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6終わらない夜の歌と、星の巫覡
6- 3.終わらない夜の歌と、星の巫覡
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空に浮かぶ球体の様子を確認し、ヒャッカはナーランダに告げる。
「今は何らかの事情であの場所に留まっている様ですが、本来はとても速く動くもののようです。とはいえ、前回出現したのは千年も前の話のようで、イグドラシルにもあまり詳しい文献はありませんでしたが」
「前大司書の貴方様でも、あれをどうにかする方法は分からないのですね?」
「ええ、私の権限で閲覧できる第六指定までのイグドラシルの蔵書には、太歳の討伐方法はありませんでした」
「それでは、我が国の大僧正ヴァスキツ様に、この後を託すより他ないようですな」
ナーランダは、今まさに前線に到着したヴァスキツを見て言った。
陸上では比肩する者のない魁偉であり、上半身が五メートル、蛇足部位が二十メートルにもなる半人半蛇の巨人で、紺色の長い髪に、頭部左右に白い角、紺色の鱗に覆われた蛇足、青白い肌に赤い模様と金色の鎧を纏っている。
その顔は目の部分までを金色の鎧と朱色の布で覆い、口元しか見えない。
二度の変態を経た大ナーガで、千年近くを生きている。
銀色の区域の際に立ち、球体めがけて徐に頤を下げ、咆哮による衝撃波を放つ。
辺り一帯にいた兵達は、耳を聾するほどの衝撃を受け、近い者はその風圧に転がって、立っていられないほどだった。
ヴァスキツの口から真っ直ぐに放たれた衝撃波が太歳の周囲の防護壁を裂き、太歳本体に穴を穿った。
だがすぐに、太歳の体表を覆っている白い繊維が、周辺の強風とは無関係に波立ち、光を行ったり来たりさせたのち、穴を塞ぎ始めた。
二度三度、ヴァスキツが咆哮するも、穴は一定のダメージから広がることはなく、すぐさま塞がってしまう。
「穴が穿たれたタイミングで、さらに衝撃を加えない事には、これ以上のダメージを与えられないようだな」
「ヴァスキツ様と同程度の力をもった国民は居りません」
「我々の方でも、あれほどの威力のある攻撃を放つ魔術師も武器もない」
ヴァスキツが喉をふり絞るように、咆哮を上げ続ける。
「ヴァスキツ様! このままではただ消耗するだけです」
ナーランダの声をかき消すように、先ほどより威力の増した咆哮が、太歳の防護壁を破って太歳本体を抉る。
この時、破れた防護壁に何かが飛び込んで、太歳に向かって行った。
すぐさま太歳の体から赤い炎が上がり、数度の爆発が起こる。
「なっ、何が起こった⁉︎」
真っ赤に燃えた大きな翼が、一回、二回と翻るたびに爆発が起こり、太歳の体が削られていく。
その、そぎ落とされた中から、緑色に光る何かが垣間見えた。
だが、その凄まじい鳥の攻撃も決定的なダメージには繋がらないようで、鳥は自らを閉じ込めた太歳の防護壁を鶏鳴で抉じ開けて脱出した。
「有翼人か」
「あれは、ガルトマーン王国のガルダ王では」
カデンとナーランダは身を乗り出して、赤く大きな翼を持つ有翼人を見上げる。
一度引いたガルダに代わって、数万の色とりどりの翼をもつ有翼人が、太歳に一斉攻撃を加える。
鶏鳴で穿った防護壁から侵入し魔法や、投擲を行う。
壮絶な攻撃が繰り出されるが、ガルダほどのダメージを与えることはなく、太歳の体表を覆っている白い繊維が波立つに留まるのみだった。
やがて大地を一面覆い尽くす白い物体が振動を始め、そこかしこで渦となり柱状に巻きあがり竜巻へと変化した。
「あれはまずい」
カデンは前線へ飛行移動し、土壁を築いていたエルフやナーガ達に退くよう叫び、召喚術を展開した。
カデンが空間に描いた魔法陣から、額に紫色の宝石のような角を持つ白く大きな怪鳥が出現する。
「触れずに、あの竜巻を消すんだ」
怪鳥はひと鳴きして、竜巻のギリギリを滑空し、額の角を光らせる。
怪鳥の通り過ぎた後では竜巻が分断し、消滅していった。
怪鳥だけでなく、ヴァスキツやガルダもまた咆哮や鶏鳴で、次々と竜巻を消滅させる。
だが、白い物体そのものが消失したわけではなく、竜巻のエネルギーを消して、物質を地に叩き落としたにすぎないため、地に落ちた物体はまた振動を始め回転し巻きあがる。
「消耗戦だな」
援軍がくるまで、何とかあれをこの地にとどめなくては。
前線は村や町、人々が暮す場所を背後に、火山や海の方へ向けて太歳に攻撃を加え続ける。
天幕から前線を観察するナーランダは、この大陸の最大の攻撃力を誇る二人でさえ決定打にかけることに、早くも絶望を覚えていた。
ソゴゥ達を乗せた土掻竜は、ブロンが尻に敷いたティフォンの案内で、かつてソゴゥ達が見た魔獣のいた洞窟の近くから地下へ穿たれた穴を通り、地中深くの大きな横穴へ到達した。
直径が百メートルを超える巨大で真っ暗な横穴を、それぞれが魔法で光を灯す。
ソゴゥはイグドラシルの蔵書から「太歳」について記されているものを読み漁る。
太歳の生体については、地下にあっては粘菌のように龍脈に取りつき肥大しながら移動する。
陽の光を当てると、地上へ湧き上がって、有機物を糧とした進行を開始する。
形状は球体で、色は白。
空中に現れて、白い竜巻を従え大地を白い死の世界に変えていく。
かつての人々は、出現した太歳をその時の文明において最大の火力を持つ武器、最強の魔術、そして物理攻撃を試したが、討伐までに至らなかったようだ。
身を隠し、避難を続け、いなくなるのを待つより他なかったのである。
何ものにも止めることが出来ない天災であり、その災禍は数ヶ月に及んだと。
「クソッ、どうしろっていうんだ!」
台風なら海上で水蒸気の潜熱をエネルギーにして発達するため、上陸すればいずれエネルギーを失って消滅する。
だか、太歳は地脈からいったい何をエネルギーに変換して行動しているのだろう。
台風を止めるには、星を数度破壊するほどの核が必要だとされていた。
太歳が魔獣と分類されているならば、天災の様な星のエネルギーを相手取るようなやり方ではなく、生態による弱点があるはずだと思うのだが、それについて書かれたものが一切見つからない。
太歳の進行を止めることが出来なければ、多くの生き物の生命が、自然や暮らしの場が失われていく。
死が、大陸を覆い尽くす事になる。
「今は何らかの事情であの場所に留まっている様ですが、本来はとても速く動くもののようです。とはいえ、前回出現したのは千年も前の話のようで、イグドラシルにもあまり詳しい文献はありませんでしたが」
「前大司書の貴方様でも、あれをどうにかする方法は分からないのですね?」
「ええ、私の権限で閲覧できる第六指定までのイグドラシルの蔵書には、太歳の討伐方法はありませんでした」
「それでは、我が国の大僧正ヴァスキツ様に、この後を託すより他ないようですな」
ナーランダは、今まさに前線に到着したヴァスキツを見て言った。
陸上では比肩する者のない魁偉であり、上半身が五メートル、蛇足部位が二十メートルにもなる半人半蛇の巨人で、紺色の長い髪に、頭部左右に白い角、紺色の鱗に覆われた蛇足、青白い肌に赤い模様と金色の鎧を纏っている。
その顔は目の部分までを金色の鎧と朱色の布で覆い、口元しか見えない。
二度の変態を経た大ナーガで、千年近くを生きている。
銀色の区域の際に立ち、球体めがけて徐に頤を下げ、咆哮による衝撃波を放つ。
辺り一帯にいた兵達は、耳を聾するほどの衝撃を受け、近い者はその風圧に転がって、立っていられないほどだった。
ヴァスキツの口から真っ直ぐに放たれた衝撃波が太歳の周囲の防護壁を裂き、太歳本体に穴を穿った。
だがすぐに、太歳の体表を覆っている白い繊維が、周辺の強風とは無関係に波立ち、光を行ったり来たりさせたのち、穴を塞ぎ始めた。
二度三度、ヴァスキツが咆哮するも、穴は一定のダメージから広がることはなく、すぐさま塞がってしまう。
「穴が穿たれたタイミングで、さらに衝撃を加えない事には、これ以上のダメージを与えられないようだな」
「ヴァスキツ様と同程度の力をもった国民は居りません」
「我々の方でも、あれほどの威力のある攻撃を放つ魔術師も武器もない」
ヴァスキツが喉をふり絞るように、咆哮を上げ続ける。
「ヴァスキツ様! このままではただ消耗するだけです」
ナーランダの声をかき消すように、先ほどより威力の増した咆哮が、太歳の防護壁を破って太歳本体を抉る。
この時、破れた防護壁に何かが飛び込んで、太歳に向かって行った。
すぐさま太歳の体から赤い炎が上がり、数度の爆発が起こる。
「なっ、何が起こった⁉︎」
真っ赤に燃えた大きな翼が、一回、二回と翻るたびに爆発が起こり、太歳の体が削られていく。
その、そぎ落とされた中から、緑色に光る何かが垣間見えた。
だが、その凄まじい鳥の攻撃も決定的なダメージには繋がらないようで、鳥は自らを閉じ込めた太歳の防護壁を鶏鳴で抉じ開けて脱出した。
「有翼人か」
「あれは、ガルトマーン王国のガルダ王では」
カデンとナーランダは身を乗り出して、赤く大きな翼を持つ有翼人を見上げる。
一度引いたガルダに代わって、数万の色とりどりの翼をもつ有翼人が、太歳に一斉攻撃を加える。
鶏鳴で穿った防護壁から侵入し魔法や、投擲を行う。
壮絶な攻撃が繰り出されるが、ガルダほどのダメージを与えることはなく、太歳の体表を覆っている白い繊維が波立つに留まるのみだった。
やがて大地を一面覆い尽くす白い物体が振動を始め、そこかしこで渦となり柱状に巻きあがり竜巻へと変化した。
「あれはまずい」
カデンは前線へ飛行移動し、土壁を築いていたエルフやナーガ達に退くよう叫び、召喚術を展開した。
カデンが空間に描いた魔法陣から、額に紫色の宝石のような角を持つ白く大きな怪鳥が出現する。
「触れずに、あの竜巻を消すんだ」
怪鳥はひと鳴きして、竜巻のギリギリを滑空し、額の角を光らせる。
怪鳥の通り過ぎた後では竜巻が分断し、消滅していった。
怪鳥だけでなく、ヴァスキツやガルダもまた咆哮や鶏鳴で、次々と竜巻を消滅させる。
だが、白い物体そのものが消失したわけではなく、竜巻のエネルギーを消して、物質を地に叩き落としたにすぎないため、地に落ちた物体はまた振動を始め回転し巻きあがる。
「消耗戦だな」
援軍がくるまで、何とかあれをこの地にとどめなくては。
前線は村や町、人々が暮す場所を背後に、火山や海の方へ向けて太歳に攻撃を加え続ける。
天幕から前線を観察するナーランダは、この大陸の最大の攻撃力を誇る二人でさえ決定打にかけることに、早くも絶望を覚えていた。
ソゴゥ達を乗せた土掻竜は、ブロンが尻に敷いたティフォンの案内で、かつてソゴゥ達が見た魔獣のいた洞窟の近くから地下へ穿たれた穴を通り、地中深くの大きな横穴へ到達した。
直径が百メートルを超える巨大で真っ暗な横穴を、それぞれが魔法で光を灯す。
ソゴゥはイグドラシルの蔵書から「太歳」について記されているものを読み漁る。
太歳の生体については、地下にあっては粘菌のように龍脈に取りつき肥大しながら移動する。
陽の光を当てると、地上へ湧き上がって、有機物を糧とした進行を開始する。
形状は球体で、色は白。
空中に現れて、白い竜巻を従え大地を白い死の世界に変えていく。
かつての人々は、出現した太歳をその時の文明において最大の火力を持つ武器、最強の魔術、そして物理攻撃を試したが、討伐までに至らなかったようだ。
身を隠し、避難を続け、いなくなるのを待つより他なかったのである。
何ものにも止めることが出来ない天災であり、その災禍は数ヶ月に及んだと。
「クソッ、どうしろっていうんだ!」
台風なら海上で水蒸気の潜熱をエネルギーにして発達するため、上陸すればいずれエネルギーを失って消滅する。
だか、太歳は地脈からいったい何をエネルギーに変換して行動しているのだろう。
台風を止めるには、星を数度破壊するほどの核が必要だとされていた。
太歳が魔獣と分類されているならば、天災の様な星のエネルギーを相手取るようなやり方ではなく、生態による弱点があるはずだと思うのだが、それについて書かれたものが一切見つからない。
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