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 さてここで、時は少しだけ遡る。
 あの瞬間、何が起きていたのかについてだ。

「あっ、そうだ! いっけな~い! すっかり忘れてた~!」

 老婆からツけられていることを気取けどり、パタパタと足を急がせていたアルメリア。

「はやく帰らなくちゃ~!」

 などと吹聴ふいちょうしつつ。

(お願い、お婆ちゃん……! 今日のところは見逃してえええっ! あっいや、できれば今日だけじゃなくて、これからもずっと見逃してほしいんだけど……!)

 心のなかでシクシクなっていたのだが。
 そんな矢先のことである。

(……えっ?)

 肌がピリつくほどに。
 何かとてつもなく不穏ふおんな気配が、第六感に引っかかったのは。

(あれ……? 何これ、魔力の気配……? それもすごく大きい……。でも、なんで……? いったい、何処から……?)

 出所を探り、ふいに見やったのが空の彼方。
 宵闇よいやみに目を凝らせば、そこに停滞する異形の影を捉えて。

 パタパタパタ……パタ……タ……。
 タタタタタタッ!!

 途端にUターンし、全力疾走する。
 訳が分からなかったがとにかく、上空で今まさに収束しつつある魔力の気配。
 その照準が明らかにこちらを向いていたからだ。

 なればこそ気が気ではない。
 自分が避けるだけなら、どうとでもなるだろうが……。

 それだとお婆ちゃんが木っ端微塵になってしまう。
 それ故のトンボ帰り&猛ダッシュだった。

「ダメ……! そっちに逃げないでっ!」

 最後は思いきり跳んで、少しでも距離を詰める。
 で、そのままチュドンされた。

「アハハハハッ! 何やってんだアイツ! 正面から狙われてるのに、来た道を引き返したって避けられるわけないだろうが! 少しは考えろ、バカ女めぇ!」

 その頃、ムシウルはケラケラと笑い転げていたわけだが。
 爆発が派手だったおかけで、捉えられなかったのだろう。


「はぁあ、ギリギリ間に合ったぁ……」


 ケガ一つなく、アルメリアは難を逃れていた。
 着弾の直前に展開した、編み込まれた"いばらのシェルター"。
 その内部で。

 ほとんどタックルとなってしまい、老婆は気を失ってしまったが。

「良かった。ケガもなさそうで」

 色々と目撃されずに済んだのなら、何より。
 胸元に手を置き、アルメリアはほぅと安堵を重ねる。

 さておき。

「今のなに……? 空を飛んでたアレは、虫……? たぶん何かの魔獣……よね? でもあんなの、見たことも聞いたこともないし……」

 ブツブツと疑問を口にしながら。

「とにかく、いつまでもここでジッとしているわけにはいかないわよね……」

 そんな判断も相まって、ひとまず魔法を解く。
 荊を地中に引っ込め、シェルターの外に出る。

「さっきの砲撃は、私を狙ってたってこと……?」

 そのうえで建物の影から、いまだ上空でホバリングしている敵の動向をうかがっていた。

 ところが間もなく、第二波に向けてだろう。
 再びエネルギーの装填そうてんが始まって。

(え、うそ……!? まさか街全体を焼き払う気……!? レドはいま何処に……!? レドのお兄さんももう1人いるんじゃないの!? 早く来て、早く! 早く~っ!!)

 いろいろ思ったが、迷っている時間はなかった。
 できることならやりたくなかったけれど。

「もぉーっ!!!」

 こうなったらヤケだ。
 物陰から飛び出し、両手を地面につく。
 同時にゴゴゴゴゴゴ、ボコん!

 地上より伸び上がり、かま首をもたげた巨大な木の根。
 それが大きくしなって、バシンとウィップする。

「な、に……っ!?」

 力任せに強烈なスパイクを決めてやるかの如く、ズオオン。
 遠く離れた森地に、その図体を叩き込んだのだった。


 ◆


 とまぁ、そんなこんなで現在に至るわけだ。

 とりあえず叩き落として、街の壊滅は阻止したものの。
 このままという訳にもいかないだろう。

 だから急ぎ追いついて、ひとまず「こんばんは」の挨拶からはじめてみている。
 もっとも――。

「どういうことだ!? なんでオマエがここに……っ!?」

 向こうからすると、まったくもって理解の及ばない状況ことになっているみたいだが。

「ねぇよくないよ? “オマエ”なんて言い方。あと人を指さすのもダメ。お母さんに教わらなかった?」

「ふ、ふざけるなッ! さっさと質問に答えろ!」

「全然ふざけてなんかないんだけど……。というかそれ、こっちのセリフじゃない? あんな遠くからいきなり撃ち込んでおいて。本当に驚いたんだから、寿命だって縮んだわよ」

「おいオマエ、いい加減に……」

「ほら、また! もう、口が悪いんだから」

 ムシウルの苛立ちなど意に介さず、アルメリアは手をヒラヒラさせながら、|飄々ひょうひょうと軽口での問答を続ける。それはムシウルが何をどこまで把握しているかを見極めるための挑発でもあった。

 だけどもう、およそ答えは出たとみてよい。
 彼の中で自分は、“ただのポーション屋”でしかないと。

「よかった」

 それを推し量り、ホッと胸を撫で下ろすアルメリアだった。


 一方で――。

「……ッ!?」

 そんなアルメリアに、いよいよ業を煮やしたのがムシウルだ。

 なぜコイツが、まだ生きている!?
 あの砲撃からどうやって逃れた!?
 地上に叩き落とされたのも、まさかコイツがやったのか!?
 あり得ない、そんなの……!
 いや、だが現に奴はここまで追いついて……!
 クソっ、いったい何がどうなっている……!? 
 さっき差し向けた蟲たちにしろ、どうやって片付けて――!?

 何ひとつ答えを見出せないまま、疑問だけが矢継ぎ早に繰り出されていく。
 挙句にいま「よかった」とか言ったか?

 何がよかったのか。
 何も良くない。
 何も、良くなんて……!!

「ぐっ、調子に乗るなよ! このクソアマがぁああッ!!!」
「クソアマって……」
「最後通告はした! 次はない!!!」

 故にムシウルは再び、自身が誇る最大戦力に指令を下すのだった。

「やれ、バグラズム・ケラデュロス!!!」

 横たわる融合魔蟲。
 その頭部から伸びる角の先端に、再び魔力エネルギーが収束するが。

 ボコン、バキリ、ギシャアア。
 たちまちバグラズムが絶叫し、ズシン。
 地響きを伴ってまた倒れる。

「なんだ、どうしたっ!?」

 いったい何事かと見やれば。
 ムシウルの思考はまたも停滞する。

 折られていたからだ。
 今まさに魔砲を撃ち放とうとしていたバグラズムの角が、バッキリと半ばから、あらぬ方向に。

 地中から伸び、巻きついたいばら
 その締め付けによって。

 だが、あり得ない。
 だってその魔法は……!

「ま、さか……」
「前にも言ったよね。あなたじゃ私には逆立ちしたって勝てないよって。だって相性最悪だもん、私たち。ねっ?」

 そのとき、ムシウルはようやく解を得る。
 自分がはなはだしい勘違いをしていたことに。

 アルメリアはただのポーション屋などではなかった。
 その正体は――。

ムシウルさん?」
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