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47話 与えられた領地の広さを実感したあとで遠のくのんびりライフ
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アーロンさんに、この鉱山で何が起きていたのか、セドラがどういう存在だったのかを話した。
そして、セドラはこれからもあの鉱山で守護竜として在り続けたいという願いも一緒に伝えた。
前のめりで話を聞いていたアーロンさんは、話が終わるとドカンッとソファの背もたれに倒れ込んだ。
「今回もまたヨシヒロは面白いことをやってのけたんだな。私も行きたかった。」
「いやいや…本当に今回は違うんですよ…ちょっと知らなくて…。
でも、セドラはとってもいいおじいちゃんって感じですよ。」
「守護竜に対しておじいちゃんって言えるあたりが、もう大物よな。
それにしても、あの鉱山に本当に守護竜がいたとは驚きだ…。
150年ほど前からセルリアが稀にしか採れなくなったと資料に記されていたが…。
その理由が、まさか守護竜が眠りについたからだったとはな。
しかし今でも稀に採れていたのは、命が繋がっていたからということだったんだな…。
ヨシヒロには感謝しなければならんな。守護竜の命を救ってくれたんだからな。」
アーロンさんは、「面白いことをやってのけた」と言ってくれたけど、俺はそんなつもりはなくて。
ただただ、俺が無知だっただけの話なんだけどな…。
そう思いながら話を聞いていると、セルリアが極めて採れにくくなったのが、
150年前だと記されていたと知り、セドラが150年もの間眠りについていたことを実感した。
人間にとっての150年と魔獣にとっての150年は違うんだろうけど、
それでも覚めない眠りについていたんだと思うと、なんだか切なくて。
だからこそ、これからはセドラにのんびり暮らしてほしいなって思っていた。
「俺は、ただセドラが幸せに暮らしてくれたらそれでいいんです。
セドラはとても心の優しいドラゴンです。
ですが、この事実は公にはしないでいただきたいなって。
興味本位でセドラに近づいて怪我してもいけませんし、静かに過ごさせてやりたいんです。」
「そうだな。今ここでこの話を聞いた者には外部に漏らさぬよう、箝口令(かんこうれい)を敷こう。
そもそもあの鉱山は、このソウリアス王国の宝とも呼べる場所だからな。
これからも大切に扱わせてもらうよ。
そして、セドラ殿には定期的に好きなものを捧げよう。あとで聞いておいてくれるか。」
「ありがとうございます!何が好きなのか、セドラに確認してみますね!」
アーロンさんにセドラについてのお願いをすると、俺の願いをすんなり受け入れてくれた。
もともと鉱山自体がこの国にとってとても大切な場所だったようで、
これからもそれは変わらないと分かり、一安心した。
しかも定期的にセドラの好物をお供えしてくれるっていうのは、ありがたいな。
なんて思っていたとき、セドラから渡されたセルリアの存在を思い出して、取り出すことにした。
「そうそう!これ、渡しておきます。…よっこらしょ!」
ゴトンッ―
「なっ…?!」
「な、なんだその量のセルリアは?!本物か?!」
「なんかセドラが“持って行け”ってうるさいから持ってきました。
こんなに大岩サイズなのに軽いとか、すごいですよねぇ。
しかも本当に空のように青くて綺麗。」
「陛下…この量のセルリアは…この王国に、いくら財源をもたらしてくれるのでしょうか…」
「数億…いや、数百億プラとなるだろうな…」
「ええ?そうなんですか?まだありますよ?同じくらいの大きさのがもう一つ。
セドラが出してくれたんです。“国に献上して優遇してもらえ”って。
俺、別に優遇してもらおうとかは思ってないんですけど…
セドラの命の鉱石ですから、国のために使ってやってください。」
大岩サイズのセルリアを1つ、2つとアイテムボックスから出していくと、
その場にいた全員が目を見開いて驚いた。
側にいた側近のベルさんが、このセルリアが国にもたらす利益について口にすると、
アーロンさんは「数百億になるだろう」と冷静に言った。
数百億プラって言われても、俺には全然ピンとこないけど…。
この国にとっては、とてつもない国益をもたらす鉱山なんだなぁと、ふんわり思っていた。
俺はそういうの、興味ないからさ。
そう思っていると、アーロンさんは呆れたように俺に言った。
「ヨシヒロよ…お主は無欲すぎんか?日本でもそうだったのか?」
「俺はモフモフ大国を築きたいと願って生きてきました!」
「ははは、そうだな。ヨシヒロはそういう男だったな。
…セドラ殿が作り出してくれたこのセルリアは、大切に扱わせてもらう。
あとで礼を言っておいてくれるか?」
「分かりました!」
アーロンさんは俺に「無欲すぎる」と言い、前世もそうだったのかと尋ねてきた。
そんなアーロンさんに「モフモフ大国を築きたかった」と答えると、大きな口を開けて笑ってくれた。
そして、セドラが持たせてくれたセルリアを大切に使うと約束してくれた。
それだけで俺はもう満足だったんだけど、アーロンさんはそうもいかないみたい。
「しかし、これだけのことをしてもらって、何もせずに帰すわけにはいかん。
先日はダンジョンの問題も片付けてくれたのだろう?ガーノスから聞いている。
短期間でここまでしてもらって、何もせず帰すとか有り得ん。
ヨシヒロ、何か要望はないのか?何でも良いぞ?」
「のんびりライフを」
「それ以外でいこうか、ヨシヒロ。」
「ううっ…やっぱりロウキと同じ匂いが…
いやぁ、特にないんですよね…。俺はこの子たちとの生活が守られたら、それで。」
「無欲よのう…。しかしそれなら、ヨシヒロの領地は変わらず立ち入り禁止にしておく。
もしそれを破り、お前たちに害をなす者が現れた時は、厳しい処罰を与えよう。
そのためにも、数人の警備を配置しておこう。」
「助かります!あ、できればなんですが…」
「他に何かしてほしいことがあるのか?」
今回の件だけでなく、ミルの時の話も知っていたようで、
国王として「何もせずに帰すわけにはいかない」と言ってくれたアーロンさん。
俺はただ平穏に暮らせればと思って伝えたものの、秒で却下されてしまった。
「何でもいいって言ったじゃん……」と心の中で思いながら、
考えていたときに、自分の領地についていまいち分からないことがあったので、それについてお願いすることにした。
「俺の領地…ちょ、ちょっと耳を貸してください。
女神アイリスに“東京ドーム11個分”って言われたんですけど…
あ、アーロンさんがいた時は東京ドームありました?」
「ああ、もちろんあったさ。
あの領地は東京ドーム11個分もあるのか…そう言われるとまぁまぁ広いな。」
「そうなんです。地図とかないですか?
それが分かれば、私有地の看板や結界を張ろうかと思いまして。」
「おお、それはいいな。我々もきちんと正確に区分けしたいと思っていたから、ちょうど良い。
ベル、ヨシヒロの領地の詳細な地図を持ってきてくれるか。」
「承知しました。少々お待ちください。資料室に取りに行って参ります。」
「ああ、頼む。」
転生した時に「東京ドーム11個分の広さがある」と言われていたけど、
そんなんじゃピンと来なくて。ただ「広いんだろうな」という大雑把なイメージしか湧かない。
これからのんびりライフを送るためにも、自分の領地の境界線はハッキリさせておきたくて。
それを伝えると、アーロンさんはすぐに側近のベルさんに地図を探してくるよう指示してくれた。
自分の領地がちゃんと分かれば、そこに何を建てればいいのかとか、
そういう構想を練ることも可能だし、もっと楽しい生活ができるかもしれない。
この領地が俺の生活基盤になる。
だからこそ、ちゃんと把握しておかなきゃな。
そう思いながら、ベルさんが戻ってくるのを静かに待っていた―。
◇
ガチャ-
「お待たせいたしました。ソウリアス王国の全体地図です。
そして、こちらが王都周辺とヨシヒロ殿の現在の領地になりますね。」
「改めて見ると、やっぱりヨシヒロの領地はそれなりにデカいな…」
「広大な土地って、こういうことですよね…」
しばらく待っていると、ベルさんが大きな地図を持って戻ってきて、広げてくれた。
そこには王国のすべてが描かれていて、俺の領地も【立ち入り禁止エリア】として記されていた。
地図の南側、海沿いに位置する王都から北へ50~60キロほど歩くと俺の領地。
やっぱ遠いな。絶対ギルドにゲート作る。アーロンさんには言わないけどね。
王都を出て西に10キロ行けば、セドラのいる鉱山。
少し東寄りに3キロほど行けば、ミルがいたダンジョン。
他にも小さな町や村、別のダンジョンや山岳地帯の名前もあって、
何だかゲームの中で冒険者になった気分だった。
地図を見て初めて、この大陸の広さと構造を理解して、少しだけ面白くなってきた。
そんなことを感じていると、ベルさんがじっと俺を見つめていて、何か言いたそうだった。
「ベルさん、何かありましたか?」
「あ、すみません。じっと見てしまって…
あの…一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「ヨシヒロ殿は、あの広大な領地をこれからどのように開拓される予定なのでしょうか?
よろしければ、教えていただけないでしょうか?」
「え?特に何も考えてないんですけど、
自分とこの子たちが不自由なく暮らせるようにとは思っています。
今はまだ家と庭と畑しかないので…そうですねぇ。
ふれあい広場みたいなのも欲しいですね。
そこは結界を張り巡らせて、草食系の動物や魔獣たちを住まわせたいです。」
「ま、魔獣ですか…」
何か聞きたいことがあるんだろうなと思っていたけど、
俺がこれからこの領地をどうするかを知りたかったようで。
だけど俺は、特に深くはまだ考えていなかった。
ただ、護りたい命があるし、弱きものを救う措置を取りたかった。
日本にもあったふれあい広場のような場所を作って、
弱きものにも未来をと考えていた。
弱肉強食と言われてしまえばそれまでだけど、
俺にとっては、そういう子たちも同じ命だったから。
「ロウキみたいに一匹でも生きていける子はいいけど、難しい子もいます。
そういう子たちを集めて一緒に暮らせたら、少しでも命を護れるなって。」
「命…ですか。弱肉強食のこの世界でも、護りたい命というのがあるということですか?」
「もちろんです。命は平等ですよ。きれいごとだって言われたらそうかもしれませんが、
自分の手で護れる命があるなら護る。それが俺の考え方です。
たとえそれがドラゴンだったとしても、護れると感じたら全力で護りますよ。」
「そうですか…。私には理解しがたいですが、何だかヨシヒロ殿らしい気がします。」
「そうだな。ヨシヒロはそういう男よ。命あるものを大切にする。基本的なことだがな。
そんなヨシヒロに救われたからこそ、あの守護竜セドラ殿が我々にこのセルリアを預けたのだからな。」
「そうですね…。私たちでは、とてもじゃないですが太刀打ちできなかったでしょうね…
ヨシヒロ殿の力や人柄ですね。尊敬いたします。」
俺が自分の考え、想いを伝えると、ベルさんは「理解しがたい」と言いながらも、
「それがヨシヒロ殿らしい」と言って、小さく笑った。
するとアーロンさんも、「ヨシヒロはそういう男よ」と言って笑っていた。
いいんだか、悪いんだか…なんだけど。
そう思っていると、ベルさんは何故か俺に「尊敬します」と言って頭を下げた。
突然のことに驚いた俺は、慌ててベルさんの体を起こした。
「あ、頭を上げてくださいよベルさん!俺は自由にやってるだけですから!」
「前回お越しいただいた時は、本当に失礼いたしました。
若いというだけで偏見を持っていた自分が恥ずかしいです。どうかお許しを。」
「大丈夫ですって。ベルさんはとてもしっかりしていて、
アーロンさんを支えていらっしゃると思いますよ。側近でそういう立ち位置でしょ?
そうじゃなきゃ、アーロンさんが側に置いておくはずないと思います。」
「…ありがとうございます。ヨシヒロ殿…」
ベルさんって、律儀な人なんだなぁと思いながらも、
俺は何も考えず自由にやっているだけだから、何だか申し訳なくなった。
こんなふうに国のことを想い、考えているだけでも、俺からすれば十分すぎるほどすごい。
お国のために頑張ってる人ってだけで、偉いと思うけどなぁ。
なんて思いながら、ふとロウキの顔が浮かんだ俺は、そろそろ帰らないと怒るなと思い、帰ることを伝えた。
「さてと、ロウキとミルを待たせてあるので、そろそろおいとまします。」
「そうだな。まぁ、ヨシヒロよ。今度来るときは、二人でゆっくり話そう。
ギルドにゲートを作るんだってな?ここに作っても良いぞ。特別に許可する。」
「え…え?何故それを…?ガーノスさん、言っちゃったんですか?!」
「そりゃあお前、さすがに言わねぇわけにはいかないだろう?ゲートだぞ?」
「ひっそりこっそり…のんびりライフの予定がぁ…」
「諦めろ、ヨシヒロよ。我らと知り合った時点で、のんびりライフはなくなったのだ。
心配せずとも、ロウキ殿にストレスを与えるような行動は取らぬよ。」
「ひどいー…」
これからいつでも王都に来れて、のんびり探索できると思っていたのに、
すでにアーロンさんの耳にゲートのことが入ってしまっていて、
しかも「城の中に作ってもいいぞ」と笑って言われた。
絶対にそんなことしないけど…
でもまぁ、確かに家とギルドをゲートでつなぐなんて、あり得ないよな。
そりゃ報告案件かもしれないけど…アーロンさんには、できればバレたくなかったのになぁ。
ああ、俺の“のんびりライフ”がまた一歩遠のいていく…。
そう心の中で悲鳴を上げながら、アーロンさんたちに別れを告げて王城をあとにした。
俺の幸せなのんびりライフは、いったいどこへ向かっているんだろう。
なんて、今日もまた考えていた―…。
そして、セドラはこれからもあの鉱山で守護竜として在り続けたいという願いも一緒に伝えた。
前のめりで話を聞いていたアーロンさんは、話が終わるとドカンッとソファの背もたれに倒れ込んだ。
「今回もまたヨシヒロは面白いことをやってのけたんだな。私も行きたかった。」
「いやいや…本当に今回は違うんですよ…ちょっと知らなくて…。
でも、セドラはとってもいいおじいちゃんって感じですよ。」
「守護竜に対しておじいちゃんって言えるあたりが、もう大物よな。
それにしても、あの鉱山に本当に守護竜がいたとは驚きだ…。
150年ほど前からセルリアが稀にしか採れなくなったと資料に記されていたが…。
その理由が、まさか守護竜が眠りについたからだったとはな。
しかし今でも稀に採れていたのは、命が繋がっていたからということだったんだな…。
ヨシヒロには感謝しなければならんな。守護竜の命を救ってくれたんだからな。」
アーロンさんは、「面白いことをやってのけた」と言ってくれたけど、俺はそんなつもりはなくて。
ただただ、俺が無知だっただけの話なんだけどな…。
そう思いながら話を聞いていると、セルリアが極めて採れにくくなったのが、
150年前だと記されていたと知り、セドラが150年もの間眠りについていたことを実感した。
人間にとっての150年と魔獣にとっての150年は違うんだろうけど、
それでも覚めない眠りについていたんだと思うと、なんだか切なくて。
だからこそ、これからはセドラにのんびり暮らしてほしいなって思っていた。
「俺は、ただセドラが幸せに暮らしてくれたらそれでいいんです。
セドラはとても心の優しいドラゴンです。
ですが、この事実は公にはしないでいただきたいなって。
興味本位でセドラに近づいて怪我してもいけませんし、静かに過ごさせてやりたいんです。」
「そうだな。今ここでこの話を聞いた者には外部に漏らさぬよう、箝口令(かんこうれい)を敷こう。
そもそもあの鉱山は、このソウリアス王国の宝とも呼べる場所だからな。
これからも大切に扱わせてもらうよ。
そして、セドラ殿には定期的に好きなものを捧げよう。あとで聞いておいてくれるか。」
「ありがとうございます!何が好きなのか、セドラに確認してみますね!」
アーロンさんにセドラについてのお願いをすると、俺の願いをすんなり受け入れてくれた。
もともと鉱山自体がこの国にとってとても大切な場所だったようで、
これからもそれは変わらないと分かり、一安心した。
しかも定期的にセドラの好物をお供えしてくれるっていうのは、ありがたいな。
なんて思っていたとき、セドラから渡されたセルリアの存在を思い出して、取り出すことにした。
「そうそう!これ、渡しておきます。…よっこらしょ!」
ゴトンッ―
「なっ…?!」
「な、なんだその量のセルリアは?!本物か?!」
「なんかセドラが“持って行け”ってうるさいから持ってきました。
こんなに大岩サイズなのに軽いとか、すごいですよねぇ。
しかも本当に空のように青くて綺麗。」
「陛下…この量のセルリアは…この王国に、いくら財源をもたらしてくれるのでしょうか…」
「数億…いや、数百億プラとなるだろうな…」
「ええ?そうなんですか?まだありますよ?同じくらいの大きさのがもう一つ。
セドラが出してくれたんです。“国に献上して優遇してもらえ”って。
俺、別に優遇してもらおうとかは思ってないんですけど…
セドラの命の鉱石ですから、国のために使ってやってください。」
大岩サイズのセルリアを1つ、2つとアイテムボックスから出していくと、
その場にいた全員が目を見開いて驚いた。
側にいた側近のベルさんが、このセルリアが国にもたらす利益について口にすると、
アーロンさんは「数百億になるだろう」と冷静に言った。
数百億プラって言われても、俺には全然ピンとこないけど…。
この国にとっては、とてつもない国益をもたらす鉱山なんだなぁと、ふんわり思っていた。
俺はそういうの、興味ないからさ。
そう思っていると、アーロンさんは呆れたように俺に言った。
「ヨシヒロよ…お主は無欲すぎんか?日本でもそうだったのか?」
「俺はモフモフ大国を築きたいと願って生きてきました!」
「ははは、そうだな。ヨシヒロはそういう男だったな。
…セドラ殿が作り出してくれたこのセルリアは、大切に扱わせてもらう。
あとで礼を言っておいてくれるか?」
「分かりました!」
アーロンさんは俺に「無欲すぎる」と言い、前世もそうだったのかと尋ねてきた。
そんなアーロンさんに「モフモフ大国を築きたかった」と答えると、大きな口を開けて笑ってくれた。
そして、セドラが持たせてくれたセルリアを大切に使うと約束してくれた。
それだけで俺はもう満足だったんだけど、アーロンさんはそうもいかないみたい。
「しかし、これだけのことをしてもらって、何もせずに帰すわけにはいかん。
先日はダンジョンの問題も片付けてくれたのだろう?ガーノスから聞いている。
短期間でここまでしてもらって、何もせず帰すとか有り得ん。
ヨシヒロ、何か要望はないのか?何でも良いぞ?」
「のんびりライフを」
「それ以外でいこうか、ヨシヒロ。」
「ううっ…やっぱりロウキと同じ匂いが…
いやぁ、特にないんですよね…。俺はこの子たちとの生活が守られたら、それで。」
「無欲よのう…。しかしそれなら、ヨシヒロの領地は変わらず立ち入り禁止にしておく。
もしそれを破り、お前たちに害をなす者が現れた時は、厳しい処罰を与えよう。
そのためにも、数人の警備を配置しておこう。」
「助かります!あ、できればなんですが…」
「他に何かしてほしいことがあるのか?」
今回の件だけでなく、ミルの時の話も知っていたようで、
国王として「何もせずに帰すわけにはいかない」と言ってくれたアーロンさん。
俺はただ平穏に暮らせればと思って伝えたものの、秒で却下されてしまった。
「何でもいいって言ったじゃん……」と心の中で思いながら、
考えていたときに、自分の領地についていまいち分からないことがあったので、それについてお願いすることにした。
「俺の領地…ちょ、ちょっと耳を貸してください。
女神アイリスに“東京ドーム11個分”って言われたんですけど…
あ、アーロンさんがいた時は東京ドームありました?」
「ああ、もちろんあったさ。
あの領地は東京ドーム11個分もあるのか…そう言われるとまぁまぁ広いな。」
「そうなんです。地図とかないですか?
それが分かれば、私有地の看板や結界を張ろうかと思いまして。」
「おお、それはいいな。我々もきちんと正確に区分けしたいと思っていたから、ちょうど良い。
ベル、ヨシヒロの領地の詳細な地図を持ってきてくれるか。」
「承知しました。少々お待ちください。資料室に取りに行って参ります。」
「ああ、頼む。」
転生した時に「東京ドーム11個分の広さがある」と言われていたけど、
そんなんじゃピンと来なくて。ただ「広いんだろうな」という大雑把なイメージしか湧かない。
これからのんびりライフを送るためにも、自分の領地の境界線はハッキリさせておきたくて。
それを伝えると、アーロンさんはすぐに側近のベルさんに地図を探してくるよう指示してくれた。
自分の領地がちゃんと分かれば、そこに何を建てればいいのかとか、
そういう構想を練ることも可能だし、もっと楽しい生活ができるかもしれない。
この領地が俺の生活基盤になる。
だからこそ、ちゃんと把握しておかなきゃな。
そう思いながら、ベルさんが戻ってくるのを静かに待っていた―。
◇
ガチャ-
「お待たせいたしました。ソウリアス王国の全体地図です。
そして、こちらが王都周辺とヨシヒロ殿の現在の領地になりますね。」
「改めて見ると、やっぱりヨシヒロの領地はそれなりにデカいな…」
「広大な土地って、こういうことですよね…」
しばらく待っていると、ベルさんが大きな地図を持って戻ってきて、広げてくれた。
そこには王国のすべてが描かれていて、俺の領地も【立ち入り禁止エリア】として記されていた。
地図の南側、海沿いに位置する王都から北へ50~60キロほど歩くと俺の領地。
やっぱ遠いな。絶対ギルドにゲート作る。アーロンさんには言わないけどね。
王都を出て西に10キロ行けば、セドラのいる鉱山。
少し東寄りに3キロほど行けば、ミルがいたダンジョン。
他にも小さな町や村、別のダンジョンや山岳地帯の名前もあって、
何だかゲームの中で冒険者になった気分だった。
地図を見て初めて、この大陸の広さと構造を理解して、少しだけ面白くなってきた。
そんなことを感じていると、ベルさんがじっと俺を見つめていて、何か言いたそうだった。
「ベルさん、何かありましたか?」
「あ、すみません。じっと見てしまって…
あの…一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「ヨシヒロ殿は、あの広大な領地をこれからどのように開拓される予定なのでしょうか?
よろしければ、教えていただけないでしょうか?」
「え?特に何も考えてないんですけど、
自分とこの子たちが不自由なく暮らせるようにとは思っています。
今はまだ家と庭と畑しかないので…そうですねぇ。
ふれあい広場みたいなのも欲しいですね。
そこは結界を張り巡らせて、草食系の動物や魔獣たちを住まわせたいです。」
「ま、魔獣ですか…」
何か聞きたいことがあるんだろうなと思っていたけど、
俺がこれからこの領地をどうするかを知りたかったようで。
だけど俺は、特に深くはまだ考えていなかった。
ただ、護りたい命があるし、弱きものを救う措置を取りたかった。
日本にもあったふれあい広場のような場所を作って、
弱きものにも未来をと考えていた。
弱肉強食と言われてしまえばそれまでだけど、
俺にとっては、そういう子たちも同じ命だったから。
「ロウキみたいに一匹でも生きていける子はいいけど、難しい子もいます。
そういう子たちを集めて一緒に暮らせたら、少しでも命を護れるなって。」
「命…ですか。弱肉強食のこの世界でも、護りたい命というのがあるということですか?」
「もちろんです。命は平等ですよ。きれいごとだって言われたらそうかもしれませんが、
自分の手で護れる命があるなら護る。それが俺の考え方です。
たとえそれがドラゴンだったとしても、護れると感じたら全力で護りますよ。」
「そうですか…。私には理解しがたいですが、何だかヨシヒロ殿らしい気がします。」
「そうだな。ヨシヒロはそういう男よ。命あるものを大切にする。基本的なことだがな。
そんなヨシヒロに救われたからこそ、あの守護竜セドラ殿が我々にこのセルリアを預けたのだからな。」
「そうですね…。私たちでは、とてもじゃないですが太刀打ちできなかったでしょうね…
ヨシヒロ殿の力や人柄ですね。尊敬いたします。」
俺が自分の考え、想いを伝えると、ベルさんは「理解しがたい」と言いながらも、
「それがヨシヒロ殿らしい」と言って、小さく笑った。
するとアーロンさんも、「ヨシヒロはそういう男よ」と言って笑っていた。
いいんだか、悪いんだか…なんだけど。
そう思っていると、ベルさんは何故か俺に「尊敬します」と言って頭を下げた。
突然のことに驚いた俺は、慌ててベルさんの体を起こした。
「あ、頭を上げてくださいよベルさん!俺は自由にやってるだけですから!」
「前回お越しいただいた時は、本当に失礼いたしました。
若いというだけで偏見を持っていた自分が恥ずかしいです。どうかお許しを。」
「大丈夫ですって。ベルさんはとてもしっかりしていて、
アーロンさんを支えていらっしゃると思いますよ。側近でそういう立ち位置でしょ?
そうじゃなきゃ、アーロンさんが側に置いておくはずないと思います。」
「…ありがとうございます。ヨシヒロ殿…」
ベルさんって、律儀な人なんだなぁと思いながらも、
俺は何も考えず自由にやっているだけだから、何だか申し訳なくなった。
こんなふうに国のことを想い、考えているだけでも、俺からすれば十分すぎるほどすごい。
お国のために頑張ってる人ってだけで、偉いと思うけどなぁ。
なんて思いながら、ふとロウキの顔が浮かんだ俺は、そろそろ帰らないと怒るなと思い、帰ることを伝えた。
「さてと、ロウキとミルを待たせてあるので、そろそろおいとまします。」
「そうだな。まぁ、ヨシヒロよ。今度来るときは、二人でゆっくり話そう。
ギルドにゲートを作るんだってな?ここに作っても良いぞ。特別に許可する。」
「え…え?何故それを…?ガーノスさん、言っちゃったんですか?!」
「そりゃあお前、さすがに言わねぇわけにはいかないだろう?ゲートだぞ?」
「ひっそりこっそり…のんびりライフの予定がぁ…」
「諦めろ、ヨシヒロよ。我らと知り合った時点で、のんびりライフはなくなったのだ。
心配せずとも、ロウキ殿にストレスを与えるような行動は取らぬよ。」
「ひどいー…」
これからいつでも王都に来れて、のんびり探索できると思っていたのに、
すでにアーロンさんの耳にゲートのことが入ってしまっていて、
しかも「城の中に作ってもいいぞ」と笑って言われた。
絶対にそんなことしないけど…
でもまぁ、確かに家とギルドをゲートでつなぐなんて、あり得ないよな。
そりゃ報告案件かもしれないけど…アーロンさんには、できればバレたくなかったのになぁ。
ああ、俺の“のんびりライフ”がまた一歩遠のいていく…。
そう心の中で悲鳴を上げながら、アーロンさんたちに別れを告げて王城をあとにした。
俺の幸せなのんびりライフは、いったいどこへ向かっているんだろう。
なんて、今日もまた考えていた―…。
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
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-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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