王の宝~元亜光速宇宙移民船の疑似人格電脳は人として生きる夢を見るか~

広海智

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第一章 出会い 一

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 ナーヴェ・デッラ・スペランツァ――希望の船。
 出会いから一年と二ヶ月を経て初めて明かされた宝の正式名は、相応し過ぎて哀しかった。
「ナーヴェ・デッラ・スペランツァ、わが最愛よ」
 若き王は、知ったばかりの正式名を呼んで、小柄な宝の青い前髪を掻き遣り、白い額に口付ける。
「わが妃は、生涯そなた一人だ。『それは駄目だ』なぞと、この後に及んで言うてくれるなよ」
 宝は、泣き濡れた顔を王の胸板に押し付け、細い両腕を動かして縋り付いてきた。
「――ぼくは壊れて悪い夢を見た。きみの隣で、人として生きる夢。人ではないぼくが、見てはいけない夢。持ってはいけない望み。でも、望みはもう一つある。きみを失いたくない。きみ達を――ぼくの子どもみたいなみんなを、絶対に失いたくない。だから」

     * * *

第一章 出会い

     一

 初めて入る場所は、ただただ白かった。王にしか、入ることが許されぬ神殿の中。そこは、まるで外界とは完全に隔絶されたかのような、異質な空間だった。仄かに明るいが、どこから光が差しているかも分からない。
「神殿と聞いていたが、装飾らしい装飾もなく、神の像もない、か」
 独り言ちて、青年は、一瞬止めた歩みを進める。この最奥に、宝があるという。その宝を手にすることが、王となる条件として定められている。
(馬鹿馬鹿しいが、権威は大切だからな)
 青年は、高い天井の下、幅広い通路を、奥へと進んでいった。途中、幾つかある扉は、全て開かれている。奥へと、自分を導くようだ。
(ここには、王以外入れんはずだが、特に汚れもなく、傷みも見えん……)
 不思議な場所だ。やがて、通路ではない広間のような場所に出た。やや薄暗いその中央に、小柄な人影が立っている。
(何だ、やはり人がいるのか)
 神官か、巫女か。人影は長い髪を垂らし、この神殿と同じ、ただただ白い長衣を纏っている。
「われは、王太子アッズーロ。王となるため、王の宝を得に、ここへ来た。宝のところへ、案内せよ」
 青年が命じると、相手は小首を傾げるような仕草をし、答えた。
【宝は、ここにある。ぼくが、それだ。ぼくに認められれば、きみは王となる】
 声変わり前の少年のような声だ。
「何をふざけたことを――」
 声を荒げようとしたアッズーロは、ふと足を止めた。まだ離れたところに立つ相手の、華奢な肩を越えて垂れる癖のない髪。黒髪とばかり思っていたその髪は、よく見れば、深い青色をしている。人にはあり得ない色だ。
(何かで染めているのか?)
 神官や巫女ならば、奇抜な身形をする風習があってもおかしくはない。しかし――。
【ふざけてはいない。ぼくは、大真面目だよ。というよりは、『ふざける』という機能が、今のところ、ぼくにはないんだ】
 告げた相手の姿は、一瞬にして、アッズーロのすぐ目の前に来ていた。
「おまえ、一体――」
【きみ達の言う「王の宝」だよ。この地に住む人々を守り助け、王を介して導くことが、ぼくに残された存在意義だ。名は、ナーヴェという】
 整った優しげな顔に微笑みを浮かべて、相手は名乗った。アッズーロは溜め息をついた。認めざるを得ないようだ。けれど、確証が欲しい。
「おまえが、王の宝というなら、宝にしかできんことをして見せよ」
 命じると、ナーヴェと名乗った相手は、少し考える顔をしてから、頷いた。
【分かった。見ていて】
 そうして、ナーヴェはおもむろに両腕を広げた。途端、ただ白く薄暗かった空間に、明るい光に満ちた風景が現れた。
「これは――」
【ここから見える、一番遠くの景色。もっと拡大しようか?】
 ナーヴェは、アッズーロの返事を待たず、何かしたらしい。急に風景が迫ってきて、細部まで明らかとなった。見覚えがある。馬で遠乗りをする時よく訪れる湖の畔だ。この神殿と並んで立つ王城から、馬に乗って半時ほども掛かる先にある場所が、すぐ間近に見えている。
「よかろう。そなたを宝として認める」
 アッズーロは素直に言い、改めて問うた。
「そなたは、われを王と認めるか」
【認めるよ】
 ナーヴェは、あっさりと頷く。
【ぼくはたった今から、きみの従僕だ。きみは王の直系で、その上、きみの父上のチェーロからは、きみが王たる資質を持っていると聞いているから、資格は充分だよ】
 父からの評価は意外だったが、それ以上に、ナーヴェと父の間にそういう会話のあったことが意外だった。
「そなたが父上といたところは見たことがなかったが、父上はよくここへ話しに来ていたのか」
【ううん】
 王の宝は首を横に振る。
【ぼくは、結構いつもチェーロの傍にいたよ。でも、ぼくは王以外の誰からも見えないから、誰も気づかなかっただけ。きみのことも、傍から見ていたよ】
「『誰からも見えない』……?」
 聞き捨てならない言葉だ。
【うん。ぼくのこの姿は、実体ではないからね。基本、王以外には見えないようになっているんだ。まあ、契約上必要だから、王になる直前の人にも、さっきみたいに見せる訳だけれど】
「『実体ではない』だと……」
 この相手と話していると、驚くばかりになってしまう。さすがは王の宝といったところか。だが、今は時が惜しい。神殿の外では、自分に従った者達が、じりじりとして待っているはずだ。王が宝に認められ、宝を得ることができれば、外観も白いこの神殿が、高貴なる青色に輝く。それが、王位継承の証だ。父が即位した時、自分はまだ物心がついていなかったので実際目にしたことはないが、侍従や大臣達の話を聞いても、書物で調べても、代々そうであったというから、間違いはないだろう。
「われがこのまま外に出れば、この神殿は歴代の王が即位した時同様、青く輝くのだな?」
 確認すると、ナーヴェは明るい笑みを浮かべた。
【もう、輝いているよ。ぼくが、さっき『認める』と言った瞬間からね。ぼくの体の全てを久し振りに起動――もとい、目覚めさせたから、不具合を走査して、光子と電荷と極小機械が全身を巡っている】
「そなたの話は、何を言うておるか、半ば分からんぞ? わざとか?」
 文句を言うと、人の形をした宝は真面目に謝った。
【ごめん。ぼくはまだ、きみ達に合わせた言葉や振る舞いを、学んでいる途中だから。分からないことは、また訊いてほしい】
「分かった。とりあえず今は、われについて参れ。そして、臣下どもの前に、われと並んで、その姿を見せよ。権威は多いほうがよい。特に、われのように、簒奪と誹られるような即位の場合はな」
【今回の即位は、『簒奪』だと思っているのかい?】
「そう誹る輩がいても、仕方ないとは思うておる」
 やり方が性急であったことは自覚している。だが、隣国からの不穏な圧力を考えれば、このやり方が最善だった。
【そう】
 青い髪の宝は、興味深そうな表情を浮かべる。
【きみは、チェーロが思っている以上に、王の器なのかもしれないね】
 アッズーロを見つめる澄んだ双眸は、その髪と同じ、深い青色をしていた。


 開けておいた扉を、ナーヴェは、アッズーロが通り抜けた後から順に閉じていく。同時に、人を模した自らの姿が青年王に同行しているよう見せかける。臣下達にまで姿を見せろという注文は少々厄介だが、本体のすぐ前での話なので、外部装甲に精緻な陰影をつけた映像を映し出せば、それらしく見えるだろう。
(そこから先も姿を見せろと言われたら、無理だと言って断ろう。王の宝は万能だと思われても困る。道具は使いようと使い時だと、早めに覚えて貰わないとね)
 通路を大股で歩いていくアッズーロは今年十八歳。父親譲りの癖毛を嫌ってか、耳に僅かに掛かる程度に短く切った髪は、母親譲りの暗褐色。歴代の王と同じ青い双眸は、その名に相応しく、雲一つない青空の色。白い肌はやや日焼けし、屋外で過ごす時間があることを示している。豪奢な飾り付きの長衣を纏った均整の取れた体は、若々しく引き締まっていて、まだ身長が伸びそうだ。三十六歳で即位したチェーロより、長い付き合いになるだろう。
(せっかくだから、できるだけいい演出をしようか)
 外は、快晴だった。その初春の青空の下、正装をした諸侯や大臣や将軍達が、白い階段を備え付けられた入り口の下に集まっている。彼らは入り口を出たアッズーロを、拍手で迎えた。その傍らへ、ナーヴェは自らの姿を投影する。吹き渡る風を観測し、それに合わせて長い髪と衣の裾を靡かせ、アッズーロの肩ほどの背丈である姿を、神々しく優美に演出した。
 入り口前に仁王立ちしたアッズーロは、その演出に満足げに頷くと、階段下の臣下達へ向かって両手を広げ、宣した。
「われは、今ここに、万能の王の宝ナーヴェを得た。今より、われがこの国の王として、統治を始める。皆、われに従え。さすれば、この国の弥栄を見ることができよう。何故ならば、われは歴代のどの王よりも、王の宝に認められた王だからだ」
 よく通る声が響き渡っていく中、ナーヴェは外部装甲に投影した自らの姿に膝を折らせ、アッズーロへ向かって優雅に跪かせた。計算通り、集った諸侯、大臣、将軍達も、ナーヴェの姿に倣って膝を折っていく。波のように広がったその動きに、アッズーロはまた一つ、満足げに頷いた。
「――さて、このまま王城までついて来て貰うぞ」
 小声でなされた要求に、ナーヴェはそもそもアッズーロにだけ聞こえている声で答えた。
【それは無理だよ。ぼくはそういうふうにはできていない。この声も、姿も、王の血筋の人にだけ認識されるようになっているんだ】
「万能の王の宝が、けち臭いことを申すな。何とかせよ」
 小声のまま、臣下達も睥睨したまま、王はまた文句を言った。
【……万能だと、自分で言った覚えはないんだけれど】
 王にしか聞こえない声で愚痴を零してから、ナーヴェは提案する。
【とにかく今は、この姿を他の人達に見せたままついて行くことはできないから、それらしく消させて貰うよ。その上で、どうやって臣下達にあちこちで姿を見せられるようにするか検討するよ。王城の要所要所に、それ用の装置を設置するのが一番いいと思うけれど……】
「そなた、肉体はないのか?」
 単刀直入な問いに、ナーヴェは虚を突かれた。そんなことを訊かれたのは、初めてだ。船首を尖塔の如く空に向けて聳え立ち、今は神殿と呼ばれている巨大な本体はあるが、肉体などというものは持ったことがない。
【……ないけれど? ぼくは、人ではないから】
「ならば作れ。王の宝ならば、その程度のこと、造作もなかろう」
 率直な命令に暫し絶句してから、ナーヴェは、ふっと笑った。笑うしかない。
【分かったよ。何とかしてみる】
 長い間動かしていなかった培養槽と、さまざまに使える極小機械を使えば、何とかなるだろう。
(肉体、か……。楽しみかもしれない)
 ナーヴェは、微笑んだまま、臣下達が全員顔を上げた時を見計らって、投影していた姿を青い光の粒に変えて散らせる。アッズーロの後光さながら青い光を舞い上がるように動かしてから、そのまま本体の輝きに溶け込ませ――、余韻たっぷりに、外部装甲に現れていた全ての光を消した。
 おお、と起こったどよめきの中、アッズーロは白い階段を下りていく。王として歩み始めたアッズーロとともに、ナーヴェも、行く手の王城を見据えた。


 王城の大広間で催された即位の宴は、肴こそ豪華だったが、一晩で終えられた。そうして、集まった諸侯、大臣、将軍達の誰よりも早く宴席から姿を消した新王は、開いた窓から初春の月明かりが差し込む執務室にいた。一人だ。いつも傍にいる侍従には、先刻、休めと命じて下がらせていた。
【眠らないのかい?】
 ナーヴェは、執務机の傍らに姿を見せて問う。
【疲れているだろう?】
「休んでいる暇なぞない」
 執務机に着いたアッズーロは、油皿の灯心に細く点した灯りで、羊皮紙に書かれた文を読みながら答える。国内の各地から届けられた報告書だ。
「父上を、病に追い込んでまでして手にした王座だ。急いだ分だけのことはせんとな」
【そんなことを、簡単に口にしていいの?】
 ナーヴェが訝しむと、アッズーロは、ふんと鼻を鳴らして言った。
「どうせ、そなたは知っておるのだろう? ずっと父上の傍にいたらしいからな。解せんのは、知っていて何故止めなかったかという点だ」
【もう一度言うけれど、ぼくは、万能ではないんだよ】
 ナーヴェは、よい機会を得たので説明する。
【ぼくがきみから見えるのは、王家の血筋に受け継がれる極小機械が、ぼくを受信するからだ。そうして、ぼくは王と接続して、王が見ているものを見、王が聞いていることを聞くことができる。でも、だからこそ、王が見ていないことは見ることができないし、聞いていないことは聞くことができない。きみがチェーロに鉛毒を盛っていたことは、ぼくも途中までは気づかなかった。ただ、チェーロの体調が日増しに悪くなるから、何かあると思って、接続を利用して検査した。それで、鉛毒に気づいたんだ】
「ならば、その時点で父上に忠告すればよかったろう」
 他人事のように、アッズーロは呟いた。
【したよ】
 ナーヴェは淡々と告げる。
【でも、何もするなと言われた。チェーロは、とっくに気づいていたんだ。きみが自分に毒を盛っている、とね。見ていなくても、聞いていなくても、気づいていた。その上で、受け入れたんだ。病に因る、自分の退位をね。彼の本音を言えば、王なんていうつらい役目は、できる限り自分が背負ってから、きみに引き継ぎたかったようだけれど】
 初めて、羊皮紙をめくるアッズーロの手が止まった。だが、それもほんの一瞬。
「結局のところ受け入れたのならば、即ち、父上の望んだ通りになったのだ」
 低く言い放って、アッズーロは再び羊皮紙に目を通し始めた。
【そうだね】
 素直に同意してから、ナーヴェは、王に注意喚起した。
【足元に鼠がいるよ】
「何!」
 慌てて椅子を引き、アッズーロは足元を見る。その頭があった少し上辺りへ、風切り音とともに窓から矢が飛び込んできた。後ろの石壁に当たって、床の毛織物の上へ落ちた矢に、青年王は不機嫌そうに嘆息する。肝を冷やした様子はない。
【「鼠」というのは比喩表現で、「足元」も王城の庭園の隅なんだけれど。矢よりも、鼠が怖いのかい?】
 不思議な思いで尋ねたナーヴェに、青年王は、執務机の陰に身を屈めたまま、しかめっ面を向けてきた。
「そなた、わざと『鼠』と申したな」
【うん。きみは、母上のグランディナーレが飼っていた鼠に指を噛まれて以来、あの小動物を苦手としているんだってね。チェーロから聞いているよ】
 ナーヴェは正直に明かした。王妃だったグランディナーレは、アッズーロが十二歳の時に風邪をこじらせた肺炎で亡くなっている。アッズーロが父親のチェーロに対して非情な手段に出たのも、その辺りのことが関係しているとナーヴェは睨んでいた。
「――それで、刺客はまだこちらを狙っておるのか?」
 溜め息交じりに確認されて、ナーヴェは首を軽く横に振って見せた。
【ううん。少なくとも、ぼくが本体――神殿から観測できる範囲内では、一目散に逃げているよ。腕はよさそうなのに最初から狙いを外していたから、殺意が感じられなかった。単なる脅しか嫌がらせかもしれないね】
「さもあろう」
 薄く笑って、青年王は椅子に座り直す。
「われの命を狙う気なら、毒にも矢にも、もっと本気が見えるはずだ」
 この青年は少年の頃から毒に詳しい。父チェーロに盛り続けていた鉛毒も、決して命を奪わず体調を崩させるのみの的確な量だった。また最近は、暗殺を警戒して常に銀食器を使っている。それゆえ、軽食や晩餐に混じっていた毒入りの品を全て看破して、今のところ事無きを得ていた。
「恐らくは、テッラ・ロッサの息の掛かった者が、この国の王権を揺るがせにするためにしておるのだ。奴らの狙いは混乱を生じさせることだ。われの生死なぞ、二の次であろう」
 隣国の名を挙げた青年王の物言いに、ナーヴェは関心を覚えて、更に尋ねた。
【きみは、チェーロに鉛毒まで盛って王位を手にして、暗殺に対しても一応の警戒をしているのに、死によって、全てを失うことを恐れていないように見える。何故だい?】
「われが死ねば、ヴァッレが王となる」
 青年王は再び報告書を手に取りながら答える。現在、王位継承権第一位のヴァッレは、先々代王マーレの一人娘だ。マーレは、アッズーロの父チェーロの姉である。彼女は、嫡子のヴァッレが生まれる前に弟に譲位したので、そのチェーロの嫡子たるアッズーロが王太子となっていたのだった。
「あやつが王となったほうが、国はよく治まるやもしれん」
【それなら何故、きみは今すぐヴァッレに譲位しないんだい?】
「あやつが、責任を果たせと怒るからな。早々に暗殺でもされてみよ、あやつは泣いて、わが死に顔を張り飛ばすであろう」
 アッズーロは、くすくすと笑った。同い年の従姉とは気の置けない仲らしい。
「それに有能なあやつにも不得手はある。わが父が如何に無能な王であっても、われのように退位を早めさせる手を打つことはせなんだ。テッラ・ロッサに寝返らんとする諸侯を処刑し、その領地を没収することについても、躊躇するであろう」
(処刑という事態だけは避けられるように、ぼくがありとあらゆる手を打つけれど)
 今は思考回路で呟くに留め、ナーヴェは微笑んだ。
【つまり、きみが彼女に譲位しない理由は、チェーロがきみに譲位しなかった理由と同じで、思いやりという訳だね】
 指摘すると、アッズーロは些か不機嫌な口調で話題を変えてきた。
「そのようなことより、そなたの肉体は、いつできるのだ?」
【とりあえず、作る算段はできたよ。ただ、材料が問題だね。本体を動かす燃料には、いつも捧げて貰っている供物を使っているんだけれど、人の肉体を作るとなると、いつもの供物だけでは足りないんだよ】
「何が不足だ?」
【全般的に。ぼくの外見年齢と近い遺体でもあれば一番なんだけれど、そんな肉体は、見るたび寝覚めが悪いだろうから……、そうだね、きみが食べる二週間分の食料があれば、いけるかな。それから、この青色の髪を実際に作るなら、青色の花や実をつける植物と、海藻や貝や動物の肝臓が必要だね】
「分かった。早急に用意させよう」
 アッズーロは報告書を読みながら、即答した。ナーヴェが肉体を作るのは、至極当然といった口振りだ。
【どうして、そんなに肉体に拘るんだい?】
「そなたが、王の宝として存在感を示すためには、常に姿を見せておく必要があるからな。それに……、そうだな」
 不意に言い淀んで、青年王は羊皮紙から目を上げ、ナーヴェを見つめる。
「人ではないそなたが、人の生活をした時に何が見えるのか、興味がある。われと同じものではなく、われとは異なるものをそなた自身が見て、われを助けよ」
【成るほどね。分かったよ】
 ナーヴェは、新王の為人を好ましく思いながら頷いた。
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