42 / 46
6終わらない夜の歌と、星の巫覡
6- 5.終わらない夜の歌と、星の巫覡
しおりを挟む
疾走する土掻竜の上から、虫型の魔獣の行方の痕跡を探す。
「俺の解釈では、俺たちが認識している次元とは別の次元にいるため、こちらの次元での物理干渉を受けない存在。だが、本によると、太歳がいる場合のみ、こちらの次元に干渉するようだ。『地中に在って、惑星外来生物を取り除き、星の循環を正常とする』とあるからね、俺はこの一文がとてつもない希望に思えたんだが、肝心の魔獣が二年前にこの地を移動したというから、この穴の先へ、太歳と一緒に移動したんじゃないかと思うんだ」
「それで、歌はどう関係するの?」
グレナダが尋ねる。
「歌は、言葉の代わりだな。旋律で意思を伝えあうことが出来る。祈りを、お願いを、旋律という言葉で伝えて、助けてもらうんだ」
「じゃあ、眠りの歌は、私が眠らせたのではなく、魔獣が私のお願いを聞いて眠っていてくれたってことなのね?」
「俺はそう思う」
「どうりで、あの空間があんなに優しかったわけね。有翼人とはいえ、翼を括られてあんな深い穴に落とされたら魔獣の体に叩きつけられて死んでいたはずだったのに、穴に落とされた皆が無事だったのだもの」
感慨深げに、グレナダが言う。
「何とかして、探し出さないと」
ソゴゥ達を乗せた土掻竜は横穴をひた走り、ウィドラ連邦国を目指す。
燃え立つ真っ赤な翼、赤い髪に金冠を付け、緑色の風切り羽と七色の尾羽、赤にも緑にも見える光彩に好戦的な凶暴さが滲み出ている。
神話生物の様な神聖さと、邪神の様な凶悪さを合わせ持つ、目の前に飛来するガルダ王に「小僧」とヴァスキツが声を掛けた。
傍らにいたカデンはギョッとするも、無表情を取り繕う。
「おいジジイ、てめえ『災』を掘り起こしやがって、この落とし前は付けてもらうぞ」
「五百歳しか違わないのだ、ほぼ同じ世代だろう、ジジイはお前も同じよ」
「ジジイの感覚で物を言うんじゃねえ、何処の世界に五百歳違いが同年代なんて耄碌したことを言うやつがいるんだ。ともかく、この失態は重いぞ。俄か元首には国一つ管理できなかったということだ」
「なに、『災』はお主の管理する土地からやって来たのだ、それを知っていて、こちらへ移動するとみるや、国境に壁を設けて、厳重に監視していたのにこの体たらく、お主こそ我らに逐一報告しておれば、もう少しはましな準備ができたであろうよ」
「掘り返しさえしなければ、こんなことにはなっていないんだよ!」
「ああ、その済みません。どうせ後で分かることですから言っておきますが、あれを掘り返したのは我々エルフ族の者達です。イグドラムを出奔していた者達が、このウィドラ連邦国に逃げ込んだため、我々がウィドラ連邦国側に確保協力を要請していた矢先に起きたことでして」
「ほう、この俺を真っ直ぐ見て、目が焼かれていないところを見ると、それなりの力を持ったエルフだなお前。まあ、どうでもいい、『災』が動き出したら、どの国もただではいられないのだからな。だが、その前にお前と、ジジイは俺がコロス」
「この大陸で前回『災』が出現したときは、イグドラシルが犠牲になったと聞く。聖樹の根が災をとらえて地中に引きずり込むと同時に、聖樹は枯死して倒れ、二つに折れてしまったのだとか」
「流石ジジイは昔話が得意だな」
「我らの神は他にいるが、イグドラシルには多大な敬意を持っている。この星を守る重要な存在の一つだ」
「だが、もう死んじまったものを頼るわけにはいかねえんだ。後はもう、ここら一体を土地ごと消失させる大魔法を使う他ない。ジジイ、異存はないな?」
「あの白い台地には同胞たちがいる。まだ救い出せるかもしれないのだ」
「無理だろ、もう死んじまっている。腹をくくれ」
ヴァスキツは長い尾を苛立たし気にうねらせながら、体を折り曲げて地上にいるガルダの顔を覗き込むように屈む。
「まだ同胞たちは死んでいない」
「ああ、そういえば、お前たちナーガは三回蘇るんだったな。だが、これ以上の犠牲を出さないために決断しなくてはならないんだよ、俄か野郎が。王としては俺の方が先輩だ、ここは俺に従っておけ」
神鳥と聖獣の睨みあう中、後方からナーランダとヒャッカがやって来た。
「大僧正様、太歳の様子がおかしいようです」
「ヒャッカ、どうした? 何かあったのか?」
「あなた、イグドラシルが近くに来ているわ」
「どういうことなんだい?」
「イグドラシルの気配を感じるのよ」
「おい、エルフの女、聖樹は死んでいるんだろ?」
ガルダが容喙する。
「まさか、死んでいませんよ。これまで千年間、イグドラシルの意思を継ぐ司書達が守ってきたのです」
「概念の話をしているんじゃねえ、樹そのものは枯れただろ」
「樹も新たに芽吹き、小さいながらもあの場所に育っていますよ。あまりに小さいので誰も気付いていませんが、司書にはその場所が分かるのです」
先ほどのエルフの男といい、この女も真っ直ぐ見てくる。隣にいるジジイの部下らしい変態を経たナーガでさえ、直視は避けているというのにだ。
「なら、その聖樹がここに来ているというんだな?」
「そうとしか考えられません、それに、ほら、太歳が苦しんでいます」
それぞれが目を向けた先で、白い球体がその表面を激しく波立たせ、黒い斑を浮かび上がらせている。
いつの間にか竜巻はすべて消え、球体の上で旋回を続けていた白い怪鳥までもが、役割を終えたように、こちらへと戻って来る。
よく見ると、球体の前に黒い翼の有翼人の姿が見える。
「あれは悪魔か?」
「そのようですな、角と尾があるように見受けられます」
ナーランダがガルダの問いに同調して答える。
澱んだ天が一層暗くなり、夜が訪れたように辺りから光が失われた。
広げた黒い翼から黒い炎が揺らめき、悪魔の声がようやくここへ届いた。
それは、可聴領域と身体を揺さぶる可聴領域以外の音が織り成す、天上の聖歌隊が成す旋律のようで、脳天から脊髄を振動させて末端へ雷のように駆け抜けていく、強烈な波だった。
「俺の解釈では、俺たちが認識している次元とは別の次元にいるため、こちらの次元での物理干渉を受けない存在。だが、本によると、太歳がいる場合のみ、こちらの次元に干渉するようだ。『地中に在って、惑星外来生物を取り除き、星の循環を正常とする』とあるからね、俺はこの一文がとてつもない希望に思えたんだが、肝心の魔獣が二年前にこの地を移動したというから、この穴の先へ、太歳と一緒に移動したんじゃないかと思うんだ」
「それで、歌はどう関係するの?」
グレナダが尋ねる。
「歌は、言葉の代わりだな。旋律で意思を伝えあうことが出来る。祈りを、お願いを、旋律という言葉で伝えて、助けてもらうんだ」
「じゃあ、眠りの歌は、私が眠らせたのではなく、魔獣が私のお願いを聞いて眠っていてくれたってことなのね?」
「俺はそう思う」
「どうりで、あの空間があんなに優しかったわけね。有翼人とはいえ、翼を括られてあんな深い穴に落とされたら魔獣の体に叩きつけられて死んでいたはずだったのに、穴に落とされた皆が無事だったのだもの」
感慨深げに、グレナダが言う。
「何とかして、探し出さないと」
ソゴゥ達を乗せた土掻竜は横穴をひた走り、ウィドラ連邦国を目指す。
燃え立つ真っ赤な翼、赤い髪に金冠を付け、緑色の風切り羽と七色の尾羽、赤にも緑にも見える光彩に好戦的な凶暴さが滲み出ている。
神話生物の様な神聖さと、邪神の様な凶悪さを合わせ持つ、目の前に飛来するガルダ王に「小僧」とヴァスキツが声を掛けた。
傍らにいたカデンはギョッとするも、無表情を取り繕う。
「おいジジイ、てめえ『災』を掘り起こしやがって、この落とし前は付けてもらうぞ」
「五百歳しか違わないのだ、ほぼ同じ世代だろう、ジジイはお前も同じよ」
「ジジイの感覚で物を言うんじゃねえ、何処の世界に五百歳違いが同年代なんて耄碌したことを言うやつがいるんだ。ともかく、この失態は重いぞ。俄か元首には国一つ管理できなかったということだ」
「なに、『災』はお主の管理する土地からやって来たのだ、それを知っていて、こちらへ移動するとみるや、国境に壁を設けて、厳重に監視していたのにこの体たらく、お主こそ我らに逐一報告しておれば、もう少しはましな準備ができたであろうよ」
「掘り返しさえしなければ、こんなことにはなっていないんだよ!」
「ああ、その済みません。どうせ後で分かることですから言っておきますが、あれを掘り返したのは我々エルフ族の者達です。イグドラムを出奔していた者達が、このウィドラ連邦国に逃げ込んだため、我々がウィドラ連邦国側に確保協力を要請していた矢先に起きたことでして」
「ほう、この俺を真っ直ぐ見て、目が焼かれていないところを見ると、それなりの力を持ったエルフだなお前。まあ、どうでもいい、『災』が動き出したら、どの国もただではいられないのだからな。だが、その前にお前と、ジジイは俺がコロス」
「この大陸で前回『災』が出現したときは、イグドラシルが犠牲になったと聞く。聖樹の根が災をとらえて地中に引きずり込むと同時に、聖樹は枯死して倒れ、二つに折れてしまったのだとか」
「流石ジジイは昔話が得意だな」
「我らの神は他にいるが、イグドラシルには多大な敬意を持っている。この星を守る重要な存在の一つだ」
「だが、もう死んじまったものを頼るわけにはいかねえんだ。後はもう、ここら一体を土地ごと消失させる大魔法を使う他ない。ジジイ、異存はないな?」
「あの白い台地には同胞たちがいる。まだ救い出せるかもしれないのだ」
「無理だろ、もう死んじまっている。腹をくくれ」
ヴァスキツは長い尾を苛立たし気にうねらせながら、体を折り曲げて地上にいるガルダの顔を覗き込むように屈む。
「まだ同胞たちは死んでいない」
「ああ、そういえば、お前たちナーガは三回蘇るんだったな。だが、これ以上の犠牲を出さないために決断しなくてはならないんだよ、俄か野郎が。王としては俺の方が先輩だ、ここは俺に従っておけ」
神鳥と聖獣の睨みあう中、後方からナーランダとヒャッカがやって来た。
「大僧正様、太歳の様子がおかしいようです」
「ヒャッカ、どうした? 何かあったのか?」
「あなた、イグドラシルが近くに来ているわ」
「どういうことなんだい?」
「イグドラシルの気配を感じるのよ」
「おい、エルフの女、聖樹は死んでいるんだろ?」
ガルダが容喙する。
「まさか、死んでいませんよ。これまで千年間、イグドラシルの意思を継ぐ司書達が守ってきたのです」
「概念の話をしているんじゃねえ、樹そのものは枯れただろ」
「樹も新たに芽吹き、小さいながらもあの場所に育っていますよ。あまりに小さいので誰も気付いていませんが、司書にはその場所が分かるのです」
先ほどのエルフの男といい、この女も真っ直ぐ見てくる。隣にいるジジイの部下らしい変態を経たナーガでさえ、直視は避けているというのにだ。
「なら、その聖樹がここに来ているというんだな?」
「そうとしか考えられません、それに、ほら、太歳が苦しんでいます」
それぞれが目を向けた先で、白い球体がその表面を激しく波立たせ、黒い斑を浮かび上がらせている。
いつの間にか竜巻はすべて消え、球体の上で旋回を続けていた白い怪鳥までもが、役割を終えたように、こちらへと戻って来る。
よく見ると、球体の前に黒い翼の有翼人の姿が見える。
「あれは悪魔か?」
「そのようですな、角と尾があるように見受けられます」
ナーランダがガルダの問いに同調して答える。
澱んだ天が一層暗くなり、夜が訪れたように辺りから光が失われた。
広げた黒い翼から黒い炎が揺らめき、悪魔の声がようやくここへ届いた。
それは、可聴領域と身体を揺さぶる可聴領域以外の音が織り成す、天上の聖歌隊が成す旋律のようで、脳天から脊髄を振動させて末端へ雷のように駆け抜けていく、強烈な波だった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる