6 / 6
06.めでたし めでたし
しおりを挟む
ふと目を覚ますと、隣に楓がいた。
どれくらい眠っていたのか、よくわからない。
薄暗い部屋の中、時計の針は深夜を指している。
こちらの視線に気づいていたのか、楓はぱっと笑った。
「おはよう、みつ!」
言葉と同時に、やさしく抱きしめられる。
額にキスが落ちて、くしゃっと乱れた髪が頬をかすめた。
あたたかい体温。落ち着いた声。
――いつもの楓だ。
それが、なんだか妙に安心する。
「……はよ」
返した声が、驚くほど掠れていた。
喉が焼けるように乾いている。
その瞬間、先ほどの記憶がぶわっと蘇る。
何度も名前を呼ばれて、触れられて、奥までいっぱいに愛されたこと。
楓が見せた“男”の色気、低くて熱のこもった声。
全部思い出して、体の奥がじんわり熱を帯びる。
……恥ずかしい。
でも、ちゃんと宣言通りぐずぐずに愛してくれた。
すごく嬉しくてたまらなかった。
「お腹空いてない? せっかくだし、ルームサービス頼もうよ」
楓の提案にうなずきながら、ふたりでテレビの注文画面を覗き込む。
どこか他愛ない時間が、心地いい。
「ねぇ、みつ。ハニートーストあるよ。一緒に食べよ!」
「こんな時間にハニトーって……太るだろ」
「いいの~。今日は特別な日だから」
楽しそうに笑う楓。
その無邪気な声に、つられるように頬がゆるむ。
――こんなに俺のこと、好きなんだ。
そう思うと、なんだか悪い気はしない。
いや、むしろちょっと、嬉しいかもしれない。
「みつも、好きなの頼みなよ」
「好きなもの……」
その言葉に、ふと考える。
――“好きなもの”。
いざ言われると、すぐには浮かばなかった。
昔は、いちごパフェが大好きだった。
月に一度の外食の日、家族とよく行った洋食屋で、
決まっていちごパフェを頼むのが、ちょっとした楽しみだった。
けど、いつからだろう。
「男のくせに」なんて周りの視線が気になって、
注文するのをやめてしまった。
ビールだってそうだ。
あの苦味は好きになれなかったのに、
周りの空気に合わせて、
無理して口にしているうちに、いつの間にか慣れていた。
──もしかしたら、俺はずっと。
“自分の好物”さえ、人の目を気にして選んできたのかもしれない。
画面を見つめたまま、俺は小さくつぶやいた。
「……この、いちごサンデーってやつにする」
「美味しそ! いいね!」
楓はなんの躊躇いもなく、笑ってそう言って、注文を確定してくれた。
しばらくして運ばれてきた、いちごサンデー。
正直、味は想像通り。
グラスの中には、バニラアイスとホイップ、そして上からとろりとかかったいちごソース。
感動するほど美味しいわけでもない。
でも――
ありのままの俺を受け止めてくれる楓と一緒に食べるそれは、
どんなご馳走よりも、特別に感じた。
スプーンをくわえたまま、ふと、ぽつりと呟く。
「……楓は、俺の王子様だな」
楓が、きょとんとしたあと、ふわりと目を細めて笑った。
自分でも、何を言ってるんだって思ったけど、でも本音だった。
楓は、迷って立ち止まっていた俺を迎えにきてくれた。
誰にも言えなかった“好き”も、“弱さ”も、まるごと抱きしめてくれた。
――世界でたったひとりの、俺だけの王子様。
「ふふ。みつは、僕のお姫様だよ」
思わず笑ってしまう。
たぶん、周りから見れば立場は真逆だろう。
だけど、それでいい。ふたりがよければ、それでいい。
ふと目が合う。
お互いの笑顔が、ゆっくりと近づいて。
触れ合った唇は、甘くて、やわらかくて。
まるで、おとぎ話の結末みたいなキスだった。
「……あ、楓のこと、好き……かも」
ふいに漏れた言葉に、楓がぱちくりと目を瞬く。
「えっ!それって……」
そして――
──王子は姫に愛され、いつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。
どれくらい眠っていたのか、よくわからない。
薄暗い部屋の中、時計の針は深夜を指している。
こちらの視線に気づいていたのか、楓はぱっと笑った。
「おはよう、みつ!」
言葉と同時に、やさしく抱きしめられる。
額にキスが落ちて、くしゃっと乱れた髪が頬をかすめた。
あたたかい体温。落ち着いた声。
――いつもの楓だ。
それが、なんだか妙に安心する。
「……はよ」
返した声が、驚くほど掠れていた。
喉が焼けるように乾いている。
その瞬間、先ほどの記憶がぶわっと蘇る。
何度も名前を呼ばれて、触れられて、奥までいっぱいに愛されたこと。
楓が見せた“男”の色気、低くて熱のこもった声。
全部思い出して、体の奥がじんわり熱を帯びる。
……恥ずかしい。
でも、ちゃんと宣言通りぐずぐずに愛してくれた。
すごく嬉しくてたまらなかった。
「お腹空いてない? せっかくだし、ルームサービス頼もうよ」
楓の提案にうなずきながら、ふたりでテレビの注文画面を覗き込む。
どこか他愛ない時間が、心地いい。
「ねぇ、みつ。ハニートーストあるよ。一緒に食べよ!」
「こんな時間にハニトーって……太るだろ」
「いいの~。今日は特別な日だから」
楽しそうに笑う楓。
その無邪気な声に、つられるように頬がゆるむ。
――こんなに俺のこと、好きなんだ。
そう思うと、なんだか悪い気はしない。
いや、むしろちょっと、嬉しいかもしれない。
「みつも、好きなの頼みなよ」
「好きなもの……」
その言葉に、ふと考える。
――“好きなもの”。
いざ言われると、すぐには浮かばなかった。
昔は、いちごパフェが大好きだった。
月に一度の外食の日、家族とよく行った洋食屋で、
決まっていちごパフェを頼むのが、ちょっとした楽しみだった。
けど、いつからだろう。
「男のくせに」なんて周りの視線が気になって、
注文するのをやめてしまった。
ビールだってそうだ。
あの苦味は好きになれなかったのに、
周りの空気に合わせて、
無理して口にしているうちに、いつの間にか慣れていた。
──もしかしたら、俺はずっと。
“自分の好物”さえ、人の目を気にして選んできたのかもしれない。
画面を見つめたまま、俺は小さくつぶやいた。
「……この、いちごサンデーってやつにする」
「美味しそ! いいね!」
楓はなんの躊躇いもなく、笑ってそう言って、注文を確定してくれた。
しばらくして運ばれてきた、いちごサンデー。
正直、味は想像通り。
グラスの中には、バニラアイスとホイップ、そして上からとろりとかかったいちごソース。
感動するほど美味しいわけでもない。
でも――
ありのままの俺を受け止めてくれる楓と一緒に食べるそれは、
どんなご馳走よりも、特別に感じた。
スプーンをくわえたまま、ふと、ぽつりと呟く。
「……楓は、俺の王子様だな」
楓が、きょとんとしたあと、ふわりと目を細めて笑った。
自分でも、何を言ってるんだって思ったけど、でも本音だった。
楓は、迷って立ち止まっていた俺を迎えにきてくれた。
誰にも言えなかった“好き”も、“弱さ”も、まるごと抱きしめてくれた。
――世界でたったひとりの、俺だけの王子様。
「ふふ。みつは、僕のお姫様だよ」
思わず笑ってしまう。
たぶん、周りから見れば立場は真逆だろう。
だけど、それでいい。ふたりがよければ、それでいい。
ふと目が合う。
お互いの笑顔が、ゆっくりと近づいて。
触れ合った唇は、甘くて、やわらかくて。
まるで、おとぎ話の結末みたいなキスだった。
「……あ、楓のこと、好き……かも」
ふいに漏れた言葉に、楓がぱちくりと目を瞬く。
「えっ!それって……」
そして――
──王子は姫に愛され、いつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。
32
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
魔法学校の城に囚われている想い人♡を救い出して結婚したい天才有能美形魔術師(強火執着)の話
ぱふぇ
BL
名門魔法学校を首席で卒業し、若くして国家機関のエースに上り詰めた天才魔術師パドリグ・ウインズロー(26歳)。顔よし、頭脳よし、キャリアよし! さぞかしおモテになるんでしょう? ええ、モテますとも。でも問題がある。十年越しの想い人に、いまだに振り向いてもらえないのだ。そんな片思い相手は学生時代の恩師・ハウベオル先生(48歳屈強男性)。無愛想で不器用、そしてある事情から、魔法学校の城から一歩も出られない身の上。先生を外の世界に連れ出すまで、全力求婚は止まらない!
26歳魔術師(元生徒)×48歳魔術師(元教師)
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
大工のおっさん、王様の側室になる
くろねこや
BL
庶民のオレが王様の側室に?!
そんなのアリかよ?!
オレ男だけど?!
王妃様に殺されちまう!
※『横書き』方向に設定してお読みください。
※異母兄を『義兄』と表記してしまっておりました。『兄』に修正しました。(1/18・22:50)
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる