〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ

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第三話 爆弾

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 とりあえず、冷やしたほうがいいものは、冷蔵庫に入れてしまい、ちゃぶ台に正座する。

 このマンションに四人は狭いけど、まあ仕方ない。

 しかし、空気が気まずい。ハルちゃんも、吾文さんも、互いに明らかに不機嫌だ。ある意味平常運転そうなのは、弁護士さんぐらいか。

「ハル、強情もいい加減にしなさい」

 吾文さんが口火を切った!

「強情なのはそっちでしょう!? 好きでもない男と、結婚させられる身にもなってよ!!」

 うわあ、いきなりヒートアップ。

「お前が、鐘鳴かねなり会長のお孫さんと結婚すれば、アオイグループはより盤石になるんだ。お前の母さんも、そうやって輿入れしてきたんだぞ」

「わたしも、お母さんも、モノじゃない!! 習い事だって、言われるのを全部やってきたし、学校も、お父さんの言うままに進んだ。でも、これだけは、絶対嫌!」

 ハルちゃん……。お金持ちの家に生まれるってのも、大変なんだね……。

「あの、メイドのせいか。あいつのせいで、お前はおかしくなってしまって……」

 呆れたように、首を横に振る吾文さん。

「ミドリさんは関係ない! なんで、ミドリさん好きになっちゃいけないの! あてつけみたいに解雇して!」

「女同士で、しかも相手は使用人。認められるわけなかろう」

「は!? 何、その差別の塊な言いよう! 信じられない!」

 いけない。ハルちゃん、完全に頭に血が上ってる。

「ハルちゃん。ちょっと落ち着こう? 吾文さん。その、横から口出しすみませんが、彼女が怒るのも、無理がないおっしゃりようかと」

「我が家の家庭事情だ。口出ししないでいただきたい」

 ひいっ! 睨まれた。

「もっと言ってやってよ、おねーさん!」

 ハルちゃんも、煽らないで~!

 ひぃ~! 横槍入れなきゃ良かったよう! でも……。

「聞き捨てならなかったんです!」

 萎えそうな勇気を、振り絞る。

「その、お言葉ですが、ハルちゃ……さんを道具のように扱うこと、同じ女として見過ごせません! いつの時代ですか!」

「君には、関係ない話だ」

「ありますよ! 成り行き上ですけど、こうして関係ができたんですから!」

 吾文さんが弁護士を見るも、彼は首を横に振る。よし、まだ隙は見せてない!

「そうだよ! このおねーさんとは、肉体関係持ったんだから!!」

 ハルちゃんの爆弾発言に、ムンクの「叫び」と化す私。ぽかんと惚けるお父上様と、弁護士さん。

 一拍置いて……。

「どういうことだああああああ!!」

 吾文さん、怒り爆発! ごめんなさい! ごめんなさい!

「言っとくけど、互いに合意だからね。越・野・さ・ん」

 フフンと、ドヤ顔なハルちゃん。あーもう、メチャクチャだよ!

「なんてことしてくれたんだ!!」

 お父上様のお怒りが、こちらに向く。デスヨネー!

「あー……えー……これにはフカーイジジョーがありましてぇ~」

 言えない。酔った勢いで寝た・・とか、絶対に言えない!!

「お前もお前だ! こんな、得体の知れない女と……!」

 あ、これはカチンと来た。いや、娘さんをキズモノにしといてなんですけれどね。

「おねーさんなら、得体の知れない人じゃないよ! 市役所の職員さんだもん!」

越野こしのさん! 市役所員だかなんだか知らないが、何かこの女をしょっぴけないのか!?」

「あ、いえ……」

 こそこそと耳打ちする、越野弁護士。すると、吾文さんの顔が、悔しそうにさらに歪む。

「ええい! 好きにしろ、バカ娘! その代わり、二度とうちの敷居はまたぐな!」

 のっしのっしと肩を怒らせ、家を出ていく吾文さん。越野氏も、後に続く。

 まあ、あきらかに暴言吐きまくってたのお父さんだからね。私たち、互いが互いの証人になれるし。

「は~……。寿命が十年ぐらい縮んだよ。それにしてもハルちゃん、あそこでああいうこと言う!?」

「だって事実だし、一発かましてやりたかったんだもん!」

 やれやれ。

「まー、一難は去ったみたいだね。お茶でも飲もうか」

「あ、わたしれますよ」

 立ち上がろうとすると、ハルちゃんがそれに呼応する。

「お茶っ葉とかの場所、わからないでしょ?」

「さっき、おねーさんがれてくれたとき、覚えました。記憶力、いいほうなんです」

 側頭部をこつこつ人差し指でつつく彼女。

「大したもんねえ。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」

 というわけで、テレビを点ける。ハルちゃんのニュースは……どうやら、やってないみたい。まあ、さっきのさっきで、見たくないけど。

 なんとなしに、競馬中継にチャンネルを合わせる。

「おねーさん、競馬好きなんですか?」

 お茶を配膳しながら、ハルちゃんが尋ねてくる。

「スポーツとしてはね。馬券は、買ったことないんだ」

 へー、と言いながら、一緒に見るハルちゃん。今は、パドックの様子を映している。

「どの子、応援するんですか?」

「スターランサーって牝馬がイチオシでねー。オークス獲ったのよー」

「おーく……?」

 首を傾げる彼女。

「んー、ざっくり言うと、すごいレース。あ、出てきた出てきた。この子、この子」

 星のような流星が美しい馬が、かぽかぽと歩いている。

「へー、きれいですね」

「でしょー」

 馬体も絞れてるねー。これは期待できそう。

 こんな感じで、まったりと茶飲み話。さっきの騒ぎが嘘のよう。

 なんとなしに、「ミドリさん」について尋ねたくなったけど、どうもハルちゃんの逆鱗ポイントらしい。彼女が自発的に話してくれるのを、待ったほうがいいね。

「おねーさんは、市役所のどの部署で働いてるんですか?」

「生活福祉課。わかりやすくいうと、生活保護担当ね。ハルちゃんたちには、縁がない世界だろうけど」

 かたや大企業令嬢、かたや……。彼女には、想像できない世界かもしれない。

「大変ですか?」

「まー、いろんな人がいるよ。で、万年人手不足。ケースワーカー……私のような人ね。が、一人あたり百人担当してるの」

「大変ですね!」

 ハルちゃん、素直にびっくり。

「それにね、公務員って九時五時のイメージあるけど、けっこーブラックよ? 公務員天国なんて言われるけど、それ、ずっと上の世界の人だけよ」

 ハルちゃんがれてくれたお茶を飲む。あら、美味しい。

「わたし、そういうの全然知りませんでした」

 恥ずかしそうに言う彼女。

「まー、なーんか、不当な叩かれ方してるからねー、生活保護。ギャンブルでスっちゃう、どうしようもない人もいるっちゃいるけど、ほとんどの人が、つましく暮らしてるよ」

 実際、現職として、世の生活保護バッシングは心が痛む。幸いうちの市は、水際作戦とかやってないから、まだ気が楽なほうかな。

「あ、発走だ」

 気づけば、各馬ゲートイン。スターランサーちゃんは外枠かー。がんばれー。

 そして、一斉にスタート!

「はやーい! 馬って、ほんとに速いんですね!」

 ハルちゃん、素直にびっくり。

「でしょー」

 スターランサーは、後方から一気に末脚で差すタイプ。さあ、どうなる……? 六百……四百……加速した! 二百で、末脚炸裂! ゴール!! ぱちぱちと拍手する私たち。

「スリリングですねー」

「うんうん。だから、スポーツとしては好きなのよ」

 推しが勝ってくれたおかげで、先ほどの嫌な出来事を忘れ、ちょっと上機嫌な私でした。
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