魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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45話 鉱山の地下には目覚めた魔獣がいました

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「ここが鉱山かぁ。男の作業場所って感じだなぁ。
それに鉱山でも綺麗な魔法石がたくさんあるんだなぁ。奥は深いの?」

「ここの鉱山は地下2階まであり、昔は小物の魔物もいたようだが、今はおらぬ。
この鉱山で採れるのは単純な鉱石や魔法石だけではなく、セルリアも採れることがあるようだな。
セルリアは国の指定する特定鉱石で、一般の作業員が採掘した場合は必ず国に献上するよう定められている。
それがこの国の金稼ぎに役立っているようだな。」

「へぇ…。セルリアって何?」

「知らんのか?エマに訊いてみろ、エマに。」

「…エマちゃーん!もしよかったら、セルリアって何か教えてくれませんかー?」

【・・・・・・】

「ダメだ。やっぱり一方通行だなぁ。」

鉱山の洞窟の中に入ると、トロッコに積みかけの鉱石があったり、掘りかけの岩があったり、
いかにも作業現場って感じの雰囲気が漂っていた。
この鉱山についてロウキに訊くと、採掘できる鉱石の種類や、稀に採れるというセルリアについて教えてくれた。
でも、そのセルリアが何なのか俺には分からず。
教えてと言うと、「エマに訊け」と言われて、ダメ元で問いかけてみたけど反応はなくて。
やっぱりダメか…と思ったその瞬間、エマが静かに喋り始めた。


【セルリアとは、この世界で採れる鉱石の一つです。
武具や防具の製作には、銅、鉄、そして鉄を精錬して作り出す鋼鉄が一般的に使用されます。
しかし、その上位に位置するのが、青空のような輝きをもつ鉱石・セルリアです。
セルリアは他の鉱石に比べて非常に軽量でありながら、強度は鋼鉄をはるかに上回ります。
世界でも極めて希少な鉱石であるため、一般の住民が使用することはありません。
貴族、王族、またはSランク冒険者など、選ばれた者にのみ与えられるでしょう。】


「ほえぇ…そんな高級な鉱石も採れるだなぁ。」

エマには思いは通じないと思っていたけど、今回も問いかけに答えてくれた。
異世界の知識がない俺にとっては、本当にありがたい存在だな…なんて思っていると、
さっきからロウキたちが何故かうんうんと頷いていて、気になった。
すると、ロウキたちから驚きの言葉が飛び出した。

「さすがエマだな。ちゃんとした知識だ。」

「え?!聞こえるのか?!」

「俺にも聞こえたぜ?」

「おそらく、お前との契約で魂が一体化して、エマの声も聞こえるようになったのだろう。」

「え、時間差でそういうことになったの?すっごいね…」

「まあ、とにかくだ。鉱石や魔法石を見つけたら、とりあえず鞄に入れておけ。」

まさかエマの声が皆にも聞こえるようになるなんて、思いもしなかった。
俺は驚いていたけど、ロウキたちはいたって冷静だった。
こういう世界で生きていると、ちょっとのことじゃ驚かなくなるもんなのかな。
まあ、心臓に悪いからその方がいいかも。
そう思いながら、俺は静かに鉱山の奥へと歩を進めた。


「随分と静かだなぁ。やっぱり魔物も人もいないってなると、変な感じ。」

「この階は何にもなさそうだなー!地下2階に行ってみようぜ!」

「何やら気配を感じるが…ここではなさそうだな。やはり下か。」

「確かに、なんか下の方から気配感じるな…」

地下1階に降りてみたものの、誰もいないこともあって、怖いくらい静かだった。
俺たちの足音と話し声がやたらと響いていて、妙に落ち着かない。
何かの気配は確かに感じる。けれど、今いる場所ではない。
そう思った俺たちは、そのまま地下2階へと移動することにした。

何だろう。さっきから胸がざわつく。
なんて言ったらいいのか分からないけど、ギュッと苦しくなるような、そんな感覚。

「何かいるのは間違いなさそうだけど…どこだ?」

「全然姿見えねぇな!」

「なにも、みえない。でも、なにか、かんじる。」

「この感じ…」

地下2階に降りていくと、気配はどんどん濃くなっていった。
その場にいる全員が、それを感じていた。
一体何がいるんだ?訳が分からない…。
そう思っていた、その時だった。

ゴゴゴゴゴゴッ―

ガタガタガタッ―

「?!」

「地震?!」

「地鳴りだっ!気を付けろ!奴は地面の下にいるぞ!」

「えええっ!地面のなかぁぁぁっ?!」

突然地面が揺れだし、足を取られ始めた。
地鳴りが洞窟全体を揺らし、天井から砂や小石がパラパラと降り落ちてくる。
ロウキが「地面の下にいるぞ!」と声をあげ、慌てて下を見た。
すると、少し先の地面がゆっくりとひび割れていき、それは姿を現した。

「グオオオオオォォォォォッ!!!」

「ぎゃあああっ!!なんか出たーーー!!」

「やかましいっ!!」

巨大な顎。鋭い爪。青く輝く鉱石の鱗をまとった体。そして、金色に輝く瞳。
俺たちの目の前に現れたのは、鉱石で体を覆われたドラゴンだった。
驚いて思わず叫んでしまった俺に、ロウキは「やかましい!」と一喝。
そのまま俺の前に立ち、皆に指示を出した。

「セルリアドラゴンだっ!奴に物理攻撃は通用せん!
クロ!ユキ!中級から上級魔法で攻撃しろ!ただし派手なやつは洞窟が崩れるからな!
セルリアドラゴンの体に直接入る魔法にしろ!ミルはヨシヒロを護れっ!」

「はいよっ!任せなー!」

「ワオオオオオンッ!!」

「あるじ、さがってて。」

ロウキの指示に従い、クロとユキが同時に攻撃魔法をドラゴンに向けた。
クロはもちろん、ユキもすでに上級魔法を扱えるようで、俺なんかよりずっと頼もしい。

「黒雷《ブラックライトニング》!」

「ワオオオオンッ!!(メテオーー!!)」


ガギィィィンッ!!


二人の攻撃は見事にセルリアドラゴンに命中した。
だけど、その硬い鱗に弾かれて、完全には効いていない様子だった。
それでも少しだけ動きを止めたのを見て、ロウキは自ら攻撃を仕掛けるため前に立った。

「おとなしく地に戻るがよい!!
神槍ゴッドランスーーーっ!!」

「グギャアアアアアァツ!!」

怯むことなくロウキは神槍の魔法を唱え、
大きく長い槍をドラゴンに振らせてその動きを止めた。
そして、とどめを刺そうとしたその時、
俺は、セルリアドラゴンの様子がどうもおかしいと感じた。

「…なぁロウキ。あいつ、苦しんでないか?」

「何を言っておる!油断するな、喰われるぞ!」

「いや、本当に苦しんでるんだって!絶対に!」

「バカモノ!攻撃したのだから苦しいに決まっておるだろうが!」

「違う!そうじゃなくて!ちょっともう攻撃しちゃダメ!」

俺の感覚を伝えたものの、ロウキには伝わらなかった。
攻撃されたから苦しんでいる。それだけじゃない。
俺が感じたのは、心の叫びだった。
このままじゃロウキがまた攻撃してしまう。
そう思った俺は、ミルの影から飛び出してセルリアドラゴンに向かって走った。

「待って主!!結界もっと強いの追加するっ!!」

「ありがとクロっ!!」

クロが慌てて追加の結界を張ってくれて、
これならきっと大丈夫。そんな根拠のない自信のもと、
俺は苦しんでいたセルリアドラゴンの前に立った。

「どうすれば救ってあげられる?」

「グルルルルルッ」

「怖いよな…急にこんな大勢で来られて攻撃されて…ごめんな?
でも俺、分からないからさ…何で苦しんでるのか、教えてくれよ。」

「グルルルルルッ」

「この手で癒せることがあるのなら…ちゃんと癒してやりたいんだ。
少し…触れてもいい?」

「・・・」

「大丈夫…俺に任せて。」

恐ろしいほどの殺気を放っていたセルリアドラゴン。
それでも言葉を続けながらじりじりと近づいていくと、ピンと立っていた尻尾が、
次第にゆっくりと下がっていった。
それを見た俺は「大丈夫だよ」と声をかけ、そっとその体に触れた。
その瞬間、ズズズッと脳裏に記憶が流れ込んできた。


それは、はるか昔の話。
この鉱山の守護竜として生まれ、静かに暮らしていたセルリアドラゴン。
危険な魔物や極悪な人間を排除し、この鉱山を護ってきた。
ある日、偉大な魔法使い。クロの前の主が現れ、
森の守護をする代わりに使い魔になる契約を交わした。
だが、その魔法使いが逝去し、次第に弱体化して長い眠りについた。

そして俺が森と湖の浄化をしたことで、突然目覚めてしまい、
力が暴走して、その場に居合わせた人々を襲ってしまった。


「セルリアドラゴン…お前は、襲いたくて襲っていたわけじゃないんだな。
急に目覚めて、どうすればいいか分からなくなってたんだろ。
大丈夫…その心は、俺が癒すよ。―Angelic Hand(アンジェリックハンド)!」

「・・・・・・」


セルリアドラゴンの記憶を覗かせてもらった俺は、その心を癒すために、Angelic Handを唱えた。
この魔法がどんな効果を持っているのか、正直俺には分からない。
けれどこの力で、少しでもセルリアドラゴンの心と体を癒せるなら、それでいい。
そう、心からそう思っていた。
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