アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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第七章 風雲

十話 暴食古竜の操り方

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 それは我が家の庭にダンジョンが発生してから、数日たったある日の事だった。

「…………は?」
「いや、は? じゃねえよ。お前が全部食ったからなくなったんだろ」
「…………いやいや、ゼン、嘘はいや。お願い意地悪しないで、お願いします。お願いします」
「必死かよ……俺が悪い事してるみたいだから、膝を突くんじゃねえ……」
「…………これは一大事。目の前が真っ暗。間違えて竜に戻りそう。ブレス吐きそう」
「おい、やるなら庭に出てくれ。ッたく普段の数倍喋りやがって、さっき夕飯食ったばかりだろ」

 夕食が終わり半時ほどが経った。
 毎日のように俺の部屋にやってくるエリシュカは、今世界が終わったかのような顔をしている。
 理由は俺の部屋へ来る目的である、お菓子のストックが切れた事だ。

「エリシュカちゃん、我慢しよ?」
「…………ユスティーナは蜜とか出せないの?」
「わ、わたしを食べるのっ!?」

 一緒に付いてきたユスティーナが怯えている。
 樹人だからって、無理だろ。
 普段から食いまくってるから、冗談に聞こえないし、止めてやれよ本当に。

「分かった、少しならやる。だけどこれは大事な物なんだ。それで今日は我慢してくれ」

 俺がそう言うと、エリシュカが飛び付いてきた。

「…………わかった。だからちょうだい」
「お前は糖分を摂取しないと死ぬ竜なのか? ほら、手を出せよ。これは一ずつ食べてくれよ」

 エリシュカに抱き着かれながら、俺は差し出してきた手に、アニアから貰ったお菓子を渡す。
 これは、教国に行った時に俺に食べて欲しいと選んでくれた物なんだ。
 お土産は別に買ってみんなに渡したから、本当に俺だけで食べていた。

「…………かわいいお菓子。いつものと違う」
「そりゃ、高いからなこれは。それに、何時もは見ないで流し込んでるから、気にしてないんだろ」
「わたしそれ知ってるよ、アニアママのでしょ? ほっぺたがおちるんだぁ~」

 当然これはユスティーナも食べている。
 味を思い出したのか、頬に手を当てて体をくねくねとしていた。
 何時もは夕食後は食べないのだが、尋ねてみたらこれは欲しいらしい。

「食べたらちゃんと歯を磨くんだぞ?」
「うん、いっぱいみがくね! パパ、ありがとう!」
「あれ? そう言えばポッポちゃんは……一階か」
「ママはナディーネお姉ちゃんが、ナデナデしてるから一階にいるよ」
「そうか、なら俺はスキル上げは休憩してユスティーナと遊ぼうかな」

 休まずに連日続けている生産スキル上げは、全てを上げるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
 だが、集中的に上げている鍛冶、細工、錬金は結構いい所まで来ている。
 鍛冶と錬金はスキルレベル4に、細工はスキルレベル3になった。
 特に錬金は【アルケミストポーチ】の恩恵で、スキルレベル5に相当する力を手に入れた。
 最早、俺に作れない薬物はない。
 しかし、万全の力を振るうに必要な素材も無い。
 だって、名前も聞いた事のない素材が多すぎるんだ。
 どこにあるんだよ【フッサ草】ってのは……
 シラールドも知らないって言ってたよ。
 これじゃあ作れないじゃないか、何時か使う日が来るかもしれない育毛剤が!
 それらの中でも名前から何か分かった物では、古竜素材があった。
 でも無理だろ、お前の肝をくれとか言えないよ!

 と言う訳で、今の目標は錬金と鍛冶による、マジックアイテム作成だ。
 俺のアイテムボックスに死蔵している、エーテル結晶体から魔石を作り出したり、古竜に貰った希少金属で防具やアクセサリが作れるからだ。
 まだ、完璧と思える物は作れない。
 しかし、ユスティーナの装備は、人が作り出せる最高の物を持たせたい。
 まあ、もう少し時間が掛かるけど、試作品は既に出来ているから、今はそれを持たすつもりだ。

 それもこれも、ユスティーナのスキル上げを、古竜二匹とヴァンパイア一人が遊び感覚でしてるので、自分のスキル上げに集中できているからここまで上昇している。
 最近は本当にインドア派だ。
 槍術がスキルレベル5になったから、一時的に戦闘スキルの優先度が下がったというのもあるけどね。

 ユスティーナの蔦を掴んで、グルグルとジャイアントスイングのように回してやったり、地味に脇をくすぐって笑わせたりしていると、黙ってお菓子を食べていたエリシュカが、何もなくなった手の平を見つめながら口を開いた。

「……………アニアってだれ?」
「俺の嫁になる子だよ。アルンの兄妹」
「……………よめ?」
「予定だな。何だよその顔は……」

 さっきまで幸せそうに糖分を摂取してたのに、しかめ面をしてやがる。

「…………ゼン、明日出かける。出かけます」
「そうか、変な事するなよ?」
「…………ちがう、ゼンも来るから。だってお菓子買わないといけないでしょ?」
「明日はパティの見合いがあるから無理」
「…………午前だけ、午前だけだからお願いします。お願いします」
「食い物の事になると異常に卑屈になるな……分かったよ、これ以上秘蔵の品を食われたらたまらねえ。明日は朝から菓子屋に行くから、絶対に寝坊するなよ。ぐずぐずしてたら明日は何も無し、後日になるからな」
「…………分かった。ユスティーナ早く寝……それ食べないの?」
「……一個だけだからね?」

 まだお菓子を残していた、ユスティーナの手の平に載っていた物に目を付けたエリシュカは、よだれを垂らしながら、どう見ても欲しいと要求していた。
 ユスティーナは一瞬咀嚼を止めて考えたようだが、一つだけを手で掴むとエリシュカに渡す。
 渡さないと吸われるとでも思ったのだろうか。
 全く、どっちが年上か分からねえなこれは……

 次の日になった。

「終わり次第行くから頑張ってね」
「はい、後は身支度をすれば準備は万端です」
「パティさんの事は私たちに任せてね。侯爵様の所の使用人さんも、お手伝いに来てくれるから」

 朝食中にパティの様子を窺った。
 若干緊張気味だが、ナディーネたち女性陣と、侯爵様がよこしてくれる応援がいるので、俺がする事はないな。

「んじゃ、行くか。来るのは二人か」
「…………はやく。急いだほうが良い。売り切れる」
「そうだな。分かったから俺を引っ張るな。ユスティーナ、ポッポちゃんは?」
「ママは戦いが待ってるからって、ダンジョンに入っていったよ? 将棋崩し? あれだって」

 ポッポちゃんの最近の楽しみは、あの将棋崩しだ。
 段々とコツがつかめてきて、山の半分以上を取り崩せるところまで来ている。
 大鳩でも楽しめる遊具が凄いのか、単純にポッポちゃんが凄いのか、よく分からないな。

 ユスティーナとエリシュカに手を引かれ家を出る。

「…………はやく、はやく」

 エリシュカは少し興奮気味だ。目的地までの道すがら、俺は以前から疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。

「エリシュカは、あの山でお菓子の補給はどうしてたんだ?」
「…………こんな一杯お菓子があるとは知らなかった。ゼンが私を変えた……責任とって」
「もしかして俺はやらかしたのか……?」
「…………そう、おこづかいも全部なくなった。ゼンが悪いから、ずっとおかしちょうだい」

 俺の何げない行動が、お菓子ちょうだい古竜を生み出したのか……
 自分のしでかした恐ろしい行動を後悔しながら、二人に手を引かれ連れていかれたのは、一件のお菓子屋だった。
 ここは以前から、アニアとも来ているので知っている。
 俺のマジックボックスに大量に入っていたクッキーもここの物だ。

「あれ? お兄さん、アニアから乗り換えたのか?」

 店番をしている店主の娘が、ニヤケながら話しかけてきた。

「ユスティーナは知ってるだろ。それにこの子は違うよ」
「そうなんだ。面白い事になってるのかなって思ったのに、残念」

 下手な誤解をされたままだと、変な噂が立ってしまう。俺は面倒くさいが律儀に答えた。

「で、今日もクッキー買ってくの?」

 来ると毎回買っているので、完全に覚えられている。
 しかし、今日の俺は少し違う。お菓子古竜を黙らせ、尚且つ有意義に使う方法を考えていた。

「エリシュカ、一つ聞きたい。古竜であるお前が、俺から物を貰うだけでいいと思っているのか?」

 目の前に並んだお菓子に、よだれを垂らしていたエリシュカは、俺の言葉を聞いて顔を上げた。

「…………いいとおもう。ゼンが私を養うからいいとおもう」

 そうだった、こいつの古竜としてのプライドなんて物は、お菓子の前には無効化していた……

「まあ、話を聞け。毎日たくさんのお菓子が食いたいか?」
「…………食べたい。毎日食べたい。お願いします。お願いします。ゼン、売り切れるから早く」
「落ち着け、俺ら以外に客はいない。良いか、毎日食わせてやるから、一つ仕事をしろ」
「…………なに?」
「週に一度、竜の姿でこの周辺を飛んでくれ。そして、見つけた魔獣や亜人を駆除してくれ」

 完全に思い付きだが、エリシュカの力を考えれば容易な事だ。
 古竜の縄張りだと知れば、たまに現れる亜人も魔獣も逃げて消えるだろう。
 これは事前にレイコック様に通知すれば、周辺の安全が測れる良い事だと思える。
 しかも成果が出れば、報酬を踏んだくれる。それをエリシュカの餌……食事代に当てれば良い。
 一瞬冒険者ギルドに怒られそうだと思ったが、彼らの仕事を奪う事は悪ではない。
 むしろ、護衛の仕事などは楽になるはずだ。まあ、戦いたい奴はどこか他に行けってだけだな。

 エリシュカは何を考えているか分からない、まどろんだ瞳を俺に向ける。
 だが、程なくして考えが纏まったのか、ゆっくりと口を開いた。

「…………分かった、やる。私もゼンの役に立つから。食べるだけじゃない」
「そうか、嬉しいぞ」
「…………ほんとう?」
「嘘じゃないぞ、エリシュカが俺の頼みを聞いてくれれば、この街はより安全になる」
「…………ふふふ、これはおかしも手に入り、ゼンも手に入る凄い良い事だった」
「俺は手に入らないけどな……」

 どこまでエリシュカが真剣なのか分からんが、最近は何かに付けてこんな事を言っている。
 懐かれるのは良いのだが、ちょっと対応に困るな。まあ、本人もさほど突っ込んではこない。
 放っておいていいだろう。
 話は付いたので、エリシュカのヤル気に応える事にした。

「店主を呼んで来い!」
「……お兄さんどうした?」

 俺はカウンターにいた店主の娘に、気合を入れて声を掛けたが、怪訝な顔をされ返された。

「いや、親父さん呼んで来て、あと今日は悪いんだけど閉店ね?」
「は……?」
「店の物全部買い取ってやる!!」

 俺の声が再度店内に響き渡る。
 その瞬間、エリシュカが俺に飛び掛ってきた。

「…………ゼン、神様。凄い!」

 エリシュカは、普段はあまり見せない驚きの表情を浮かべている。
 そうだろそうだろ、凄いだろ。何度も買いに来るのが面倒だからじゃないんだぞ?

「はえ~、エリシュカちゃんよかったね。もぐもぐ」

 そんなやり取りをしている中、ユスティーナは自分のお小遣いで買ったお菓子を、一人静かに食べていた。
 ……何だかポッポちゃんイズムを感じるぞ。大物になりそうだな……

 店の全てのお菓子を回収し、店主には数十キロ単位で、焼き菓子の注文を出す。
 それは明日取りに来る事にして、俺らはそのままパティの見合いの場である、レイコック様がいる城砦へと向かう事にした。
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