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第十二話 現在
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「……以上が、わたしから話せる、ミドリさんとのすべてです」
そう言って、過去話を締めるハルちゃん。
なんとも、壮絶だった。愛らしい容姿の割に激情家な面があるのは、これまでの付き合いから知ってたけど、ここまでの過去があったとは。
「よくよく考えてみれば、あんな迷惑かけておいて、連絡先交換とか、図々しいですよね、わたし」
視線を下に落とし、自虐的な口調で言う。
「そんなことないよ! ハルちゃんが赦せなかったら、ミドリさん、あんな態度も物言いもしないよ! むしろ、ミドリさんも、ハルちゃんに迷惑かけたと後悔してるんだよ! そして、今でも互いを大事に想っている」
真剣な面持ちで、底を突いてしまったハルちゃんの自信を回復させる。
「そう、でしょうか?」
「そうだよ」
しばし、間。
「おねーさん」
「はい」
「わたし、おねーさんを愛しています。こんなに慕情を感じる人は、ミドリさん以来、初めてです。出会ったあの日、運命的な何かを感じたんでしょうね」
湯呑の縁を指でなぞるという行儀悪をしながら、訥々と喋るハルちゃん。
「うん、ありがとう」
でもきっと、この先には言葉が続く。
「ただ、焼けぼっくいに火が点いてしまいまして。わたし、おねーさんを愛していながら、ミドリさんへの慕情も再燃してしまったんです」
「うん、わかるよ。不本意な別れ方だったんだもんね。それがやっと……七年ぶりぐらいだかに、偶然再開できて」
「わたし、どうしたらいいんでしょう? おねーさんも、ミドリさんも愛してるんです。残酷ですよね、彼女にこんな話するの」
まあ、心中複雑でないといえば、嘘になる。
でも、理解っちゃうし、共感もできちゃうんだな。だから、どうしてもミドリさんを恋敵として、敵視できない自分がいる。
「突き放すようで悪いけど、それはハルちゃんが決めることかな。でも、ハルちゃんがミドリさんを選んでも、私恨まないよ。形としては、私が後から割り込んできたんだもの」
そう言うと、押し黙ってしまい、ややあって、お茶に口をつけた。もう、とっくにぬるいでしょうに。
「少し、ミドリさんと話してみます」
湯呑を置き、スマホを手に、外に出る彼女。
ミドリさんと話すことで、気持ちに整理がつくのか、かえって、ぐちゃぐちゃになるのかは、わからない。
ただ、私にできるのは、ハルちゃんの心からの答えを待つことだけだ。
◆ ◆ ◆
テレビをBGMに、洗い物をしていると、ハルちゃんが戻ってきた。
「結論、出た?」
首を、横にふるふると振るハルちゃん。
「ただ、もう一度会って、ゆっくり話そうという話になりました」
「私は、遠慮したほうがいいよね」
「はい。二人きりで話させていただけると」
日時は、ハルちゃんが休暇になる日にすり合わせてくれたらしい。なんというか、どこまでも忠誠心の高い人だな。
「とりあえず、お腹空いたね。サンマでも食べようか」
「はい」
とりあえず、食事の用意をする私たちでした。
◆ ◆ ◆
職場。
どうも、ハルちゃんとミドリさんの逢瀬が気になっていけない。集中、集中!
「今度ね、診断書取らなきゃいけないんだけど、なんか、改定で千六百円とか取られるらしくてさ! 困っちゃうよ! なんとかならない?」
今は眼の前の、園田さんの苦情を聞くことに集中!
「病院様が決めることですから、当方ではちょっと対応しかねまして……」
「今後、年あたり八百円とかとられるわけじゃない。もう、病院変えるしかないのかな?」
「うーん、それは園田さんのご意思次第ですねえ」
生活福祉課には、日々いろんな困り事が飛び込んでくる。私の置かれた状況も困ったものだけど、まずは利用者さん第一!
国の保護規定は、ぶっちゃけ渋い。
たとえば、労働で月に一万五千円以上稼いだら、市役所に取られてしまう。また、蓄財も禁じられている。これではなかなか、脱出できないわけだ。
政府には、もっと自立しやすいシステムを作って欲しい。自立を促すというのは、お尻をひっぱたくことではないはずなのに。
今日も、システムの矛盾を感じながら、業務をこなしていくのでした。
◆ ◆ ◆
帰宅すると、ハルちゃんが何をするでもなく、ぼーっとしてました。
「おかえりなさい!」
私に気づくと、子犬のように、がばっと抱きついてくる。
「えっとですね、朗報です! ミドリさんにはもう、新しい彼女さんがいました! そりゃそうですよね! ミドリさんみたいな素敵な女性、男も女も、ほっとくわけないですもん!」
でもその声色は、喜びではなく、震えていた。
「ハルちゃん。無理しなくていいんだよ。辛い時は、泣いていいんだよ」
すると、ひっくひっくと声が上がり、号泣しだしてしまう。
背中を、とんとん叩いて慰める。でもね、ハルちゃん。その話、すごくクサイんだ。
「ねえ、ハルちゃん。今度ミドリさんカップルと、ダブルデートできないかな?」
「ふぇ? なんでですか?」
「ちょっとね」
それだけ言って、また背中を叩くことに専念する。
そのとき、とつぜん「ぐう」とお腹の音が鳴った。
「ご飯、ちゃんと食べた? まだなら作るよ?」
「すみません。まだでした」
「じゃあ、ささっと作るから、ちょっと待っててね」
スーツを脱ぐと、エプロンを締め、ホットドッグを作るのでした。
◆ ◆ ◆
約束の日。あの思い出のF-TERRACEでミドリさんたちを待っていると、果たして彼女と、その彼女らしき人が入店してきました。
お二人を、四人がけテーブルに招く。
そして、私は見逃さなかった。二人が、手を繋いでいなかったことを。
これから、私はミドリさんとその彼女の、「真贋」を見極めさせてもらう。
優しくて、残酷な嘘を見抜くために。
そう言って、過去話を締めるハルちゃん。
なんとも、壮絶だった。愛らしい容姿の割に激情家な面があるのは、これまでの付き合いから知ってたけど、ここまでの過去があったとは。
「よくよく考えてみれば、あんな迷惑かけておいて、連絡先交換とか、図々しいですよね、わたし」
視線を下に落とし、自虐的な口調で言う。
「そんなことないよ! ハルちゃんが赦せなかったら、ミドリさん、あんな態度も物言いもしないよ! むしろ、ミドリさんも、ハルちゃんに迷惑かけたと後悔してるんだよ! そして、今でも互いを大事に想っている」
真剣な面持ちで、底を突いてしまったハルちゃんの自信を回復させる。
「そう、でしょうか?」
「そうだよ」
しばし、間。
「おねーさん」
「はい」
「わたし、おねーさんを愛しています。こんなに慕情を感じる人は、ミドリさん以来、初めてです。出会ったあの日、運命的な何かを感じたんでしょうね」
湯呑の縁を指でなぞるという行儀悪をしながら、訥々と喋るハルちゃん。
「うん、ありがとう」
でもきっと、この先には言葉が続く。
「ただ、焼けぼっくいに火が点いてしまいまして。わたし、おねーさんを愛していながら、ミドリさんへの慕情も再燃してしまったんです」
「うん、わかるよ。不本意な別れ方だったんだもんね。それがやっと……七年ぶりぐらいだかに、偶然再開できて」
「わたし、どうしたらいいんでしょう? おねーさんも、ミドリさんも愛してるんです。残酷ですよね、彼女にこんな話するの」
まあ、心中複雑でないといえば、嘘になる。
でも、理解っちゃうし、共感もできちゃうんだな。だから、どうしてもミドリさんを恋敵として、敵視できない自分がいる。
「突き放すようで悪いけど、それはハルちゃんが決めることかな。でも、ハルちゃんがミドリさんを選んでも、私恨まないよ。形としては、私が後から割り込んできたんだもの」
そう言うと、押し黙ってしまい、ややあって、お茶に口をつけた。もう、とっくにぬるいでしょうに。
「少し、ミドリさんと話してみます」
湯呑を置き、スマホを手に、外に出る彼女。
ミドリさんと話すことで、気持ちに整理がつくのか、かえって、ぐちゃぐちゃになるのかは、わからない。
ただ、私にできるのは、ハルちゃんの心からの答えを待つことだけだ。
◆ ◆ ◆
テレビをBGMに、洗い物をしていると、ハルちゃんが戻ってきた。
「結論、出た?」
首を、横にふるふると振るハルちゃん。
「ただ、もう一度会って、ゆっくり話そうという話になりました」
「私は、遠慮したほうがいいよね」
「はい。二人きりで話させていただけると」
日時は、ハルちゃんが休暇になる日にすり合わせてくれたらしい。なんというか、どこまでも忠誠心の高い人だな。
「とりあえず、お腹空いたね。サンマでも食べようか」
「はい」
とりあえず、食事の用意をする私たちでした。
◆ ◆ ◆
職場。
どうも、ハルちゃんとミドリさんの逢瀬が気になっていけない。集中、集中!
「今度ね、診断書取らなきゃいけないんだけど、なんか、改定で千六百円とか取られるらしくてさ! 困っちゃうよ! なんとかならない?」
今は眼の前の、園田さんの苦情を聞くことに集中!
「病院様が決めることですから、当方ではちょっと対応しかねまして……」
「今後、年あたり八百円とかとられるわけじゃない。もう、病院変えるしかないのかな?」
「うーん、それは園田さんのご意思次第ですねえ」
生活福祉課には、日々いろんな困り事が飛び込んでくる。私の置かれた状況も困ったものだけど、まずは利用者さん第一!
国の保護規定は、ぶっちゃけ渋い。
たとえば、労働で月に一万五千円以上稼いだら、市役所に取られてしまう。また、蓄財も禁じられている。これではなかなか、脱出できないわけだ。
政府には、もっと自立しやすいシステムを作って欲しい。自立を促すというのは、お尻をひっぱたくことではないはずなのに。
今日も、システムの矛盾を感じながら、業務をこなしていくのでした。
◆ ◆ ◆
帰宅すると、ハルちゃんが何をするでもなく、ぼーっとしてました。
「おかえりなさい!」
私に気づくと、子犬のように、がばっと抱きついてくる。
「えっとですね、朗報です! ミドリさんにはもう、新しい彼女さんがいました! そりゃそうですよね! ミドリさんみたいな素敵な女性、男も女も、ほっとくわけないですもん!」
でもその声色は、喜びではなく、震えていた。
「ハルちゃん。無理しなくていいんだよ。辛い時は、泣いていいんだよ」
すると、ひっくひっくと声が上がり、号泣しだしてしまう。
背中を、とんとん叩いて慰める。でもね、ハルちゃん。その話、すごくクサイんだ。
「ねえ、ハルちゃん。今度ミドリさんカップルと、ダブルデートできないかな?」
「ふぇ? なんでですか?」
「ちょっとね」
それだけ言って、また背中を叩くことに専念する。
そのとき、とつぜん「ぐう」とお腹の音が鳴った。
「ご飯、ちゃんと食べた? まだなら作るよ?」
「すみません。まだでした」
「じゃあ、ささっと作るから、ちょっと待っててね」
スーツを脱ぐと、エプロンを締め、ホットドッグを作るのでした。
◆ ◆ ◆
約束の日。あの思い出のF-TERRACEでミドリさんたちを待っていると、果たして彼女と、その彼女らしき人が入店してきました。
お二人を、四人がけテーブルに招く。
そして、私は見逃さなかった。二人が、手を繋いでいなかったことを。
これから、私はミドリさんとその彼女の、「真贋」を見極めさせてもらう。
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