アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星

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第八章 逆鱗

十二話 褐色の姫君

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 隠密を展開して元王宮の内部に飛び降りる。所々でかがり火を炊いているのが見え、その付近には警備兵が立っている。ここからでも分かるあの肌の色はイレケイ族のようだ。ちらほらと人族も見えるのだが、それは少数だった。
 だが、その身なりは数段階上に見える。あれだけで、力関係が分かってくるな。

 俺の隣りにポッポちゃんも降りてきた。「主人、あたしはここでまつ?」と声を潜めてクッ~と鳴き、俺の顔を見上げていた。

「できる限り俺が見える場所を維持してて、何時呼ぶか分からないから」

 俺はしゃがんでポッポちゃんを撫でながらそう答え、探知を広げる。俺を中心にして球状に広がった探知範囲内には、無数の人の気配と馬などの動物の気配が掛かった。
 念の為に一度全開まで広げたが、思った以上に王宮内にいる人の数は少ない。

「さて、早速情報集めかな?」

 街での情報収集では、目標の人物の詳細な居場所は分からなかった。余り怪しい動きをして目を付けられても面倒だったので、そこまで突っ込んだ質問をしなかった所為でもある。
 まあ、その問題は今から解決するだろう。俺は隠密を展開しつつ建物外部に一人でいる警備兵を探す。そして、見つけた標的に背後から近付き、口を押さえてその喉元にワザと分かるように光る刃物を突き付けた。

「んっ! んんんっ!」
「黙らなければ殺す、動いたら殺す」

 俺が耳元でそうつぶやけば、警備兵はピタリと体の動きを止めて静かになった。少し視線を下に向け、自分の喉元にある物を見て、喉を鳴らしたのが俺にまで聞こえてくる。
 ポッポちゃんが屋根から俺を見守る中、開始した尋問で情報は得られた。地図もないので具体的な話をされても理解が難しかったが、ここからでも見える高い場所にいる事が分かった。
 捕まえた警備兵はキャッチ&リリースだ。錬金スキルのレシピにあった睡眠薬を飲ませて、近くにあった草むらの中に隠しておく。
 一応の確認のために、もう一人同じように尋問するとどうやら嘘は吐いていなかったようだ。

 ポッポちゃんに手を振って呼び寄せ、警備兵が教えてくれた場所に移動する。この時だけは見つからないか少しだけ心配になったが、特に気付かれる事もなく元王宮の上空へと飛び立てた。

「あそこの高い所ね」

 俺が指を指しながらそう口にすると、ポッポちゃんはクッと隠密モードの返事をしてその場所に近付いていく。真上に来たところでポッポちゃんの足から手を放し、そのまま落下して屋根に降り立った。
 浮遊の指輪を外して探知の反応を確かめる。警備兵と比べると弱い物が幾つかある。数は少ないのでしらみつぶしだな。

 外壁に張り付き窓から部屋の中を確認する。幾つかは明らかに使用人の部屋だと内装を見て分かった。三つばかり部屋を覗き次の部屋の中見れば、そこは比較的広めな部屋で内装もそれなりに豪華な部屋だった。
 俺は窓の施錠を『アンロック』で解除して、部屋に侵入する。そして、天蓋付のベッドに眠る人物の顔を確認した。
 そこには年の頃二十を超えたぐらいの褐色の肌を持つイレケイ族の女性が寝ていた。寝顔なので判断は難しいが、見た限りでは情報通りの顔立ちだと思える。

 何だか戦争のたびに同じ事をしている気がするな……

 一瞬、前の戦争の事を思い出してしまい、女性の部屋に侵入している事に若干罪悪感が生まれた。
 しかし、そんな事を気にしていても仕方がないので、俺は彼女を起こす事にした。

「ラーレ様、起きてください」

 名前を呼びながら肩を揺さぶる。起きていきなり叫ばれては困るので、片方の手は口を押さえる事を忘れない。

「うっ!? うんん!!」

 俺の呼びかけでゆっくりと目を開いたラーレは、俺の顔を見ると声を上げたが何とか口を塞いで防ぐ事に成功した。そりゃ寝起きでベッドの横に知らない奴がいたらこうなるわな。

「頼みますから静かにしてください。貴方に危害を食わる気なら寝てる間にしてるでしょ?」

 俺がそう口にすると、とりあえず暴れる事は止めてくれた。だが、険しい表情で俺の事を睨み続けている。

「手を放しますから、叫ばないでくださいね? 叫んだらもう一度口を塞ぎますからね?」

 ラーレがうなずいた事を確認して、俺はゆっくりと手を放す。

「……何者?」

 見るからに気が強そう顔立ちをしたラーレが、少し低めの声で口を開いた。同時に中途半端に掛かっていた毛布から体を出して、ベッドに腰を掛ける。
 ネグリジェ姿のラーレから女性的な魅力を感じてしまい、俺の目は少しだけその姿に釘付けにされた。そして、俺の視線はある一点に注がれる事になった。

 おい、おいおいおい、これは偽戦姫マルティナさんに匹敵するんじゃないのか!?
 マルティナが攻撃的なロケットならば、ラーレのは優しさの象徴って感じだ。
 って、あまりの破壊力にいらん動揺をしてしまった……
 こんな状況だが、俺の反応は仕方ないだろう。だって、俺は男だし。

「私はエゼル王国のゼンと申します。訳あってカフベレ国の王族である、ラーレ様達をお助けしようと参上いたしました」

 俺がそう言うと、ラーレは一瞬眉をひそめた。だが、すぐに表情を戻すと口を開く。

「エゼルねえ、西の大国が何用?」

 この反応は戦争が始まっている事は知らないな。まあ、情報伝達速度的に知らなくてもおかしくはないが、それ以上に敗戦をシーレッド王国が知らせるはずないか。

「実は――」

 俺はエゼル王国とシーレッド王国が開戦した事、その結果を簡単に説明していく。
 その間、部屋の前を警備兵と思わしき奴らが歩いていたが、隠密を展開している俺は気付かれる心配はなかった。

 ラーレは俺の話を真剣に聞いていた。その表情は少しでも情報を得ようとしている真面目な物だった。だが、話が終わると悲しそうに笑いながら口を開いた。

「そうね、でも、止めとくわ。貴方のような英雄志願者は何度も見てるのよ。そのたびに私は期待を裏切られたし、父は殺された。次は母? 弟? そんな事はもう嫌なの。ここにいれば、最低限の生活は送れるのだから、放っておいてほしいわ」

 なるほど、過去にも色々あったのか。これは意志が硬そうだな。
 余りやりたくなかったが、揺さぶるか……

「それでは、ここの領主……確かのタヒルでしたか。あれの物になるって事ですか……まあ、そんな人生もありですかね」
「…………」

 俺がため息交じりでそう言えば、ラーレは目を細くして俺を見つめた。街で聞いた話では現在この地を治めているタヒルと言う男が美しいラーレを狙っていると聞いていた。
 このタヒルはイレケイ族で元は近隣の大領主だったらしい。人族至上主義を布き始めているシーレッド王国にしたら不思議な体制だが、現地の支配はその地の同族にやらせた方が、恨みは全て吸収してくれるし、人を動かすのも楽だろう。色々とうまくいくのかもしれない。

 俺の話を聞いたラーレの無言は、タヒルが自分を狙っている事を知っている不快感の現れだろう。俺はそれを気にせずに更に続けた。

「それに、メルレインは殺す事になりそうですね……すみません、先に謝っておきます」
「ッ!」

 俺がある人物の名前を出すと、ラーレは明らかに動揺した様子を見せた。

「……それが可能だと思ってるの?」
「あぁ、言い忘れてましたが、シーレッド王国の大将軍が死んだのは、私が戦場で直接殺したからです。彼がシーレッド王国の頂点だったならば、メルレインを殺すのはさほど難しくもないでしょうね」

 メルレイン――シーレッド王国の将軍の一人で用兵家と呼ばれている人物だ。カフベレ国がシーレッド王国に併合されてから頭角を現した人物で、父親がカフベレ国の将軍だったために、ラーレなど王族とは幼少の頃から付合いがあった。
 個人の武より二つ名にある通り用兵に長けた人物で、所持しているアーティファクトもエアの盾と似た性能をしているらしい。

 本来はラーレら元王族に忠誠の厚い人物で、国を失ってもラーレ達の側を離れていなかったのだが、近年は元カフベレ国の精鋭兵を連れてシーレッドの為に動いているらしい。まあ、要するにラーレらを人質に取られ、従っている状態なのだろう。
 外部の人間だから冷静にこんな考えが持てるのだろうが、この地の人達の評判はかなり悪い。露骨には口に出さなかったが、裏切り者扱いをされているのを感じた。一度この街で同族と戦った事が心象を悪くしたのだろう。

 街で聞いた噂ではラーレと恋仲だったとか、なかったとか。怪しい情報だったが、彼女の態度を見ればそれは当たっていたのだと分かった。

 ラーレは俺が大将軍を殺した事に多少驚いているが、半信半疑といった様子だ。だが、これは仕方がないだろう、【ヘラルドグリーヴ】を見せれば証拠になるかもしれないが、今は持っていない。それ以外だと今は剣しかない。多分これじゃあ意味はなさそうだ。

「そう……貴方の言う通り、エゼル王国がシーレッド王国の進攻を一度は止めたとしても、国としての力は倍以上あるのよ? 本気を出したシーレッド王国を貴方は本当に止められると思っているの?」
「今エゼル王国との国境沿いの街は、無数のドラゴンに支配されています。国を挙げて兵を出すなら取り戻すのは可能でしょうが、余裕で数万は死ぬでしょう。果たして、それをしてまでシーレッド王国が攻めるかは疑問です」

 俺がそう口にすると、ラーレの表情は険しい物になった。完全に俺を信じていないのだと、一発で分かってしまった。

「あぁ、私は古竜と縁がありましてね。今も自宅には三体の古竜が留守番をしてるんですよ。この地にも一体の古竜が同行しています。まだ幼いのですけどね」

 一応取り繕ってみようと思ったが無駄だった。ラーレの俺を見る顔は詐欺師を見るそれだ。
 改めて自分が言った事を考えれば、やらかしたのだと分かる。誰も俺らの行動を突っ込まないから、俺の常識もおかしくなってたな……。普段は常識人ぶってた自分がもう変な奴なのだと改めて分かったわ……

 俺の心情が漏れ出ていたのか、ラーレは少しの笑みを浮かべながら話し始めた。

「私を説得する事に失敗したとでも思っていそうね」
「分かりますか……?」
「ふふ、違うと言わない貴方は思ったより素直な人なのかしら? もうお帰りなさい。そして、貴方の主人に無理な事はおやめなさいと伝えて」
「あれ? 全部嘘だと思ってますか?」
「エゼル王国との事は真実かもと思ったわ。でも、ここまで忍び込めるなら、貴方は密偵なのでしょ? 暗殺者が戦場で大将軍を破るなんて、誰が信じると思ったのよ」

 やべえ、この人常識人な上、結構分かってる人だ。

「うーん、じゃあ何をしたら信じてくれますか?」
「えっ? ……そうねえ、タヒルの首でも取ってきて私に見せてくれたら考えようかしら。そう言う事で話はもう終わり。私は寝るわ。早く部屋から出ていっ……何で笑ってるの?」

 おっ、いいねえ、いいねえ、これだよこれ! 領主の首一つで動いてくれるとか、シンプルでなお且つ簡単!
 やはり俺は端から交渉なんてするもんじゃねえ。実力行使で解決すべきなんだよ!

「そうですか、そうですか、任せてください。今から行ってきますね。あっ、寝ていても良いですよ。また起こしますから」
「もしかして、暗殺でもしようと思っているの? ここまで忍び込めたのだから、その技術に相当の自信があるのでしょうけど、タヒルは探知に関するアーティファクトを持っているわ。忍び込むことは不可能よ。悪い事は言わないから、このままお帰りなさい」

 そう言ったラーナの顔は、子供をあやすかのような表情をしていた。年下の俺に無茶をするなとでも言いたいのだろう。
 それにしても、探知に関するアーティファクトか。俺が隠密を持っている事はラーレも理解しているから、大方それを見破る類いの物だろう。

 あっ……暗殺しないって思ってたんだった……。いやまあ、これは仕方がないパターンだよな!
 重要人物を救出する為だ、多少の犠牲は付き物さ。

 俺は無理やり理由を頭の中で考える。脳内会議は十対零で可決された。
 まあ、誰に言われたって訳でもない自分縛りだったからな、必要ならば解除するだけだし。

「ならば、正面から行くしかないようですね。一つ聞いておきたいのですが、城に詰めているのは同じイレケイ族のようですが、殺しても良いのですか?」
「……彼等はタヒルの直属の兵よ。メルレインとは違って、私からしたら彼らは裏切り者。それができるなら好きにすればいいわ」
「そうですか、ならば私も心置きなくやれそうです。それでは、タヒルの首を取ってきますので、今暫くお待ち下さい!」
「えっ……!? ちょっと!」

 同族を殺された事に文句が出たら嫌だったが、お姫様からお墨付きが出たので、これで遠慮なくやれそうだ。まあ、あまり暴れるの不味いか。向かってくる奴はやる方針でいこう。

 俺は退出の言葉を口にしながら隠密を展開した。そして、同時にゆっくりと彼女から距離を取る。探知スキルが皆無であろう彼女からしたら、俺は綺麗に消えたように見えただろう。口を押さえて驚きの表情を浮かべていた。

 ラーレの部屋から出た俺は、もう一度探知スキルを全開に展開して、気配の分布を確認する。
 現在いるこの場所もそれなりの兵士が詰めているのだが、この場所よりも多くの気配を感じる場所がある。多分そこにタヒルがいるのだろう。

 目標を見つけた俺は、暫しの間どうすべきなのか考えた。
 ラーレが言っていた通り、隠密を破るアーティファクトがあるとしたら、一体どれほどの範囲なのだろうか?
 今のところ、俺の隠密がかき消された様子もないのは、先ほどラーレと対面した時に分かっている。部屋にたどり着く間にもその様子はなかった事を考えると、それほど効果範囲はないものだと思える。

 ならば、消える範囲までは隠密で近づこう。最初から姿を出して暴れて、逃げられでもしたら面倒臭い。
 そうだ、どうせなら久し振りに仮面でも着けようかな? あぁ、こんなのも面白そうだ。

 俺はマジックボックスのリストを眺めながら、少しの茶目っ気を出して身に着ける服装を選んだのだった。
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