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第七章 風雲
幕間 王族ジニー
しおりを挟むエゼル王国の隣国である、イロス王国、樹国セフィ、シルト国、フェルニゲ国の四カ国を訪問し、新たな外交窓口を設立したジニーは、帰国後も精力的に動いていた。
「セフィは過ごしやすいと聞きましたが、本当なのですか?」
「えぇ、森の中なので涼しいですし、自然の恵みはとても良いお味ですわ。でも、一番は空気が美味しいことでしょう」
今日も諸侯の娘たちとの茶会を開き、その縁を深めている。これは今後のために彼女らの父兄弟と関係をつなぐ物である。
それ以外も、娘ばかりの会ではあるが、彼女らがもたらす情報は、ジニーとしては今出来る情報収集の一つだった。
「やはり魔槍の方は、武勇伝を聞く限りむさ苦しい人なのですか?」
「いえ、師匠はどちらかと言えば細いですわ。背もわたくしと同じぐらいですし。でも、まだまだ伸びるかもしれませんわね」
女性だけの会ならと父に許され参加をしていたマルティナは、ジニーとは少し離れた場所で、先の戦いで名を上げたゼンの話を諸侯の娘に振られた。
「お父様が、機会があれば是非目に留めてもらえと言ってまして、どのような方なのか興味がありましたの」
フワリ柔らかそうな髪を持つ女性が、大きな胸を強調するかのような服を着て、悩めかしそうに話す。
「師匠にはわたくしもアピールをしたのですが、やはり武に生きる方なのか、余り興味を持って頂けませんでしたの」
そういうマルティナも、今日は少し肌を露出した服装だ。これも女性だけの会だからと許された、数少ない服だ。
「まあ、マルティナ様がお誘いしても駄目だったのですか?」
「もしかして、胸の小さい方がお好きなのかしら?」
マルティナたちの話を同席する娘たちが騒ぎ立てる。すると、マルティナはそれをすぐさま否定した。
「いえ、訓練中はわたくしの胸を見ておりましたので、それはないと思いますわ」
ゼンとしては隠せていたと思っていたのだが、釘付けになっていた視線に当然マルティナは気付いていた。
そのこともありマルティナはゼンを落とせると判断していたのだが、有耶無耶にされてしまい今に至っている。
そういえば、ゼンが言っていた一年はもう過ぎているなと思いながら、手元の紅茶を飲もうとすると、マルティナは何かの視線を感じた。
「マルティナ様、そのお話を少し詳しくお願いいたしますわ」
マルティナが首を向けた先にいたのは、この会の主催者である王妹ジニーだった。
「ッ! ……ヴァージニア姫様も師匠に興味がおありで?」
「えぇ、少しありますわ。ところでその師匠とは?」
「これは色々とございまして、まずは師匠との出会いからお話を――」
ジニーとマルティナの邂逅は、ゼンの話から始まった。熱を持ったような表情で語るマルティナと、段々と表情に冷たさを持ち始めたジニー。
ただならぬ雰囲気を感じ取った諸侯の娘たちは、早々に席を離れ、少し離れた場所で見守ったのだった。
「もおおおおおおっ!」
「落ち着いてください、姫様」
「そうですよ。男はそんなものですから」
マルティナたちとの会を終えたジニーは、多少誇張されたゼンのだらしない部分に反応し、自室に帰りやり場のない思いを枕にぶつけていた。
それを出迎えたロレインとリディアは、たまに見せるこの行動を慣れた様子で相手取る。
「分かってるけど、モヤモヤするのよ!」
「この前、会ったばかりじゃないですか」
「そうだけど仕方ないでしょ……」
ジニーの帰国に合わせてゼンたちは、約一年ぶりに王都へとやってきた。帰国した次の日にはゼンは王都に着いており、その情報をどこから仕入れていたのかを、ジニーは少し疑問に感じていた。
「しかし、ゼン殿が子持ちになったのは驚きました」
「あの子は……特殊すぎて何も言えないわ……」
ゼンの訪問には、前回やってきたアルンやナディーネの他にも、マーシャやミラベルも同伴していた。
更にそこにはゼンの娘を名乗る、ユスティーナも加わっており、もちろん一悶着があった。
「まあ、姫様はスレンダー路線で行きましょう。この前ゼン君は姫様のくびれに目がいってましたよ?」
「そ、そうかしら? ならもう少し痩せようかな?」
「でもそうすると、更に薄く……」
「ロレインのばかああああ!」
とても一国の姫君とその従者の会話には聞こえないのだが、長年付き添った関係は、幼い頃から変わっていない。
「それで姫様、シーレッド王国の方は諦めて良いのですか?」
「もう少し頑張りたいけど、独断するわけにはいかないわ。リシャールさんも、ローワンさんも今は脈がないから待つしかないと言ってたし」
エゼル王国周辺国との窓口は、残すところシーレッド王国のみになった。
即位して間もないとはいえ、王の妹が直接他国に赴いたのは、エゼル王国の上層も思っていた以上の効果をもたらした。
「あの国は注意が必要だから、それ以外の国と関係を深める方が良いわ」
「我が国も、今後は深い関係を築こうと申してました」
あやふやな状態でエゼル王国を訪れていたリディアは、初めは帰ることを考えていたが、この一年で考えが変わりジニーに仕えることを考えていた。
家は兄弟が継ぐこともあり、元から誰かに仕えることを考えていたリディアは、自国をジニーと訪問した時に父親に打ち明け、許しを得ていた。
「フェルニゲ国との橋渡しは助かったわ。今後もお願いね」
「はっ! お任せください」
「ところで姫様、話は変わりますが、この前ゼン君と二人になっていましたが、何をしてたのですか?」
不意にされた質問に、ジニーは身を固めてしまう。ロレインの言葉の意味は分かったが、何をどう返せばよいのかは思い浮かばなかったからだ。
「……失礼しました」
「違うのよ! ……違うのよ」
珍しく引いたロレインに、ジニーは慌てて言葉を返す。だが、それ以上の言葉が出るはずもなく、ただ静かな空気が流れるだけであった。
「コホンッ! そろそろ約束の時間では?」
「そ、そうね!」
リディアの助け舟で素早く立ち直ったジニーを見て、ロレインは小さくほほ笑む。これはエリアス様にいい報告が出来そうだと。
しかし実際は、大したことのない出来事があっただけだ。
それは、若い男女が同じ部屋にいて何もしないわけがないと思っているロレインには想像が出来なかった。
「あぁ、早く姫様のお子を抱きたい」
誰にも聞かれない程度の小さな声は、本心から出た言葉だったが、同時にあることを思い起こさせる。
「……私の相手はどこに?」
相手を探す暇などなかったとはいえ、既に二十代中盤。ロレインは本気の焦りを感じ始めていた。
ジニーは外交以外にも国内にいる諸侯と数多く会っている。前の戦いでエリアス王に敵対した諸侯は、どうしても王との距離がまだあり、それを埋めるためにもまずはジニーと会うことは、諸侯の固い心を解きほぐす結果となっていた。
「ヴァージニア姫殿下もお年頃ですが、縁談はお断りになられているとか?」
「えぇ、今はお兄様のお手伝いに専念したいので、自分のことは後で良いと思っておりますの」
半分本当で半分嘘だが、この程度の腹芸はもう慣れてきている。
「ははは、我が娘に見習わせたい物ですな。実は息子はどうかと考えていたのですが、話をする前にリシャール殿に止められましてな。中々ガードがお固い」
「リシャール様には良くして頂いておりますわ」
事実としては、リシャールのこの動きは、ある人物に知られないための全力の工作であったが、それを知る者は少ない。
「いやしかし、ヴァージニア姫殿下と話をさせていただき、エリアス王の気持ちも大分理解できました。とても有意義でしたな」
「お兄様は一日も早くお話がしたいと申しておりました。よろしければ明日にでも取り次ぎ出来ると思いますが、如何です?」
「それは喜ばしい。是非ともお願いいたしますぞ」
最近のジニーの一日はこうして終わる。
王が変わって一年程の歳月が経っているが、多忙な生活は変わらない。疲れた体を早く休めようと、自室へと戻ろうとすると、廊下で一人の男と出くわした。
「勇者様、ご機嫌いかがでしょう」
「これは、姫殿下。変わらず、お美しい。姿を、見せ始めた、月も、霞む」
「……勇者様、それは演技なのですよね」
「……否」
「ゼンに話を聞いているのですが……」
「そ、そうでしたか……」
王城にいる多くの者は勇者フリッツが演技をしていることを知らない。ジニーは数少ない、フリッツの真実を知る者だった。
「えっと、勇者様はゼンと仲が良いとか?」
「そう……なのでしょうか?」
「はい、ゼンは勇者様のことを楽しそうに話していましたわ」
「ほう、それは少し興味がありますな」
「もし宜しければ、就寝前に少しお話をさせていただいても?」
「もちろんでございます」
「それでは……ロレイン、どこか部屋はあるかしら?」
「ではこちらへ」
人との縁をつなぐことが、今は大事なことだと考えているジニーは、これは新たに光天と成る人物と、話が出来る良い機会だと思った。
フリッツもゼンが自分のことをどう言っているかに興味があったし、主人の妹であるジニーとゼンがただならぬ関係なのは、察しが付いていたので純粋にジニーに興味があったのだ。
「なるほど、ゼンは中々私を買ってくれているみたいですね」
「えぇ、特に魔王との戦いで勇者様の働きがなければ、厳しかったと言ってましたわ」
対面するソファーに腰掛ける両者が、ロレインが用意した飲み物に手を掛けながら、主に戦での話を中心に会話を進めていた。
「ゼンは何だかんだ言って、私のことが好きなようですな」
「えぇ、勇者様といると飽きないと言っていました。少し羨ましいですわ」
「ははは、姫殿下に羨ましがられるとは光栄です」
実はこの会話、かなりジニーに盛られてはいる。ゼンがフリッツに対して良い印象を持っているのは間違いないが、飽きないという部分に関しては、多少の悪戯心が刺激されることや、嫁に尻に敷かれていることを面白がっていることも含まれているからだ。
これが気分の良くなったフリッツの不用意な発言を引き出す結果となった。
「ゼンの方が上ですが、若くして強力な力を持っているのは、私に似ていますね」
「そうなのですか?」
「あの頃は調子に乗って、色々とやらかした物ですよ。女性にもかなりモテましたからね。しかし、ゼンは私以上に女性を引き寄せそうですな、ははは……姫殿下?」
口付を交わしたとはいえ、まだ深い関係になれていないジニーは、ゼンの事を信じてはいるがどうしても不安だった。今日の午前に話をしたマルティナの件もある。
その不安な要素をフリッツが刺激してしまい、笑顔だったジニーの表情が一瞬曇る。
フリッツはそれを見逃さず、自分の発言がゼンとジニーの関係性を忘れていた物だと気付き、慌てて修正をすべく口を開いた。
「えっと……英雄色を好むものでして……」
「……はい」
「それで……ですね、あれです、押さえつけてはいけません。姫殿下は包み込むようにしてやるのです」
「私に出来るでしょうか……?」
突如訪れた展開にフリッツは言葉に詰まった。だが、どうにかしないとならないという心理が、間違った方向へとフリッツを突き動かした。
「姫殿下、逆にコントロールするのです」
「……?」
「こちらが良いと思った者を提案してやるのです。それに姫殿下は王族です。ならば政治的な判断が出来なくてはなりません」
「はい」
「過去、婚礼は力の取り込みを行える方法でもあり――」
「なるほど……とても参考になりました。私も独占しようとするだけではいけませんね。考えが固まるには時間が掛かると思いますが……」
「今は良いのです。今後、もしそのようなことがあれば、選択肢の一つとして考えてみてください。それでは今日は失礼します」
部屋を出たフリッツは話した内容を思い返し、心のせめぎ合いにあっていた。
「すまねえ、ゼン。だが、俺は知らねえ……。いや、きっとゼンは喜ぶはずだ……。だってハーレムだぞ? きっとだ、きっとそうだ……」
ジニーとしては納得が出来ていないが、この会話が考えを変えることになる。だがその結果が出るのはもう少し先のことであった。
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ちょっと足らないと思うので明日も幕間ですが更新します
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