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「どういうことだ!? なんでオマエがここに……っ!?」

(てことはやっぱり、さっきのは私をピンポイントで狙ってたんだ。まぁそうだよね、レドにもいっぱい虫捕りお願いしてたし。それで私のことが邪魔だったんだろうなぁ……)

「ぐっ、調子に乗るなよ! このクソアマがぁああッ!!! やれ、バグラズム・ケラデュロス!!!」

(もうホントに口悪いな、この子。ていうか、今なんて言った? ばくらず……? 長いし、覚えづらい名前……。男の子?的にはそういうのがカッコいいのかな? 分かんないなぁ……。とりあえず、眩しいから止めよ。上に向けて折っちゃえば危なくないよね。たぶんこれやったらバレちゃうけど……まぁいいか。そこまでなら、バレても)

 と、やり取りの合間にそんなことを思いながら。

 どうやら彼も気づいたらしい。
 ボコン、バキリ、ギシャアアとなって。
 この対峙が何も、まっさらな初めましてではないことに。

「おまえ、まさか……」
「気付いた?」
「あの魔女か……?」
「はい、正解です」

 どういうことかというと。
 つまりはアルメリアこそが話題の"荊の魔女"、その正体である。
 タネも仕掛けもなく、同一人物。

 そのうえでまぁ、過去に協力を要請されたことがあるのだ。
 森にやってきた彼から。

『あの要塞ギルドを落とす。オマエも協力しろ』

 といっても、ちっともお願いなんて態度ではなかったし。

『拒否したらどうなるかは、分かるよな?』

 なんかすごい偉そうに、そんな脅しまでかけてきたので、ツーンとなって知らんぷり。結局そのまま、返り討ちにしてあげたけれど。

 もう関わってこないことを条件に、そのときは見逃してあげたが。

 まさか思わなかったのだろう。
 その自分が――マンドラゴラを守っていると噂の魔女が街でただの村娘にふんし、ポーション屋を開いているだなんて。

「どういうことだ!? オマエまさか、そっちに寝返ったのか……!?」

「寝返ったって、元々そっちに付いてたわけじゃないし。べつに人間たちに協力してるつもりもありません。言葉は正しく使いましょう。……まぁ、なし崩し的にそういうことにはなっちゃってるけどね」

「だったら同じことだろうが! ちくしょう、ふざけやがって……!? オマエのせいで僕の眷属けんぞくが何匹やられたと思ってる!?」

「知りません。だってやってるの私じゃないし。それにこっちだっていろいろ事情があるんだから、仕方ないでしょ」

「ッ……! どこまでも……ッ!」

「で、どうするの? 前回は“もう関わらない”って約束で特別に見逃してあげたけど、さすがに今回はノーカウントにしてあげてもいいわ。追加条件はあるけどね」

「追加条件だと……?」

「この街から完全に手を引くこと、そして二度と攻め込んでこないこと。この2つよ。勿論、あなたひとりの話じゃない。軍全体に対してね。期限はまぁ、多少の相談には応じてあげてもいいわ」

「バカか、そんなことできるわけ……ッ」

「できないのなら、この話はなし。――私も、もう容赦はしない」

 立てた二本指とともに、アルメリアが静かに告げた最後通告。
 言い渡された瞬間、ついにムシウルの中で何かが切れた。
 プツンと音を立てて、ワナワナと震え出す。

「容赦はしない……? しない、だと……?」

 なんだそれは。
 しなければ何だと言うのか。
 まるでいつでも排除できるとでも言いたげじゃないか。
 ふざけるな。

(さっきから聞いてればこの女、ちょっと驚かせたくらいで調子に乗りやがって……! この僕に向かって、よくもそんな大口を……ッ!)

「一度勝ったくらいでいい気になるなよ! メスガキがッ……!!!」

 いいだろう、教えてやる。
 身をもって後悔させてやるよ。
 今まで大目に見てやってたのがどっちなのか。

「思い上がるなよ!? おまえ何か勘違いしてるんじゃないか!? まさかあのとき、僕が本気で相手してやってたとでも思ってるんじゃないだろうな!?」

「あら、違うの?」

「そんな訳ないだろうが!? 僕がその気になれば、オマエなんかいつでも殺せる! だから見逃してやったんだよ! 思い知れ!」

「……それが答えでいいのね?」

 両手を掲げながら、ムシウルの高笑いとともに。
 融合魔蟲バグラズムの一部が崩れ、内部から無数の蟲たちがワラワラと溢れ出す。

「安心しろよ、僕はお優しいからな! ここで始末は付けない、生け捕りにしてやる! 巣穴に連れ帰ってから、腹に卵を産みつけて……!」

「そう、残念。交渉決裂ね、それと」

「死ぬまで蟲たちの苗床にしてやるよおおお!!!」

 たちまち黒い旋風が吹き荒れて。
 だが――。


「サイテー」


 アルメリアが冷たく言い放った直後だった。
 たちまちボコボコと地面が波打ち――妖華。
 そう表現するより他ない、巨大な花の怪物が地中より現れたのは。

 それがカッポリ、地面に大きく口を開け、伸ばしたいばらの触腕で次々と獲物を絡め取っていく。返し付き、底に溜まった消化液のなかに手当たり次第、放り込んで。

「なっ……!?」

 ムシウルにとって、それは悪夢のような光景だった。
 あんなにいた蟲たちはみるみる数を減らし、最後にはバグラズムの巨体もオモチャのように持ち上げ、分解。

 ギシャアアアアア!
 バキバキとへし折るように、丸ごと平らげてしまったのだから。
 そうして気づけば、理解なんかまるで追いつかないうちに。

「あっ……えっ……?」

 ムシウルはその場にただひとり、取り残されていた。

「あなたこそ、何か勘違いしてるんじゃない?」

 静かな問いかけがあって、ハタと我に帰ったのがそのときだ。
 その場からただの一歩も動かず、見る間に盤面を制圧してしまった少女――いや、魔女がそこに。

 冷めた目つきで佇み、こちらを睥睨へいげいしていて。
 そう、話は簡単だ。

「あのときは本気じゃなかった、ね」

 ムシウルはさっき、自信たっぷりにそう豪語していたけれど。

「それを言うなら、私だってそう。ちっとも本気なんか出してないよ。言っとくけど、今だって」

「なん、で……」

「?」

「なんでだ!? だって、毒が……」

 さえぎられたので、何かと思えば。
 妖華と、蟲たちの残骸と。
 交互に見やりながら、うわ言のようにムシウルが呟く。
 いや、抗議してくる。それで何となく察しは付いた。

「あぁ、そういうこと?」

 いったい彼がこの状況の何に動揺しているのか。
 でもそれはまったく、ため息が出るほどに見当違いというもの。

「もしかして知らないの? 自然界にある動物の毒って、ほとんどか神経毒なのよ」

「神経、毒……?」

「そう。でも植物には神経それがないから、いくらやっても効かないわ。今みたくガツガツ食べちゃっても全然平気、へっちゃらなの」

「……!?」

「その反応だと、本当に知らなかったみたいね。はぁもう、毒蟲の王様が聞いて呆れるわ。だから先に言っておいてあげたのに。私たちの相性は最悪、あなたじゃ私には逆立ちしたって勝てないよって、そういう意味だったんだけど……。じゃあ全然分かってなかったのね?」

「そん、な……」

「バカにつける薬はないって、このことだと思いました」

 そのままゆっくりと、歩みを進めるアルメリアだった。

「悪いけど、私はあなたほどお優しくないから。ここで終わらせるね」

「え……? は、おい……ちょっと待て……待てって。さっきのはアレさ。ただの軽い冗談で」

「最後通告はした、次はない。あなたがさっき言ったことでしょ? 他にも散々、好き放題に言ってくれたからね。感謝してます。おかげで情けをかけずに済むもの。それに私の友だちまで危険に晒したんだから、ね?」

 まるで、日が暮れても公園から帰りたがらない子どもをなだめるようなトーンで、そう問いかけられる。

 求められたのが終わることへの同意であることに、遅れて気付いた。
 もはやそこに否やの余地がないことも。

「よ、せ……。やめろ、来るな……」

 危機を察知し、動揺をあらわにムシウルは後ずさる。

「来るなぁああああッ!!!」

 本能レベルで差し迫る死の恐怖。
 その予感にムシウルは絶叫した。

 自らの一部、取り込んでいた蟲たちを放ち、次々とアルメリアに差し向ける。
 だがダメだ、時間稼ぎにもならない。

 ついに恐れをなし、背を向け逃げ出そうとしたところ。
 バクリと、口付きの触腕が無慈悲に喰らい付き、身体の一部を捕食された。

「うわぁあああああっ!!?」

 バクリ、バクリ。
 バクリ、バクリ、バクリ。
 それが何度も続いて、続いて。

(こうなったら……!)

 奥の手にも踏み切った。
 輪郭を解き、体を黒い霧に霧散させたのである。

 その1匹1匹が、ムシウルを構成していた毒蟲たちだ。
 力のほとんどを失うことにはなるが、それでも死ぬよりはマシと打って出た苦肉の策。最後の手段だった。

 だがそれすらも、意味を為さない。
 1匹たりとも逃がしはしないと、妖華による捕食行為は淡々と続けられて。

「やめろおおおおおっ!!!」

 それが蠱毒のムシウル、最後の断末魔だった。
 わらったような触腕に散々追いかけ回され、ブブブと木枝のあいだを縫うように逃げ回るも最後は力尽き。

「ヒッ……!?」

 バクンと、世界のすべてが闇に閉ざされる。
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