107 / 196
第六章 安寧
十七話 白竜
しおりを挟む「どうだ、なかなかの物だろ」
「これ魔法使ってますよね? もしかして、俺も覚えれば飛べます?」
「浮くぐらいはできるだろうが、飛ぶのは無理ではないか? 知っている限りでは、記憶にないのう」
空を飛べる可能性を感じて質問してみたが、答えは余り良い物ではなかった。まあいいか、俺にはポッポちゃんがいるんだし。
古竜のヨゼフさんの依頼を受けるべく、俺は彼の背中に乗ってラーグノックの南へと飛行している。
最初は場所も知らないし、移動手段をどうするんだと考えていたのだが、あっさりと「儂が乗せて運ぶぞ」と、何かの物語であれば試練でも受けなければ乗れそうもない古竜の背中へ、簡単に乗ることができた。
庭が広いとはいえ、いきなりそこで変身なんかしたら、街はパニックになるし、ヨゼフさんもその辺りの常識は持ち合わせているので、街の城壁を超えて少ししてから飛行することにした。
普段からポッポちゃん、スノアに炎竜と、結構空は飛んでいるのだが、古竜の乗り心地はまた別格な物だった。
体の大きさで言えば炎竜の二回りは大きく、若い頃は真っ白だったと言う灰色の鱗を持つ古竜は、飛び始めこそゆったりとした物だったが、その飛行高度は雲よりも高く、段階的に使う飛行魔法は熟練の技を感じさせ安定感がある。いうなれば、ポッポちゃんたちはスポーツカー、古竜は高級車を思わせる乗り心地だ。
「どれぐらいで着くんですか?」
「そうだな、一日ぐらいか? 本気では飛んでないからの」
今のスピードはポッポちゃんやスノアたちより遅い。身体が大きいから仕方ないかと思っていたのだが、これは本気ではなかったらしい。ならば、味わうしかない、古竜の本気を!
「見せてくださいよ、本気を」
「……一応、お主を気遣っていたんだが、そう言われたらやるしかないのう。落ちたら拾うが、失敗したらすまんな」
そう言ったヨゼフさんは、俺の方へ向けていた首を真正面に向けると、大きく一度背中の翼を羽ばたかせた。すると、体が後方へと吹き飛ばされたかのような加速を感じ、慌てて両手で古竜の鱗を掴むことで耐えることができた。
速度に乗り、翼を畳んだヨゼフさんは、更に加速をしていく。激しい風で目を開けるのが精一杯なのだが、僅かにヨゼフさんの口元が動いて何かを話しているのが見えた。
だが、風切り音が凄まじく、全く何を言っているかは分からない。本気を出さない理由は、この辺りにもあったのかもしれないな。
しかし、高速移動は目的地までの時間短縮を果たす。一日と言っていた距離を、半分以上に短縮した。
「良く落ちんかったな。昔乗せた勇者は振り落とされていたぞ」
「アーティファクトで筋力が上がってますからね。これがなかったら無理でした。でも、寒いし力を入れていなくてはならないので、帰りは普通でお願いします」
速かったが乗り心地は悪かった。できるならば緊急時以外はお断りだな。
「この洞窟の中ですよね?」
「ふむ、入ろう」
案内されたのは、シーレッド王国内にある山の上。その火口の中にぽかりと空いた洞窟だ。まだ活動しているのか、若干の地熱を感じる。強化された肉体を得たとしても、爆発するんじゃないかと思うと、少しおっかない。
温かい洞窟の中を進む。魔獣のたぐいが見え隠れするが、ヨゼフさんが竜の姿のまま移動しているからか、逃げるように遠ざかっていくのが探知で分かる。
少し進むと大きな空間が現れた。巨大な竜でも余裕で飛び上がれそうな空間だ。その奥に二体の竜が見える。
まず目に入ったのは、美しい白い鱗を持つ竜だ。大きさはヨゼフさんに比べると大分小さいが、体の作りや雰囲気はとても似ている。そして、この竜が件の竜だと言うことは、体の一部を見てすぐに分かった。
根元から抉られたのか、傷口は塞がっているが、むごたらしい傷跡が見え、そこに本来生えているはずの前足がない。また、横たわっているのでここからは見えないが、話を聞く限りは後ろ脚も失っているはずだ。そんな白竜が目を閉じて身体を休めている。
その隣には傷ついた竜より一回りほど大きい竜がいる。鱗の色は薄い黄色、一瞬俺を見た顔はとても警戒心を持っているものだったが、その視線がヨゼフさんに向けられると、目を伏せ頭を垂れていた。
「いきなりで悪いが早速頼む」
そう言ったヨゼフさんは、今度はグォと竜の言葉で鳴いて、傷ついた竜を守っていた黄竜をどかした。
俺は傷ついた竜の下へと近づいて、まずは前足から治療する。
傷ついた竜は意識があったのか、薄めを開けて俺を見ている。幾ら俺が強くなろうと、身体が大きい相手には若干の威圧感を覚えるので、見つめられ続けると、ちょっと居心地が悪い。
だが、相手は傷ついている。安心をさせるためにもここは我慢だろう。
しかし、身体が大きいだけに治すのには時間がかかる。今では三十分もかければ、人間の腕一本ぐらいなら生やすことができるのだが、一時間が経っても、根本からモリモリと肉が伸びてきているだけだ。
そういえば、フリッツの腕を生やした時も少しだけ時間がかかった。もしかしたら、最大HPなどのステータスが関わってくるのかもしれない。
二時間ほどでやっと半分だ。その頃になると俺が何をしているか分かったのか、ヨゼフさん以外の竜も特に警戒心を抱くこともなくなり、俺が提供した食べ物などをバクバクと食べている。
身体が大きいだけあって、幾らでも食べるのかと思ったが、結構すぐに腹が膨れたらしく、もう肉はいいと鳴いていた。
今回も調教スキル上げチャンスかと思ったのだが、ちょっと残念だ。
それから一時間に一度の休憩を取りながら、椅子に座って治療を続ける。
その間にはヨゼフさんからの報酬の話や、あの樹人をどうするかなど、結構な話をすることができた。
また、古竜の中で流行っている将棋の話も聞くことができた。どうやら、あの青い古竜たちも言っていた通り、ヨゼフさん主催で大会を開くらしい。
その名も竜王戦。全く持ってふさわしい名前だ。
まあ、その辺りはまだ詰めが必要らしいので、もう少し先のことらしいのだが、その商品の一つとして、この場で将棋セットの依頼も受けたりした。
情報をもらえるし、仕事もくれる。何ていい取引先なんだ。
そんなこんなで前足の治療が終わり一息ついていると、次の治癒場所をさらすために身体を起こした白竜が、俺を見ながら口を開いた。
「兄ちゃん……ありがとう……」
元気がない声だが、明らかに人間の言葉を喋った白竜は、まだ起き上がるのが辛いのか、傷ついた後ろ足を俺に向けると、ドスンと身体を横たえる。
一体どれほどの重さなのか想像もできない重量が起こした衝撃は、一瞬地震でも来たのかと思わす地揺れを起こす。
しかし、兄ちゃんか。もしかして、この白竜は子供なの?
果たして古竜が人型になった時の外見と、中身がどれだけ比例しているかは分からないが、この白竜が人型になったら俺より小さい子供になるのだろうか。
その辺りのことを、治療を再開しながら聞いてみると、幼少期から生殖可能な年齢までは比較的短時間で、その後は相当長い年数をかけて老けていくらしい。
この白竜はもう五十年以上は生きているが、まだ子供なんだと。レベルなども関係するらしいが、はっきり言って感覚が全く分からくて困惑するわ。
いま治療しているこの白竜が、俺と同じ童貞なことに親近感を覚えつつ、会話を交えて治療を続けた。
開始から五時間ほど経った頃、俺の集中が切れてきた。
普通の『ヒール』や『グレーターヒール』を使う時は、一瞬で魔法が発動し、MPもその魔法技能の値に応じて消費する。
だが、この治療方法では、杖にMPを注ぎ込む感覚がある。一度魔法を発動させ、そこから更にMPを消費して部位の治療を行っている。
休憩中に瞑想をしてMPの回復をしているので、MPが尽きることはないのだが、それでも自分の身体の中のエナジーを消費し続けるのは疲れるのだ。
なのでそのことをヨゼフさんに告げて、今日の治療は終わることにした。
この洞窟の中は、当然人が住むようにはないっていない。程よく暖かく過ごしやすそうだが、むき出しの岩肌は強化された俺の肌でも、寝るには適していない。
なので、マジックボックスから、簡易宿泊施設『ポッポ亭』を取り出して、比較的平らな場所に設置した。
「お主のそのマジックボックスは、どこで手に入れたのだ?」
ヨゼフさんのそんな質問に、隠すことなくダンジョンボスのドロップだと言うと、ほうほう言いながら、人間は良いのうとか言っていた。
人型になれば古竜もダンジョンに入られるらしいのだが、戦闘力が落ちるので、攻略するには難しいと言っている。
まあ、それ以上に入って攻略した所でアーティファクトが使えないから、やる気が出ないらしい。もっともなことだ。
黄竜が取ってきた、象ほど大きいイノシシの一部をもらって夜食にする。筋肉質でかなり硬い肉だったが、焼いて調味料を使えば、結構美味い。
彼らは彼らで寝るらしいので、俺も『ぽっぽ亭』に入って寝る。一度ヨゼフさんが人型になって中を覗いてきたり、普通の竜である黄竜も興味津々に覗いてきたのだが、それらは無視して床につく。
白竜が弱々しい声で、「俺動けないのに爺ちゃんずるい……」とか言っていたのがちょっと可哀想だった。
朝飯を食べて治療を再開する。昨日とは違い、白竜も結構元気になってきて、身体はだるそうだが何とかしゃべることはできそうだ。
「これは誰にやられたの?」
「人間にやられた……一杯いたんだ! 何か強い奴がいてやられちゃった」
相手が子供みたいなしゃべり方なので、つい俺は敬語を使わずに喋ったのだが、何も言わないのでそうしてる。
本人も気にしてないし、俺のことを兄ちゃんと呼ぶこの白竜からはどうしても古竜の威厳みたいな物を感じないんだ。
「こやつは人の街に竜の姿で近づきおって、袋だたきにあったのだ。普通の兵士程度なら問題ないのだが、この国の強者が数人おってこの様だ」
「だって、面白そうだったから……」
「はぁ……ゼンの力がなければ、いつまでこのままだったか分からなかったのだぞ。反省をせい!」
ヨゼフさんは、尻尾を地面に叩きつけ怒鳴りつけている。土ぼこりがこちらに来るかと思ったら、黄竜が息を吐いて防いでくれた。できる竜だな。
「ヨゼフさんたちはやり返さないんですか?」
「それはこやつが自分で為すこと。ここで今儂らが出てしまえば、更にこやつの名が落ちる。それに子供の喧嘩に親が出て行くのはおかしいだろ」
古竜から見たら人間は子供か……まあそうか。
そんなこともありながら、治療は終わって腕と脚が再び白竜に戻った。
結構時間がかかったが、この程度の時間で失った手足を取り戻せるなら、大したことないと思えちゃうよね。
「兄ちゃん、ありがとう。絶対にお礼しに行くからね」
「体力が回復したら、街においでよ。でも絶対に人型で来いよ」
笑いながらそう言うと、白竜はバツの悪そうな顔をして俺から目を背ける。その様子は叱られた犬みたいで、結構可愛かった。
「さて、ゼンを送るか。後は頼んだぞ」
この場に残る白竜と黄竜に声をかけ、ヨゼフさんが身体を起こす。来た時と同じようにドシドシと足音を立てる後ろに付いていき、洞窟を抜けるとかなりの開放感を得る。
身体を大きく伸ばして空を見上げると、まだ日は高く太陽は真上に見えた。
「帰りはゆっくりだな」
「それでお願いします。アーティファクトの使い方もまだ知りたいですし」
これも礼の一つなのか、昨日からかなりの知識を俺に授けてくれている。俺は快適な空の旅を楽しみながら、古竜の知識を堪能したのだった。
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。