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2 エルフの国と生贄の山
2- 1.エルフの国と生贄の山
しおりを挟む素剛は、ソゴゥになった。
ファミリーネームはない。児童養護施設的なところで育ったからだ。
それと、悪魔にはならなかった。まさかのエルフになっていた。
ソゴゥは今、十歳になると与えられる一人部屋の中で感動に打ち震えていた。
「一人部屋なんていらなくね? 二人部屋でいいじゃん。お兄ちゃんと寝る前にお話しできなくて寂しくね?」と肩を組んでくる、ヨドゥバシー十一歳。
「ふざけんな、お前が十歳の時に一人部屋に移らなかったせいで、一年遅れたんだろ」
「いやいや、俺が移ったら、別の大部屋の小さい子の面倒を見させられるところだったんだぞ、むしろ感謝してほしいね。それに、ニトゥリーとミトゥコッシーはあいつら十三歳だけど、いまだに二人部屋じゃん」
「あいつら、明らかに双子だからな」
「俺たちだって兄弟だろ、顔すげえ似ているし」
「ああ、それ今だけな、そのうち成長すると全然似てなくなるから」
「何でそんなこと言うんだよ、兄弟だって思っているのに」
「いや、兄弟で合っているよ」
「え?」
「マジで兄弟なんだよ、俺とお前。あと、ニトゥリーとミトゥコッシーと、イセトゥアンは」
「ソゴゥ、お前」
何故か目を潤ませて両手を握ってくるヨドゥバシー。手汗が気持悪い。
この児童養護施設「高貴なる子らの園」に赤子の時にバラバラに預けられた俺たちは、赤の他人ということになっている。
だが、俺が前世の記憶を思い出す前から、兄弟五人は割といつも一緒に固まっていた。顔や雰囲気が似ていたのもあるが、なんとなく居心地がよかったからだ。そして、この世界でも俺たちはどうやら本当に兄弟らしい。
それは、たまに来る貴族の親切なおじさん、カデン・ノディマーの態度で分かった。
きっかけは幼い頃、園長のオスティオスさんが俺を、高い高いって、両手で持ち上げて、俺が、きゃきゃと喜んでいると、柱の陰から血涙を流して、ハンカチを千切れんばかりに嚙んで見ているカデンを見つけた時だ。
その後も、他の子たちと同じように接しているようで、明らかに俺たち兄弟五人と接するとき不自然だったこと、それにカデンと俺を除く兄弟の四人は、髪の色や目の色が同系色だったことなど。エルフでは珍しくない白髪に、紫の虹彩。色の強弱はあるが、四人はこの系統の色で、俺だけが何故か、黒髪、黒目の前世のビジュアルのまま、耳さえエルフの尖った特徴を持たず、人間のように丸かった。
一度人間を疑われて、エルフか人間かを調べられたことがある。
安心してください。エルフですよ。
よかった。兄弟の中で俺だけ早死にはごめんだからな。
長男のイセトゥアンから、色をだんだん濃くした最終形が俺。ということかもしれない。
イセトゥアンは寝ていると「ウサギが枕の上にのっていますけど、フン大丈夫ですか?」みたいに真っ白な髪に、薄いラベンダーアメジストの虹彩。
次男のニトゥリーは白銀の髪に、アメジストカラーの虹彩、三男ミトゥコッシーは銀色の髪に、ニトゥリーよりやや濃いアメジストカラーの虹彩、四男ヨドゥバシーは、鈍色の髪に、深紫色の虹彩。
そして俺。
どう見てもただの黒髪に、ただの黒い虹彩。
灰色に近い黒髪でなく、陽に透ければ赤みを帯びるし、虹彩も紫よりの黒である至極色、ではなく、暗い焦げ茶だ。日本人のど真ん中を行く特徴。
それが、今生の俺。
多分母さんが、黒か茶系統の髪と瞳をしているんだろうな。母さんまだ、会っていないけど。
エルフの寿命は長い。だから、いつか会えると思っているし、それほど焦っていない。
父、カデンの様子から、生きているだろうことはわかる。
今は、たぶん何かの事情で会えないだけで、それは、俺たちがもう少し成長しないと解消しない事情なのかもしれない、と思うことにしている。
開け放ったドアから、俺たちを見つけてイセトゥアン十四歳(まだ成長期前の俺と同じく、子供の雰囲気を残している)が、「おっ、ソゴゥ今日から一人部屋?」と入ってくる。
「おう、イセ兄、俺もついに一国一城の主だ。今日から、この部屋を好きなように、色々とカスタマイズするんだ」
「考え直せよ~、お兄ちゃんが寂しいって言ってるだろ~」
前世では全く兄貴ぶらなかった淀波志だったが、ヨドゥバシーとなった彼はやたらと兄弟を主張してくる。
この環境のせいだろう。本当の肉親というものを、切望しているのだ。
事情があるとはいえ、両親の罪は重い。
「ヨドの言う通りだ。最初はいいんだが、やはり一人はつまらないもんだよ。ニッチとミッツが羨ましくなってきた。どうだヨド、俺と一緒の部屋にするか?」
「え、ヤダ」
「え」
ヨドゥバシーが俺の後ろに隠れる。
「イセ兄さんといるとさ、夜、出るじゃん」
「え?」
「俺、まだ死にたくねえもん」
「イセ兄の部屋、幽霊でも出るの?」
「もっとおっかねえもんが、イセ兄さんの部屋の前の廊下に出るんだよ」
「何それ、俺知らないんだけど」
イセトゥアンが不安げに眉を寄せる。
「その点、ソゴゥは無敵だしな。この間のあいつらを追っ払った手腕。俺には決して真似できないけど、尊敬はしている」
「だから、俺の部屋の前に、何が出るんだよ」
「俺、何か追っ払ったっけ?」
「『ここは男子棟だぞブスども。何をされても文句を言えない立場だが、俺に何をされたい?』って、女子棟から抜け出して、イセ兄さんの部屋の中の様子をうかがっていた女子数名の前に真っ裸で現れ、一瞬でその場を阿鼻叫喚の地獄に変えて追っ払ったのは、三日前の出来事だったな」とヨドゥバシーが遠い目をする。
人を変態みたいに言うが、風呂帰りで腰に巻いていたバスタオルが偶然はだけただけだ。
「お前は、部屋でパンイチで寛いでいたりするだろ」
「俺は、廊下ではきちんと服を着ていますぅ。だから、脱衣所出たら、服を着るように毎回言っていたのに。女の子たちの心に深い傷を残してしまったな」
「俺が悪いみたいに言うなし」
『いや、お前が悪いよ』
兄二人の声が重なる。
解せぬ。きっとニッチとミッツなら、俺の言い分をわかってくれたはず。
俺は二人を部屋から追い出して、引っ越しの続きを行うことにした。
服やら、本やらをせっせとクローゼットやラックに詰める。
前世より豪華な服、豪華な部屋。
それでも、母のいたあの家の方がずっといい。
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