王の宝~元亜光速宇宙移民船の疑似人格電脳は人として生きる夢を見るか~

広海智

文字の大きさ
22 / 105

第六章 捕らわれてのち 一

しおりを挟む
     一

「歌っている……」
 ソニャーレの呟きに、フェッロは何のことかと耳を澄ませた。確かに、荷馬車が走る音に紛れて、微かに細い歌声が聞こえる。フェッロは、背後から差してきた朝日に目を細めつつ、御者台から荷台を振り向いた。荷台に座ったソニャーレの視線の先で、王の宝は腹に手を当てて横たわったままだ。細い足首の片方には、ソニャーレに固く綱を結びつけられ、荷台に繋がれている。一度水を飲み、その後、用を足すためソニャーレに藪の中へ連れていかれた以外は、殆ど動いていない。歌声は、その王の宝から響いていた。

  スカーバラの市へ行ったことがあるかい?
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  そこに住むある人に宜しく言ってほしい、
  彼はかつてぼくの恋人だったから。

  一噎の土地を見つけるように言ってほしい、
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  海水と波打ち際の間に、
  そうしたら彼はぼくの恋人。

  羊の角でそこを耕すように言ってほしい、
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  それから一面胡椒の実を蒔くようにと、
  そうしたら彼はぼくの恋人。

  革の鎌でそれを刈るように言ってほしい、
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  それから欧石南の縄でまとめるようにと、
  そうしたら彼はぼくの恋人。

「一体、どういう意味の歌なんだ?」
 フェッロは難解な歌詞に眉をひそめて、ソニャーレに尋ねた。
「わたしも初めて聴く歌ですから、よく分かりません」
 工作員の少女は切って捨てるように答えたのみだった。
 王の宝は歌い続ける。

  彼がそれをやってできたのなら、
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  薄い亜麻布の衣を取りに来るように言ってほしい、
  その時彼がぼくの恋人になるから。

  できないと言うならぼくはこう答えるよ、
  和蘭芹、薬用緋衣草、迷迭香に立麝香草、
  ああ、せめてやってみると知らせてほしい、
  でなければきみは決してぼくの恋人ではないと。

「恋人」というのは、国王アッズーロのことだろうか。王はかつての恋人で、無理難題を示して、もう恋人になるなと言っているのか。それとも、無理難題を乗り越えて、また恋人になってほしいと言っているのか。
「フェッロ殿」
 不意に、ソニャーレが緊張した声を出す。
「厄介な追っ手が来ました。わたしが相手をします。あなたはとにかく国境目指して馬車を走らせて下さい」
「『厄介な追っ手』?」
「元同僚、ですよ」
 淡々と告げて、ソニャーレは荷台の上に立ち上がった。オリッゾンテ・ブルから吹く風に、ソニャーレの結い上げた胡桃色の髪が靡く。国境まではもうすぐだ。眩い日の出を背景に土埃を上げ、騎馬で追ってきたのは、銀髪を襟足で切り揃えた少女。
(あれが追っ手――。ソニャーレの「元同僚」――)
 フェッロは、奥歯を噛み締める。つまりは、レ・ゾーネ・ウーミデ侯の許でともに働いていた相手ということだ。
「戦えるのか?」
 肩越しに問うたフェッロに、ソニャーレは薄い笑みを浮かべて見せた。
「わたしは工作員。あちらは暗殺者。いい勝負になるでしょう」


――「わが配下から離反者を出したとあっては、王に合わせる顔がなくなる。必ず、ソニャーレに追いつき、王の宝を救え」
 パルーデの、珍しく真剣な顔が脳裏を過ぎる。サーレは唇を引き結んで、馬を疾駆させたまま、腰の鞘から剣を抜いた。ソニャーレは、疾走する荷馬車の荷台に立ち、曲刀を抜いて、こちらを見据えている。荷台の囲いは高く、その下半身は見えないが、恐らくソニャーレの足元に、王の宝も捕まっているだろう。
 サーレは荷馬車に馬を寄せ、ソニャーレ目掛けて剣を振るった。
 金属音が響き、火花が散り、剣が弾き飛ばされる。サーレはすぐに馬上で体勢を立て直し、手綱を捌いて、ソニャーレに再び挑む。数合切り結んだが、決着は着かない。予想以上に、手強い。
(さすが、単身テッラ・ロッサから送り込まれていただけのことはある――)
 サーレは片手で手綱を握ったまま、揺れる鞍の上に足を置いた。勝負を掛けるしかない。何度目か、荷馬車に馬を寄せていき、サーレはソニャーレと切り結びながら、荷台に転げ込んだ。
(いた、王の宝……!)
 王の宝ナーヴェは、ぼろぼろの長衣を纏った姿で、荷台の底に横たわっていた。腹を庇うように体を曲げ、片足は綱で荷台に繋がれている。
(状態が思わしくない――)
 顔をしかめながら、サーレはソニャーレの曲刀を剣で受け流した。王の宝が動ける状態ならば、サーレがソニャーレを防いでいる間に逃げろと言えたが、そうもいかないようだ。
(それなら、せめて、この荷馬車を止める――)
 サーレは、ソニャーレの曲刀を躱し、御者台へ向かった。轟音が響いたのは、その直後だった。
 サーレの目が捉えたのは、振り向きざまに鉄砲を撃った青年の姿、そして、己の体から散る血飛沫。サーレは、背中から荷台の中に落ちた。衝撃に一瞬閉じ、開いた目に、朝日を反射する曲刀が映る。
(パルーデ様――)
 覚悟したサーレの視界を、影が覆った。
「殺したら、駄目だ――」
 掠れた声が、間近で言う。青い髪が、さらさらとサーレに掛かる。
「ぼくは逃げないから、彼女は逃がしてほしい」
「そもそも、あなたは逃げられるような状態ではないでしょう」
 呆れたようにソニャーレが応じる。
「取り引きになっていませんよ」
「ぼくは、その気になれば、きみも、フェッロも殺せる」
 硬い声で、王の宝は告げた。サーレを庇いつつ、王の宝は体を起こし、ソニャーレを見上げる。
「王城の庭園で、フェッロの足元の地面を抉ったのはぼくだ。でも、ぼくは、きみも、フェッロも殺したくない。ぼくは、きみ達みんなに、幸せになってほしい。それが、とても難しいことだと分かってはいるけれど、幾ら壊れようとも、やっぱり、ぼくにとって、きみ達はみんな子どもみたいなものだから」
「どこまで真実なのか分かりませんが、わたしはあなたが何かする前に、一瞬であなたの首を刎ねることができます」
 冷酷に、ソニャーレは告げる。
「やはり、取り引きにはなりません」
「ぼくの体は、これ一つではないから、首を刎ねても無駄だよ。それに、きみはそんな無駄なことはしない。ぼくの肉体を生きたままロッソ三世のところへ連れていくほうが、余ほど利益になると知っているから」
 淡々と、王の宝は応じた。ソニャーレの性格を、よく分かっている。取り引きが、成立してしまう。サーレは、懸命に口を開いた。
「駄目です、ナーヴェ様。わたしなど放って、お逃げ下さい。これは、致命傷です。わたしは、もう助からない。それより、どうか、御身大切に。復讐と追憶以外、生きる糧のなかったパルーデ様に、新たな生きる糧を与えたのは、あなた様と王の、絆なのですから。どうか、あなた様は、王の許へ……」
「アッズーロには、きみから伝言を頼むよ」
 優しい声で、きっぱりと告げ、王の宝はサーレの手から剣を取った。身構えたソニャーレには目もくれず、王の宝は剣を使って、長く青い髪を一房切り落とす。
「これをアッズーロに渡して、伝えてほしい。『ぼくはきみが思っているより、しぶといから大丈夫』と」
「しかし……!」
 サーレは反論しようとしたが、意識が遠くなり始めた。
「大丈夫だよ」
 王の宝は、サーレの手に青い髪の束を握らせ、次いで、傷口に触れる。
「きみは助かる。ぼくが助ける。だから、頑張るんだ」
 サーレは、もう一度反論を試みようとしたが、言葉が出る前に、視界が暗くなり、意識が途切れた。


 それは奇跡の業に見えた。
 王の宝は、髪を切るついでのように、手の親指を、剣で傷つけていた。その親指を、サーレの出血し続ける脇腹に当て、まるで祈るように、目を閉じる。その直後から出血の勢いが収まっていき、見る見る傷の状態が改善していくのが分かった。
(これが、王の宝の力……!)
 ソニャーレは、目を瞠った。王の宝とは、一体何者なのだろう。神ウッチェーロに特別に愛された巫女なのだろうか。
(信じたくはないが、わたしやフェッロを殺せるという話も、本当かもしれない……)
 ソニャーレは、新たな警戒心を持って、王の宝を見下ろした。
 暫くして王の宝は目を開くと、纏っているぼろぼろの長衣の片袖を引き裂いて包帯を作り、サーレの腹に巻いた。
「あんまり清潔ではないけれど、ないよりはましだから、ごめん、サーレ」
 呟いて、王の宝は顔を上げる。
「ソニャーレ、サーレを下ろしてくれるかな? 下ろして、地面に寝かせておくだけでいい。多分、すぐに迎えが来るから。逆に、サーレを残しておかないと、きみ達は新たな追っ手に悩まされることになるよ」
「サーレで追っ手を足止めしろ、ということですか」
「有り体に言えば、そうだね」
 寂しげに微笑んだ王の宝に、ソニャーレは顔をしかめると、まずは床に置かれていた剣を荒野へ放り、次いで意識のない元同僚を抱き上げた。その手に握らされた青い髪が風に飛ばされないよう注意しながら、荷台の囲いに足を掛け、走り続ける荷馬車から跳び下りた。轍跡の砂埃を避け、サーレを寝かせると、走って荷馬車に追いつき、御者台へ跳び乗った。複雑な顔をしたフェッロと目が合ったが、ソニャーレは何も言わず、そのまま荷台へ戻った。
「ありがとう」
 王の宝は、座ったままソニャーレを見上げて微笑み、礼を言うと、元のように横になり、瞼を閉じた。その顔色は、土気色に近い。完全に状態が悪化している。
(サーレに何かを与えて弱ったように見える……)
 まさか、「ぼくにとって、きみ達はみんな子どもみたいなものだから」という、あの言葉も本当なのだろうか。
 小さく息を吐いて、ソニャーレは荷台の床に座り、王の宝の上半身を、自らの膝の上に抱え上げた。硬い床の振動から、少しは守れるだろう。ぐったりとした王の宝は、微かに目を開けてソニャーレの顔を見上げ、ありがとう、と口の動きだけで礼を述べて、力なく目を閉じた。


 国境の山のこちら側、風が吹き渡る荒れ野に、銀髪の少女がぽつんと倒れている。ルーチェは馬に拍車をかけ、急いで少女の許へ行った。
「サーレ!」
 呼んでも返事はなかったが、細身の少女の腹には包帯がしてあり、微かな呼吸も見て取れた。
(一体、誰が……)
 馬から降り、同僚を抱き起したルーチェは、零れ落ちた青い髪に目を瞠った。風に飛びそうになる長い髪の房を急いで掴み、まじまじと見つめる。本物だった。
(じゃあ、手当てして下さったのは、ナーヴェ様……!)
 間違いなく、王の宝はここまで来たのだ。そうでなければ、辻褄が合わない。敵には、サーレを手当てする理由などないのだから。
(ナーヴェ様の足取りは掴めた。でも――)
 ルーチェは眼前に聳える国境の山を見つめた。そこへ続く荒野には、荷馬車も人も見えない。
(サーレをこのままにして、追ってはいけない……。それに、ナーヴェ様は、既に国境の向こう……)
 ルーチェは、サーレを抱えて騎乗した。現状では、サーレを救うため、そして報告のため、レ・ゾーネ・ウーミデ侯領経由で王都へ行くことが最上だろう。
(ナーヴェ様、申し訳ありません……!)
 山の向こうへ、ぺこりと頭を下げて、ルーチェは馬首を巡らせた。
 荒涼とした国境地帯を抜け、田園地帯を通り、レ・ゾーネ・ウーミデ侯城へ戻ったルーチェは、一先ずサーレをパルーデに預けた。手当てはしてあったが、傷はかなり酷い。
「おまえは、その王の宝の髪を持って、王都へ急げ」
 パルーデは、ルーチェの正体を知ってか知らずか、命じる。
「サーレも、回復し次第、わたくしが王都へ連れていくと、陛下に伝えよ」
 サーレをパルーデの寝台に寝かせたピーシェも、振り向いて、力強く頷いてくれた。ピーシェから働きを認められたのは、初めてかもしれない。
「はい!」
 ルーチェは青い髪を握り締めて返事をすると、パルーデの部屋を出て、玄関先に待たせた愛馬の許へ急いだ。御者のフォルマッジョが水と飼い葉を与えてくれていた愛馬ヴィーノは、よく走った。昨夜からほぼ休みなく走らせ続けているが、ルーチェの気持ちを汲むかのように、足を休めない。そのお陰で、日が沈む前に王都へ辿り着くことができた。
「レ・ゾーネ・ウーミデ侯よりの使者である! 火急の用件につき、すぐに陛下に謁見を賜りたい!」
 ルーチェは、いつものような隠密行動ではなく、正々堂々と城門で名乗り、愛馬を衛兵に預けて王城の玄関へと走った。玄関を守る近衛兵達が、やや身構えたが、ルーチェが短衣の懐に入れていた青い髪の束を示すと、一人が王城内へ知らせに走ってくれた。
 王の間で待ち構えていた王は、ルーチェを見るなり、王座から階段を下りてきた。通常ではあり得ないことだ。
「陛下、まずはこれを」
 ルーチェが両手で差し出した青い髪の束を、王は掴み、一瞬見入ってから目を上げた。
「どこにあった?」
「レ・ゾーネ・ウーミデ侯領からテッラ・ロッサ王国へ至る国境手前の荒野です。クリニエラ山脈の北の端に当たります。負傷して意識のない従僕が持っておりました。その従僕は、レ・ゾーネ・ウーミデ侯の配下で、侯より、ヴルカーノ伯の追っ手として派遣されておりました。従僕の負傷は、鉄砲に拠るものと見受けられ、白い、長衣の袖と思われる布で包帯がされておりました」
「つまり、王の宝がテッラ・ロッサへ連れていかれた、ということだな?」
「そう推測されます」
 ルーチェの肯定を受けて、王は周囲に控えた大臣達を振り向いた。
「ヴァッレ、そなたの配下に連絡を取り、最優先で王の宝の所在を突き止めさせよ」
「畏まりました」
 外務担当大臣が一礼し、足早に王の間から出ていった。次に、王は軍務担当大臣を見た。
「ムーロ、直ちに国境沿いの警備を強化せよ。商人であれ、旅人であれ、全て身元を厳重に改めた上で通せ。そして、われが命じたならば、即刻テッラ・ロッサを攻められるよう、軍備を整えよ」
「御意のままに」
 一礼した軍務担当大臣の脇から、道路担当大臣が進み出た。
「陛下、短気はなりませんぞ。今、戦を起こすは、愚策中の愚策」
「分かっておる!」
 王は怒鳴る。
「そのようなことすれば、最初にナーヴェが危険に晒されよう! 全てはナーヴェを――王の宝を救ってからだ」
「それは、困難でございましょう」
 重々しく、財務担当大臣が発言する。
「どうか、王の宝を失った場合のこともお考え頂きたく。テッラ・ロッサには、そうする理由が、充分にございます」
 王は、冷ややかに財務担当大臣を睨んだ。だが、怒鳴りはしない。
「それも分かっておる。なれど、まずは王の宝救出を最優先する方針に異議はなかろう?」
「お分かり頂けているなら、異存はございません」
 財務担当大臣は恭しく一礼した。
 王の宝は、ルーチェに視線を戻した。
「おまえは暫し客間にて体を休めよ。後で、もう少し話を聞く。大臣達は、三十分後に会議室へ集合。今回の件について対策を練る」
「「仰せのままに」」
 王の間に残っていた大臣達が一斉に頭を下げ、ルーチェもそれに倣った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
「おい、ウェスト伯。いくらなんでもこんなみすぼらしい子どもに金を払えと?」 「まあまあ、ブルーノ伯爵。この子の母親もこんな感じでしたが、年ごろになると見違えるように成熟しましたよ。後妻のアリスは元妻の従妹です。あの一族の女は容姿も良いし、ぽんぽんと子どもを産みますよ」 「ふうん。そうか」 「直系の跡継ぎをお望みでしょう」 「まあな」 「しかも伯爵以上の正妻の子で年ごろの娘に婚約者がいないのは、この国ではこの子くらいしかもう残っていませんよ」 「ふ……。口が上手いなウェスト伯。なら、買い取ってやろうか、その子を」  目の前で醜悪な会話が繰り広げられる中、フィリスは思った。  まるで山羊の売買のようだと。  かくして。  フィリスの嫁ぎ先が決まった。 ------------------------------------------  安定の見切り発車ですが、二月中に一日一回更新と完結に挑みます。  ヒロインのフィリスが自らの力と人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、  序盤は暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...