見ぃつけた。

茉莉花 香乃

文字の大きさ
36 / 45
番外編

03

しおりを挟む
お昼ご飯を五人で食べて片付けを済ませ、碧空くんの部屋に行く。途中で売店に寄って買い物をしていたら何故か泣けてきた。碧空くんの隣にいる時にこんなに醜い気持ちになるなんて…。

お昼を食べている時も、碧空くんは横田くんが僕の隣に座るのを嫌い、碧空くんの隣に座らせた。

違うのに!

違うのに!

叫びそうになった。

何気なく碧空くんの膝に触れる横田くんの手。

それを見て俯く僕を挑戦的に眺めニヤリと笑う横田くん。

そのどれも見ていたくなくて、ただただ作った料理を食べた。

「どうしたの?ご飯作ってる時から変だったよね?身体、辛い?熱ある?」

僕を抱き寄せ、熱を確かめる為におでこ同士をコツンと当てる。ここは売店で、そんなに多くはないけれど買い物をしている生徒もいる。そんな中で碧空くんの行動は目立つ。

シルバーブロンドの髪をクシャリと撫でて熱はないなと安心する。思わず背中に腕を回し碧空くんの体温を確かめるように力を込める。

「ありがと…ちょっと、不安になっただけ」

一瞬の後そっと碧空くんから腕を離し笑顔を見せた。もう大丈夫。ここのところ横田くんと会ったあとはいつもこんな調子だ。僕の様子が変になるのと横田くんが関係しているとは思っていないだろう。訝しみながらも笑顔を見せる僕にホッと息を吐いた。

「何が不安なの?」
「夏休みに、碧空くんと離れるのが、嫌なの」

これは本当のこと。今までの僕なら夏休みに実家に帰ることぐらいで嫌な気持ちにはならなかったと思う。けれど今は、一日でも碧空くんの側を離れたくない。横田くんが、とか思うことはあるけれどそれだけじゃない。ただ一緒にいたいんだ。

両思いだって知って欲張りになってる。横田くんの事はそんな僕に思い上がるなよと釘を刺される出来事だった。でも、だからって碧空くんの側を離れたくないし、碧空くんも僕と一緒にいることを望んでくれている。

「そんな可愛いこと言って…嬉しいよ。俺も離れたくないな」

何も夏休み全部を別々に過ごすわけじゃない。母さんと姉さんに夏休みが始まったらとりあえず一週間で良いから帰ってこいと言われていた。碧空くんと付き合う前の僕は快くそれにOKの返事をしてしまっていた。

入学して一ヶ月のゴールデンウィークに帰らないと言うとじゃあ夏休みねと言われた。まだこの寮にも学校に慣れる前の僕が帰らないなんて選択肢はなかった。

今なら、忙しいからとか色々な理由を付けて帰らなくていい方法を探すだろう。しかし、今更ダメになったと言って、母さんはともかく姉さんがわかったと言ってくれるわけはない。

強引で、僕の事を自分の所有物とでも思っているのか僕に対する態度は横柄だ。普段は優しい姉さんだけどそれは僕が従順なるしもべである時だけ。少しでも反抗しようものならどんな手を使ってでも、自分の思い通りにしてしまうのだ。

そんな姉さんに襲われかけたことがバレてしまった。きっと、八城さんが言ったんだ。だから、余計に夏休みに帰ってこいと言う。八城さんは碧空くんの事も話していると思うからそれも怖い。とりあえず、夏休みにに入った一週間を実家で過ごすことになっている。その後のことは未定だ。姉さんは一週間だけとは思ってないかもしれない。
憂鬱だ。

食事の準備中に碧空くんと智親くん、横田くんが夏休みの計画を立てていたのは僕のいないこの一週間の予定だった。僕がいない間に楽しいことをしようとしているんだ。嫌だとは言えない。僕と会わなかった五年以上の時間を共に過ごしてきた友だちだから嫉妬するなんて変だよね…。

横田くんの気持ちを碧空くんに言うのも嫌だ。横田くんが碧空くんの事好きだから一緒に遊ばないで、触らないでと言えたら楽なのに。今は考えない…考えない。

「今日、晩御飯何にする?」
「俺は何でも良いんだけど…そうだな…グラタンが良いな」
「うん。わかった」

何でも良いと言いながら必ず何が食べたいかを言ってくれる。毎日のことになると考えるのは大変だ。まるで主夫だな…。グラタンと他に何を作るかを考え、冷蔵庫の中の残り物を思い浮かべながら買い物をする。そうしていると不安な気持ちが薄らいで、碧空くんに自然な笑顔を見せることができた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

悪夢の先に

紫月ゆえ
BL
人に頼ることを知らない大学生(受)が体調不良に陥ってしまう。そんな彼に手を差し伸べる恋人(攻)にも、悪夢を見たことで拒絶をしてしまうが…。 ※体調不良表現あり。嘔吐表現あるので苦手な方はご注意ください。 『孤毒の解毒薬』の続編です! 西条雪(受):ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗(攻):勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。

ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日” ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、 ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった 一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。 結局俺が選んだのは、 “いいね!あそぼーよ”   もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと 後から思うのだった。

処理中です...