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しおりを挟むまったくもって不本意な幕引きだ。
『おい、もういいだろッ! そろそろ降ろせや! このままじゃマジで干物になっちまうぞ!?』
とか。
『クソッ、わーったよもう! 謝りゃいいんだろうが、謝りゃ! 俺が悪かったっつの! だからとっとと降ろしやがれ!』
とか。
なにぶんこの男とは出会ったばかりなもので、実際のところどんなセリフや言い回しになるのかはちょっと想像付かないにしろ。
とにかくそういうみっともない陳情や、泣きついたり狼狽える様を期待していた。ついでに。
『えー、なになに~? よく聞こえないなー』
とか。
『うーん? そんなんじゃ全然心に響かないんですけど~』
とか。
有りがちなおちょくりも、これ見よがしにたくさんしてやるつもりでいたのに。まったく自覚のなさそうにしている相手のリミット的な問題で、まさかの根負け。不承不承、こっちが折れる羽目となり。
(ホントにもう……。これじゃあ、なんのために待ってたんだか……)
トホホ、アルメリアは内心でカックリと肩を落とす。
ともかく、シュルシュルと小一時間ぶりにレドックスを地上に下ろしてやった。
――と言っても。
「何フツーに下ろしてんだ、オメェ? こっちがヘバるまで吊っとくんじゃなかったのかよ」
「あなたね……」
当の本人がこの態度では、どうにも報われようもなかったが。
本当に釈然としない。
果たし合いとして、勝ちを収めたのはちゃんと自分だったはずなのに。
(どうしてこうなっちゃったんだろ……)
ため息が出る。
まぁ本当のことを言っても認めないだろうし、恩着せがましいのも個人的に好きくない。
(これ以上は長引かせるだけな気がするし……)
|諸々加味して、黙っておくのが吉と出る。
「ええそうね、そのつもりだったけど……。仕方ないでしょ。なんかもう、どうでもよくなっちゃったんだから」
「はァ、どうでもいいだァ? なに言ってやがる。こっちはちっともよくねぇぞ。勝手にケリつけてんじゃ……」
「だってこれじゃ、まるで私が弱い者イジメしてるみたいじゃない。生憎、私にそんな趣味はありませんので。そういうのは心の貧しい人がすることですから」
「よわっ……ちょっと待てゴラァ! そいつぁ聞き捨てなんねぇなぁ!? つーかなに勝手に締めようとしてやがる!? まだなにも終わっちゃいねぇぞ!?」
「終わりましたー。お終いでーす。はい、かいさーん」
だからせめてものしっぺ返しだ。
プイとやってからツーン。
殺気立つレドックスをよそに、アルメリアは飄々。
そっぽを向くなり一方的に打ち切った。
わざと背中を晒してみせたのは、余裕の演出であると同時に。
(ふふん、不意打ちでも何でもやれるものならやってみなさい)
そんな挑発的なメッセージも込めてのことだったが。
しかし、意外なことに――。
レドックスは、それ以上突っかかっては来なかった。
「……ちィ」
悪態をつきながら、吊るされた拍子に落としてしまった草履やら木刀やらを、ぶつぶつ文句を言いながら回収し始める。
どうやら本当に撤収する気らしい。
「あら意外。ちゃんと潔く帰るのね?」
「あァ? なんか文句あんのかよ。オメェが帰れつったんだろーが」
「そりゃあ言いましたけど。てっきり、もっと駄々をこねるかと思ってたから」
「んなことしてるうちに日ィが暮れんだろうがよ」
「日……?」
なんだそれと思う。
素直に帰ってくれるのは勿論ありがたいが。
(なんか門限を言いつけられてる小っちゃい子みたいな理由ね……)
これまで垣間見た荒っぽさからすれば、あまりにもピュアというか。
意外過ぎる一面であるようにも感じて、反応に窮する。
ちなみに驚いたのは、それだけではない。
「それに、情けなんざかけられちまったらよ。今さらぶん殴ったって、スカッとしねぇだろうが」
「……え?」
「だったら仕切り直しだ。今日はもう帰る」
まさか彼がそれに気づいていたとは思いもよらず。
(しかも、自分から認めるなんて……)
いろいろと驚きの連続で目をパチクリ、呆気に取られるアルメリアだった。
「つーか、あぁ? 無ぇぞ。どこいった」
さておき、草を蹴散らすようにしながらレドックスは何かを探していて。
たぶんアルメリアがまだ取り上げたままでいる真剣を探しているのだろうが。
そこでピコンとちょっとした閃き。
「ひょっとして、お探しのものはこれかしら?」
「あ? あぁソイツだ」
ニュルっと蔦に絡ませ持ち出したところ、手を伸ばして取ろうとするレドックス。
でもまさかそんな物騒なものをただで返してやるわけもない。
ひょいとそれを引いてイジワル、モノ質にしつつ。
アルメリアはある約束を交換条件として提示するのだった。
「返してあげてもいいけど~」
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