魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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34話 2枚の書状を持ってきてくれました

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「おっ…アーロンさんが来るな。」

「遅くなってすまない。書類作成に時間がかかってしまった。」

「いえ!全然大丈夫です。お忙しいのに、すみません。」

「いや。これは私がやりたくてやっていることだから、気にしないでくれ。」

何とも言えない柔らかな空気が流れていたその時、ふっと気配を感じて視線を向けると、
地面に魔法陣が浮かび上がり、アーロンさんとお連れの騎士が現れた。
確か、クロノスって呼んでたっけ。
それにしても、転移魔法って絶対便利だよなぁ。

なんて思っていると、アーロンさんは王家の紋章が押された書状を2枚手渡してくれた。
…2枚?なんで?
そう疑問に思っていると、アーロンさんは驚くべきことを口にした。

「ヨシヒロが転生者ということは、この王国の市民権がないだろう。
この書状は、“この国の市民として認める”という内容が記されたものだ。
王都に行く際には、必ず正門を通るだろう?
そこで他国の市民は通行料を払わなくてはならない。
一文無しのお前たちでは、入れないだろう。だからこその書状だ。
そもそも、この領地をお前名義に変更しているのだから、市民権がないというのはおかしいだろう?」

「え、普通にヤバいモノじゃないです?これ…」

「なに、大したことはないさ。
その書状には“従魔も含む”と書いてあるから、安心するといい。
魔獣フェンリルと使い魔と記載してあるから、怪しまれることはないだろう。」

「何から何まで…ありがとうございます。」

「いいんだ。そして、もう1枚がギルドへの紹介状だ。
冒険者ギルドに行き、受付でこの書状を渡すといい。すぐにギルド長が出てくるさ。
すでに通達は出してある。行けばすぐに通してくれるはずだ。」

「ありがとうございます…。本当、なんとお礼を言ったらいいか…」

アーロンさんは、俺たちがこの国でちゃんと暮らしていけるように、
いろいろと根回しをしてくれていたようで、申し訳なくなった。
王族だからといって、一人の人間にここまで手厚く対応してもいいのだろうか。
それだけ、ロウキに対する気持ちが強いということでもあるんだろうけど…。
このやり取りの間も、ロウキは伏せたまま、アーロンさんとは目を合わせようとしなかった。
ただ、何かおかしな発言がないかと、聞き耳を立てている様子だった。

「いつ頃、王都に出向く予定だ?」

「あ、できるだけ早く行こうと思っています。
ロウキたちを、早く堂々と護ってやれるようにしたいので。」

「そうか。無事に登録できるようにしておくから、安心するといい。
王都に来た際には、一度王城に寄ってくれ。紹介したい家族もいる。」

「ありがとうございます。ただ、ロウキを連れていくことができないので、
そこはご理解いただけたらと思います。」

「我は行かんぞ。」

「ああ、承知している。フェンリル殿……いや、ロウキ殿に苦痛を与えるような行動は取らせたくない。
王城に来る際には、城下の森を切り開いて造った専用の庭があるので、そこで待機してもらえたらと思う。
その庭は王城の少し下に建設された専用の空間だ。当日は誰も近づかぬよう命を出しておく。」

「…フン。」

「ありがとうございます、アーロンさん。
では、二日後には到着できるように、この領地を出ようと思います。」

「承知した。では、昼食後の時間帯にギルドへ迎えを寄越そう。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

アーロンさんは「王都に来たら家族を紹介したい」と言ってくれた。
それに対し、ロウキは行けないと伝えると、
ロウキの気持ちを気遣って、専用の庭で待機させてもらえることになった。

初めての探検、遠出、王都、ギルド登録、お城って…初めて尽くしで、
ちょっと疲れるかもしれないけど。
それでも、この地を出て歩いてみたかったから。
それはそれで、楽しみにしていた。

「では、また二日後に会おう。行くぞ、クロノス。」

「御意。」

一通り話を終えると、アーロンさんは騎士のクロノスさんを連れて、魔法陣の中に消えていった。
いつか俺も、転移魔法使ってみたいな。…まあ、無理なんだろうけど。
そう思いながら、手にした2枚の書状を、まじまじと見つめていた。







魔物管理室-


「今日も変わらずスヤスヤだなぁ。卵も鼓動は聞こえるけど、生まれる気配はないな。」

「もう随分と前の卵だからなぁ。二百年くらい前の卵だ。」

「二百年?!え、じゃあクロと前の家主は二百年前に眠りについたってことか。」

「そうだなー。たぶん、それくらい。
俺は復活できたけど、その卵がちゃんと孵るかは微妙かもしれないな。」

「そっかぁ…。まあ、最後まで諦めずにやってみるけどさ。」

その日の夜、魔物管理室で卵とドラゴンの様子を見に来ていた俺とクロ。
相変わらずの様子だなと思っていたところ、二百年ほど前の卵だと知らされ、
本当に大丈夫なんだろうかと不安になった。
鼓動はちゃんと伝わってくるから、生きてはいるんだろう。

万が一のことも少しは考えているけど、今できることを精一杯やってみようと思っていた。
とはいえ、前の家主が仕掛けてくれた魔法陣が、ちゃんと温めてくれているから、
俺がすることは、特にないんだけどな。

「この子たちが産まれたら、ちゃんと獣舎を作ってやらないとなぁ。
あと三匹増えるって考えたら、ちゃんとしてやんないと。」

「そうだなー。ドラゴンだし、この卵から産まれた魔獣も、絶対に大きくなるだろうなー。」

「ですよねー。」


卵とドラゴンを見ていると、産まれたらちゃんとした獣舎を用意しなきゃなと思った。
ロウキたちは今、エントランスホールのど真ん中で寝起きしているんだけど、
さすがにあと三匹が入るほどの余裕はなさそう…。デカイし。
そもそも、来客があった時に扉を開けて魔獣だらけだったら、普通に引くよな…。


「どんな子たちが顔を見せてくれるんでしょうねぇ。」

「俺も楽しみにしてるんだー!俺のことを兄ちゃんって呼ばせるんだ!」

「あはは、そっかー。お兄ちゃんかぁ。いいなぁ。」


卵をゆっくりと撫でながら「どんな子が顔を見せてくれるのかな」と言うと、
クロは、生まれた暁には自分のことを“お兄ちゃん”と呼ばせると、嬉しそうに話した。
自分の家族が増えていくことが、嬉しいんだろうな。
それに、この卵とドラゴンは、前の家主の想いみたいなものだし、

クロにとっては大切な思い出なんだろう。
だからこそ、無事に産まれてきてほしいという思いがある。
どうか、この子たちの鼓動が止まりませんように。
そう祈りながら、今日も見守っていた―・・・。
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