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 突如としてガレイアの街を襲った、魔力を収束させてのエネルギー砲。

 異形の魔獣より放たれたそれが地上に着弾し、もうもうと土煙が立ち込めるとともに。

「アハッ、アハハハハハハッ!」

 上空より響いたのは勝ち誇ったかのような高笑いだった。

 どこか無邪気で、幼さをはらんだ。
 少年のものを思わせる、あどけない笑い声。

 だがその姿を見た者なら、誰しもが直感するだろう。
 あれは決して、“ただの子ども”などではないと。

 まずもってブブブブと、羽を震わせるようにホバリングしている甲虫型の魔物。
 その背を足場に、彼が悠然と地上を見下ろしていることもそうだが。

 それは人として――いや、生物として定まった形を持っていない。
 まるで全身に無数の小蝿こばえがたかっているかのように。
 その輪郭は絶えず揺れ動き、うごめいていたからだ。

 何かは分からずども、とてもおぞましくて不気味。
 本能的な畏怖いふを掻き立てる、何か。
 それだけは確かな異物――いや、怪物だった。

 その姿を地上より、遠目に捉え――。

「あれは、まさか……っ!?」

 思わず声を張りあげたのは調合師、ギルダ・ティーンレイクである。

 たまたまにしろ、昼間に話題にのぼったばかりだったからだ。
 現状、この街を支えている戦力の中核はガレイアの三兄弟が担っているが。

『三男、レドックス・ガレイアが敵の幹部格――“夢喰いのセレビネラ”を討ち取った以上、ほかの幹部格たちが敵討ちに動いてくる可能性もあります』

『ひぇええ、そんなぁ~っ!?』

『いえ、おそらく1人はもうすでに……』

 スーランを不安がらせてしまったその可能性がまさか、こんな予期せぬ形で現実のものとなるだなんて。

 付近の勢力図を俯瞰ふかんして、増援にくる可能性のある幹部格は2人いた。
 そしてあれは、まぎれもなくその内の一角。

 剛腕無双で知られる"戦鎚せんついのグランダム"を除けば。
 特徴に一致するあの敵影は1人しか該当しない。
 つまり――。

「あれが、“蠱毒こどくのムシウル”……ッ!」



 ――蠱毒。
 それは古来より伝わる呪術の1つだ。

 壺の中に百匹単位の毒虫を閉じ込め、放置すれば、やがて虫たちは共喰いを始めるだろう。そうして最後に生き残った“最強の虫”を「」とし、呪法に用いる核とするのである。

 ムシウルの成り立ちも、それに近しいものがあった。
 だがひとつだけ、決定的に異なる点がある。

 ムシウルは単に他の虫たちを餌食えじきとしたのではない。
 それらを自らの内に生きたまま取り込み、吸収したのだ。

 つまりは融合と変質を繰り返し、果てに生まれた1つの完成形。
 従来のそれとは一線を画する、まったく新しいおこりの“”。

 それが『蠱毒のムシウル』だった。
 彼の起源であり、ルーツ。

 故に、そんな見分けの付かなくなるような呼ばわれ方は不服。
 思うところがないでもないのだが。

「まぁいいさ。今は気分が良い、これでようやくスカッとできたからな」

 そんな不敬も今ばかりは目をつむってやることにする。
 なにせようやく排除できたからだ。
 あの目障りで仕方のなかったポーション屋を。


 ああ本当に、鬱陶うっとうしいほどに目障りだった。
 セレビネラがやられたというので、尻ぬぐいに毒虫たちを送っていたが。

『なに、戦況が動いてないだって? まさか、そんなわけないだろ。そっちにいったい、何匹向かわせたと思って……』

 一足先に向かっていたグランダムからそんな報せが入り、虫たちの反応を探ってみればそのまさか。

『全滅、だと……!?』

 こちらが放った百余の眷属けんぞく
 そのすべてが一匹残らず撃墜げきついされていて。

『バカな、そんなの有り得ないだろ……!? いったい誰が……!』

 新たに偵察隊を差し向けてみれば、その原因はすぐにも明らかとなった。

『あーぁあ、つまんねぇなあ。久しぶりに骨のある奴とやりあえると思ったらよぉ。結局また虫かよ。しかも今度は、ただデケェだけのムカデじゃねぇか。ワラワラ、ワラワラ。オメェらどっから湧いてやがんだ? いい加減、飽きたぜ』

(あいつは……!?)

『虫けら相手じゃ、退屈なんだよぉおおおッ!!!』

 ドゴォン。
 イラ立ちまじり、それもかなり無造作に振り下ろされた峰打ちの一撃が、かま首をもたげてからギシャアアと突っ込んだ大百足の頭蓋をかち割り、地面にめり込ませる。

(なぁ……っ!?)

 そのままビュッと、太刀を一振り。
 刀身にベッタリ、まとわり付いた緑色の体液を振り払って。

『ったく、これじゃあ体がナマってしゃあねぇぜ』

 肩に得物をペシペシさせながら、その見るからに野蛮で凶暴そうな男は行ってしまった。しかし着崩したような半裸に赤毛とくれば、思い当たる相手は1つしかない。

『なるほど。さては、あれが……』

 ――レドックス・ガレイア。
 この『ガレイア』攻防戦における、向こう側の最大戦力。
 ガレイア兄弟の三男坊なのだろうと。

 一筋縄ではいかない。
 もっとも警戒すべき相手とは把握していたが。

『想像以上にバカげてるな。まぁこれで蟲たちがやられた理由は見えた。ぜんぶアイツにやられてたってわけか……。だがそれにしても、これはどういうことだ……?』

 ただ不可解なことが1つだけ。
 それからも幾度かムシウルはレドックスに毒蟲たちを差し向けたが。

 効かないのだ。
 数で攻め立て、どうにか毒針を打ち込んでも、あるいは吸い込ませても。

『はっ、コイツぁいい! オラオラオラァ! ぜんぜん効かねぇぞ、数だけか羽虫どもぉッ!?』

 レドックスにはあらゆる毒が効かない。
 いや、たちどころに解毒されてしまうのだ。
 いったい何故……?

 だがそのカラクリも、まもなく明らかとなる。

『あのポーションか……!?』

 キュポンとやって、グイ。
 まるで酒でもあおるかのように、レドックスが定期的に口に含む薬瓶があったのだ。

 どうやらそれが解毒剤アンチドーテのようで。

 でもそこまで見定めれば、あとの話は簡単だった。
 レドックス当人には見ての通り、手の付けようがないし、毒も効かないが。

 だったら――。

『そのポーションを作ってる奴を見つけて、先に潰せばいい。それで奴も終わりだ』

 そんな勝ち筋を立て、ムシウルはわらった。
 口元に三日月に笑みを浮かべ、ニタリと。

『何処のどいつかは知らないが、突き止めてやる。僕に盾突いたことを必ず後悔させてやるよ』

 そうしてムシウルはわざと、死なない程度の毒虫たちを放ったのだった。

 解毒ポーションを作ったのが誰なのか。
 その答えをあぶり出し、引きずり出すために。

 そして、今――。
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