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第十三話 真贋
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「ええと、自己紹介がまだでしたね。私、紅アキといいます」
「はじめまして。冬川ユキです」
互いに会釈。ハルちゃんはすでに、前回の逢瀬のとき、引き合わされたらしい。
雑談で、まずは探りを入れる。
うん、やっぱり、手を握るとか、見つめ合うとか、そういうアクションがない。逆に、私がハルちゃんと手を握ると、ミドリさんが悲しそうな顔をしたのを、見逃さなかった。
もっと、深く切り込んでみよう。
「私、ハルちゃんと出会ってから、幸せで幸せで。お二人はいかがですか?」
満面の笑みを投げかける。
「……ええ、とっても幸せですよ? ねえ?」
ミドリさんが、彼女に確認するように問う。
「……うん、うん」
不自然な間。その表情は、幸せカップルのそれには見えない。ミドリさん。あなたも嘘をつくのが下手なんですね。
「そこまでにしましょう。もう、十分推し量れました」
私の唐突な宣言に、キョトンとする二人。
「試すような真似をして、すみませんでした。でも、私、バカ正直な人間なんです。お二人は、本当のカップルではありませんね?」
「いえ! そんなことは……」
「嘘はやめにしましょう。傷つくのは、ハルちゃんですよ」
そう言うと、ミドリさんが観念したように目を閉じ、眉をしかめる。
「あの、おねーさん。どういうこと?」
「ミドリさんね。ハルちゃんに自分を吹っ切ってもらおうと、お友達……ですかね? と、恋人のふりしてたのよ」
「ええーっ!」と叫んだ後、慌てて口をふさぐハルちゃん。
「ミドリさん、なんでそんなことを……」
「今結ばれているお二人の間に、私が挟まっているのはよくない。ですから、ひと芝居打たせていただきました」
「でも、ミドリさん。その優しさは、結局残酷な仕打ちでしたよ。ハルちゃん、あの日号泣してたんです。あなたは、ハルちゃんにとって、特別な人なんですよ」
コーヒーを一口飲み、ビシリと言う。ミドリさんは、強い罪悪感を覚えたのであろう。椅子に深く腰を沈め、俯いてしまった。
「ミドリ。あたし、外してたほうがいいかな?」
部外者になったことを理解したユキさんが、心配そうにミドリさんに尋ねる。
「ううん。ユキはそのままいて。一人だと、心が折れそう……」
良かれと思って行い、結果的に最愛の人を傷つけてしまった小芝居に、ミドリさんはほとほと参ってしまったようだ。
「ミドリさん。厳しいことを言うようですが、まずは、やるべきことがあるのではないですか?」
「そうですね……お嬢様。このような不誠実な行いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる彼女。
「ううん……。ミドリさん、わたしたちのために身を引こうとしたんだよね。その、やり方は良くなかったけど」
「面目ありません」
再度、頭を下げる。
「ミドリさん。私たちはどうしたら良いのか、じっくり話し合いませんか?」
「そうですね。私のやり方は、お嬢様を思いやっているようで、踏みにじるものでした」
相変わらず、俯いたままの彼女。
「ミドリさん! もう自虐はやめて? わたし、もう何度も謝ってもらって、これ以上はむしろ、申し訳ないよ」
「そうですね。お嬢様の仰る通りです」
やっと、顔を上げてくれた。
さて、話は振り出しに戻ったわけだけど。
「私たちは、まあいってみれば三角関係なわけですけど、かといって、恋敵として見れないというか、ミドリさんとも仲良くできたらなって思っちゃうんですよね」
当のミドリさんも頷く。
「私も、自分が身を引けば、丸く収まるのではないかと思っておりました」
「で、やっぱりハルちゃんの気持ちなんだよね。ハルちゃん。いっそ、正式に二股かける?」
コーヒーを口に含んでいたハルちゃんが、ボフッと盛大に吹く。
「大丈夫!?」
「えほっ……! 唐突に、とんでもないこと言わないでくださいよ~。そんなの不誠実でしょう?」
吹きこぼしをハンカチでぬぐいながら、抗議される。
「でもねー。どっちか選べって、ハルちゃん辛いでしょ? かといって、私ミドリさんを敗北者にするのやだし、その逆も、もちろんやだし。ある意味、一番いい解決法だと思うんだよね」
「それに」
いままで置物状態だったユキさんが、口を挟んでくる。
「一夫一妻って、わりと近代の風習なんですよ。ほら、正室とか、側室とか聞いたことありません? どっちかが正とか側とか決めるのは、揉め事の元だと思うんですけど、イスラムなんかだと、平等に愛するという条件で、四人まで妻を持てたりしますし」
「ええと、なにかそういったご研究を?」
「あ、いえ専門ってわけじゃなくて、小説家志望なんで、それで仕入れた知識です」
なんとなく蚊帳の外感が解消されたのか、やっとコーヒーに手を付けるユキさん。
「おねーさんは、それでいいんですか? ミドリさんも」
「んー……。まあ、ハルちゃん独り占めしたくないって言ったら嘘になるけど、ミドリさんも傷つけたくないかな」
「私もです」
う~んと、腕組みして、考え込んでしまうハルちゃん。
「わかった。とりあえずお試しってことで、公認二股、やってみます」
こうして、世にも奇妙な、穏当な三角関係が成立したのでした。
◆ ◆ ◆
というわけで、今日はハルちゃんは、ミドリさんの家に泊まりに行くことになった次第。
せっかくの休日なので、家のお掃除とお洗濯。
……この家、こんなに広かったっけかな。静かだったっけかな。
自分から言いだしたことだけど、寂しいよ、ハルちゃん。
でも、二人はもっと寂しい思いを、七年も互いにしてたんだよね。それを考えたら、弱音は吐けない。
今日は一人、慰めるか……。
景気づけに、クラフトビールの封印を一瓶だけ解き、しみじみ呑むのでした。
「はじめまして。冬川ユキです」
互いに会釈。ハルちゃんはすでに、前回の逢瀬のとき、引き合わされたらしい。
雑談で、まずは探りを入れる。
うん、やっぱり、手を握るとか、見つめ合うとか、そういうアクションがない。逆に、私がハルちゃんと手を握ると、ミドリさんが悲しそうな顔をしたのを、見逃さなかった。
もっと、深く切り込んでみよう。
「私、ハルちゃんと出会ってから、幸せで幸せで。お二人はいかがですか?」
満面の笑みを投げかける。
「……ええ、とっても幸せですよ? ねえ?」
ミドリさんが、彼女に確認するように問う。
「……うん、うん」
不自然な間。その表情は、幸せカップルのそれには見えない。ミドリさん。あなたも嘘をつくのが下手なんですね。
「そこまでにしましょう。もう、十分推し量れました」
私の唐突な宣言に、キョトンとする二人。
「試すような真似をして、すみませんでした。でも、私、バカ正直な人間なんです。お二人は、本当のカップルではありませんね?」
「いえ! そんなことは……」
「嘘はやめにしましょう。傷つくのは、ハルちゃんですよ」
そう言うと、ミドリさんが観念したように目を閉じ、眉をしかめる。
「あの、おねーさん。どういうこと?」
「ミドリさんね。ハルちゃんに自分を吹っ切ってもらおうと、お友達……ですかね? と、恋人のふりしてたのよ」
「ええーっ!」と叫んだ後、慌てて口をふさぐハルちゃん。
「ミドリさん、なんでそんなことを……」
「今結ばれているお二人の間に、私が挟まっているのはよくない。ですから、ひと芝居打たせていただきました」
「でも、ミドリさん。その優しさは、結局残酷な仕打ちでしたよ。ハルちゃん、あの日号泣してたんです。あなたは、ハルちゃんにとって、特別な人なんですよ」
コーヒーを一口飲み、ビシリと言う。ミドリさんは、強い罪悪感を覚えたのであろう。椅子に深く腰を沈め、俯いてしまった。
「ミドリ。あたし、外してたほうがいいかな?」
部外者になったことを理解したユキさんが、心配そうにミドリさんに尋ねる。
「ううん。ユキはそのままいて。一人だと、心が折れそう……」
良かれと思って行い、結果的に最愛の人を傷つけてしまった小芝居に、ミドリさんはほとほと参ってしまったようだ。
「ミドリさん。厳しいことを言うようですが、まずは、やるべきことがあるのではないですか?」
「そうですね……お嬢様。このような不誠実な行いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる彼女。
「ううん……。ミドリさん、わたしたちのために身を引こうとしたんだよね。その、やり方は良くなかったけど」
「面目ありません」
再度、頭を下げる。
「ミドリさん。私たちはどうしたら良いのか、じっくり話し合いませんか?」
「そうですね。私のやり方は、お嬢様を思いやっているようで、踏みにじるものでした」
相変わらず、俯いたままの彼女。
「ミドリさん! もう自虐はやめて? わたし、もう何度も謝ってもらって、これ以上はむしろ、申し訳ないよ」
「そうですね。お嬢様の仰る通りです」
やっと、顔を上げてくれた。
さて、話は振り出しに戻ったわけだけど。
「私たちは、まあいってみれば三角関係なわけですけど、かといって、恋敵として見れないというか、ミドリさんとも仲良くできたらなって思っちゃうんですよね」
当のミドリさんも頷く。
「私も、自分が身を引けば、丸く収まるのではないかと思っておりました」
「で、やっぱりハルちゃんの気持ちなんだよね。ハルちゃん。いっそ、正式に二股かける?」
コーヒーを口に含んでいたハルちゃんが、ボフッと盛大に吹く。
「大丈夫!?」
「えほっ……! 唐突に、とんでもないこと言わないでくださいよ~。そんなの不誠実でしょう?」
吹きこぼしをハンカチでぬぐいながら、抗議される。
「でもねー。どっちか選べって、ハルちゃん辛いでしょ? かといって、私ミドリさんを敗北者にするのやだし、その逆も、もちろんやだし。ある意味、一番いい解決法だと思うんだよね」
「それに」
いままで置物状態だったユキさんが、口を挟んでくる。
「一夫一妻って、わりと近代の風習なんですよ。ほら、正室とか、側室とか聞いたことありません? どっちかが正とか側とか決めるのは、揉め事の元だと思うんですけど、イスラムなんかだと、平等に愛するという条件で、四人まで妻を持てたりしますし」
「ええと、なにかそういったご研究を?」
「あ、いえ専門ってわけじゃなくて、小説家志望なんで、それで仕入れた知識です」
なんとなく蚊帳の外感が解消されたのか、やっとコーヒーに手を付けるユキさん。
「おねーさんは、それでいいんですか? ミドリさんも」
「んー……。まあ、ハルちゃん独り占めしたくないって言ったら嘘になるけど、ミドリさんも傷つけたくないかな」
「私もです」
う~んと、腕組みして、考え込んでしまうハルちゃん。
「わかった。とりあえずお試しってことで、公認二股、やってみます」
こうして、世にも奇妙な、穏当な三角関係が成立したのでした。
◆ ◆ ◆
というわけで、今日はハルちゃんは、ミドリさんの家に泊まりに行くことになった次第。
せっかくの休日なので、家のお掃除とお洗濯。
……この家、こんなに広かったっけかな。静かだったっけかな。
自分から言いだしたことだけど、寂しいよ、ハルちゃん。
でも、二人はもっと寂しい思いを、七年も互いにしてたんだよね。それを考えたら、弱音は吐けない。
今日は一人、慰めるか……。
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