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第一章
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「失礼します」
コンコンとノックして扉を開けた。
生徒会室の前まで担任と来た。ここだよ、と案内してくれた先生は三十歳くらいの爽やかなイケメンさんだ。学校の先生というよりショップの店員さんのようだ。嫌味なくポケットチーフを覗かせ、お洒落にスーツを着こなしている。
僕は今日から私立徳沙音高校に転入する。
高校二年生でここに入る生徒は珍しいらしく学校の説明を聞いた後、生徒会に顔を出すように言われた。場所がわからないから、あちこちを案内されながら最上階の七階にあるこの生徒会室まで連れてきてもらった。
春休み中なのであまり生徒は見かけなかったけど、先生を見て手を振る子や僕をジロジロと見る子がいた。説明されながら歩いて階段を上がるのは体力的って言うより気持ちの方が疲れてしまった。
今日は四月一日。一つ下の子の入学式はまだだけど、この私立徳沙音高校は私立徳沙音中学から持ち上がりの子が殆どで、高校から入る子は年に十人程度しかいないため、形だけの入学式らしい。
「ああ、今日から入る人だよね?あっ、先生、後はこちらで寮まで案内しますので…」
中にいた人は忙しそうに大きな机に書類をいっぱい広げて作業を続ける。先生をチラリと見ただけで立とうともしなかった。
「そう?じゃ、お願いしちゃおうかな」
そんな態度に怒るでもなく、笑顔のまま僕の肩をポンポンと叩いた。先生も忙しいのだろう。本当ならしなくていい仕事だ。
「あの…ありがとうございました」
先生にお辞儀をして礼を言う。
「ああ、授業はまだだけど、まずは寮になれないとね。何かあったら連絡しなさいね。連絡方法とかも教えてくれると思うからさ。色々と気を付けるんだよ。じゃ、よろしくね」
気を付けろとそこだけ僕にしか聞こえない小さな声で言って、部屋の中の人に軽く手を挙げて帰っていった。中の人が見ているかは不明だ。
「よろしくお願いします」
一歩中に入ると、ホテルの最上階のようなふかふかの絨毯は靴音などしない。
窓からは春の穏やかな日差しが降り注ぐ。この学校は山沿いにあるため、七階のこの部屋からも桜の木が見える。まだ蕾のほうが多いけれど薄っすらとピンクに色づきかけた桜は満開になったらさぞかし綺麗だろう。
掃除の行き届いた広い部屋の中は四人掛けのソファーが対になっていて、ガラスのテーブルは指紋の一つも付いていないようなピカピカに磨かれている。
部屋の隅には今日は何かの式典があったのかと思うような豪華な壺にこれまた豪華な花が入ってた。大きな机の上にも小さな花瓶に可愛くアレンジされた花があり、壁には絵が飾られていて、とても生徒のための部屋とは思えない。
その広い部屋に、今は一人しかいなかった。
誰だろう?
「そこ、座って」
座り心地が良さそうな、高級感のある落ち着いた印象の、大きな椅子に座っていた人がソファーに座れと指差した。
顔を見て固まった。
似ている。
あの子が大きくなったらこんな感じかな…。でも、違うだろう。こんなとこに居るわけない。いくら地元だからって、ここにはいないだろう。
カチンと固まって動けない僕に少しイラっとした感じで椅子から立ち上がった。
「緊張してるのか?」
「あっ、いえ…」
「俺も二年だから、同い年だしそんなに固まるなよ。まあ、廊下や教室で俺に話しかけない方が良いかもだけど」
どう言うことだろう?
ああ、気安く話しかけるなよと言われたのか?そんな持って回った言い方しなくても良いのに。
別にわざわざ目立つことはしたくない。生徒会役員なんてきっと人気もあるだろうし、この人はイケメンなのできっと友だちも多いだろう。そんな華やかな人の近くには行かないほうが良い。転入生ってだけで目立ちそうなのにさ。
コンコンとノックして扉を開けた。
生徒会室の前まで担任と来た。ここだよ、と案内してくれた先生は三十歳くらいの爽やかなイケメンさんだ。学校の先生というよりショップの店員さんのようだ。嫌味なくポケットチーフを覗かせ、お洒落にスーツを着こなしている。
僕は今日から私立徳沙音高校に転入する。
高校二年生でここに入る生徒は珍しいらしく学校の説明を聞いた後、生徒会に顔を出すように言われた。場所がわからないから、あちこちを案内されながら最上階の七階にあるこの生徒会室まで連れてきてもらった。
春休み中なのであまり生徒は見かけなかったけど、先生を見て手を振る子や僕をジロジロと見る子がいた。説明されながら歩いて階段を上がるのは体力的って言うより気持ちの方が疲れてしまった。
今日は四月一日。一つ下の子の入学式はまだだけど、この私立徳沙音高校は私立徳沙音中学から持ち上がりの子が殆どで、高校から入る子は年に十人程度しかいないため、形だけの入学式らしい。
「ああ、今日から入る人だよね?あっ、先生、後はこちらで寮まで案内しますので…」
中にいた人は忙しそうに大きな机に書類をいっぱい広げて作業を続ける。先生をチラリと見ただけで立とうともしなかった。
「そう?じゃ、お願いしちゃおうかな」
そんな態度に怒るでもなく、笑顔のまま僕の肩をポンポンと叩いた。先生も忙しいのだろう。本当ならしなくていい仕事だ。
「あの…ありがとうございました」
先生にお辞儀をして礼を言う。
「ああ、授業はまだだけど、まずは寮になれないとね。何かあったら連絡しなさいね。連絡方法とかも教えてくれると思うからさ。色々と気を付けるんだよ。じゃ、よろしくね」
気を付けろとそこだけ僕にしか聞こえない小さな声で言って、部屋の中の人に軽く手を挙げて帰っていった。中の人が見ているかは不明だ。
「よろしくお願いします」
一歩中に入ると、ホテルの最上階のようなふかふかの絨毯は靴音などしない。
窓からは春の穏やかな日差しが降り注ぐ。この学校は山沿いにあるため、七階のこの部屋からも桜の木が見える。まだ蕾のほうが多いけれど薄っすらとピンクに色づきかけた桜は満開になったらさぞかし綺麗だろう。
掃除の行き届いた広い部屋の中は四人掛けのソファーが対になっていて、ガラスのテーブルは指紋の一つも付いていないようなピカピカに磨かれている。
部屋の隅には今日は何かの式典があったのかと思うような豪華な壺にこれまた豪華な花が入ってた。大きな机の上にも小さな花瓶に可愛くアレンジされた花があり、壁には絵が飾られていて、とても生徒のための部屋とは思えない。
その広い部屋に、今は一人しかいなかった。
誰だろう?
「そこ、座って」
座り心地が良さそうな、高級感のある落ち着いた印象の、大きな椅子に座っていた人がソファーに座れと指差した。
顔を見て固まった。
似ている。
あの子が大きくなったらこんな感じかな…。でも、違うだろう。こんなとこに居るわけない。いくら地元だからって、ここにはいないだろう。
カチンと固まって動けない僕に少しイラっとした感じで椅子から立ち上がった。
「緊張してるのか?」
「あっ、いえ…」
「俺も二年だから、同い年だしそんなに固まるなよ。まあ、廊下や教室で俺に話しかけない方が良いかもだけど」
どう言うことだろう?
ああ、気安く話しかけるなよと言われたのか?そんな持って回った言い方しなくても良いのに。
別にわざわざ目立つことはしたくない。生徒会役員なんてきっと人気もあるだろうし、この人はイケメンなのできっと友だちも多いだろう。そんな華やかな人の近くには行かないほうが良い。転入生ってだけで目立ちそうなのにさ。
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