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告白ゲーム
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さっき、通り過ぎるのを確認したはずなのに…。そこに寺本が居たかは知らない……。騒がしい集団をチラリと見ただけ。
「ど、どうしたの?」
「佐久間は?忘れ物?」
「うん。弁当箱」
「ああ、それか?」
僕の右手にぶら下がる巾着袋を指差す。
「寺本くんは?」
「ん?俺も忘れ物」
「そうなんだ。じゃあね」
ドキドキする。
僕に会いに来たんじゃないかって焦った。先ほどの会話から、いずれ告白されるとわかっていてもまだ早いだろ。数分前に決まったことなのに。僕が教室にいるのは偶然で、寺本がここにいるのも偶然なんだから。
「あのさ…」
「な、何?」
寺本とはほとんどしゃべったことはない。僕は友だちは少なく、クラスの中でも目立つ存在の寺本とは接点がない。
立ち止まった僕の前まで来て見下ろすイケメン。ドキン。好きな人を目の前にして、それも二人きりで、こんな経験ないからどうしていいかわからない。
「俺、怖い?」
「へっ?」
「何か、震えてる」
パッと両腕を、自分を抱きしめるように支えた。
震えてたよ。
「そん、な、ことない」
強がりを言ってみる。
「ははっ…まぁ、可愛いから、いいけど」
「か、可愛くない」
「可愛いよ。佐久間、好きなんだ。付き合ってくれない?」
「えっ?」
もうですか?
いきなりですか?
心の準備をさせて下さい。
寺本は僕を真っ直ぐに見て、本気で告白しているように見える。凄い演技力。そう言えば、『樹に告られたら誰でもオッケーする!』って誰かが言ってた。こんなイケメンに真剣に告白されたら女子は喜ぶだろ。かくいう僕も、嘘だとわかっていても心の奥底では喜んでいる。
ここはお断りでいいんじゃなかろうか?
それが普通の結果だ。そりゃそうだよなで終わる。男の僕なら実はゲームで…ってネタバラシをしても笑い話だ。そうしたら僕も、なんだそうなのか、びっくりした…で終わる。誰が僕の名前を書いたかは気になるけど、寺本が僕の名前を引いてくれたのは僕にとってはラッキーだ。他の四人なら泣いてたかも。こんな真剣な顔を目の前で見られた。
「ごめん。無理」
絞り出すようにそれだけ言った。
「もうちょっと、考えてくれないか?今の返事は聞かなかったことにする。明日、もう一度…。ね?頼むよ」
「そんな…」
拝むように両手を合わし頼まれても…。そんなに負けるのが嫌なのか?これは男のプライドなのか?男と付き合うことの方が、ゲームに勝つってプライドよりも下になるのか?男と付き合うことがそんなに簡単なことなのか?今まで散々悩んだ僕を、嘲笑うかのようなこの行動力。
それでも、明日も二人きりで話せるという幸せを選んでしまった僕は、寺本と別れ家に帰った。
ああっ!やっぱり断れば良かった。
勉強も手に付かず、夕飯も喉を通らず、お風呂で溺れかけた。真っ赤な顔をして頭を拭いてると、母さんが心配する。寝れば治るからと、水だけ飲んで自室に籠もった。
どうして断ったのに…と何回も頭をグルグルと回る疑問をまた考える。
一ヶ月付き合って…そしたら…寺本はゲームに勝つ。それまで…それまでならいいかな?
一ヶ月経った時に、僕の方からカラクリを…僕が知っていたと打ち明ければ、寺本と付き合ってたとあの四人にからかわれることはないはずだ。最初から知っていたと…そんなことすればゲームが成立しないと言われても僕には関係ない。最初からこんなゲームは僕には関係ないことだ。寺本が僕を利用するなら僕も利用すればいい。
伝えることなく終わるはずだった僕のやり場のない気持ちを、昇華できるだろうか?もしかしたら、もっと辛いことになるかもしれない。それでも…それでも話すことすらできなかった二年半を、良い思い出に変えられるだろうか?
なんの起伏もない高校生活が急に直滑降のコースに様変わりする。この先は谷底だ。落ちてしまえば這い上がることはできないかもしれない。でも、いくら頑張っても前にも後ろにも行けなかった今までと比べたら、それもアリなんじゃないかと思った。谷底にも何かがあるかもしれないし、高校を卒業すればリセットされるだろう。
「ど、どうしたの?」
「佐久間は?忘れ物?」
「うん。弁当箱」
「ああ、それか?」
僕の右手にぶら下がる巾着袋を指差す。
「寺本くんは?」
「ん?俺も忘れ物」
「そうなんだ。じゃあね」
ドキドキする。
僕に会いに来たんじゃないかって焦った。先ほどの会話から、いずれ告白されるとわかっていてもまだ早いだろ。数分前に決まったことなのに。僕が教室にいるのは偶然で、寺本がここにいるのも偶然なんだから。
「あのさ…」
「な、何?」
寺本とはほとんどしゃべったことはない。僕は友だちは少なく、クラスの中でも目立つ存在の寺本とは接点がない。
立ち止まった僕の前まで来て見下ろすイケメン。ドキン。好きな人を目の前にして、それも二人きりで、こんな経験ないからどうしていいかわからない。
「俺、怖い?」
「へっ?」
「何か、震えてる」
パッと両腕を、自分を抱きしめるように支えた。
震えてたよ。
「そん、な、ことない」
強がりを言ってみる。
「ははっ…まぁ、可愛いから、いいけど」
「か、可愛くない」
「可愛いよ。佐久間、好きなんだ。付き合ってくれない?」
「えっ?」
もうですか?
いきなりですか?
心の準備をさせて下さい。
寺本は僕を真っ直ぐに見て、本気で告白しているように見える。凄い演技力。そう言えば、『樹に告られたら誰でもオッケーする!』って誰かが言ってた。こんなイケメンに真剣に告白されたら女子は喜ぶだろ。かくいう僕も、嘘だとわかっていても心の奥底では喜んでいる。
ここはお断りでいいんじゃなかろうか?
それが普通の結果だ。そりゃそうだよなで終わる。男の僕なら実はゲームで…ってネタバラシをしても笑い話だ。そうしたら僕も、なんだそうなのか、びっくりした…で終わる。誰が僕の名前を書いたかは気になるけど、寺本が僕の名前を引いてくれたのは僕にとってはラッキーだ。他の四人なら泣いてたかも。こんな真剣な顔を目の前で見られた。
「ごめん。無理」
絞り出すようにそれだけ言った。
「もうちょっと、考えてくれないか?今の返事は聞かなかったことにする。明日、もう一度…。ね?頼むよ」
「そんな…」
拝むように両手を合わし頼まれても…。そんなに負けるのが嫌なのか?これは男のプライドなのか?男と付き合うことの方が、ゲームに勝つってプライドよりも下になるのか?男と付き合うことがそんなに簡単なことなのか?今まで散々悩んだ僕を、嘲笑うかのようなこの行動力。
それでも、明日も二人きりで話せるという幸せを選んでしまった僕は、寺本と別れ家に帰った。
ああっ!やっぱり断れば良かった。
勉強も手に付かず、夕飯も喉を通らず、お風呂で溺れかけた。真っ赤な顔をして頭を拭いてると、母さんが心配する。寝れば治るからと、水だけ飲んで自室に籠もった。
どうして断ったのに…と何回も頭をグルグルと回る疑問をまた考える。
一ヶ月付き合って…そしたら…寺本はゲームに勝つ。それまで…それまでならいいかな?
一ヶ月経った時に、僕の方からカラクリを…僕が知っていたと打ち明ければ、寺本と付き合ってたとあの四人にからかわれることはないはずだ。最初から知っていたと…そんなことすればゲームが成立しないと言われても僕には関係ない。最初からこんなゲームは僕には関係ないことだ。寺本が僕を利用するなら僕も利用すればいい。
伝えることなく終わるはずだった僕のやり場のない気持ちを、昇華できるだろうか?もしかしたら、もっと辛いことになるかもしれない。それでも…それでも話すことすらできなかった二年半を、良い思い出に変えられるだろうか?
なんの起伏もない高校生活が急に直滑降のコースに様変わりする。この先は谷底だ。落ちてしまえば這い上がることはできないかもしれない。でも、いくら頑張っても前にも後ろにも行けなかった今までと比べたら、それもアリなんじゃないかと思った。谷底にも何かがあるかもしれないし、高校を卒業すればリセットされるだろう。
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