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第九章 戦役
十五話 伝説の食料
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森を南下して数日で、俺達は後一日も進めば森を抜けるところまで来た。
ここでゴブ太君達には一度待機してもらう。流石に彼らを敵の領内とはいえ、連れ歩くのは無理だからだ。下手をしたら、エゼルとシーレッドの双方から、同時に攻撃を受ける可能性もある。この先の安全を確保しない事には動けない。
「じゃあ、俺は一度離れる。一応確認のため言っておくけど、人間が来たら殺さずに捕まえるだけにしてくれよ? ただ、向こうから攻撃してきて、手ごわいようなら始末していい」
ゴブ太君にそう言うと、「仰せ仕りました」とギィ……と低い声で答えた。
ゴブリンキングであるゴブ太君に任せれば、知能のそれほど高くない亜人達も、完全に統制が取れるので安心だ。
本来、こんな存在が現れたら、街ほどの規模でも危ないってのがよく分かった。
シティーコアの力で、弱い魔獣や亜人は立ち入れないが、ホブゴブリンクラスになると意味をなさない。この場にいる中の二千匹は、その程度の強さを持っているから、防御の薄い街は落とせそうだ。
……考えたら俺が武器防具の提供をしているから、本来の五割増しぐらいに考えてもいいかも。
俺は何の心配も持たずに、大公の下へと向かった。
再度訪れた元侯爵の館には、すでにシラールド達が到着していた。
「そっちはどんな感じだった?」
「うむ、アニアが主がいない事を寂しがるぐらいで、特に問題は起きていない」
「そうか、だからこんなにくっ付いてくるのか」
アニアがにっこり笑いながら、俺らの邪魔をしないように隣りを維持している。凄い圧力だ、主に胸が。もしかしてまだ成長してるのか?
「……主、良いか? 向こうの用意が出来たならば、すぐに話を詰めるべきでは?」
俺の視線が固定されている事に、シラールドが若干の呆れた声をあげた。仕方ないだろ、俺にはアニアの魅力に耐える事が出来ないんだ!
シラールド達と共に、大公と元侯爵と話を始める。この場には、俺のいない間にこちらに合流していた協力者、元近衛騎士長と、伯爵も同席していた。
俺は一度、同席している人達を見回してから口を開いた。
「こちらの準備はほとんど整いました。後はどこに敵をおびきだすかです」
俺の言葉に元近衛騎士長が答えた。
「こちらも敵の兵数の把握や、エクターの街に潜ませている者達と接触をした。敵兵が街を出たならば、中から門を開ける事は、比較的容易になっている」
この人が実働部隊の指揮を執るようだ。あの街に潜ませている内通者とも接触出来るらしい。
「細かい作戦は私の範疇ではありませんので、そちらはお任せします。私は指定された場所に潜み、来た敵を屠るだけです」
「そうであれば、簡単に説明だけをしよう。まず、エクターを守る兵数は約二千いる。これは、周囲の町からの援軍が集結した結果だ。大方予想通りの数だと思う」
「その程度の兵数であれば問題ありません」
「心強い言葉だ。次に、貴殿が連れてきた兵はエゼル王国の秘密部隊だとか? 出来る限り見せたくないと、シラールド殿からも聞いている。よって、大公様がエクターの街へ兵を引きつれ赴き、あの馬鹿次男坊が出て来たところで逃走する。その後は段階的に兵を離脱させ、エクター近くの町に集結。最終的にシラールド殿達と、極少数の兵だけで大公様の護衛をする事となった」
「それで結構です。そちらの事はシラールドに任せますので、私には伏兵を置く位置を教えてください」
俺が来る前からある程度の話は詰めていたのだろう。作戦はもう決まっていたようだ。
でもそれならば、シラールドは何でさっき言わなかったんだ? あぁ、これはあれか……アニアを見つめていたから、言う気が失せたのか……
話が終わり、俺達は用意されている部屋に集まった。そこで、もう一度シラールドには確認をしておく。
「さっきの話し合いの結果で大丈夫だよな?」
「アーティファクト持ちがいない部隊ならば、ワシらが周りを固めれば幾らでも対応が出来る。あの作戦で問題はないだろう」
「そうか、シラールドがそう言うならば大丈夫だな」
「うむ、それになアニアがいれば、誰も死なんだろ。主も後で見せてもらった方が良いと思うぞ。あの範囲回復魔法と、アーティファクトの組み合わせは、戦場を一変させるはずだ」
そういえば、『エリアヒール』を習得したけど、時間がなくて見られなかったな。後で『オブシディアンランス』を覚えさすついでに見せてもらおう。
俺がそんな事を考えていると、シラールドは更に続けた。
「それにな、セシリャもこの作戦に参加出来ていたら、更に事は容易だったかもしれん」
「あぁ、馬が強化出来るから、絶対に捕まらない部隊になるんだよな。これで、馬上から安定して攻撃が出来れば、無敵部隊になりそうだな」
「無敵は難しいのでは? 敵にもアーティファクト持ちは出るだろうから、そう簡単には行かないだろう。だが、是非とも育ててみたい計画ではあるな。どうだ主、この戦が終わったら作ってみるのは?」
「私兵を持つって事か? 金はどこから出てくるんだよ。無理無理、そんな顔してもやらねえぞ」
シラールドが楽しそうな表情を浮かべたので、俺は速攻で否定した。正直楽しそうではあるが、使いどころのない私兵なんて持つだけ無駄だろ。
「まあ、こちらの事は任せてもらおう。それより、あれはよいのか?」
シラールドがそう言いながら視線を向けた先には、僅かに開けられたドアの隙間から、こちらを見ている存在がいた。俺はドアに近付いて、その視線の主に話しかける。
「そんな場所でどうなされたのですか?」
「あ、あのっ、ゼン様! お帰りなさいませ! えっと、鳩さんと遊びたいのですが……」
そこにいたのはプルネラだった。どうやらポッポちゃんがお気に入りのようで、相手をしてほしいらしい。
これはポッポちゃん次第なのだが、断わる事はなさそうだなと思いながら、何処にいるのかと探していると、部屋の隅で天井付近を見つめていた。何を見ているのかと思ったら、壁に蛾が張り付いていた。結構大きい。そして、俺には分かる。ポッポちゃんはあれを食う気だ……
幸いプルネラは気付いていない。俺は心の中でそれだけは止めてとお願いをした。
◆
大公の側にシラールドがいれば、何も心配する事はない。
俺は一人で、ゴブ太君達の下へ戻り、作戦で決まった待機場所へと彼らを導く事にした。
その道すがら、ゴブ太君に作戦を伝える。
「そうそう、味方が敵を引き連れて逃げてくるから、俺達は伏兵として一気にその敵を叩けばいいって事だ。そいつらは全員人間だけど、気にしないで戦っていい」
今回、シェードには各所に檄文を撒かせている。内容は簡単だ。大公が救出され、兵を起こしたから、心有る者は敵対するなという物だ。
もちろん、そんな事を言われても困る奴もいるだろう。だけど、そんな事は俺には関係ない。そのまま敵対するならば、可愛そうだけどみんなの経験値になってもらうまでだ。
「それにしても、本当に見事な統制だな。ゴブ太君が指示を出すとこうなるのか?」
エレメンタルホーンの背中に乗り、先頭を進む俺の隣には、風狼にまたがるゴブ太君がおり、その後を亜人達が続いている。
彼らは軽く会話を交わしたりはしているが、騒ぐ様子を見せずに付き従っていた。
ゴブ太君は「大王の威光かと……」とか言っているが、どう考えてもゴブリンキングの力が発揮されている気がする。心なしか、普通のゴブリンも賢そうなんだよな。
さて、俺らが潜む場所といえば、もちろん森しかない。幾ら何でも、平原にこんな大勢力の亜人集団を置いておけないからだ。それに、やはり草木の中は住み慣れた環境だけに、みんな落ち着くようだ。
広大な草原を初めて見た時は、驚きと感動を見せていた亜人達だが、隠れる場所がないのは精神的に不安になるらしい。まあ、普通のゴブリンに関して言えば、その辺の草食動物にも一対一で素手なら負けるから、本能的に嫌がるのだろう。
日も傾いてきたので、食事の時間になったのだが、俺はふとある物の事を思い出した。
「そういえば、俺が渡したパンの出る袋はどうなった?」
ゴブ太君達の食料の足しにと【無尽蔵のパン袋】を渡していた。渡した時は確か残り数九十万前後あったはずだ。だが、一ヶ月以上経っているので、非戦闘員を含めて七千以上いる彼らが使い続けていれば、もうなくなっている可能性がある。
俺の言葉を聞いたゴブ太君が、ゴルゴーンちゃんに視線を送ると、彼女が持っていた袋の中から、【無尽蔵のパン袋】を取り出した。そして、それを俺に丁寧に渡してくる。
「あれ? もしかして、使ってなかったの?」
俺がそう疑問の声を上げると、ゴルゴーンちゃんは「もうそろそろ、なくなるはずですので、何かあった時にと使用を控えていました」と答えてくれた。
もしかして、九十万近くの数を数えていたのか……?
俺は少しだけ疑わしく思いながらも、袋を鑑定した。
名称‥【無尽蔵のパン袋】
素材‥【麻】
等級‥【伝説級】
性能‥【食物生成】
詳細‥【食の神のアーティファクト。(999792/1000000)】
うおおおおおっ! マジかよ! 残り後二百ちょいとか、結構完璧な数の把握してるだろ!
たしかに俺はある程度正確な数を教えた。だけど、ここまでの数字を扱えるとは思わなかったわ。
いやそうか……ゴブリン達は進化すると、それ以前は持っていなかった知恵を得られる。
それは礼儀作法から始まり、魔法の使い方や武器の扱い方、更には生産知識などだ。これは神の加護と同じような現象なのだろう。
ならば、一部が種族の頂点に辿り着いてる彼らにしたら、その管理はそれほど難しい事でもないのか。
でも、九十万もカウントするとか、正気の沙汰じゃねえな……
それにしても、残り二百か……。何だか、急に感慨深くなってきたな。
当時は分からなかったが、俺が初めて手にしたアーティファクトはこの【無尽蔵のパン袋】だ。
そう考えると、何だか最後ぐらいは俺が使わせてほしくなってきた。
「なあ、最後は俺が使いたいんだけどいいかな?」
俺がそう言うと、ゴブ太君とゴルゴーンちゃんは、当然だと言わんばかりにうなずいてくれた。
「じゃあ、最後だから皆には悪いけど、上から順番に食べてもらおうかな」
大分食糧事情が良くなっている亜人にも、まだこのパンは人気だろう。しかし、もう数はないので、上から順に分配してもらう事にした。
俺はせっせと袋からパンを取り出す。もうすぐ尽きるのだと思うと、その作業も楽しくなっていた。いつの間にかカウントは、残り一つになる。俺はみんなが食べ終わったのを見計らい、神様のパンを口に運ぶ事にした。
「思い出の味なんだよな……。このパンと、鶏肉だけで生活してたあの時を思い出すわ……」
俺が転生をしたあのダンジョンの生活を思い出しながら、パンを噛みしめる。
そういえば、このパン袋の仕様は、一口でも食べるとカウントが増えるといった物だ。ならば、最後の一つを食べたなら、袋の中身はなくなるのだろう。そう思いながら、手にしている袋を見つめているのだが、一向に袋は膨らんだままで、中に何かが入っている様子だ。
「もしかして、まだ出て来るのか? いや、それとも計算ミスった?」
おかしい、何だか自分が間抜けなミスをした気がしてきた。感動で少し涙が出ていたのに、その気持ちが物凄く萎えてきた。俺は恐る恐る【無尽蔵のパン袋】に手を突っ込み、中身を取り出した。
「……何じゃこりゃあああああっ!!」
俺の絶叫が森に響く。ゴブ太君達、集まっていた幹部連中が腰を上げて臨戦態勢を取り出した。
ゴブ太君は俺に駆け寄ると「大王っ!? 何事ですか! 敵襲ですか!?」と慌てた様子だ。
だが、俺はそれ所ではなかった。手にしている物体を見て、自然と溢れ出ていた唾を飲み込むと、【無尽蔵のパン袋】を鑑定していた。
名称‥【無尽蔵の焼そばパン袋】
素材‥【麻】
等級‥【伝説級】
性能‥【食物生成】
詳細‥【食の神のアーティファクト。(0/2000000)】
「な、名前変わってるううううぅぅ!」
俺が再度叫ぶと、今度は敵襲ではない事を分かった皆が、俺が手にしている物を覗き込みだした。
俺の釘づけにされた視線と、彼ら亜人の視線には、鑑定結果の名の通り、焼きそばパンが握られている。コッペパンの間に焼きそばが挟まれたシンプルな焼きそばパンで、オマケ程度にコーンが具材として見えた。本当に何年振りか分からなくなるほど、久しぶりに嗅いだソースの香りは、この世界にはまだない未知の香りだと言えるだろう。鼻腔をくすぐるその香りに、俺はいつの間にか口を開けて、焼きそばパンを咀嚼していた。
「駄目だろこれは……。最強のアーティファクトを手に入れてしまった……」
俺の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。この世界の料理に俺は大変満足をしていた。時折、和の味が猛烈に食べたくなるが、それでも前世以上にこの世界の食材は優れていて、不満はなかった。
だが、それは間違いだったと気付いた。日本の古きジャンクフードと言えるだろうこの味は、俺の魂に前世の味が刻み込まれているのを、思い出させてしまったのだ。
一気に食べ終わった俺は、追加でもう一つ取り出す。それに刹那の速度で口に運ぶと、俺の周囲にはよだれを垂らしたゴブ太君達がいる事に気付いた。
「食えっ! 食えっ! 食えっ! みんなを集めて食わせてやれ!」
俺はとりあえず三つほど追加で焼きそばパンを抱え込み、その後は【無尽蔵の焼そばパン袋】をゴブ太君に渡した。夢中で焼きそばパンを食べる俺の目の前では、恐ろしい速度で焼きそばパンが配られ、周囲には濃厚なソースの匂いが立ち込めていた。
亜人達にもこの味は好評らしい。目を細めて食べている。そして、この特別な食事は彼らの気合を奮い立たせる事となった。
うん、うん、士気が猛烈に上がっている事を肌で感じるよ。
……ん? ちょっと、ポッポちゃん! 焼きそばだけ食べてパンを放置するの止めてよね!
ここでゴブ太君達には一度待機してもらう。流石に彼らを敵の領内とはいえ、連れ歩くのは無理だからだ。下手をしたら、エゼルとシーレッドの双方から、同時に攻撃を受ける可能性もある。この先の安全を確保しない事には動けない。
「じゃあ、俺は一度離れる。一応確認のため言っておくけど、人間が来たら殺さずに捕まえるだけにしてくれよ? ただ、向こうから攻撃してきて、手ごわいようなら始末していい」
ゴブ太君にそう言うと、「仰せ仕りました」とギィ……と低い声で答えた。
ゴブリンキングであるゴブ太君に任せれば、知能のそれほど高くない亜人達も、完全に統制が取れるので安心だ。
本来、こんな存在が現れたら、街ほどの規模でも危ないってのがよく分かった。
シティーコアの力で、弱い魔獣や亜人は立ち入れないが、ホブゴブリンクラスになると意味をなさない。この場にいる中の二千匹は、その程度の強さを持っているから、防御の薄い街は落とせそうだ。
……考えたら俺が武器防具の提供をしているから、本来の五割増しぐらいに考えてもいいかも。
俺は何の心配も持たずに、大公の下へと向かった。
再度訪れた元侯爵の館には、すでにシラールド達が到着していた。
「そっちはどんな感じだった?」
「うむ、アニアが主がいない事を寂しがるぐらいで、特に問題は起きていない」
「そうか、だからこんなにくっ付いてくるのか」
アニアがにっこり笑いながら、俺らの邪魔をしないように隣りを維持している。凄い圧力だ、主に胸が。もしかしてまだ成長してるのか?
「……主、良いか? 向こうの用意が出来たならば、すぐに話を詰めるべきでは?」
俺の視線が固定されている事に、シラールドが若干の呆れた声をあげた。仕方ないだろ、俺にはアニアの魅力に耐える事が出来ないんだ!
シラールド達と共に、大公と元侯爵と話を始める。この場には、俺のいない間にこちらに合流していた協力者、元近衛騎士長と、伯爵も同席していた。
俺は一度、同席している人達を見回してから口を開いた。
「こちらの準備はほとんど整いました。後はどこに敵をおびきだすかです」
俺の言葉に元近衛騎士長が答えた。
「こちらも敵の兵数の把握や、エクターの街に潜ませている者達と接触をした。敵兵が街を出たならば、中から門を開ける事は、比較的容易になっている」
この人が実働部隊の指揮を執るようだ。あの街に潜ませている内通者とも接触出来るらしい。
「細かい作戦は私の範疇ではありませんので、そちらはお任せします。私は指定された場所に潜み、来た敵を屠るだけです」
「そうであれば、簡単に説明だけをしよう。まず、エクターを守る兵数は約二千いる。これは、周囲の町からの援軍が集結した結果だ。大方予想通りの数だと思う」
「その程度の兵数であれば問題ありません」
「心強い言葉だ。次に、貴殿が連れてきた兵はエゼル王国の秘密部隊だとか? 出来る限り見せたくないと、シラールド殿からも聞いている。よって、大公様がエクターの街へ兵を引きつれ赴き、あの馬鹿次男坊が出て来たところで逃走する。その後は段階的に兵を離脱させ、エクター近くの町に集結。最終的にシラールド殿達と、極少数の兵だけで大公様の護衛をする事となった」
「それで結構です。そちらの事はシラールドに任せますので、私には伏兵を置く位置を教えてください」
俺が来る前からある程度の話は詰めていたのだろう。作戦はもう決まっていたようだ。
でもそれならば、シラールドは何でさっき言わなかったんだ? あぁ、これはあれか……アニアを見つめていたから、言う気が失せたのか……
話が終わり、俺達は用意されている部屋に集まった。そこで、もう一度シラールドには確認をしておく。
「さっきの話し合いの結果で大丈夫だよな?」
「アーティファクト持ちがいない部隊ならば、ワシらが周りを固めれば幾らでも対応が出来る。あの作戦で問題はないだろう」
「そうか、シラールドがそう言うならば大丈夫だな」
「うむ、それになアニアがいれば、誰も死なんだろ。主も後で見せてもらった方が良いと思うぞ。あの範囲回復魔法と、アーティファクトの組み合わせは、戦場を一変させるはずだ」
そういえば、『エリアヒール』を習得したけど、時間がなくて見られなかったな。後で『オブシディアンランス』を覚えさすついでに見せてもらおう。
俺がそんな事を考えていると、シラールドは更に続けた。
「それにな、セシリャもこの作戦に参加出来ていたら、更に事は容易だったかもしれん」
「あぁ、馬が強化出来るから、絶対に捕まらない部隊になるんだよな。これで、馬上から安定して攻撃が出来れば、無敵部隊になりそうだな」
「無敵は難しいのでは? 敵にもアーティファクト持ちは出るだろうから、そう簡単には行かないだろう。だが、是非とも育ててみたい計画ではあるな。どうだ主、この戦が終わったら作ってみるのは?」
「私兵を持つって事か? 金はどこから出てくるんだよ。無理無理、そんな顔してもやらねえぞ」
シラールドが楽しそうな表情を浮かべたので、俺は速攻で否定した。正直楽しそうではあるが、使いどころのない私兵なんて持つだけ無駄だろ。
「まあ、こちらの事は任せてもらおう。それより、あれはよいのか?」
シラールドがそう言いながら視線を向けた先には、僅かに開けられたドアの隙間から、こちらを見ている存在がいた。俺はドアに近付いて、その視線の主に話しかける。
「そんな場所でどうなされたのですか?」
「あ、あのっ、ゼン様! お帰りなさいませ! えっと、鳩さんと遊びたいのですが……」
そこにいたのはプルネラだった。どうやらポッポちゃんがお気に入りのようで、相手をしてほしいらしい。
これはポッポちゃん次第なのだが、断わる事はなさそうだなと思いながら、何処にいるのかと探していると、部屋の隅で天井付近を見つめていた。何を見ているのかと思ったら、壁に蛾が張り付いていた。結構大きい。そして、俺には分かる。ポッポちゃんはあれを食う気だ……
幸いプルネラは気付いていない。俺は心の中でそれだけは止めてとお願いをした。
◆
大公の側にシラールドがいれば、何も心配する事はない。
俺は一人で、ゴブ太君達の下へ戻り、作戦で決まった待機場所へと彼らを導く事にした。
その道すがら、ゴブ太君に作戦を伝える。
「そうそう、味方が敵を引き連れて逃げてくるから、俺達は伏兵として一気にその敵を叩けばいいって事だ。そいつらは全員人間だけど、気にしないで戦っていい」
今回、シェードには各所に檄文を撒かせている。内容は簡単だ。大公が救出され、兵を起こしたから、心有る者は敵対するなという物だ。
もちろん、そんな事を言われても困る奴もいるだろう。だけど、そんな事は俺には関係ない。そのまま敵対するならば、可愛そうだけどみんなの経験値になってもらうまでだ。
「それにしても、本当に見事な統制だな。ゴブ太君が指示を出すとこうなるのか?」
エレメンタルホーンの背中に乗り、先頭を進む俺の隣には、風狼にまたがるゴブ太君がおり、その後を亜人達が続いている。
彼らは軽く会話を交わしたりはしているが、騒ぐ様子を見せずに付き従っていた。
ゴブ太君は「大王の威光かと……」とか言っているが、どう考えてもゴブリンキングの力が発揮されている気がする。心なしか、普通のゴブリンも賢そうなんだよな。
さて、俺らが潜む場所といえば、もちろん森しかない。幾ら何でも、平原にこんな大勢力の亜人集団を置いておけないからだ。それに、やはり草木の中は住み慣れた環境だけに、みんな落ち着くようだ。
広大な草原を初めて見た時は、驚きと感動を見せていた亜人達だが、隠れる場所がないのは精神的に不安になるらしい。まあ、普通のゴブリンに関して言えば、その辺の草食動物にも一対一で素手なら負けるから、本能的に嫌がるのだろう。
日も傾いてきたので、食事の時間になったのだが、俺はふとある物の事を思い出した。
「そういえば、俺が渡したパンの出る袋はどうなった?」
ゴブ太君達の食料の足しにと【無尽蔵のパン袋】を渡していた。渡した時は確か残り数九十万前後あったはずだ。だが、一ヶ月以上経っているので、非戦闘員を含めて七千以上いる彼らが使い続けていれば、もうなくなっている可能性がある。
俺の言葉を聞いたゴブ太君が、ゴルゴーンちゃんに視線を送ると、彼女が持っていた袋の中から、【無尽蔵のパン袋】を取り出した。そして、それを俺に丁寧に渡してくる。
「あれ? もしかして、使ってなかったの?」
俺がそう疑問の声を上げると、ゴルゴーンちゃんは「もうそろそろ、なくなるはずですので、何かあった時にと使用を控えていました」と答えてくれた。
もしかして、九十万近くの数を数えていたのか……?
俺は少しだけ疑わしく思いながらも、袋を鑑定した。
名称‥【無尽蔵のパン袋】
素材‥【麻】
等級‥【伝説級】
性能‥【食物生成】
詳細‥【食の神のアーティファクト。(999792/1000000)】
うおおおおおっ! マジかよ! 残り後二百ちょいとか、結構完璧な数の把握してるだろ!
たしかに俺はある程度正確な数を教えた。だけど、ここまでの数字を扱えるとは思わなかったわ。
いやそうか……ゴブリン達は進化すると、それ以前は持っていなかった知恵を得られる。
それは礼儀作法から始まり、魔法の使い方や武器の扱い方、更には生産知識などだ。これは神の加護と同じような現象なのだろう。
ならば、一部が種族の頂点に辿り着いてる彼らにしたら、その管理はそれほど難しい事でもないのか。
でも、九十万もカウントするとか、正気の沙汰じゃねえな……
それにしても、残り二百か……。何だか、急に感慨深くなってきたな。
当時は分からなかったが、俺が初めて手にしたアーティファクトはこの【無尽蔵のパン袋】だ。
そう考えると、何だか最後ぐらいは俺が使わせてほしくなってきた。
「なあ、最後は俺が使いたいんだけどいいかな?」
俺がそう言うと、ゴブ太君とゴルゴーンちゃんは、当然だと言わんばかりにうなずいてくれた。
「じゃあ、最後だから皆には悪いけど、上から順番に食べてもらおうかな」
大分食糧事情が良くなっている亜人にも、まだこのパンは人気だろう。しかし、もう数はないので、上から順に分配してもらう事にした。
俺はせっせと袋からパンを取り出す。もうすぐ尽きるのだと思うと、その作業も楽しくなっていた。いつの間にかカウントは、残り一つになる。俺はみんなが食べ終わったのを見計らい、神様のパンを口に運ぶ事にした。
「思い出の味なんだよな……。このパンと、鶏肉だけで生活してたあの時を思い出すわ……」
俺が転生をしたあのダンジョンの生活を思い出しながら、パンを噛みしめる。
そういえば、このパン袋の仕様は、一口でも食べるとカウントが増えるといった物だ。ならば、最後の一つを食べたなら、袋の中身はなくなるのだろう。そう思いながら、手にしている袋を見つめているのだが、一向に袋は膨らんだままで、中に何かが入っている様子だ。
「もしかして、まだ出て来るのか? いや、それとも計算ミスった?」
おかしい、何だか自分が間抜けなミスをした気がしてきた。感動で少し涙が出ていたのに、その気持ちが物凄く萎えてきた。俺は恐る恐る【無尽蔵のパン袋】に手を突っ込み、中身を取り出した。
「……何じゃこりゃあああああっ!!」
俺の絶叫が森に響く。ゴブ太君達、集まっていた幹部連中が腰を上げて臨戦態勢を取り出した。
ゴブ太君は俺に駆け寄ると「大王っ!? 何事ですか! 敵襲ですか!?」と慌てた様子だ。
だが、俺はそれ所ではなかった。手にしている物体を見て、自然と溢れ出ていた唾を飲み込むと、【無尽蔵のパン袋】を鑑定していた。
名称‥【無尽蔵の焼そばパン袋】
素材‥【麻】
等級‥【伝説級】
性能‥【食物生成】
詳細‥【食の神のアーティファクト。(0/2000000)】
「な、名前変わってるううううぅぅ!」
俺が再度叫ぶと、今度は敵襲ではない事を分かった皆が、俺が手にしている物を覗き込みだした。
俺の釘づけにされた視線と、彼ら亜人の視線には、鑑定結果の名の通り、焼きそばパンが握られている。コッペパンの間に焼きそばが挟まれたシンプルな焼きそばパンで、オマケ程度にコーンが具材として見えた。本当に何年振りか分からなくなるほど、久しぶりに嗅いだソースの香りは、この世界にはまだない未知の香りだと言えるだろう。鼻腔をくすぐるその香りに、俺はいつの間にか口を開けて、焼きそばパンを咀嚼していた。
「駄目だろこれは……。最強のアーティファクトを手に入れてしまった……」
俺の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。この世界の料理に俺は大変満足をしていた。時折、和の味が猛烈に食べたくなるが、それでも前世以上にこの世界の食材は優れていて、不満はなかった。
だが、それは間違いだったと気付いた。日本の古きジャンクフードと言えるだろうこの味は、俺の魂に前世の味が刻み込まれているのを、思い出させてしまったのだ。
一気に食べ終わった俺は、追加でもう一つ取り出す。それに刹那の速度で口に運ぶと、俺の周囲にはよだれを垂らしたゴブ太君達がいる事に気付いた。
「食えっ! 食えっ! 食えっ! みんなを集めて食わせてやれ!」
俺はとりあえず三つほど追加で焼きそばパンを抱え込み、その後は【無尽蔵の焼そばパン袋】をゴブ太君に渡した。夢中で焼きそばパンを食べる俺の目の前では、恐ろしい速度で焼きそばパンが配られ、周囲には濃厚なソースの匂いが立ち込めていた。
亜人達にもこの味は好評らしい。目を細めて食べている。そして、この特別な食事は彼らの気合を奮い立たせる事となった。
うん、うん、士気が猛烈に上がっている事を肌で感じるよ。
……ん? ちょっと、ポッポちゃん! 焼きそばだけ食べてパンを放置するの止めてよね!
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※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
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