〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ

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最終話 秋の実り

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 ひゅうと、秋風が紅葉の葉を運びながら、私の頬をなでていく。

 思えば、ハルちゃんと出会ってから、ちょうど一年か。

「どーしたんです、おねーさん?」

 恋人つなぎで、庭を一緒に散歩していた彼女が、声をかけてくる。

 庭では、紅葉の葉が紅に染まっていた。

「ん? 出会ってから、ちょうど一年だなあと思って」

「もう、そんなになるんですね。大人になると、時間の過ぎ方があっという間になるっていいますけど、ほんとなんですね」

 ハルちゃんも、目を細めて、柔らかくなった秋の日差しを見上げる。

「あのときは、びっくりしたよ。朝起きたら、私もハルちゃんもネイキッドで寝てるんだもん」

「あはは。本当に、お姉さんのワザ・・、ステキでした」

「もーう、そういうこと言わないの。恥ずかしいじゃない」

 口をとがらせて拗ねると、彼女が一層、愉快そうに笑う。

「会長令嬢と知った時は、愕然としたっけなあ。まるで、漫画のヒロインかと思ったよ」

「漫画のヒロインって、そうなんです?」

「ものによってはね。それにしても、警察だの吾文さんだの押しかけてきた時は焦ったなあ」

 愛しの彼女・・に、そっと肩を寄せる。

「あの頃は、まだお父様と仲が険悪でしたからね」

 彼女も、肩を寄せてきた。

「お父様が倒れられて、幸か不幸か、父娘おやこ仲が改善しましたけど。……いや、幸と言っちゃいけないですね。でも、お父様、ずいぶん丸くなりました」

「そうだね」

 私も、ずいぶんな言われようをしたっけ。

「そのしばらく前だよね。ミドリさんとハルちゃんが、ばったり再会したのは」

「はい。あのときは、心臓が爆発しそうでした。二度と会えないと思っていたミドリさんが、眼の前にいるんですもん」

 あれは本当に、偶然に偶然が重なった。たまたま映画を見に行って、たまたまピアノを弾いて、たまたまミドリさんが聴いていて。

「おねーさんが必死にミドリさんを止めてくれて、助かりました。おねーさんがいなかったら、ミドリさんは私の手から、するりとすり抜けてしまうところでした」

「詩的な表現だね」

 詩といえば、ハルちゃんとユキさんは、デビューに向けて、仕事と両立しながら、必死に頑張ってる。すごいな。

「ありがとうございます。でも、まさか公式二股とか、おねーさんから言い出すとは思いませんでしたよ。さすがに、びっくりしました」

「あはは。だってね、ハルちゃんを傷つけなくなかったんだもん。ミドリさんも。正直、当初は軽い嫉妬を覚えたものだけど」

 再び、風に頬をなでられる。まるで、「よく思いついたね。自制したね」って、風に褒められているようだ。

「でも、うまくいきましたよね。発想力に脱帽です」

「ありがとう。自分でも、未だにびっくりするよ」

 どちらともなく、歩を進め、散歩を再開する。

「ミドリさんとの三人暮らしも、楽しかったね。短い間だったけど」

「ですね。ああいう気楽な暮らし、またしてみたいものです」

 歩きながら、うーんと、背伸びするハルちゃん。

「でも、吾文さんが……」

「ええ。もう、お父様とお母様を心配させる気はないですよ。ご安心ください」

 にっこり笑顔を、向けてくる。かわいい。さすが、我が恋人。

「こっちに越してきてからも、色々あったねー」

「はい。一番大きかったのは、お父様との和解ですけど、その次に大きかったのが、音楽の道を志したことですね。今では、ピアノを習わせてくれたお父様に、感謝しています」

 ピアノ講師になって、そして、賞に応募して……。

「今だから言うけど、ハルちゃんが作曲に取り組んでる間、やっぱり寂しかったな。まあ、私に、何の音楽スキルもないせいだけど」

「すみませんでした。とにかく必死で、おねーさんにまで気が回らなくて」

「だから、今かまってもらおうかな。目、閉じて」

 言う通りにする彼女。私がそっと唇を近づけると、ディープキスへと発展していく。

 気持ちいいな。ハルちゃんの舌使い、上手……。もっと、もっと……!

 どのぐらい、そうしていただろう。疲れて唇を離すと、つうと唾液がブリッジのように糸を引いてしまった。恥ずかしくて、一緒にそれをティッシュで拭う。

「気持ち良かったです……」

「私も。もう一度……と言いたいけど、少し寒くなってきたね。邸内なかに入ろうか」

「はい」

 再び恋人つなぎで、てくてく歩くのでした。


 ◆ ◆ ◆


「おかえりなさいませ」

 玄関のドアを開けると、ミドリさんが素人目にも美麗と映る壺を磨いていた。

 これ、うっかり割っちゃったら、賠償金どれぐらいかしらねえ。そんな想像をしたら、背筋が寒くなってしまった。温かいお茶が飲みたいな。

「ミドリさん、お疲れ様」

「お疲れ様です」

 二人で、彼女をねぎらう。

「ありがとうございます」

「そろそろ休憩時間だね」

「左様でございますね」

 一心不乱に壺を磨きつつ、応答する彼女。

 よく考えたら、こんな高級品いじってるときに、あれこれ話しかけないほうがいいかな。

「外で冷えちゃったから、私たちはお茶だけいただいてますね」

「承知しました」

 というわけで、パティシエさんがなにやら仕上げてる中、キッチンでハルちゃんと緑茶をいただいてると、メイドさんたちがぞろぞろと入ってきました。

 もちろん、ミドリさんもいる。

「今日は、フルーツケーキを用意しましたよ」

 パティシエさんが口元に人差し指を当て、ウィンクするという、例のキザな仕草をすると、彼のファンから嬌声が上がる。一方、単純にケーキが嬉しい人は、歓声を。

 給仕さんが、私とハルちゃんの前にも、ケーキとティーカップを置いてくれる。

「ご相伴に預かってもいいんですか?」

「もちろんですとも。ミルクティーとレモンティー、どちらにいたしますか?」

 微笑みながら問いかけてくるので、ミルクティーと回答。ハルちゃんも、同じのにしたようです。

 緑茶は、一旦置いときますか。

「では、いただきましょう。いただきます」

 長野さんメイド長の掛け声で、皆一斉にケーキとお茶、そしておしゃべりを愉しむ。

「ミドリさん。今日は、ハルちゃんを独占しちゃってすみませんね」

「お気になさらないでください。仕事の時は、仕方ないです」

 そう言って、微笑むミドリさん。ほんとに、控えめな方だ。

「そういえば、『シートン動物記』、『ウィニペグの狼』まで読みましたよ! ラスト、泣いちゃいました……」

「素晴らしいエピソードでございますよね。人間の子供だけは襲わないというところに、彼の騎士道を感じる……というのは、変でしょうか」

「いえ! すごくいい解釈だと思います!」

 こんな感じで、メイドさんたちの憩いの時間ティータイムは終了。

 「それでは、失礼します」と、ミドリさんはお仕事に戻るのでした。

 平和だな。私の担当してる人々は、相変わらず苦労人ばかりだけど、彼らをできる範囲で幸せにするのが、私の仕事だ。

 明日もお仕事、頑張らないとね!


 ◆ ◆ ◆


「スターランサーちゃん、仕上がってますねえ」

「お、わかる? ハルちゃんも競馬通になってきたねえ!」

 彼女と一緒に、競馬中継を視聴中。今日のスターちゃんは、やってくれそうですよー。人気も、一番!

 雑談していると、発走の時間が来ました! ……ゲートオープン!

 シニアになってからの彼女は、去年以上に力をつけている。行けー!

「よし、差せ、差せー!!」

「あと四百! 来た! 末脚来た!」

 二人で大興奮! そして、一着でゴールイン! 会場の歓声が、画面越しに伝わってくる。

「やった、やったー!」

 抱き合う私たち。さっそく、軽く祝杯を上げることにしました。


 ◆ ◆ ◆


「それでは、今日もしましょうか」

 ハルちゃんが、そう告げる。

 下着姿で、ハルちゃんのベッドで向き合う、私、ハルちゃん、ミドリさん。

 ハルちゃんが、交互に軽く口づけを交わし、下着を脱ぎ始める。私たちも、それに続く。

 今日も、素敵な夜になりそうだ。


 ◆ ◆ ◆


 こうして、私たちの日常は繰り返されていく。

 巡り巡る、季節のように。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

千鶴田ルト
2024.12.03 千鶴田ルト

さくさく読めて、とても良い雰囲気の社会人百合でした!
三人で付き合うのとか、生活保護とか、あまり見たことのない要素もあって興味深く読ませていただきました。

解除

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