婚約破棄? 望むところだ、この裏切り騎士め!

といとい

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ざまぁ

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 カツーン、カツーン。

 石畳の廊下に、規則正しい靴音が響く。

「また遅刻ですか、リディア様」

 開口一番、冷ややかな声を浴びせてきたのは、婚約者であり近衛騎士団副団長のアレクシスだった。金の髪も、磨き抜かれた鎧も、完璧に整った笑顔も、いつ見ても隙がない。

(いや、ちょっとぐらい人間味出してくれよ……)

 リディアは心の中で盛大にツッコみながら、無理やり作った優雅な笑みを浮かべた。

「ほほほ、馬車の馬が、あの、寝坊を……」
「馬に責任転嫁するのはおやめください」

 秒で論破された。ぐうの音も出ない。

 彼は完璧だ。清廉潔白、剣の腕も一流、女性に対しても紳士的。おまけに王女である私のポンコツぶりすら、大目に見ていると周囲からは称賛されている。

(うん、違う。大目に見てるっていうか、普通に呆れてるだけだからね?)

「夜会には遅れずに来てください。今度こそ、皆の前で恥をかかせるわけにはいきません」

 アレクシスはピシリと指摘する。

 その言葉に、リディアはこくこくと真面目に頷いた。

(ええ、絶対に遅れませんよ。だってあなたの黒歴史を晒す大イベントなんですからね!!)

 表面上は従順なポンコツ王女。だがその内心では、火花を散らすリディアであった。

---

 それから数日後、リディアは宮廷庭園でとある光景を目撃した。

 アレクシスが、侯爵令嬢セシリアと寄り添い合い、何やら甘ったるい声で囁き合っているではないか。

「君こそ、私の真実の愛だ……」

(うわ、でたーーー!!中二病ポエム!!)

 思わず叫びそうになる口を、リディアはぐっと押さえた。

 完璧主義のアレクシスが、裏ではこんなにも見事に「完璧」な裏切りをしていたとは。

 これを見た以上、リディアの中で何かがカチリと音を立てた。

(よし、証拠集めだ)

 ポンコツを装いながらも、リディアは水面下で動き始めた。
 侍女たちにさりげなく話を聞き、貴族たちの噂話を拾い、出入りする手紙をこっそり入手。

 浮気相手は一人だけではなかった。セシリア以外にも数人、どれもこれも「本命」と言われていたらしい。

(いや多すぎるだろ!!)

 リディアの心のツッコミが止まらない。

 だがその分、夜会のパーティーでの計画は完璧だった。

(よし、あとは本番を待つだけ!覚悟しなさい、アレクシス!!)

 リディアはひそかに拳を握りしめた。

---

 そして夜会当日。

 煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちが思い思いに談笑している。

 その中央、堂々とした態度で進み出たアレクシスが高らかに宣言した。

「皆の前で申し上げます!私は、王女リディア様との婚約を破棄いたします!」

 会場が一瞬、ざわめいた。

(きたきた……!)

 リディアは小さく深呼吸し、にっこりと微笑んだ。

「それは……たいへん、よろしい申し出ですね!」

 ポンコツ全開の口調に、周囲の貴族たちは「やっぱり可哀想な王女様」と哀れみの視線を向ける。

 だが。

「つきましては、こちら、アレクシス様が他の女性たちと交わした「真実の愛」の書簡一覧をご査収くださいませ。」

 にこやかに差し出された大量の手紙の束。

 アレクシスの顔がみるみる青ざめていく。

「さらには、侯爵令嬢セシリア様との密会現場の目撃証言と、浮気相手リストも……ほら、こちらに。」

 ポン、と侍女が差し出した分厚い帳簿。

 静まり返った会場に、リディアの無邪気な声が響き渡った。

「いやあ、愛が、インフレしてらっしゃるうちに、あんなに増えるもんなんですね!ひゃっ。」

 貴族たちの間から「ぶふっ」と堪えきれない笑い声が漏れ始めた。

---

 それからのアレクシスは、まさに転落劇だった。

 浮気騒動は瞬く間に宮廷中に広まり、アレクシスは近衛騎士団副団長の座を追われた。浮気相手たちからも手のひらを返され、貴族社会からも冷ややかな目で見られる始末だ。

「完璧主義とは……一体……」

 どこか遠い目をしてつぶやくアレクシスの姿に、リディアは心の中で手を合わせた。

(うん、南無。)

 一方のリディアはというと――。

「やったあああああ! 自由だあああああ!!」

 王城の中庭で、全力ジャンプ。

 見守る侍女たちは苦笑しながらも拍手を送る。

「しかし、リディア様。ポンコツと言われ続けたのが嘘のように、見事な反撃でしたね」

「ポンコツだなんて失礼ですよ! むしろ策略家ですよ!」

 口々に称賛され、リディアは照れくさそうに笑った。

「いや……私、基本ポンコツなんで……これからもそこは期待しないでね?」

 その言葉に、侍女たちは一斉にツッコミを入れた。

「そこだけは自信満々なんですね!!」

 こうして、ポンコツ(?)王女リディアの新たな自由な日々が始まったのであった。

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