異世界転生者の図書館暮らし1 モフモフと悪魔を添えて

パナマ

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6終わらない夜の歌と、星の巫覡

6- 5.終わらない夜の歌と、星の巫覡

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疾走する土掻竜ドレイクの上から、虫型の魔獣の行方の痕跡を探す。

「俺の解釈では、俺たちが認識している次元とは別の次元にいるため、こちらの次元での物理干渉を受けない存在。だが、本によると、太歳がいる場合のみ、こちらの次元に干渉するようだ。『地中に在って、惑星外来生物を取り除き、星の循環を正常とする』とあるからね、俺はこの一文がとてつもない希望に思えたんだが、肝心の魔獣が二年前にこの地を移動したというから、この穴の先へ、太歳と一緒に移動したんじゃないかと思うんだ」
「それで、歌はどう関係するの?」
グレナダが尋ねる。
「歌は、言葉の代わりだな。旋律で意思を伝えあうことが出来る。祈りを、お願いを、旋律という言葉で伝えて、助けてもらうんだ」
「じゃあ、眠りの歌は、私が眠らせたのではなく、魔獣が私のお願いを聞いて眠っていてくれたってことなのね?」
「俺はそう思う」
「どうりで、あの空間があんなに優しかったわけね。有翼人とはいえ、翼をククられてあんな深い穴に落とされたら魔獣の体に叩きつけられて死んでいたはずだったのに、穴に落とされた皆が無事だったのだもの」
感慨深げに、グレナダが言う。
「何とかして、探し出さないと」
ソゴゥ達を乗せた土掻竜は横穴をひた走り、ウィドラ連邦国を目指す。

燃え立つ真っ赤な翼、赤い髪に金冠キンカンを付け、緑色の風切り羽と七色の尾羽、赤にも緑にも見える光彩に好戦的な凶暴さがニジみ出ている。
神話生物の様な神聖シンセイさと、邪神の様な凶悪さを合わせ持つ、目の前に飛来するガルダ王に「小僧」とヴァスキツが声を掛けた。
傍らにいたカデンはギョッとするも、無表情を取りツクロう。

「おいジジイ、てめえ『災』を掘り起こしやがって、この落とし前は付けてもらうぞ」
「五百歳しか違わないのだ、ほぼ同じ世代だろう、ジジイはお前も同じよ」
「ジジイの感覚で物を言うんじゃねえ、何処の世界に五百歳違いが同年代なんて耄碌モウロクしたことを言うやつがいるんだ。ともかく、この失態は重いぞ。ニワか元首には国一つ管理できなかったということだ」
「なに、『災』はお主の管理する土地からやって来たのだ、それを知っていて、こちらへ移動するとみるや、国境に壁を設けて、厳重に監視していたのにこのテイたらく、お主こそ我らに逐一報告しておれば、もう少しはましな準備ができたであろうよ」
「掘り返しさえしなければ、こんなことにはなっていないんだよ!」
「ああ、その済みません。どうせ後で分かることですから言っておきますが、あれを掘り返したのは我々エルフ族の者達です。イグドラムを出奔シュッポンしていた者達が、このウィドラ連邦国に逃げ込んだため、我々がウィドラ連邦国側に確保協力を要請していた矢先に起きたことでして」
「ほう、この俺を真っ直ぐ見て、目が焼かれていないところを見ると、それなりの力を持ったエルフだなお前。まあ、どうでもいい、『災』が動き出したら、どの国もただではいられないのだからな。だが、その前にお前と、ジジイは俺がコロス」
「この大陸で前回『災』が出現したときは、イグドラシルが犠牲ギセイになったと聞く。聖樹の根が災をとらえて地中に引きずり込むと同時に、聖樹は枯死して倒れ、二つに折れてしまったのだとか」
「流石ジジイは昔話が得意だな」
「我らの神は他にいるが、イグドラシルには多大な敬意を持っている。この星を守る重要な存在の一つだ」
「だが、もう死んじまったものを頼るわけにはいかねえんだ。後はもう、ここら一体を土地ごと消失させる大魔法を使う他ない。ジジイ、異存はないな?」
「あの白い台地には同胞たちがいる。まだ救い出せるかもしれないのだ」
「無理だろ、もう死んじまっている。腹をくくれ」
ヴァスキツは長い尾を苛立たし気にうねらせながら、体を折り曲げて地上にいるガルダの顔を覗き込むように屈む。
「まだ同胞たちは死んでいない」
「ああ、そういえば、お前たちナーガは三回蘇るんだったな。だが、これ以上の犠牲を出さないために決断しなくてはならないんだよ、俄か野郎が。王としては俺の方が先輩だ、ここは俺に従っておけ」
神鳥と聖獣の睨みあう中、後方からナーランダとヒャッカがやって来た。
「大僧正様、太歳の様子がおかしいようです」
「ヒャッカ、どうした? 何かあったのか?」
「あなた、イグドラシルが近くに来ているわ」
「どういうことなんだい?」
「イグドラシルの気配を感じるのよ」
「おい、エルフの女、聖樹は死んでいるんだろ?」
ガルダが容喙ヨウカイする。
「まさか、死んでいませんよ。これまで千年間、イグドラシルの意思を継ぐ司書達が守ってきたのです」
「概念の話をしているんじゃねえ、樹そのものは枯れただろ」
「樹も新たに芽吹き、小さいながらもあの場所に育っていますよ。あまりに小さいので誰も気付いていませんが、司書にはその場所が分かるのです」
先ほどのエルフの男といい、この女も真っ直ぐ見てくる。隣にいるジジイの部下らしい変態を経たナーガでさえ、直視は避けているというのにだ。
「なら、その聖樹がここに来ているというんだな?」
「そうとしか考えられません、それに、ほら、太歳が苦しんでいます」

それぞれが目を向けた先で、白い球体がその表面を激しく波立たせ、黒い斑を浮かび上がらせている。
いつの間にか竜巻はすべて消え、球体の上で旋回を続けていた白い怪鳥までもが、役割を終えたように、こちらへと戻って来る。
よく見ると、球体の前に黒い翼の有翼人の姿が見える。

「あれは悪魔か?」
「そのようですな、角と尾があるように見受けられます」
ナーランダがガルダの問いに同調して答える。

ヨドんだ天が一層暗くなり、夜が訪れたように辺りから光が失われた。
広げた黒い翼から黒い炎が揺らめき、悪魔の声がようやくここへ届いた。

それは、可聴領域と身体を揺さぶる可聴領域以外の音が織り成す、天上の聖歌隊が成す旋律のようで、脳天から脊髄セキズイを振動させて末端へ雷のように駆け抜けていく、強烈な波だった。

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