魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

文字の大きさ
29 / 125

29話 この世界について少しだけ教えてもらいました

しおりを挟む
「お金を稼ぐ方法が知りたーーーーいっ!!」

そう叫んだ昼下がり。
というのも、先日クロとロウキが言っていた“ルビートマト”の種を買いに行きたいのだけど、
それには当然、お金が必要だ。
この世界のお金を持っていない俺は、どうやって稼げばいいのかを考えていた。

そもそも通貨についても何も知らない。
そんなふうに悩んでいると、いつものようにエマが教えてくれた。

【この世界では、コインのようなものがお金と呼ばれる存在です。
銅貨、銅銀貨、銀貨、金貨、白金貨の5種類があります。これはあくまでも前世での読み方です。
この世界では、銅貨を“コパ”、銅銀貨を“コセル”、銀貨を“セル”、金貨を“ゴルド”、白金貨を“プラ”と言います。
前世での単位で言うと、1コパ=100円、1コセル=1,000円、1セル=10,000円、1ゴルド=100,000円、1プラ=1,000,000円です。】

「へぇ。やっぱ異世界だねぇ。でも単位は分かりやすくていいね。
本物のお金を見たら、改めてちゃんと勉強しよっかな。」

お金について教えてもらった俺は、分かりやすい単位でひとまず安心した。
だけどそのお金が、ないのよ。
それをどうするかが問題なのよね。

なんて考えていると、俺は自分が今どこに住んでいるのかも知らないことに、今さら気づいた。
そこで、畑の範囲を広げるために森の開拓を手伝ってくれていたロウキに訊いてみることにした。

「ロウキー?」

「なんだ?」

「この地域のことについて教えてよ。物知りなんだろう?」

「そんなもの、エマとやらに訊けばいいだろう。」

「エマはさっき通貨について教えてくれたから。次はロウキの番だろ?
だいたいエマは一方通行だから。」

「なんと面倒な…」

「自分が物知りだって言ったんだろー?教えてー!」

「仕方のない奴め。」

ロウキに教えてくれと頼むと、樹木を切る手を止めて、面倒くさそうな顔でこちらにやってきた。
「物知りなんだから教えて」と言うと、はぁ…とため息を吐いて、ドスンッと座り込んだ。
そして、この土地についていろいろと教えてくれた。

「いいか?この国は“ソウリアス王国”と言って、割と大きめの王国だ。
港が近い場所に王都があって、貿易もそれなりに盛んなようだな。
王都には王族や貴族、平民と呼ばれる存在のほかに、獣人などの他種族も普通に暮らしている。
もちろん、たくさんの店や各ギルドが存在していて、やかましいほど賑やかなところだ。

その王都の周りには、小さな村や小規模な街が数多くあり、山岳地帯や鉱山なんかもある。
森の途中にはダンジョンもあって、冒険者が毎日のように行き来しているな。
ただし、今我々がいるこの領地への立ち入りは禁止されている。
現在は王国管理の土地として、封印されているようなものだ。」

「あ、この土地、もう俺の名義に変更されたんだって。
女神アイリスが王族の中にいる転生者に神託を下して、俺の領地として登録されたらしいよ。」

「はぁ?ヨシヒロ、お前…女神に何をさせているんだ…?」

「俺がお願いしたわけじゃなくて、女神アイリスが勝手にそうしたって言ってたんだよ。」

「はーん…この土地を任せようと思える男だったということなんだろう。
ヨシヒロ、お前は責任重大だなぁ?できるのか?」

「そんな目で俺を見るんじゃない!俺は自由に、やりたいように、好きに生きるんだからな!」

「どうだかなぁ?自由に生きられたらいいな?」

「何その言い方!何か企んでるのか?!」

「我は別にー?何にもー?さて、大木を片付けよう。お前もサボるなよ。」

「はぁ…」

この王国の名前、初めて聞いたな。
割と大きな国だと知らされて、その中に東京ドーム11個分の俺の領地があるのかと思うと、なんだか恐ろしい。
領地の名義がすでに俺になっていると言うと、ロウキは何とも言えない表情で俺を見ていた。
そして、女神に任されているということは責任重大だな、と憐れむような目で笑って、伐採作業に戻っていった。

俺はこの世界でのんびりゆっくりスローライフを生きるんだ!
そう心の中で呟きながら農地開拓に戻った。











「主ー!さっきユキと一緒に湖に行ったら、俺の好きな果実がなってたから取ってきた!」

「お!それがクロの好きな果実かぁ!なんて名前?」

「知らない!美味しい果実!」

作業を続けていた時、クロとユキが満面の笑みでこちらに向かってくるのが見えた。
手には何か小さなものを持っていて、「なんだ?」と思っていると、
クロが「好きな果実だ」と言って、嬉しそうに俺に手渡してくれた。

それはとても小粒で、太陽にかざすと少し透けて見える。
果実の中心には、淡く灯る光が宿っているようにも見えた。
これ、夜でも光ってそうだな。

そう思いながら果実の名前を訊ねると、クロは首を横に振って「知らない」と答えた。
こういうときに“鑑定”とかできれば便利だよな。
なんて思いながら、冗談半分で口にしてみた。

「これって鑑定とかできないのかしらねー。
鑑定!なんちゃって。」

ヴインッ―

「わっ!なんか出た!
えーと…何だって?“ルミグミ”って言うらしいぞ。
水分が多くて、口の中で優しい甘さが広がって食べやすいらしい。

なんか、乱れた感情を一時的に和らげる効果もあるんだって。
安定剤ってことか?
聖水で育てられたルミナスツリーから採れるって。
あの樹木、ルミナスツリーって言うのか。

希少性が高くて、王都では高値で取引されるらしいけど、
過剰摂取すると、副作用で体中から光が放射されて目立つ…だって!
ウケるんだけど!体が光るって笑う!」

冗談半分で「鑑定」と言ってみたら、まさかの本当に四角いパソコン画面のようなものが現れて驚いた。
それは最初にステータスを見た時と同じで、やればできる子じゃんと我ながら感心してしまった。

果実の説明を読んでいると、まさかの副作用の項目で思わず吹き出した。
もしかして、今までもクロは食べ過ぎて度々光ってたんじゃ?
そう思うと、ちょっと可愛くて笑えてくる。

そんな俺の横で、ロウキはなぜかまたため息を吐いていた。

「我と従魔契約したせいか…?我の鑑定スキルが身についたようだな。誤算だった。
鑑定スキルは誰でも使えるものではない。人前で使わぬように。」

「あ、そういうこと?漫画でも鑑定スキルってレアだったりするもんな。
人がいるところでは使わないように気をつけるわ!」

俺はたまたま鑑定できただけだと思っていたけど、どうやらそれは違ったらしい。
ロウキと従魔契約を結んだことで、ロウキが持っていたスキルを使えるようになったらしい。

とても便利だけど、人前では使わないようにと言われたことで、慎重さが必要だと感じた。
悪用されたりしたら、俺のスローライフが台無しだもんな。
そう考えながら、手にしていたルミグミをクロに食べさせてみた。

「うまーーーいっ!ユキにも食べさせよっと!ユキ、行こーぜ!
主とロウキの分も取ってくるなー!」

「ワウッ!」

一口でパクリと食べたクロは、何とも幸せそうな表情で、こちらもつられて頬が緩んだ。
そして「俺たちの分も取ってくる」と言い残し、ユキと二人で湖へと出かけていった。

子供は元気だねぇ。
そう思いながら、俺とロウキは畑の開拓作業に戻っていった―・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティ。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 そう言ってくれた彼らの言葉を信じて、 俺は毎日、必死でついていった。 何もできない“つもり”だった。 それでも、何かの役に立てたらと思い、 夜な夜なダンジョンに潜っては、レベル上げを繰り返す日々。 だけど、「何もしなくていい」と言われていたから、 俺は一番後ろで、ただ荷物を持っていた。 でも実際は、俺の放った“支援魔法”で仲間は強くなり、 俺の“探知魔法”で危険を避けていた。 気づかれないよう、こっそりと。 「役に立たない」と言われるのが怖かったから、 俺なりに、精一杯頑張っていた。 そしてある日、告げられた言葉。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 そうして俺は、静かに追放された。 もう誰にも必要とされなくてもいい。 俺は俺のままで、静かに暮らしていく。そう決めた。 ……と思っていたら、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

処理中です...