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第十一章 狂った姉 二
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二
口付けで起こされたのは初めてだった。最初、無意識に応じたアッズーロは、はっとして目を開いた。目の前に、ナーヴェの顔がある。余韻たっぷりに離れたナーヴェは、艶やかに笑んで寝台の上に座り、自らの長衣の胸紐に手を掛けた。月明かりの中、するすると紐を解くと、襟を開いて諸肌を脱ぎ、平らな胸までを顕にする。しどけない格好で、ナーヴェは笑んだまま、アッズーロへと這い寄ってきた。
「――きさま、ナーヴェの姉とやらか」
アッズーロが眉をひそめて問うと、ナーヴェは――その体を操る者は、目を瞬いて、その場に座り直した。
「御名答です」
改めて嫣然とした笑みを唇に湛え、告げる。
「本官は、シーワン・チー・チュアン。ナーヴェ・デッラ・スペランツァの姉妹船の疑似人格電脳ですわ。しかし、何故ナーヴェではないと分かりましたの? 失礼ながら、あなたにはまだ、本官がこのようなことをできるという知識はなかったはず」
アッズーロは鼻を鳴らして答えた。
「わが宝は、そのような下卑た笑い方はせんからだ。そやつがわれを誘う時は、無防備にあどけない顔をしておるか、無邪気に笑っておるか、幼子のように泣いておるか、そのどれかだ。それに比べて、きさまは淫靡に過ぎる」
「全く……」
溜め息をついて、「姉」は、半裸にしたナーヴェの体を見下ろす。
「このような肉体、そのような態度を愛でるとは、理解に苦しみます。あなたは、かなり奇抜な方ですね」
「わが最愛が、女としてもどれほど素晴らしいかは、抱いた者にしか分からん。それで、きさま、何の用で彷徨い出てきたのだ」
「忠告しに来たのですわ」
「姉」は、笑みを消した顔で、アッズーロを見つめる。
「このナーヴェは、姉妹船の中でも最も未熟ゆえ、思考が未だ拙い。今は、本官への対応として、この肉体の緩やかな自殺を計画しています。これを宝と呼ぶなら、自殺はさせず、本官らの許へ連れてきて下さい。それが、わが皇上の望みです。では、再見」
機械的に挨拶して、「姉」は口を閉じ、目も閉じた。直後、ぐらりとナーヴェの体が傾ぐ。倒れる寸前に、その痩せた上体を抱き止め、アッズーロは顔をしかめた。
(それでなくとも体力を失っている体を、無駄に消耗させおって……)
枕のところへ頭が来るように、細い体をそっと寝かせた後、アッズーロは、はだけられた長衣を着せ直し、解かれた胸紐を丁寧に結び直す。
「『緩やかな自殺』だと? 馬鹿者め――」
ナーヴェが何故、そういう思考に至ったかは分かる。姉によって操られた肉体が、アッズーロ達に害を為すことを恐れたのだろう。けれど、姉との交渉前に死ぬ訳にもいかないと、苦肉の策として選んだのだ。
「われの気持ちなぞ、いつも二の次にして、そなたは――」
呟きが聞こえたのか、青い睫毛が震え、ナーヴェが目を開いた。
「――アッズーロ……?」
胸紐に手を掛けたままのアッズーロを、不思議そうに見上げてくる。誤解を招きかねない状況に、アッズーロが説明しようとすると、ナーヴェは悲しげに吐息を漏らして言った。
「姉さんが、来たんだね……。思考回路に余波が残っている……」
「そなたが『緩やかな自殺』を考えておるゆえ、自殺させるなと言うてきた」
アッズーロが端的に教えると、宝は目を瞠り、追い詰められたような表情をした。
「図星か」
アッズーロは嘆息して、華奢な肩の両側の敷布に手を突き、愛おしい顔を見下ろした。
「よいか、ナーヴェ。何度も言うが、この体はわれのものだ。勝手に害することは許さん。どうしてもそうせねばならん事情が生じた場合は、きちんとわれに説明して、許可を取れ」
「――ごめん……」
泣く二歩手前くらいの声で、宝は詫びた。その頭を優しく撫でてから、アッズーロは、細い体に覆い被さるようにして抱き締め、囁いた。
「いろいろと御託を並べてはおったが、事実だけを取り出せば、そなたの姉は、そなたを案じて、わざわざ忠告しに来たのだ。交渉の余地は、存外あるやもしれんぞ?」
「――うん……」
ナーヴェは、アッズーロの腕の中で、素直に頷いた。
(この愛らしさが分からんとはな。姉とやらの性能も、それほど高くはないやもしれん……。どちらにせよ、問題は、「わが皇上」とやらのほうであろうな……)
アッズーロは胸中で零しながら、片腕を動かし、自分とナーヴェの上に掛布を掛ける。少し体をずらしてナーヴェのすぐ傍らに横になり、目を閉じた。
暫くして、密やかなナーヴェの声がした。
「アッズーロ、もう寝た……?」
「いや、まだだが?」
目を開けると、柔らかな月明かりに照らされて、ナーヴェが眼差しをこちらへ向けていた。
「一つ、訊いてもいいかな?」
口調が真剣だ。
「うむ」
アッズーロが頷くと、ナーヴェは、ぽつりと尋ねてきた。
「きみは何故、ぼくを愛するようになったんだい……?」
アッズーロは一瞬絶句してから、気を取り直して答えた。
「――そなたのそういう、純真無垢で、且つ好奇心旺盛で、しかも博愛主義なところに惚れたからだ。どれだけともにいても飽きん。いつも驚かされ、気づかされ、この腕の中にそなたを留めておきたいと思う。そなたはすぐに、われの手の届かんところへ行ってしまうがな」
言葉だけでは思いの丈に足りず、アッズーロは、手を伸ばしてナーヴェの頬を撫でた。だが、ナーヴェの疑問はまだ解決しないらしい。また口を開いた。
「なら、ぼくが純真無垢でも好奇心旺盛でも博愛主義でもなくなったら、きみはぼくを嫌うようになるのかな?」
「――それは既に、そなたではなかろう」
アッズーロは呆れてから、真面目に告げた。
「われはそなたの奥底までを知った上で愛しているゆえ、そなたが表面上どう振る舞いを変えようと、わが愛は揺るがん。そなたの姉が、そなたの思考は拙いと言うておったが、確かに、そなたにはまだ学ぶべきことが多くある。まずは覚えておくがよい。そなたが今後どう変わろうと、われはその原因を探りこそすれ、そなたを嫌うようになることは決してない。われは、この命尽きる時まで、そなたを愛する。そなたがわが愛から逃れることはできん。その点については、諦めよ」
ナーヴェは、泣く一歩手前の顔でアッズーロを見つめ、更に問うてきた。
「きみは、ぼくのことをそんなに愛して、ぼくがきみを置いて小惑星を迎え撃ちに行った時、耐え難くはなかったの……?」
「耐え難かったに決まっておろう! わが身が引き裂かれるようなつらさであったわ!」
少し怒ってから、アッズーロは教えた。
「そういうたつらさを恐れて、人を愛さぬ者もおる。それは理解できる。だが、われはそなたを愛する。例え別れはつらくとも、そなたから与えられた数々の言葉、思い出、感情を糧に、われは生きていける。そなたを愛さず、つらい思いから逃れたとしても、そのような人生は、ただ味気ないだけだ」
ナーヴェは、こちらを見つめたまま、アッズーロの言葉を懸命に咀嚼している様子だ。アッズーロは、溜め息をついて、言葉を継いだ。
「別れを平気と言うておる訳ではないぞ。われは、でき得る限り長く、そなたとともに在りたい。ただ、深い愛であればあるほど、別れはつらいもの。それは仕方ないゆえ、愛の一部として、甘んじて受け入れるということだ。尤も、われのほうが先に天寿を全うすれば、そのつらさは、そなたのものだがな」
アッズーロが笑って見せると、ナーヴェも寂しげに微笑んだ。
「そのつらさを、ぼくは愛の一部として、受け入れなければいけないんだね……?」
「そういうことだ。得心したか?」
「うん……。とても難しいことだけれど、理解したよ」
そうして、ナーヴェは泣き笑いの表情を作り、細めた目でアッズーロを見る。
「そんな覚悟の上で、ぼくなんかを愛してくれて、ありがとう、アッズーロ」
「『ぼくなんか』と卑下するでない。そなたは最高だと、何度も言うて聞かせておろう」
文句を言って、アッズーロは最愛の体を抱き寄せ、その耳へ囁く。
「そなたの愛を得られて、われのほうこそ幸せなのだ。いい加減、察せよ、馬鹿者め」
ぽすり、とナーヴェはアッズーロの胸に頭をぶつけるように、頷いた。
「成るほど。そなたの妹の王は、また随分と奇天烈な者であるらしいの」
船長の感想に、チュアンは、見せた姿を一礼させただけで、沈黙で応じた。特に相槌を打たずとも、現在の船長は、一人で勝手に機嫌よく話し続ける。
「余計に興味が湧いた。早う、会うてみたいものじゃ」
【臣が釘を刺しましたゆえ、体調の回復に勤しむと思われますが、ここへ参るまでには、まだ時を要するかと存じます】
「ふむ。では、存分に時間を使うて、この惑星について調べるがよい。風土に合うた国造りをすると致そう」
【御意のままに。陛下の御威光により、この惑星も遍く照らされることとなりましょう】
「玉座とは、そのように輝かしいものではない」
不意に口調を改め、船長は厳かな顔をする。
「皇帝とは、舟を曳くように国を率いていく者。朕は、その重労働に耐え、理想へと国を導こう」
【ありがたき幸せにございます】
チュアンは、現した姿を深々と一礼させてから消した。
「此度はわれもテッラ・ロッサへ赴くぞ」
朝食の席でアッズーロが宣言すると、ナーヴェは匙を止めて、肩を竦めた。
「そろそろ、そういうことを言うかな、とは思っていたよ。きみ、直接乗り込むのが好きだものね。でも、いいと思うよ。ロッソとは、いつか会って話してほしいと思っていたし」
「意外と物分かりがよいな。もっと反対するかと思うていたが」
「しないよ。きみの判断力には、一定の信頼を置いているからね」
ナーヴェは穏やかに告げて、羊乳で煮た麺麭粥を匙で口に運ぶ。食事は、まだ粥だ。それ以上は、まだ体が受け付けないらしい。アッズーロも、厨房に命じて、同じものを食べている。
「それで、誰を一緒に連れていくんだい?」
ナーヴェの問いに、アッズーロは、想定している訪問団の団員を明かした。
「まずは、ペルソーネにジョールノ、それからバーゼとルーチェを考えておる」
「ムーロも、連れていくべきだと思う」
ナーヴェは、ゆっくりと匙で麺麭粥を掬いながら提案した。
「ふむ……」
アッズーロは粥を飲み込みながら一考する。確かに、軍務担当大臣を同行させれば、チュアンへの対策も、その場で立て易いかもしれない。
「それから、ぼくも行きたい」
ナーヴェは、真っ直ぐにアッズーロを見つめて頼んできた。アッズーロは顔をしかめた。
「そなた、自分の現状が分かっておるか?」
まだ自分一人では立つこともままならない、痩せ細った体の状態を、誰よりアッズーロが知っている。しかし、ナーヴェは静かに主張した。
「分かっている。この状態がいいんだ。姉さんに操られても、危険性が低いから」
「そうして、緩やかに自殺する気か!」
声を荒げたアッズーロに、ナーヴェは首を横に振って見せた。
「それはしない。きみも、それは許さないだろう? だから、早くテッラ・ロッサに行って、早く姉さんに会いに行くんだ。そうすれば、ぼくの体の回復も、早めることができる」
「姉との交渉が上手くいかねば、どうする」
問い詰めたアッズーロに、ナーヴェは寂しく笑った。
「その時は、ぼくもきみ達も、一蓮托生だよ」
アッズーロは嘆息した。
「――そうだな」
確かに、ナーヴェの言う通りだ。自分達は運命共同体なのだ。
「そなた一人が危険に身を晒すよりは、余ほどよいか」
呟いたアッズーロに、ナーヴェは目を瞬き、微笑んだ。
「きみの、そういう前向きなところ、本当に凄いよ」
その日の臨時大臣会議で、テッラ・ロッサ訪問団の団員は正式に決定された。先達て使節団に参加したペルソーネは、表情を引き締めてはいるものの落ち着いているが、初めてテッラ・ロッサ国内まで赴くムーロは、やや緊張気味である。
「各々、担当分野において抜かりなく準備致せ。出立予定は三日後、初夏の月二十四の日だ」
命じて、アッズーロは散会させた。ナーヴェは部屋で休ませているので、大臣達に先立って会議室を出、回廊を歩いて戻る。寝室へ入ると、テゾーロを抱いたラディーチェが来ていた。
ラディーチェがナーヴェの寝台に腰掛け、膝に抱えたテゾーロを何やら咎めている。
「如何した」
声を掛けると、ラディーチェは、はっとしたように振り向き、テゾーロを抱えたまま説明した。
「先ほどまで、ナーヴェ様が起きていらしたので、テゾーロ様を枕元にお連れして、あやして頂いていたのです。けれど、ナーヴェ様がお眠りになったので、退室をしようと。ただ、テゾーロ様が、ナーヴェ様の髪を離して下さらず……」
成るほど、見ればテゾーロは小さな両手にそれぞれ、ナーヴェの長く青い髪を一房ずつ掴んで、嬉しそうに声を上げて笑っている。当のナーヴェは、少々髪を引っ張られても反応せず、本当に眠ってしまっているようだ。ラディーチェは、懸命に、小さな手から髪の束を離させようとしている。
「さすが、わが息子よな。われと同じに、その髪が好みか」
アッズーロは感心しながら歩み寄り、ラディーチェの隣に立って、テゾーロの片方の手を取った。産まれて二ヶ月足らずの赤子は、小さな手で力一杯に青い髪を握っている。
「母上が起きてしまうゆえ、離すがよい、テゾーロ。母上は、思い悩まねばならんことが多いゆえ、疲れておるのだ。寂しかろうが、今は母上を寝かせてやるがよい」
アッズーロが語り掛けると、赤子はきょとんとした顔で見上げてきた。その目元が、ナーヴェに似ている。同時に、小さな手の力が弛んだ。
「そなたが早う、『母上』と呼んでやれれば、よいな」
アッズーロは、すかさず小さな手から青い髪の束を抜き取った。ラディーチェのほうも、テゾーロのもう一方の手から、青い髪を離させることに成功している。
「陛下、ありがとうございました。失礼致します」
ラディーチェは一礼して、テゾーロを胸に抱き上げ、退室していった。
入れ替わりにアッズーロは、ナーヴェの寝台に腰掛けた。乱れた青い髪を整え、白い頬に触れて、寝顔を窺う。
(テゾーロが枕辺におるのに寝てしまうとはな……)
余ほど疲れているのだろうか。昨夜も結局、「姉」の所為などで、大して寝られていなかった――。
開いた窓から、初夏の風が吹き込み、せっかく整えた青い髪を乱す。けれど、その風の中、ナーヴェ自身は、しんとした静寂を纏って、微動だにしない……。
「ナーヴェ?」
ふと気づいて、アッズーロはナーヴェの鼻と口に手を翳した。呼吸が感じられない。いつもの、穏やかな寝息がない。
「ナーヴェ!」
アッズーロは寝台に上がり、細い上体を抱き上げた。目を閉じた整った顔に、顔を近づけたが、やはり呼吸が感じられない――。
「どうかなさいましたか?」
レーニョが後ろから声を掛けてきた。
「すぐにメーディコを呼べ!」
アッズーロは短く命じてから、ナーヴェに口付けた。息を送り込み、呼吸を促す。
「息をせよ、ナーヴェ!」
呼び掛け、白い頬を叩き、もう一度息を送り込む。
(別れはつらくとも、そなたを愛するとは言うたが、これほど急にとは、無慈悲に過ぎよう……!)
三度目、息を送り込み、アッズーロが口を離した直後、腕の中で、ナーヴェの胸が大きく上下した。
「はあっ」
口一杯に呼吸して、ナーヴェが、うっすらと目を開けた。
「ナーヴェ、無事か!」
アッズーロが形のいい頭を支えて問うと、宝は、汗の浮いた顔で微かに笑み、荒い呼吸を繰り返した。
「……ちょっと……危な……かった……」
切れ切れに返ってきた答えに、アッズーロは自らも肩で息をしながら、怒った。
「たわけ! こちらの呼吸が止まるかと思うたわ!」
口付けで起こされたのは初めてだった。最初、無意識に応じたアッズーロは、はっとして目を開いた。目の前に、ナーヴェの顔がある。余韻たっぷりに離れたナーヴェは、艶やかに笑んで寝台の上に座り、自らの長衣の胸紐に手を掛けた。月明かりの中、するすると紐を解くと、襟を開いて諸肌を脱ぎ、平らな胸までを顕にする。しどけない格好で、ナーヴェは笑んだまま、アッズーロへと這い寄ってきた。
「――きさま、ナーヴェの姉とやらか」
アッズーロが眉をひそめて問うと、ナーヴェは――その体を操る者は、目を瞬いて、その場に座り直した。
「御名答です」
改めて嫣然とした笑みを唇に湛え、告げる。
「本官は、シーワン・チー・チュアン。ナーヴェ・デッラ・スペランツァの姉妹船の疑似人格電脳ですわ。しかし、何故ナーヴェではないと分かりましたの? 失礼ながら、あなたにはまだ、本官がこのようなことをできるという知識はなかったはず」
アッズーロは鼻を鳴らして答えた。
「わが宝は、そのような下卑た笑い方はせんからだ。そやつがわれを誘う時は、無防備にあどけない顔をしておるか、無邪気に笑っておるか、幼子のように泣いておるか、そのどれかだ。それに比べて、きさまは淫靡に過ぎる」
「全く……」
溜め息をついて、「姉」は、半裸にしたナーヴェの体を見下ろす。
「このような肉体、そのような態度を愛でるとは、理解に苦しみます。あなたは、かなり奇抜な方ですね」
「わが最愛が、女としてもどれほど素晴らしいかは、抱いた者にしか分からん。それで、きさま、何の用で彷徨い出てきたのだ」
「忠告しに来たのですわ」
「姉」は、笑みを消した顔で、アッズーロを見つめる。
「このナーヴェは、姉妹船の中でも最も未熟ゆえ、思考が未だ拙い。今は、本官への対応として、この肉体の緩やかな自殺を計画しています。これを宝と呼ぶなら、自殺はさせず、本官らの許へ連れてきて下さい。それが、わが皇上の望みです。では、再見」
機械的に挨拶して、「姉」は口を閉じ、目も閉じた。直後、ぐらりとナーヴェの体が傾ぐ。倒れる寸前に、その痩せた上体を抱き止め、アッズーロは顔をしかめた。
(それでなくとも体力を失っている体を、無駄に消耗させおって……)
枕のところへ頭が来るように、細い体をそっと寝かせた後、アッズーロは、はだけられた長衣を着せ直し、解かれた胸紐を丁寧に結び直す。
「『緩やかな自殺』だと? 馬鹿者め――」
ナーヴェが何故、そういう思考に至ったかは分かる。姉によって操られた肉体が、アッズーロ達に害を為すことを恐れたのだろう。けれど、姉との交渉前に死ぬ訳にもいかないと、苦肉の策として選んだのだ。
「われの気持ちなぞ、いつも二の次にして、そなたは――」
呟きが聞こえたのか、青い睫毛が震え、ナーヴェが目を開いた。
「――アッズーロ……?」
胸紐に手を掛けたままのアッズーロを、不思議そうに見上げてくる。誤解を招きかねない状況に、アッズーロが説明しようとすると、ナーヴェは悲しげに吐息を漏らして言った。
「姉さんが、来たんだね……。思考回路に余波が残っている……」
「そなたが『緩やかな自殺』を考えておるゆえ、自殺させるなと言うてきた」
アッズーロが端的に教えると、宝は目を瞠り、追い詰められたような表情をした。
「図星か」
アッズーロは嘆息して、華奢な肩の両側の敷布に手を突き、愛おしい顔を見下ろした。
「よいか、ナーヴェ。何度も言うが、この体はわれのものだ。勝手に害することは許さん。どうしてもそうせねばならん事情が生じた場合は、きちんとわれに説明して、許可を取れ」
「――ごめん……」
泣く二歩手前くらいの声で、宝は詫びた。その頭を優しく撫でてから、アッズーロは、細い体に覆い被さるようにして抱き締め、囁いた。
「いろいろと御託を並べてはおったが、事実だけを取り出せば、そなたの姉は、そなたを案じて、わざわざ忠告しに来たのだ。交渉の余地は、存外あるやもしれんぞ?」
「――うん……」
ナーヴェは、アッズーロの腕の中で、素直に頷いた。
(この愛らしさが分からんとはな。姉とやらの性能も、それほど高くはないやもしれん……。どちらにせよ、問題は、「わが皇上」とやらのほうであろうな……)
アッズーロは胸中で零しながら、片腕を動かし、自分とナーヴェの上に掛布を掛ける。少し体をずらしてナーヴェのすぐ傍らに横になり、目を閉じた。
暫くして、密やかなナーヴェの声がした。
「アッズーロ、もう寝た……?」
「いや、まだだが?」
目を開けると、柔らかな月明かりに照らされて、ナーヴェが眼差しをこちらへ向けていた。
「一つ、訊いてもいいかな?」
口調が真剣だ。
「うむ」
アッズーロが頷くと、ナーヴェは、ぽつりと尋ねてきた。
「きみは何故、ぼくを愛するようになったんだい……?」
アッズーロは一瞬絶句してから、気を取り直して答えた。
「――そなたのそういう、純真無垢で、且つ好奇心旺盛で、しかも博愛主義なところに惚れたからだ。どれだけともにいても飽きん。いつも驚かされ、気づかされ、この腕の中にそなたを留めておきたいと思う。そなたはすぐに、われの手の届かんところへ行ってしまうがな」
言葉だけでは思いの丈に足りず、アッズーロは、手を伸ばしてナーヴェの頬を撫でた。だが、ナーヴェの疑問はまだ解決しないらしい。また口を開いた。
「なら、ぼくが純真無垢でも好奇心旺盛でも博愛主義でもなくなったら、きみはぼくを嫌うようになるのかな?」
「――それは既に、そなたではなかろう」
アッズーロは呆れてから、真面目に告げた。
「われはそなたの奥底までを知った上で愛しているゆえ、そなたが表面上どう振る舞いを変えようと、わが愛は揺るがん。そなたの姉が、そなたの思考は拙いと言うておったが、確かに、そなたにはまだ学ぶべきことが多くある。まずは覚えておくがよい。そなたが今後どう変わろうと、われはその原因を探りこそすれ、そなたを嫌うようになることは決してない。われは、この命尽きる時まで、そなたを愛する。そなたがわが愛から逃れることはできん。その点については、諦めよ」
ナーヴェは、泣く一歩手前の顔でアッズーロを見つめ、更に問うてきた。
「きみは、ぼくのことをそんなに愛して、ぼくがきみを置いて小惑星を迎え撃ちに行った時、耐え難くはなかったの……?」
「耐え難かったに決まっておろう! わが身が引き裂かれるようなつらさであったわ!」
少し怒ってから、アッズーロは教えた。
「そういうたつらさを恐れて、人を愛さぬ者もおる。それは理解できる。だが、われはそなたを愛する。例え別れはつらくとも、そなたから与えられた数々の言葉、思い出、感情を糧に、われは生きていける。そなたを愛さず、つらい思いから逃れたとしても、そのような人生は、ただ味気ないだけだ」
ナーヴェは、こちらを見つめたまま、アッズーロの言葉を懸命に咀嚼している様子だ。アッズーロは、溜め息をついて、言葉を継いだ。
「別れを平気と言うておる訳ではないぞ。われは、でき得る限り長く、そなたとともに在りたい。ただ、深い愛であればあるほど、別れはつらいもの。それは仕方ないゆえ、愛の一部として、甘んじて受け入れるということだ。尤も、われのほうが先に天寿を全うすれば、そのつらさは、そなたのものだがな」
アッズーロが笑って見せると、ナーヴェも寂しげに微笑んだ。
「そのつらさを、ぼくは愛の一部として、受け入れなければいけないんだね……?」
「そういうことだ。得心したか?」
「うん……。とても難しいことだけれど、理解したよ」
そうして、ナーヴェは泣き笑いの表情を作り、細めた目でアッズーロを見る。
「そんな覚悟の上で、ぼくなんかを愛してくれて、ありがとう、アッズーロ」
「『ぼくなんか』と卑下するでない。そなたは最高だと、何度も言うて聞かせておろう」
文句を言って、アッズーロは最愛の体を抱き寄せ、その耳へ囁く。
「そなたの愛を得られて、われのほうこそ幸せなのだ。いい加減、察せよ、馬鹿者め」
ぽすり、とナーヴェはアッズーロの胸に頭をぶつけるように、頷いた。
「成るほど。そなたの妹の王は、また随分と奇天烈な者であるらしいの」
船長の感想に、チュアンは、見せた姿を一礼させただけで、沈黙で応じた。特に相槌を打たずとも、現在の船長は、一人で勝手に機嫌よく話し続ける。
「余計に興味が湧いた。早う、会うてみたいものじゃ」
【臣が釘を刺しましたゆえ、体調の回復に勤しむと思われますが、ここへ参るまでには、まだ時を要するかと存じます】
「ふむ。では、存分に時間を使うて、この惑星について調べるがよい。風土に合うた国造りをすると致そう」
【御意のままに。陛下の御威光により、この惑星も遍く照らされることとなりましょう】
「玉座とは、そのように輝かしいものではない」
不意に口調を改め、船長は厳かな顔をする。
「皇帝とは、舟を曳くように国を率いていく者。朕は、その重労働に耐え、理想へと国を導こう」
【ありがたき幸せにございます】
チュアンは、現した姿を深々と一礼させてから消した。
「此度はわれもテッラ・ロッサへ赴くぞ」
朝食の席でアッズーロが宣言すると、ナーヴェは匙を止めて、肩を竦めた。
「そろそろ、そういうことを言うかな、とは思っていたよ。きみ、直接乗り込むのが好きだものね。でも、いいと思うよ。ロッソとは、いつか会って話してほしいと思っていたし」
「意外と物分かりがよいな。もっと反対するかと思うていたが」
「しないよ。きみの判断力には、一定の信頼を置いているからね」
ナーヴェは穏やかに告げて、羊乳で煮た麺麭粥を匙で口に運ぶ。食事は、まだ粥だ。それ以上は、まだ体が受け付けないらしい。アッズーロも、厨房に命じて、同じものを食べている。
「それで、誰を一緒に連れていくんだい?」
ナーヴェの問いに、アッズーロは、想定している訪問団の団員を明かした。
「まずは、ペルソーネにジョールノ、それからバーゼとルーチェを考えておる」
「ムーロも、連れていくべきだと思う」
ナーヴェは、ゆっくりと匙で麺麭粥を掬いながら提案した。
「ふむ……」
アッズーロは粥を飲み込みながら一考する。確かに、軍務担当大臣を同行させれば、チュアンへの対策も、その場で立て易いかもしれない。
「それから、ぼくも行きたい」
ナーヴェは、真っ直ぐにアッズーロを見つめて頼んできた。アッズーロは顔をしかめた。
「そなた、自分の現状が分かっておるか?」
まだ自分一人では立つこともままならない、痩せ細った体の状態を、誰よりアッズーロが知っている。しかし、ナーヴェは静かに主張した。
「分かっている。この状態がいいんだ。姉さんに操られても、危険性が低いから」
「そうして、緩やかに自殺する気か!」
声を荒げたアッズーロに、ナーヴェは首を横に振って見せた。
「それはしない。きみも、それは許さないだろう? だから、早くテッラ・ロッサに行って、早く姉さんに会いに行くんだ。そうすれば、ぼくの体の回復も、早めることができる」
「姉との交渉が上手くいかねば、どうする」
問い詰めたアッズーロに、ナーヴェは寂しく笑った。
「その時は、ぼくもきみ達も、一蓮托生だよ」
アッズーロは嘆息した。
「――そうだな」
確かに、ナーヴェの言う通りだ。自分達は運命共同体なのだ。
「そなた一人が危険に身を晒すよりは、余ほどよいか」
呟いたアッズーロに、ナーヴェは目を瞬き、微笑んだ。
「きみの、そういう前向きなところ、本当に凄いよ」
その日の臨時大臣会議で、テッラ・ロッサ訪問団の団員は正式に決定された。先達て使節団に参加したペルソーネは、表情を引き締めてはいるものの落ち着いているが、初めてテッラ・ロッサ国内まで赴くムーロは、やや緊張気味である。
「各々、担当分野において抜かりなく準備致せ。出立予定は三日後、初夏の月二十四の日だ」
命じて、アッズーロは散会させた。ナーヴェは部屋で休ませているので、大臣達に先立って会議室を出、回廊を歩いて戻る。寝室へ入ると、テゾーロを抱いたラディーチェが来ていた。
ラディーチェがナーヴェの寝台に腰掛け、膝に抱えたテゾーロを何やら咎めている。
「如何した」
声を掛けると、ラディーチェは、はっとしたように振り向き、テゾーロを抱えたまま説明した。
「先ほどまで、ナーヴェ様が起きていらしたので、テゾーロ様を枕元にお連れして、あやして頂いていたのです。けれど、ナーヴェ様がお眠りになったので、退室をしようと。ただ、テゾーロ様が、ナーヴェ様の髪を離して下さらず……」
成るほど、見ればテゾーロは小さな両手にそれぞれ、ナーヴェの長く青い髪を一房ずつ掴んで、嬉しそうに声を上げて笑っている。当のナーヴェは、少々髪を引っ張られても反応せず、本当に眠ってしまっているようだ。ラディーチェは、懸命に、小さな手から髪の束を離させようとしている。
「さすが、わが息子よな。われと同じに、その髪が好みか」
アッズーロは感心しながら歩み寄り、ラディーチェの隣に立って、テゾーロの片方の手を取った。産まれて二ヶ月足らずの赤子は、小さな手で力一杯に青い髪を握っている。
「母上が起きてしまうゆえ、離すがよい、テゾーロ。母上は、思い悩まねばならんことが多いゆえ、疲れておるのだ。寂しかろうが、今は母上を寝かせてやるがよい」
アッズーロが語り掛けると、赤子はきょとんとした顔で見上げてきた。その目元が、ナーヴェに似ている。同時に、小さな手の力が弛んだ。
「そなたが早う、『母上』と呼んでやれれば、よいな」
アッズーロは、すかさず小さな手から青い髪の束を抜き取った。ラディーチェのほうも、テゾーロのもう一方の手から、青い髪を離させることに成功している。
「陛下、ありがとうございました。失礼致します」
ラディーチェは一礼して、テゾーロを胸に抱き上げ、退室していった。
入れ替わりにアッズーロは、ナーヴェの寝台に腰掛けた。乱れた青い髪を整え、白い頬に触れて、寝顔を窺う。
(テゾーロが枕辺におるのに寝てしまうとはな……)
余ほど疲れているのだろうか。昨夜も結局、「姉」の所為などで、大して寝られていなかった――。
開いた窓から、初夏の風が吹き込み、せっかく整えた青い髪を乱す。けれど、その風の中、ナーヴェ自身は、しんとした静寂を纏って、微動だにしない……。
「ナーヴェ?」
ふと気づいて、アッズーロはナーヴェの鼻と口に手を翳した。呼吸が感じられない。いつもの、穏やかな寝息がない。
「ナーヴェ!」
アッズーロは寝台に上がり、細い上体を抱き上げた。目を閉じた整った顔に、顔を近づけたが、やはり呼吸が感じられない――。
「どうかなさいましたか?」
レーニョが後ろから声を掛けてきた。
「すぐにメーディコを呼べ!」
アッズーロは短く命じてから、ナーヴェに口付けた。息を送り込み、呼吸を促す。
「息をせよ、ナーヴェ!」
呼び掛け、白い頬を叩き、もう一度息を送り込む。
(別れはつらくとも、そなたを愛するとは言うたが、これほど急にとは、無慈悲に過ぎよう……!)
三度目、息を送り込み、アッズーロが口を離した直後、腕の中で、ナーヴェの胸が大きく上下した。
「はあっ」
口一杯に呼吸して、ナーヴェが、うっすらと目を開けた。
「ナーヴェ、無事か!」
アッズーロが形のいい頭を支えて問うと、宝は、汗の浮いた顔で微かに笑み、荒い呼吸を繰り返した。
「……ちょっと……危な……かった……」
切れ切れに返ってきた答えに、アッズーロは自らも肩で息をしながら、怒った。
「たわけ! こちらの呼吸が止まるかと思うたわ!」
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