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第八章 逆鱗
十話 再生の神のダンジョン
しおりを挟むヴィートが大剣を振りかざすと、三つ又の槍を持ったスケルトンはその姿を消して、エーテル結晶体がドロップした。シラールドが【天帝】を遠隔操作して、少し離れた場所にいる弓を持ったスケルトンの足を切断すれば、ポッポちゃんが放った風の魔法が追撃として放たれ砕けて姿が消えた。
「う~んっ! ファイアアロー! ファイアアロー! ファイアアロー!」
気合の声を上げたユスティーナが俺らの後方から魔法を連発した。俺が足を切り落としたスケルトンナイトに命中させている。一発の威力は少ないが、連続で放たれた魔法はスケルトンナイトを燃え上がらせて、その姿をドロップ品へと変えた。
「いやー、本当に数が多いな。これはレベル上げ専用施設として使われるわ」
「再生と名が付くだけある。早く抜けないと次から次に生まれてくるぞ」
俺の言葉にシラールドが【天帝】の汚れを確認しながら同意している。早めにこの場を離れないと、また部屋の片隅に積まれた骨の山から、骨の戦士たちが立ち上がってくる。
「これで二層なのですよね。一番下はどうなっちゃうのですか?」
「まあ、それが目的でここに来たんだ。沢山いるなら良いんじゃないか?」
ドロップ品を回収したアニアが俺の隣に来ると、ちょっと困った表情をしながらそう言った。まだ回復魔法を使うような場面は生まれていないが、先の事を考えて少し不安になったのだろう。
俺がアニアの頬に手を添えて安心させていると、ユスティーナを連れてきたセシリャが口を開いた。
「また、イチャついてるよ!」
「良いじゃないか、アニアは俺の恋人なんだし。どれだけ俺がアニアの帰りを待ってたと思ってんだ?」
「そう言われたらそうかも……でも、ユスティーナの前だよ!?」
セシリャがそう言うので、俺らの視線は自然とユスティーナに集まった。
「ん? 仲がいいと早く卵が産まれるからいいんじゃないの? ママももっとやれって言ってるし。それに、アニアママが嬉しそうだし、パパも嬉しいから良いんだよ!」
「うんうん、ユスティーナは良い子だねえ。ユスティーナが良いなら私も気にしない事にするよ!」
いや、セシリャ。卵の下りは気にしろよ……完全に性教育間違ってるじゃねえか……
これにはアニアもちょっと困惑の表情を浮かべている。
「私、卵を産むのですか……?」
「そんな訳ないだろ! ポッポちゃんが勘違いし続けてるだけだよ! ハッ!」
思わず声を荒げて否定してしまい、ポッポちゃんが聞いていたかと思い辺りを見回す。しかし、ポッポちゃんは骨の山に登っており、その中から一本の骨を咥え上げ、首を全力で振って放っていた。
「……ポッポちゃん、ばっちいから止めなさい」
良かった、ポッポちゃんが落胆するような事態にはならなかったようだ。
先へと進む俺達は、この日の内に最下層の一歩手前である四階の奥まで辿り着いた。
深夜に忍び込んだこともあり、シーレッド王国の兵士は一人も見なかった。
このダンジョンは一階から四階まで構造は変わっていない。規則正しく並べられた石材が通路を形成しており、床も石畳のとても清潔感のあるダンジョンだ。たまに部屋が現れ、そこには何度も再生されるアンデッドや、切っても突いても焼いても何故か体積が減らないスライムに、切り落としても再生をするタコのような魔物など、再生の神の名に相応しい魔物が現れた。
特にアンデッドはRPG的に言えば、無限湧きのような状態で、部屋のアンデッドを全滅させても十分もすればまた湧き出すという、なかなかのレベル上げには美味いダンジョンだと思えた。
寝泊まりができる軍事施設を作ってまで、ここを利用するのはこれがあったからだろう。
「この下が最下層かー、兄ちゃん達と潜るとこんな簡単に来られるんだな」
「ねー、シラールドさんも凄い強いし、セシリャお姉ちゃんも大きい斧で敵を吹き飛ばしてたのにはびっくりした! アニアママは離れてても回復魔法を飛ばしてくれるし、ママも魔法いっぱい撃ってたよ。あっ、ヴィート君も凄かったよ?」
「はは、ユスティーナは優しいなあ。俺ちょっと強くなったと思ってたけど、人間の姿だとまだまだだって分かったよ。でもさ、これでもまだ兄ちゃんはちょこっとしか戦ってないんだよな」
「だねー、戦いながらスキル上げろーって、私の近くで教えてくれてるし」
ヴィートとユスティーナの二人が、五階への階段を覗き込みながらそんな会話をしていた。
敵が湧く様子のないこの場所で今日は野営をするので、暇な二人は何があるという訳でもないこの場所を探索しているのだ。
「ゼン様、もうすぐ用意できるのです。シラールドさん、そのお皿お願いします」
「うむ、承った。ポッポよ、つまみ食いは不味いのではないか?」
俺のマジックボックスに入っている出来上がりの料理を、アニアは皿に切り分けたりと忙しい。シラールドは先ほどまで椅子に座って優雅にワインを飲んでいたのだが、自ら率先して手伝いを始めていた。
ポッポちゃんが机に載って運ばれてくる皿に興味津々の様子を見せている。焼きたてのパンにクチバシを伸ばした所を、シラールドに見られて咎められていた。
そんなポッポちゃんは、自分の皿に載っていたブドウを一粒咥えると、手ぶらになったシラールドへと手渡す。賄賂なのか、共犯を作る気なのか、ポッポちゃんは賢いな!
「飯もできるし、とりあえずこれで良いかな。残りは明日またやろう」
「うん、ありがとう。でも、あのさ……気になってたんだけどさ……ちょっと肌が出過ぎてない?」
「そうだね。でも、こっちの方が軽量だし、動きやすいでしょ? 肌が出てる部分は魔石の効果で保護されてるし問題ないよ」
「あの……太ももを見ながら喋らないでくれるかな?」
「いや、純粋にこんなに細いのに、よくあの斧持てるなって……」
これは八割真面目に言っている。決していやらしい意味はないんだ。アニアのような肉付きの良い太ももは大好きだが、セシリャみたいに細くスマートな太ももも良いと思っている。が、口には決してしない。真面目な表情で接触部分の確認なんかをしてみる。
食事前に新調したセシリャの鎧を調整していた。やはり、一日中動いていると違和感が出る物だ。スキルの恩恵で高度な技術を手に入れているが、生産スキルも実際の経験は必要で、長年その仕事に携わってきた人のようにはいかない。細かな調整などは必要だった。
セシリャが気にしているのは、以前の鎧とは異なり軽量化を狙ったので肌の露出が増えている事だ。重い巨斧を持つセシリャなので、できる限り頑張った結果、お腹が少し出ているし、キルトスカートの下からは太ももが露出されている。ついでに背中部分も大きく開かれており、可愛い肩甲骨がむき出しだ。
だが、防御力と言う面では問題ない。俺が丹念に作り上げたこの鎧は、剥き出しの肌部分も魔石の効果で守ってくれる。完璧なマジックアイテムぶりに作った俺がビビる。
これにはユスティーナの装備作りであまった素材と、俺の分として使おうとしていた素材を投入している。俺の鎧とかどうでも良い気がしてるから、セシリャの分を作った方が良いと判断した。
「本当に動きやすいからいいけどね。それに、新しい斧も凄い良い。今までの倍ぐらい動きやすいから、攻撃も当たりやすくなったよ」
セシリャはそう口にしながら、マジックボックスから取り出した巨斧を振るった。片腕で扱うその姿は、本人の言う通り使いやすさが上がっているのだろう。シーラルドでも重いと言った巨斧を普通に振れるのは、セシリャの所持しているアーティファクトの価値を感じさせる。
今回斧も新調した。出会った頃から使っていた斧は俺が手を加えたので悪い物ではない。だが、セシリャが死蔵させていたある素材を使う為に一から作ったんだ。
その素材とはエアが加護とアーティファクトを得る為に攻略した、統治と軍事の神のダンジョンのボスがドロップした素材だ。「覇王牛の角」――鑑定で出た名前はこんな物で、あのミノタウロスは「ミノタウロス ロード」という名前だった。
いざ作り始めたのだが、この覇王牛の角は恐ろしく強靭だった。多分古竜の鱗も貫ける硬度を持っているだろう。加工するのも一苦労で、元から刃の部分はオリハルコンを使う予定だった事もあり、加工する事を諦め、柄の延長上に取り付けて、槍のように突けるようにすることにした。
出来上がった物は、オリハルコンの量的に片刃の巨斧となった。柄を地面に置いてセシリャを横に並べれば、その高さはセシリャが小柄というのも差し引いても、巨大に見える。
主な素材はルーンメタル。その為に重量は増して破壊力も増えた。オリハルコンを刃の部分に使っているので切れ味も恐ろしい。そして、一番の特徴は覇王牛の角を使った事で、この斧が使用者の身体能力を上げる事ができるマジックアイテムと化した事だ。
エアが持っているあの盾の恩恵を個人で受けられるような感じで、ちょっと体が軽くなる感覚を受ける。
これだけの素材と鍛冶スキルレベル4があれば、マジックアイテムにならない方がおかしいとシラールドに言われた。まあ、考えたらその通りだよな。
試し斬りをする為に、初めて手渡した時のセシリャの喜びようは中々だった。でも、素振りだからって斧を振り回しながら飛び跳ねて喜ぶのは、おっかなすぎるよ。
食事も終わり今日の寝床をマジックボックスから取り出す。
簡易宿泊施設ポッポ亭は、何時でも俺らの旅を助けてくれる素晴らしい施設だ。
コンテナハウスを持ち歩いてる感覚で、膨大な容量を持つ俺だからできる技だよな。
次の日のために、今日はゆっくりと休憩を取った。
次の日、俺達は最下層と言われている五階へと足を踏み入れた。
一応、ダイヤランクの冒険者一行がこれ以上進めないと判断したので、最下層だと言われている。
本当に最下層かは微妙な所だが、とにかく進むだけだ。
「そう言えば、アニアはもう骨は大丈夫になったのか?」
「……そうでした。昔、ゼン様に無理やりあんな事をされたのを思い出したのです」
今俺達の前方では、シラールド、セシリャ、ヴィートの三人が大量に押し寄せるスケルトンの群れを相手に戦っている。その後方にいる俺達は、回復魔法を飛ばしたり、魔法攻撃を放ったり、槍を投げたりと援護に回っている。
そんな状況なのだが、ふと昔の事を思い出して、隣にいるアニアに声を掛けた。
「ファイアアロー! アニアママはパパに、ファイアアロー! 何かさせられたの!?」
俺とアニアの会話を聞いていたユスティーナが、攻撃魔法を放ちながら加わってきた。
「ゼン様には昔に無理やりレベル上げをさせられたのです。その時の相手がスケルトンで、フォースヒール! 私は泣いてしまったのです。デバインシールド!」
アニアも器用に魔法を使いながら会話をしている。
「泣いただけじゃなかったけど……何でもないです。ごめんなさい」
流石にお漏らしをした事は言うなと目で制された。キッとしてる顔も可愛いな。
「怒ったのに何で笑ってるんですか?」
「その顔も可愛いから」
「もうっ! ゼン様はすぐそうやってはぐらかすのです! ブレス! ブレス! ブレス!」
何だよ、嬉しそうな顔してブレス連発とか喜んでるじゃねえか。
「はぁ~、熱々だねえ~。ねえ、ママ?」
やれやれといった様子のユスティーナが、ポッポちゃんへと視線を向けると、そこにはドロップ品のエーテル結晶体を積んで遊んでいるポッポちゃんがいた。魔法を連発したので休憩中だ。
ポッポちゃんは「あれを思い出すよー、あれよ…………主人あれってなに?」とクルゥと鳴いて首を傾げた。多分、ダンジョンで攻略をした積み将棋の事だろうが、名前を完全に忘れている。そんなポッポちゃんも可愛いよ。
「主っ! 敵が止まらん! このまま突っ込むぞ。ヴィートとセシリャはワシの側面で道を作れ!」
「はいっ!」
「りょうかーい!」
一向にスケルトン達が尽きる様子がないので、シラールドが痺れを切らした。俺もそれには同意なので、アニア達を連れて無理やり部屋を突破する事にする。シラールド達は素晴らしい。通る隙間もないスケルトンの壁を、削りながら進んでいっている。後ろに続く俺達も大した労力もなくこの部屋を脱する事が出来た。
「はぁ……はぁ……骨多すぎだよぉ……」
流石に息の切れたセシリャが、巨斧に掴まって休憩を取っている。
「ははは、そろそろ俺も前に出ようか?」
俺はマジックボックスから取り出した冷やして保存してある飲み物を、みんなに配りながらそう言った。
「いや、まだいいだろう。スキル上げにもなるし、経験にもなる。主はもう少し後にしてもらおう」
俺の渡した飲み物を一気にあおったシラールドがそう口を開いた。
「じゃあ、苦戦するような場所になったら出る事にするよ」
出てくる敵の強さ的に最下層だと思われるが、みんな辛うじて余裕はある。シラールド一人だけは息も切れていないのは流石だが、考えてみればエゼル王国の頂点である三天に勝利するような人材だ。
仲間にできる最強クラスが一人いると考えれば、二日で最下層までこられるのも当たり前か。
この後は何度も迷いながらズンズンと進んでいった。アニアが書いているマップもかなり複雑になってきた。これは五階に辿り着くまでの道中より広い可能性がある。いや、五階まではほとんど分かれ道はなかった。多分、ここからが本番となる作りなのだろう。
五階の入り口から少し奥に入ると、敵の様相が一気に変わってきた。
「ぬうっ! まるで自分と戦っているようだわ! 麻痺になっても大して効かぬのも解せん!」
「シラールドでも、あんなにポンポン手足が生えてくるわけじゃないだろ」
トロールの進化系と思われる魔物が、何度傷付けても再生する巨体を揺らしながら、数えるのも嫌になるほどの突進をして壁に激突した。標的とされたセシリャがすれ違いざまに巨斧で足を切断したが、数秒足らずで切り落とした断面からまた足が生えてきている。
そいつが三体、広めの部屋を駆け回っている。
ただ、頭が弱いのか近くにいる奴しか狙わない。攻撃方法も手に持っている岩の柱で殴ってくるか、突進して体全体で押しつぶそうとしてくるぐらいだ。
「これでも死なないのかよ~、兄ちゃんこれヘルプだよ」
トロールの首を切断したヴィートが諦めの声を上げた。それもそうだろう、ちゃんと首を切り落としたのというのに、首なしの身体で落とした頭を拾い上げ、それを元に戻してなかった事にしている。
あれもしかして、アンデッドなんじゃないのか……?
「分かった、俺が二体引き付けるから、残りの一体はみんなで相手してくれ」
そろそろ俺も出なくてはならないようだ。もう少し攻略方法を探っても良いのだろうが、それで攻撃を食らって痛い思いをする事もない。ちょっくら頑張って二体を相手してみるかな。
「こっちに来い! っと、うへー近くで見ると何かドロッとしてるのな」
【テンペスト】を片手に前に出る。俺が二体のトロールの近くに寄ると、標的は俺へと移った。
それを確認すると、みんなはシラールドが相手をしている一体に集まっていく。区切る物は何もないが、部屋を二分しての戦いになった。
「さて、じゃあやるか。まずは、魔法はどうなんだ?」
俺は目の前の一体に無詠唱で『チェインライトニング』を放った。光の柱は寸分たがわずトロールへとめがけて飛んでいく。いつも通り敵を討ち滅ぼすかと思ったのだが、雷はトロールの身体に溶けるかのように吸収されてしまった。
「おぉ、凄えな。やはり魔法は無理なのか。こりゃ、対処方法を見つけないと相当の強敵だな」
先ほどまでアニアとユスティーナは魔法攻撃を行っていた。だが、放つ魔法全てが今のように無効化をされていた。剣で斬っても再生し、魔法も効かないとなると、本当に強力な魔物なのだと実感できる。
「じゃあ、これはどうかな?」
俺は襲いかかってくるトロールの攻撃を避けながら、その太った体に【テンペスト】を突き入れる。アーティファクトの突きは、何の抵抗感も与えずにズブリと体にめり込んだ。そして、【テンペスト】の刃風効果が発生し、トロールの体内で風の刃が暴れ狂い、その体を吹き飛ばした。
「うーん、吹き飛ばしても再生するんだよな……でも、これなら全力をだせるか」
俺は丁度良いサンドバックが見つかった事に、思わず顔がニヤけてしまう。
「さて、ヘラルドグリーヴちゃん。実戦の時間だ」
俺はすね当てとして身に付けている、【ヘラルドグリーヴ】に視線をやった。
名称‥【ヘラルドグリーヴ】
素材‥【鉄】
等級‥【伝説級】
性能‥【速度強化 体力強化】
詳細‥【情報の神のアーティファクト。装備した者の速度と体力を増加させる】
これは、身体能力の強化をもたらすアーティファクトだ。
既にシラールド達と手合わせをして、その性能は試しているが、手加減をしない実戦はこれが初めてになる。
遠慮なく攻撃ができるレベルの相手がいる事に、俺の中にくすぶっていた暴力的な感情が浮かび上がってきた。
「うりゃっ!」
この世界の住人からしても、人間離れしていると言っても良い俺の身体能力は、新たなアーティファクトの力で更に強化される。自分が早くなりすぎて、一瞬周りの風景が飛んでしまうほどだ。今では慣れてきたが、少し加減を間違うとそのまま敵に激突しそうになる。
「はぁっ! ふっ! はっ! だっ!」
片方のトロールへと飛び込み連続して突きを見舞う。まるで小動物のような機敏さは、僅かな間に何度も突きを放てる。百列突きとでも名づけようか、そんな連続突きを疲れる事なく行える。
一瞬の間でトロールはズタボロになり床に転がった。
だが、一つ問題が発生した。俺の突きは止まる事なくトロールを突き続けていたが、刃風効果は槍を突き刺した状態でないと発動しない。結果、ただの突きを連続しただけになってしまったのだ。
トロールは身体を再生しながら、何事もなかったかのように立ち上がってきた。
「うむ……テンペスト、君は悪くないぞ」
俺はもう一匹のトロールの攻撃を避けながら【テンペスト】を慰める。これは使い方の問題だから仕方がない。
「じゃあ、こっちだな」
俺は【テンペスト】をマジックボックスに収納し、替わりに【アイスブリンガー】を取り出した。
「よっと」
岩の柱を振り降ろしてきたトロールの腕を切り落とす。【アイスブリンガー】の一撃は氷結効果で切断面を氷で覆った。
「おっ、これならいけるのか」
どうやら、切断面が覆われていると再生が阻害されるみたいだ。ならこれはどうだろうか?
俺は【アイスブリンガー】を一度収納して、大将軍が持っていた剣を取り出した。
このクイックスライサーというこの剣はアーティファクトではないが、叙事詩級の強力なマジックアイテムだ。誰かに渡してもいいのだが、その相手がいないので俺が保持している。
剣を振ると自分の腕が残像を残して振り降ろされた。剣速を強化したその一撃に、一瞬だけ体が持って行かれる。やはりこれはちょっと慣れが必要だな。
真正面にあるトロールの太い脚は綺麗に切断され、その断面を覗かせる。俺は再生が始まるその前に、突き出した手の先から魔法を放った。
「チェインライトニング。 うん、これなら効くのか、って一撃かよ……」
断面に魔法を当てると、予想通り吸収されて消える事なく激しい光と衝撃音が鳴った。断面は焼け焦げ再生する様子は見られない。魔法が効いた事に感心していると、片足を失い倒れるかと思っていたトロールは姿を消してしまった。魔法技能レベル5の魔法だし、それも当然か。
俺が少しだけ呆気に取られていると、先ほど槍で突きまくったトロールが起き出してきた。
「じゃあ、今度はこうしてみるかなっ!」
俺はクイックスライサーを片手に持ち、トロールに向かって跳躍する。そして、飛んだ俺に合わせて振り降ろされてきた石の柱ごと、トロールの身体を何度も切り裂いていく。
槍の扱いには劣るが、それでもこの世界に並ぶ物は数少ないであろう技術と、素体と複数のアーティファクトの力、そしてこの剣の力によって、トロールが面白いように細切れになっていく。
地面に着地するまでに、俺が突き抜けた先にあった腕から上半身の大半を肉塊に変えた。
トロールの身体は零れ落ちるように崩れる。だが、これでもまだ死なないようで、上半身を失ったまま再生が始まった。
「マジかよ……気持ち悪すぎるだろ……こうなったら全身なくしてやる!」
魔法で攻略できる事は分かったが、武器だけでいけるかも試したい。何より【ヘラルドグリーヴ】を身に着けて全力で動きたいんだ。
俺は残っていた部分全てを切り落とし、最後に地面に付いていた両足も細切れにして一息ついた。
「自分でやってなんだが、グロすぎる……おっ、勝利!」
元トロールだった肉塊は地面に落ちても蠢いていたが、それもすぐに姿を消してドロップ品と化した。流石にあそこまで細かく切断されると、再生をするのも無理なようだ。
だが、あれはそう簡単にできる事じゃないよな……
俺は地面に落ちたトロールのドロップ品である、四十センチ四方の革を拾い上げる。
「ふ~ん、リジェネーターねえ。何たらトロールじゃないって事は、特殊な奴なのか」
鑑定結果で出た結果にこのトロールの名前があった。性能的には魔法耐性だけが付いている。結構簡単に斬れたから、物理耐性は皆無だな。
おっと、攻略方法が分かったなら、みんなに伝えないといけないな。
「おーい、切断面なら魔法が通るぞ」
苦戦をしているみんなに俺がそう声を掛けると、シラールドがいち早く反応した。
「なるほどな、アニア、合わせろ!」
「はいっ!」
アニアに対して叫んだシラールドは、【天帝】を持つ手をクロスさせながら走り出した。そこに、トロールの岩の柱が振り降ろされるが、シラールドは身体をひねって躱すと跳躍した。
そして、落下に合わせて二本の剣を振り降ろす。剣はトロールの足を切断した。
「今だッ!」
「ハァァァッ!」
アニアが【火の指輪】で作り出した火球が、切断された傷口へと殺到した。火球が接触した瞬間に爆発をしながら転倒したトロールの身体を焼いていく。表面にはダメージのなかったトロールの身体も、焼けてしまい再生ができていない。
「それで、効くんだ!? ユスティーナ、俺達も!」
「おぉ~!」
今度は同じ事をヴィート達もやるようだ。ヴィートが腕を切断して、ユスティーナの『ファイアアロー』が焼いている。
「二人とも! お願いっ!」
最後にセシリャが飛び上がると、振りかぶった巨斧を尻もちをついているトロールの頭部目掛けて振り降ろした。パックリと綺麗に割れた頭部に、アニアとユスティーナの魔法が飛んできて、トロールが一気に燃え上がった。
咄嗟だが素晴らしい連携だと思える。この手の指揮はシラールドに一日の長があるな。
そんな事を思っていると、シラールドが俺を見てドヤ顔をしている。
「分かってるよ、流石だ」
「ふはは、二体をもう処理している主に言われても、嫌味にしか聞こえんが素直に喜んでおこう」
せっかく普通に褒めたのにこれだ。喜んでいるのは確かだが、食えないオッサンだ。
「シラールドの言う通りだよ、あのトロールみたいなのドラゴンでも苦戦するでしょ」
ヴィートがそれに続いて口を開いた。相性などもあるだろうが、魔法的要素を含むブレスは多分弾かれるので、賢いドラゴンでない限り攻略は難しそうだな。
ポッポちゃんが俺の近くにやってきた。「主人、だめだめなのよー」と、活躍できなかった事にちょっとしょげている。
俺はそんなポッポちゃんを抱きかかえ、可愛い頭を手の甲で撫でながら話しかける。
「ポッポちゃん、今はちょっと力が足りないかもしれないけど、大丈夫だ。俺には考えがある」
加護を得たとはいえ、元が鳩なのでレベルアップの上限も来ていて、ポッポちゃんは最近力不足を感じている。周りのみんなが強くなっているというのも拍車をかけていた。
ポッポちゃんは「ほんとなの? 主人、ほんとなの?」とクックッと鳴いて、俺の顔へと迫ってきた。
「うん、これは約束だ。絶対にポッポちゃんを強くしてみせる!」
俺がそう声をかけると、ポッポちゃんは俺の腕の中で翼をバタバタとさせて喜びだした。先ほどまで落ち込んでいたのも吹っ飛んだようで、可愛いおめめに力が漲ってきた。
「やるのよ! やってやるのよ!」とクルゥ! と鳴くと、俺の腕から飛び降りて部屋の中を駆け回っている。何だろう、準備運動なのかな?
ふと視線を感じたのでその方向へ顔を向けると、そこには申し訳なさそうな表情をしたユスティーナがいた。俺と視線が合うと、トトトと駆けてきて耳を貸せと身振りをした。
「あのね、レベル上がったの」
なるほど、先ほどの会話を聞いてポッポちゃんには聞かせられないと思ったのだろう。
ユスティーナの腕には俺らも身に付けている共鳴の腕輪がある。先ほど倒した三体分の経験値が分配された結果、レベルが上がったのだろう。道中ではセシリャもレベルが上がっていたので、その性能は確認済みだ。
「ユスティーナ、ポッポちゃんはそんな事は気にしないぞ? ポッポちゃんっ! ユスティーナがレベル上がったってよ」
まだ走り回っていたポッポちゃんへそう声を掛けると、キッとこちらに視線を向ける。そして、その次の瞬間には地面を蹴り上げ飛び上がると、翼を広げてユスティーナへと飛び掛かった。
「わっわっ!」
腕に収まったポッポちゃんは、ユスティーナの顔を見つめると「やっぱあたしの子なのよ! すごいのよ!」と、俺には分かる満面の笑顔でクゥゥゥゥと鳴いている。大分子離れも済んでいるが、やはりユスティーナが成長をするのは嬉しいのだ。
その後も面倒くさい魔物を倒しながら、俺らは先へと進んでいく。たまに良い物をドロップする魔物を見つけたりしたので、その場所はアニアの地図に控えておく。
「主、ここで良いのではないか?」
「そうだね。難易度的にもばっちりだな」
俺とシラールドは大量のドロップ品を前に、肩を並べて会話を交わす。
地面に落ちているのは、中から小のエーテル結晶体に、骨や鉱石、それに幾つかの武器などだ。
ダンジョン特有のドロップにはレアの概念もあるので、スケルトンからは骨だけではなく、他の物もドロップする。
まあ、ウィザードやら、ブレイカーやらと名前が付いているスケルトンだが、大量に湧く事もあり、部屋のボスに比べると二周りは弱い。よって、武器などを落としても、マジックアイテムは稀みたいだ。
今拾って鑑定した長剣は、高品質だが単なる鉄の剣だからね。
「部屋のボスを倒せば湧きも止まるのは、好都合だな」
「うむ、あのリッチには手こずったが、近づかない限りスケルトンの再生を続けるならば、利用できるな」
このダンジョンを攻略する事を一番最初に選んだ理由は幾つかある。その一つに、このダンジョンの特性を利用して、当分の間レベル上げとスキル上げをしようと考えたからだ。
シーレッド王国の間者から聞き出した情報や、シェードが開戦後に得た情報などを統合して判断した。
その他の理由としては、単純にラーグノックから一番遠い事が上げられる。ここを最初に攻略して、戻りながら他のダンジョンを制圧する予定だ。
もう一つ理由があるのだが、それは後の事だ。さてまずは、レベル上げ作戦の開始をしよう。
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5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
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