。
それが約二週間前。文化祭は今週末の金曜日と土曜日。ちなみに今日は水曜日なので、明後日のこと。今更ごねても仕方ないけど、悪足掻きはしたい。僕は追い詰められている。おまけに失恋で大打撃。学校に来てるだけで褒めて欲しいよ。
決まった直後、直樹はフォローするからと宥めてくれた。でも、その事は二の足を踏む理由の一つだった。その時はまだ付き合っていて、直輝とみんなの前で普通に話せるとは考えられなかった。まさか別れてからこんなに普通の会話をするとは思わなかった。
男同士の付き合いってこんななの?僕にとって直輝は何もかも初めての相手。だから他の誰かのことなんて知らない。
今までと変わりのない直輝に、もともと好かれていなかったとわかりますます心は塞ぐ。
「一緒のシフトにしてもらうから」
「……でも」
「凄く似合ってたよ?」
メイド服を無理やり着せられた時、直樹もその輪の中にいた。
『ほら、安村、ぴったりだよ!』
女子の嬉々とした声が蘇る。
レースとフリルがふんだんに使われたエプロンドレス。ニーハイソックスは窮屈で、ペチコートはモゾモゾする。
女子に着せろと言ったが、逆シンデレラのような真似を残りの女子にさせるのかと怒られた。女子だって全員がメイド服を着たいわけでもない。そして、その怪我をした子はかなり細めでそれが着られる、着られないで決めたら可哀想だと言うのだ。
予算を再び衣装で使うことはできないと言われた。
じゃあ、僕は可哀想じゃないのか?
勘違いしそうになる。
違うから。
これは同情。直輝が優しいから。
…いや、残酷なのか?
いっそ嫌いになれたら良いのに。ますます好きになる。同じ学校に通う間は、なかなか忘れることはできないだろうな…何て思ってたのに。こんなの辛い。
「もう良いよ?僕は一人で食べるから。財前と食べてきたら?」
これ以上優しくしないで欲しい。同じクラスってだけで辛いのに、これじゃ拷問だ。甘い、心をギュッと押しつぶすほどの優しさ。
彼女がいるのに。元カレにお情け?別れた翌日に噂を聞いた。それはつまり、重なっていたと言うことなのだろう。それに文句を言える立場になかった。最初から彼女ができるまでとわかっていたこと。ちゃんと別れてくれたじゃないか。のらりくらりと身体だけを求められたって、僕が拒めるはずはない。まだ、はっきりと言葉にされた方が諦めがつく。実際、諦めきれていないから辛いのだけど、その心算はできるはすだった。それが、どうだ。どうしてと聞くことさえ許されないなんて。
「ヨシは食堂行ったよ?安村はヨシと食べたかった?」
「そ、そんなことないし!」
「なんか、ムキになってる?怪しいな」
「……何言って…」
「ごめん、ごめん」
全然悪いと思っていない謝罪の言葉はその真意さえもわからない。直輝からの接触がクラスメイトにどう映るのか、気にしてキョロキョロしてみるけれど、奇異なものを見る目はなかった。そりゃそうか、直輝だし。僕が相手だってとこが変なだけで…、直輝だし。
「あれ、どうなった?」
直輝の言う『あれ』とは、二人だけの秘密の話題ではない。僕が悩んでいることを知っているのは、散々愚痴っていたからではあるけれど、クラスメイトなら誰でも知っていることだった。
今学校では、文化祭の準備に追われる日が続いている。二学期のイベントの一つだ。
「ダメ。全然聞いてくれない」
「やっちゃえば?」
「そんな無責任な…」
文化祭で、僕たちのクラスは『猫カフェ』をすることになった。一般的には本物の猫がお客を癒す空間であるけれど、生憎本物の猫を連れてくることはできない。
猫耳と尻尾を付けて接客するのだが、やりたい奴がやれば良いと反対する声は少なかった。僕もその一人。裏方で、その時は何を提供するか決まってなかったけれど…コーヒー淹れてりゃ良いよねと気軽に考えてた。
直輝や財前など、見目のいい男子と可愛い女子が猫耳つければ、僕にお鉢が回ってくることはないと高を括っていた。
案の定、僕は裏方に決まり順調に準備は進んでいた。
ところが接客係の女子の一人が事故に遭い、足の骨を折った。一昨日に退院したけれど、当日トレイを持って動くことは難しい。そこで誰か代わりの人を決めなくてはならない。
そして、僕に白羽の矢が当たった。どうしてと文句を言う僕を、有無を言わさず実行委員長の名の下に財前は決めたからと宣った。
直輝たち男子と同じようにギャルソンエプロンと頭上の猫耳だけなら僕もこんなに悩まないし、いやいや言うことはない。クラスで決まったことだ。反対はしなかったし、従うよ。
でも、でも!
その女子が着るはずだったメイド服を着ろと言うんだ。そりゃ、ごねるでしょ。
それが約二週間前。文化祭は今週末の金曜日と土曜日。ちなみに今日は水曜日なので、明後日のこと。今更ごねても仕方ないけど、悪足掻きはしたい。僕は追い詰められている。おまけに失恋で大打撃。学校に来てるだけで褒めて欲しいよ。
決まった直後、直樹はフォローするからと宥めてくれた。でも、その事は二の足を踏む理由の一つだった。その時はまだ付き合っていて、直輝とみんなの前で普通に話せるとは考えられなかった。まさか別れてからこんなに普通の会話をするとは思わなかった。
男同士の付き合いってこんななの?僕にとって直輝は何もかも初めての相手。だから他の誰かのことなんて知らない。
今までと変わりのない直輝に、もともと好かれていなかったとわかりますます心は塞ぐ。
「一緒のシフトにしてもらうから」
「……でも」
「凄く似合ってたよ?」
メイド服を無理やり着せられた時、直樹もその輪の中にいた。
『ほら、安村、ぴったりだよ!』
女子の嬉々とした声が蘇る。
レースとフリルがふんだんに使われたエプロンドレス。ニーハイソックスは窮屈で、ペチコートはモゾモゾする。
女子に着せろと言ったが、逆シンデレラのような真似を残りの女子にさせるのかと怒られた。女子だって全員がメイド服を着たいわけでもない。そして、その怪我をした子はかなり細めでそれが着られる、着られないで決めたら可哀想だと言うのだ。
予算を再び衣装で使うことはできないと言われた。
じゃあ、僕は可哀想じゃないのか?
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