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第三章
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「た、高倉さん!」
「何?」
フォークを持ったまま、次はポテトを食べようと手を伸ばすのに慌てる。フォークを取り返し、紙ナプキンで拭いた。
「俺の食べた後は、嫌なの?」
「嫌とかじゃなくて…周りを見てください。凄い、睨まれてるんですから。フォーク、新しくもらってきた方がいいかな…」
どうしようかと顔を上げるとやはり睨んでる人の視線が怖い。やっぱり、取ってこよ。フォークを持って戻っても高倉さんはまだ座ってて、先ほど食べたそうにしていたポテトを美味しそうに食べていた。
「今日は尾崎さんは一緒じゃないんですか?」
「碧は泰基が好きなの?」
「どうしてそうなるんですか?」
諦めのため息をつき定食のトレイを高倉さんの前に置く。せっかくフォークをもらってきたけど、僕がこれ以上これを一緒に食べれば何をされるかわからない。
「食べさせて欲しいの?」
「ち、違いますよ」
ハンバーグを小さく切り分けアーンと僕に差し出す。するとまた悲鳴。
「高倉さん…僕、部屋に帰ります。これ、食べといてください」
差し出されたハンバーグを無視して、席を立とうとしたら手を握られた。
「なっ!やめてください」
あまり大きな声を出すとギャラリーを余計に刺激してしまう。手を掴まれたことは、それはそれでダメだけど、払いのけるのもダメな気がする。
「碧、座って?」
僕だけにしか聞こえないだろう小さな声で、座らないとここでキスするよ?と恐ろしいことを言われ慌てて座った。
「ちょっと、話しようよ」
「ここでは無理ですって」
「じゃあ、俺の部屋行く?」
「や、無理です」
「それじゃあ、碧の部屋に行く?」
「いやいや、それもダメでしょ?」
「碧は俺と話したくない?」
「でも…二人で話してると、僕、いじめられそう…」
「もう…仕方ないな。いつも部屋で食べてるの?」
移動するよりここで話を続けるようだ。お互いの部屋に入るところを誰かに見られたらマズイよね。同室の智親くんが居るんだから大丈夫だと思うけど、今のやり取りを見ていた人には言い訳できない。でも、ここで内緒話のように話し続けるのも如何なものか?
「はい」
諦めて質問に答える。なるべく早く高倉さんの質問を終わらせて、部屋に帰りたい。こんな時に限って智親くんはここにいない。僕を救ってくれそうな二人がいないなら自分でなんとかしないと。
「いつも一人で作って食べてるの?」
「美都瑠と一緒に食べてます」
「ふぅん、いつも二人で食べてるの?」
「時々智親くんも一緒に食べます」
「俺も食べたいな」
「高倉さんなら作ってあげたいって人は、たくさんいると思いますよ?」
「俺は碧に作って欲しいんだけどな。そのウィッグ取ったところも見てみたいし…、眼鏡取って素顔の碧を教えて欲しい」
「やめてください」
辺りを見て誰にも聞かれていないことを確かめるとさらに声を小さくした。
「それは無理です。美都瑠も智親くんも知らないんです。二人がいるところで、その話はしないでくださいね」
「見たいな…。見せてくれるって約束してくれないと、離してあげられない」
僕の手を掴み顔を寄せる。思わず仰け反って離れた。悲鳴とか色々聞こえるけどもうそれどころじゃない。今更レイプ未遂事件のことを僕が訴えても誰も信じてくれないだろう。逆に責められるかもしれない。これは一方的に僕の方が不利だ。僕の秘密を公表すると脅されたわけじゃないけど、これは困る。
「尾崎さんと一緒なら」
妥協策として提案してみた。尾崎さんにも伊達眼鏡とウィッグは知られている。二人きりより、一緒の方が良いんじゃないかな?
「やっぱり、泰基の事、好きなんだ」
「そうじゃなくて!二人きりなんて、見つかったら大変です」
「でも、二人を独り占め…なんて噂の方が厄介だよ?」
「あっ…」
そうだよ。
それはマズイ。
二人は同じくらいの人気だから、『ふたりを独占』なんて思われたら高倉さんと噂になるより二倍の恨みを買う。それに、尾崎さんの事が好きな美都瑠に疑われたら嫌だ。ほぼ無理矢理な感じで明日の夜、一緒に食事することを決められてしまった。
「何?」
フォークを持ったまま、次はポテトを食べようと手を伸ばすのに慌てる。フォークを取り返し、紙ナプキンで拭いた。
「俺の食べた後は、嫌なの?」
「嫌とかじゃなくて…周りを見てください。凄い、睨まれてるんですから。フォーク、新しくもらってきた方がいいかな…」
どうしようかと顔を上げるとやはり睨んでる人の視線が怖い。やっぱり、取ってこよ。フォークを持って戻っても高倉さんはまだ座ってて、先ほど食べたそうにしていたポテトを美味しそうに食べていた。
「今日は尾崎さんは一緒じゃないんですか?」
「碧は泰基が好きなの?」
「どうしてそうなるんですか?」
諦めのため息をつき定食のトレイを高倉さんの前に置く。せっかくフォークをもらってきたけど、僕がこれ以上これを一緒に食べれば何をされるかわからない。
「食べさせて欲しいの?」
「ち、違いますよ」
ハンバーグを小さく切り分けアーンと僕に差し出す。するとまた悲鳴。
「高倉さん…僕、部屋に帰ります。これ、食べといてください」
差し出されたハンバーグを無視して、席を立とうとしたら手を握られた。
「なっ!やめてください」
あまり大きな声を出すとギャラリーを余計に刺激してしまう。手を掴まれたことは、それはそれでダメだけど、払いのけるのもダメな気がする。
「碧、座って?」
僕だけにしか聞こえないだろう小さな声で、座らないとここでキスするよ?と恐ろしいことを言われ慌てて座った。
「ちょっと、話しようよ」
「ここでは無理ですって」
「じゃあ、俺の部屋行く?」
「や、無理です」
「それじゃあ、碧の部屋に行く?」
「いやいや、それもダメでしょ?」
「碧は俺と話したくない?」
「でも…二人で話してると、僕、いじめられそう…」
「もう…仕方ないな。いつも部屋で食べてるの?」
移動するよりここで話を続けるようだ。お互いの部屋に入るところを誰かに見られたらマズイよね。同室の智親くんが居るんだから大丈夫だと思うけど、今のやり取りを見ていた人には言い訳できない。でも、ここで内緒話のように話し続けるのも如何なものか?
「はい」
諦めて質問に答える。なるべく早く高倉さんの質問を終わらせて、部屋に帰りたい。こんな時に限って智親くんはここにいない。僕を救ってくれそうな二人がいないなら自分でなんとかしないと。
「いつも一人で作って食べてるの?」
「美都瑠と一緒に食べてます」
「ふぅん、いつも二人で食べてるの?」
「時々智親くんも一緒に食べます」
「俺も食べたいな」
「高倉さんなら作ってあげたいって人は、たくさんいると思いますよ?」
「俺は碧に作って欲しいんだけどな。そのウィッグ取ったところも見てみたいし…、眼鏡取って素顔の碧を教えて欲しい」
「やめてください」
辺りを見て誰にも聞かれていないことを確かめるとさらに声を小さくした。
「それは無理です。美都瑠も智親くんも知らないんです。二人がいるところで、その話はしないでくださいね」
「見たいな…。見せてくれるって約束してくれないと、離してあげられない」
僕の手を掴み顔を寄せる。思わず仰け反って離れた。悲鳴とか色々聞こえるけどもうそれどころじゃない。今更レイプ未遂事件のことを僕が訴えても誰も信じてくれないだろう。逆に責められるかもしれない。これは一方的に僕の方が不利だ。僕の秘密を公表すると脅されたわけじゃないけど、これは困る。
「尾崎さんと一緒なら」
妥協策として提案してみた。尾崎さんにも伊達眼鏡とウィッグは知られている。二人きりより、一緒の方が良いんじゃないかな?
「やっぱり、泰基の事、好きなんだ」
「そうじゃなくて!二人きりなんて、見つかったら大変です」
「でも、二人を独り占め…なんて噂の方が厄介だよ?」
「あっ…」
そうだよ。
それはマズイ。
二人は同じくらいの人気だから、『ふたりを独占』なんて思われたら高倉さんと噂になるより二倍の恨みを買う。それに、尾崎さんの事が好きな美都瑠に疑われたら嫌だ。ほぼ無理矢理な感じで明日の夜、一緒に食事することを決められてしまった。
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